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鑑定スキルを極めたら、受付嬢が魔王だった件  作者: キミマロ
第一章 魔王さま、現る!!
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第二十一話 降臨! 魔幻神アルプトラウム!

「そんなことしてたんですか!?」


 温泉から儀式の行われているサーシャさんの家へと向かう途中。

 俺たちから事情を聴いた魔王――いや、アルトさんは思いっきり呆れた顔をした。

 そりゃそうだろう、自業自得にもほどがある。

 まして、本来倒すべきだったアルトさんがこの上なくいい魔族だとわかってしまったしな。


「詫びて済む問題ではないが……とにかくすまなかった。だが我々としても、魔王と聞いてしまうとな。リュカも脅されたことであるし」

「あんなの冗談に決まってるじゃないですか!」

「魔王が言うとそうは思えん!!」

「魔王にだって色々います! 偏見を持たないでください!」


 ああだこうだと言っているうちに、サーシャさんの家がある住宅街へと到着した。

 するとその一角から、紫の光が天に向かって立ち上がっている。

 そこを中心として黒雲が渦を巻き、風が吹き荒れていた。

 今にも異次元への扉が開き、何かが湧きだしてきそうな気配だ。

 近隣住民も危険を察知したのか、通りを走って逃げる人々の姿も見える。


「思った以上に、なんかヤバそうなんですけど!?」

「急ぎましょう! 何とか召喚を阻止しないと!」


 アルトさんに続いて、走り出す俺たち。

 こうしてサーシャさんの家へとたどり着くと、屋根が完全に吹き飛んでしまっていた。

 その惨状を見たサーシャさんが、たまらず悲鳴を上げる。


「わ、私の家が……!!」

「今はそれどころじゃないですよ! あれ!」


 崩壊した家の中心。

 妖しく輝く魔法陣の前で、リーツさんが必死の形相で作業をしていた。

 俺たちが近づいていくと、彼女は驚いた顔でこちらを見る。


「サーシャ! それにリュカとアルトまで!」

「事情は聞きました! 召喚魔法陣が暴走してるんですね?」

「そうや! まだ召喚対象を指定してへんのに、かってに陣が作動しとる!」

「なら急いで止めましょう! 私も手伝います!」


 そう言うと同時に、アルトさんの身体が淡い光に包まれた。

 これは、もしや……人化を解くつもりなのか!

 俺が固唾をのんで見守っていると、光が収まった。

 そして――。


「あれ? 変わってない?」

「変わってます! ここにほら、角が生えてますよ!」


 そう言って、前髪を掻き分けるアルトさん。

 あ、ほんとだ。

 額の上の方に、小さな角がチョンっと生えている。

 でも思ってたよりは、ずっと小さいしわかりにくいな……。

 

「最近の魔族なんてこんなもんですよ」

「へえ……」

「なんや、ようわからんけど……その姿を晒すっちゅーことは、和解できたってことなんか?」


 事情を知らないリーツさんが、戸惑った顔をする。

 するとアルトさんは、にこやかに笑いながらうなずいた。

 俺も彼女に続いて、うんうんと首を縦に振る。


「さよか。いろいろ聞きたいことはあるけど……」

「今はそれどころじゃないですよ! 私も援護しますから、何とかしましょう!」

「せ、せやな。魔王が味方してくれるって言うなら、そんな心強い話はあらへんし」


 納得がいかない様子ながらも、うなずいたリーツさん。

 二人の力によって、次第に魔法陣の光が収まっていく。

 だがここで、いきなり地面が揺れ始めた。

 魔法陣の光が強まり、空間の裂け目のようなものまで出現する。

 どうやら、召喚されようとしている何者かが強く抵抗しているようだ。


「こらアカン! 抑えきれへん!」

「もう限界です!!」


 爆発。

 リーツさんとアルトさんの身体が、何かに弾かれるように宙を舞った。

 それと同時に、裂け目の向こうから巨大な手のようなものが這い出して来る。


「くっ! こうなれば……キィエエエエエッ!!」


 今しかチャンスはないとばかりに、突っ込んでいくサーシャさん。

 魔剣を大上段に構えた彼女は、奇声を上げながら一気にそれを振り下ろした。

 響き渡る風切り音。

 たいていの魔物なら、一撃で身体が真っ二つになるであろう剛撃だ。

 しかし、それが当たった瞬間、巨大な手が幻のように消え失せてしまう。


「な、すり抜けた!?」

「グハハハハ! 我が肉体に傷をつけようなどとは、人間ごときが無礼であるぞ!」


 寒気がするほどの恐ろしい高笑い。

 雷鳴が轟き、天が震える。

 空間の裂け目が一気に広がり、巨大な人型がぬるりと姿を現した。

 黒い鎧に身を包んだその姿は、魔王すら上回る殺気とプレッシャーを放っている。


「こいつは……魔幻神アルプトラウム!!」

「いかにも。我こそが夢幻を司る究極の魔神、アルプトラウムであるぞ!」

「まさか、こんな大物が現れるとは……!」


 立ち上がったアルトさんの額には、大粒の汗がいくつも浮いていた。

 魔王である彼女が、それほどまでに恐れる相手らしい。


「何ですか、そのアルプトラウムって?」

「魔王すら餌にすると言われる魔神ですよ! 魔界にも何回か降臨したことがありますが、倒すことはおろか傷つけることすらできませんでした!」

「げっ……マジですか!?」

「フハハハハ! いかにも! 夢幻を司る我が肉体は、それまた夢幻のごとし! いかなるものでも傷つけることすらかなわぬ!!」


 腰に手を当て、再び高笑いする魔神。

 何か弱点は、こいつに有効なものはないのか?

 俺はすぐさま、魔神に向かって鑑定をかけた。

 すると――。


 名前:アルプトラウム

 年齢:2346

 職業:魔神

 体力:850

 魔力:300

 攻撃:730

 防御:60

 敏捷:180

 幸運:200

 スキル:ウィークチェンジ・属性魔法(光・闇)・魔剣術・界渡り

 備考:弱点変化中、聖属性以外を無効化


「あっ……普通にわかっちゃった」

「なに?」

「お前、弱点をどんどん変えて分かりにくくしてるだけだろ。素の防御力めっちゃ低いし」


 俺がそう言うと、魔神の動きが止まった。

 完全に、痛いところを突かれたという顔をしている。

 やがて顔を真っ赤にした魔神が、叫びだす。


「貴様アアア!! そういう発言は、せめてもう少し戦ってからにしろ! いきなり見抜かれたら、ドヤ顔してたのが恥ずかしいだろうがアアアッ!!」

「そっちかよ!! というか、ちょっとは否定しろ!!」

「まあいい! タネがわかったところで貴様らになんぞ負けるものか!」


 やけくそ感全開のパンチ。

 構えも何もあったものじゃない、力任せの一撃だ。

 一見して駄々っ子のようなそれであるが、なにせ魔神の攻撃力は730もある。

 当たれば俺なんぞ、木っ端みじんになってしまうこと請け合いだ。

 しまった、弱点がわかったところでこいつ結構強いんだった!


「やべっ……!」


 俺が呆然としていると、いきなり白い光が駆け抜けた。

 魔神の腕が斬り飛ばされ、体液が一気に噴き出す。

 これは……これは……!!


「こちらこそ、弱点がわかるのならあなたになんて負けませんよ!」

「そうだ! ゆくぞ相棒!」


 返り血を浴びながらも、聖剣を手に高らかに宣言する魔王。

 その勇ましく神々しい姿は、もはや勇者そのものだった――!


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