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鑑定スキルを極めたら、受付嬢が魔王だった件  作者: キミマロ
第一章 魔王さま、現る!!
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第十四話 ピラミッドの上で

『どうするんですか、この状況……!?』


 聖剣が魔王の手に渡った。

 それだけならば、最悪の状況ではあるが事前に予想された範囲内である。

 しかし、それだけではない。

 いま魔王には、カオスインフィニットスーパードラゴンが配下についている。

 最悪の事態を、さらに三段階ぐらい飛び越えた感じだ。

 こんなの、いったいどこから対処すればいいんだ……!?


「えーっと……なんで皆さんこんなところに?」


 声こそ可愛らしい人間のものだったが……気配は完全に魔族のそれであった。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!とか聞こえてきそうである。

 尋常でない威圧感を受けて、たちまち額に汗が浮き出る。

 俺、ここで死ぬかもしれん……!

 するとここで、サーシャさんがしどろもどろながらも言い訳を始める。


「……ここ、山じゃないか!」

「似たようなものではありますね」

「山があったら登りたくなるだろ。それでだ!」


 ま、まったく理由になっていない!

 勢いで無理やり押し切ろうとしてるけど、そんなどこぞの探検家みたいな言い分で魔王が納得するわけないだろ!

 ああ、俺たち終わった!

 こんなことになるなら、覚悟を決めてそういうお店にでも行っておけばよかった……!

 クッソ、このままじゃ死んでも死に切れねーぞ!


「あー、何かわかります。高いところって、登りたくなっちゃいますよね」


 嘘だろ、乗っかった!!

 魔王があんな苦しい言い訳で納得しちゃったよ!!

 しかも、「よくありますよね!」みたいな感じでうんうんとうなずいている。

 山があったら登りたくなるって、魔族にはよくあることなのか……?

 あるあるーって同調しちゃうぐらいに。


「せ、せやろ! そこに山があったからや!」

「は、はい!!」


 雰囲気を察して、即座にリーツさんが合わせた。

 俺もそれに追従し、どうにか話題に食らいついていく。

 よ、よし!

 魔王の雰囲気が、だいぶ柔らかくなったぞ!!

 生存できる可能性がほんの少し、蜘蛛の糸ほどか細いが見えてきた……!!


「でも、それだとあの岩とか縄とか何に使ったんです?」


 うおっ、そう来たか!?

 言われてみれば、剣を引き抜く仕掛けを作るために準備したものが放置されていた。

 巨大な岩に縄、そして岩を突き落とすためのテコとなる丸太。

 ただ山を登ったにしては、必要のないものばかりである。


『リーツ、何か思いつかないか?』

『そない言われても、急にはなぁ……』


 額に手を当てて、苦しげな顔をするリーツさん。

 俺も、残念ながら特に妙案は思いつかなかった。

 岩に縄に丸太……そんなものを、このピラミッドの上でどう使うというのか。


「もしかして、この岩を使って剣を抜くつもりだったんですか?」


 うわ、いきなり当てられた!!

 なんでそんなに冴えてるんだよ、さっきはすげえとぼけてたのに!

 これはあれか、もしかして俺たちをおちょくってるのか?

 希望を与えたふりをしながら、じわじわとなぶり殺しにするつもりなのか!?


「これは……そ、そういう目的に使ったんだ!!」


 またしても、適当な言い訳をするサーシャさん。

 おいおいおい、さっきよりもさらにひどくなってるぞ!!

 そういう目的ってなんだよ、どういう目的だよ!!

 情報が不足するにもほどがあるぞ!?


「そういう目的?」

「そ、そうだ! そういう目的だ! 具体的には言いたくない!!」


 完全に破れかぶれになったサーシャさんは、強い口調で断言した。

 勢いだけで押し切るつもりなのだろう。

 鼻息がやたらと荒く、顔も赤い。

 するとどうしたことだろう、魔王の顔までほんのりと赤みを帯びる。


「そ、そういう目的ですか」

「ああ、そういう目的だ!」

「なるほど……」


 そういう目的だけで、いったい何が伝わったんだ?

 俺にはさっぱりわからないが、魔王にはわかったらしい。


「あなた方がパーティを組むと聞いて、不思議に思ってたんです。でも今、理由がわかりました。あなた方は重要な秘密を共有する同志だったんですね」


 ばれた、完全にばれた!!

 俺たち三人は、揃って天を仰いだ。

 もうおしまいだ、終わりだ……。

 絶望的な空気がその場に満ちる。

 こうなったらもう、煮るなり焼くなり好きにしてくれ!

 

「く、好きにしろ!」

「覚悟ならできとるで。やるなら一思いにしてくれや!」

「え? あの、私は別にそういう趣味ないので……」


 体をくねらせ、何やらもじもじと戸惑う魔王。

 あれ? 目的がバレたんじゃなかったのか?

 俺たちが呆然としていると、魔王が恥ずかしそうに言う。


「にしても、こんな開放的な場所で露出したうえにSMとは……。レベル高すぎますよ」

「へっ?」

「私はそう言うの、理解がある方なんですけど。さすがに目の前ではやめてくださいね、びっくりしますから」


 これは……勘違いされてる!

 俺たち、ピラミッドの上でヤッたと勘違いされてるぞ!!

 そういう目的って、そういう目的に捉えたのかよ!!

 いったい、何をどうしたらそうなるんだ!?

 岩に丸太に縄って、SMとか飛び越えて完全に拷問だろ。

 魔族の思考ってのは、やっぱりぶっ飛んでるな、おい!!


『あー、こらあれやね。こうやって心の中で会話しとるせいやね』

『どういうことだ?』

『言わなくても通じ合ってる感じが、すんごい深い関係に見えたんやないかと』


 なるほど、ちょっと納得できた!!

 言われてみれば、そういう感じに見えなくもないだろう。

 ちらりとアイコンタクトをしただけで、すべてが通じ合っているように見えるのだから。

 けどなぁ、けどなぁ……!!


「とりあえず、帰りましょうか。私、先行ってますから!」


 そう言うと、魔王は逃げるようにしてその場から離れていった。

 関わり合いになりたくないという感じが、ありありと見て取れる。

 

「……助かりましたけど、なんかすべて失った気がしますね」

「ああ……」


 俺たちは魔王の脅威から生き延びた。

 人として、何か大切なものと引き換えに――!


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