第一章最終話 決戦!!
聖剣を掲げ、勇ましく叫ぶアルトさん。
その様子ときたら、もはや魔王というよりも勇者である。
いつの間にか、聖剣とも仲良くなっているようだし。
つか、相棒ってなんだよ、相棒って……。
普通に考えて、あんたら馴れ合ったらダメだろ!
「おのれ……よくもわが腕を……!!」
怒りに顔をゆがませたアルプトラウム。
彼は切られてしまった腕を顔の前へと移動させると、すさまじい唸り声をあげた。
にわかに膨れ上がる魔力。
やがて強烈な光が傷口へと集中し――。
「うるあああァ!! パーフェクトヒールゥ!!」
グシャッという音とともに、腕が生えた。
どういう原理かは知らないが、外側の鎧まで一緒にである。
無事に再生を果たしたそれを、アルプトラウムは自慢げに見せつける。
「グハハハハ! 残念だったな、光魔法を極めた我は治癒魔法も極めておる! 傷を負ったところで、何度でも再生できるわ!」
「いや、何度でもじゃない! 魔力が30減ってるから、あと10回が限度だぞ!」
俺がそう言うと、アルプトラウムの動きが止まった。
奴はこちらを見据えると、心底忌々しげに叫ぶ。
「貴様あああァ!! ネタばれするなああァ!!」
「させませんよ!」
再び俺を攻撃しようとするアルプトラウム。
それを阻止すべく、アルトさんが一気に飛び出した。
しかし、聖剣の切っ先は魔神の影をすり抜けていく。
「馬鹿め、我は弱点を次々に変えられるのだ!」
「くッ!」
「ならばっ! キエエエエイッ!!」
アルトさんに変わって、サーシャさんが挑む。
その手には、大振りの魔剣が二本。
まさかの二刀流だ。
「ぐおっ!?」
「炎か!」
二本の魔剣のうち、炎属性の方が魔神の身体を切り裂いた。
素の防御が60しかないせいだろう、当たりさえすれば大ダメージ必至のようだ。
アルプトラウムは忌々しげに顔をゆがめると、俺たちから距離をとる。
「ダーク・アロージョン!!」
魔神の手にした剣から、闇の波動が放たれた。
たちまち直線状にあった物体が黒く染め上げられ、朽ちる。
さすが魔神、すげえ威力の魔法だ。
あんなのに触れたら、いったいどうなってしまうのか。
想像するだけで恐ろしい。
「はやく決着をつけないと、厄介ですね……!」
「よし、それならこれでどうや! フルエンチャント!!」
リーツさんが叫ぶと同時に、色とりどりの魔法陣が次々と展開された。
たちまち、サーシャさんとアルトさんの身体が虹色の輝きを帯びる。
ステータスを確認すれば、「属性付与(火・風・水・土)」となっていた。
一度に四つの属性を、まとめて付与したらしい。
すっげー、普段の姿からは想像もつかないほど高度な魔法だ。
「私の秘儀や! これで四大属性はすべてカバーしたで!」
「光と闇は任せてください! 両方とも得意です!」
「なら、弱点は俺が教えます! 今は風です!」
俺の指示に合わせて、次々と攻撃を切り替えていくサーシャさんとリーツさん。
お互いに戦士として一流だからであろう、初めてだというのに見事な連携ぶりだった。
魔神の猛攻をかいくぐりながら、的確に攻撃を決めていく。
それによって少しずつ、少しずつではあるが傷ついていくアルプトラウム。
やがて回復のための魔力も乏しくなり、終わりが見えてくる。
「よし、次で終わりだ! 首置いてけええ!!」
「舐めるな! うおおおおっ!!」
咆哮する魔神。
巨大なオーラが溢れ出し、大地が揺れた。
この局面で、いったい何をするつもりだ!?
まさか、自爆でも……!!
俺たちが急いで距離をとると同時に、アルプトラウムの輪郭がぼやけ始めた。
ゆらり、ゆらり。
魔神の影が、一つ二つと増えていく。
やがて五体に分裂した魔神は、俺たちを取り囲みながら高笑いをした。
「ハハハハハ! これぞ我が最終奥義、光闇五身陣だ!」
「分身したところで、俺の鑑定ならすぐに正体を見破れるぞ!」
「ならばこれでどうだ!」
五体で円を描きながら、次々と場所を入れ替えていく魔神。
くそ、これじゃ本体を教えたところですぐにわからなくなるぞ!
二千年以上生きている魔神だけあって、なかなかに知恵が回るらしい。
体力と魔力から見て、あと一撃。
あと一撃喰らわせることが出来れば、勝てるところまで来てるって言うのに……!
「どらあああっ!」
「くっ!」
「大丈夫か、相棒!?」
「まずいな! こいつら、それぞれに攻撃出来るようだな!」
多勢に無勢。
一転して、今度はこちら側が押され始めた。
このままでは……!!
次第に傷だらけになっていくサーシャさんたち。
何とか戦いに加わりたいが、俺のステータスではかえって足手まといになってしまう。
どうにか、ほんの少しでいい。
何か力になる方法はないのか……!?
「そうだ! アルトさん、俺を負ぶってください!」
「へっ? どういうことですか?」
「おんぶされた状態なら、どの分身を攻撃すればいいのか瞬時に指示が出せます!」
「なるほど……でもそれ、危険すぎません?」
俺のステータスは、この中では一般人並み。
魔神の攻撃が掠っただけで、命に関わるだろう。
でもこのまま後方に居続けるなんて、俺にはできやしない。
「かまいません!! お願いします!」
「……わかりました。ですが、命の保証はできませんよ?」
「承知の上です!」
「よし、援護するぞ! 飛ばしていけ!」
「私もやったるで! 弾幕全開や!!」
リーツさんの杖から、無数に展開される魔法陣。
そこから一斉に魔力砲撃が放たれた。
その間を潜り抜けた俺は、すぐさまアルトさんの背中へと乗った。
魔神たちはすかさず魔法を放ってくるが、それをサーシャさんの剣が切り払う。
「私が防いでいるうちに!! さ、早く!!」
「行きますよ!」
「はいっ!」
「こうなったら、返り討ちにしてくれる!!」
攻撃を中断し、それぞれに構えをとる魔神たち。
剣を高々と掲げ、完全にこちらの攻撃を迎え撃つつもりだ。
勝負する覚悟を決めたのか?
俺は一瞬そう思ったが、油断せずに鑑定を使った。
すると――。
「あっ! この中に本体いませんよ! 本体は……あれです!!」
「バレたか!!」
あろうことか、魔神の本体は五体の分身の中にはいなかった。
はじめっから、すべて囮だったのだ。
偉そうなことを言いながら、せこい真似しやがって……!!
俺は魔神の幻影の奥、がれきの下をこそこそと逃げ回るネズミを指さす。
「せやあああっ!!」
「ぬおおおおっ!!」
アルトさんと聖剣の声が重なる。
研ぎ澄まされた一撃が、ネズミの小さな体を正確に切った。
絶叫。
断末魔の雄たけびが轟き、ネズミの死骸から黒い霧が噴出する。
やがて幻影が解けると、そこには身体が真っ二つにされたアルプトラウムの姿があった。
「か、勝てた……! 勝てましたよ、あの魔神に!」
「ええ、俺たちの大勝利です!」
「やったなぁ! 一時はどうなることかと思ったけども!」
「首を狩れなかったのは残念だが、良かった」
「いや、そこですか!?」
「まあいいじゃないですか! 勝ったんですし!」
何だかんだと言っているうちに、自然と笑みがこぼれた。
無事にアルトさんとも和解できたことだし、今日は祝勝会だな!
家は壊れてしまったけれど、これからの安全が保障されたのだ。
サーシャさんには悪いけれど、安いものだろう。
そう思っていると――。
「ありゃ? いつの間にか……人集まっとるで」
「これは……! 何だか、嫌な予感がするぞ!」
「そやね。みんなのあの顔は……借金取りの顔や!」
リーツさんにそう言われて、俺はハッとした。
もとはと言えば、魔神を呼び出したのはリーツさんが制作した魔法陣である。
ということは、今回の騒動は……。
「えーっと、皆さんこちらに来てもらえますか? どういうことなのか、事情を説明していただきたいのですが」
身なりのいい男が、スッと前に出てきた。
この人、見たことあるぞ。
確か町内会長さんだっけか。
その顔には、抑えきれない怒りがにじみ出ていて……拳がプルプルと震えていた。
「に、逃げるぞ!! リーツ、リュカ、アルト! ついてこい!」
「は、はい!」
「私まで!? どちらかっていうと被害者なのに!?」
「ええから、急がなヤバいで!!」
サーシャさんに続いて、一目散に逃げだす俺たち三人。
俺たちの戦いはまだまだだ――!!