第十二話 勇敢なる女騎士
「ふぅ……何とかここまできましたね」
歩き続けることしばらく。
ドラゴンを魔王に押し付けた俺たち三人は、そのまま樹海の深部へとたどり着いていた。
生い茂る木々が日差しを遮り、周囲にはどんよりと湿った空気が漂っている。
かすかにだが、霧のようなものまで出ていた。
異界を思わせる不気味な雰囲気。
俺は腰の剣に手をやりながら、周囲を警戒する。
「リーツ、どっちに行けばいい?」
「この先もうちょい南。このペースならあと少しや」
「意外と近いですね」
「そりゃ、私が最短ルートを案内しとるんやもの。普通だったら、何日かかるかわからへんで」
ドーンと胸を張り、自慢げに語るリーツさん。
この広い樹海のこと、案内がなければ捜索にどれほどかかったか分からない。
彼女の博識さに、ここは感謝だな。
「もしかしてあれか?」
やがて木々の間から、巨大な石造建築が見えてきた。
ともすれば岩山のようにも見えるそれは、天に向かって大きな三角を形作っている。
これは……砂漠地方にあるとかいうピラミッドか?
まだ少し距離があるというのに、すごい迫力だ。
「間違いないで。あのてっぺんに聖剣が突き刺さっとるはずや」
「おお、急ぎましょう!!」
相手がドラゴンとはいえ、あの魔王のことである。
必ずや倒して、俺たちのことを追いかけてくるだろう。
それまでに何としてでも、聖剣だけは確保しておかなくては。
一生遊んで暮らせる金……じゃなかった、戦力が必要だ!
「……むっ!」
「これは、けったいな魔力やな」
ピラミッドに向かって進んでいくと、いきなり空中に魔法陣が現れた。
走り抜ける閃光、ほとばしる強大な魔力。
地面が揺れて、この世のものとも思えぬ雄叫びが聞こえてきた。
やがて光が収まると、筋骨隆々とした巨人が立っていた。
「タイタンか!」
「ちっ、どうやら敵がくると魔物を召喚する仕組みのようやね」
「こ、こんなのどうするんですか!? ヤバいですよ!」
さすがにカオスインフィニットスーパードラゴンには劣るものの、タイタンと言えばかなりの強敵だ。
身の丈五メートルを超える巨体は、鑑定するまでもなく凄まじい攻撃力を秘めていることがわかる。
あんな馬鹿デカイ拳で殴られたら、人間なんてひとたまりもないだろう。
「大丈夫だ、あの程度ならばどうとでもなる」
「本当ですか?」
「もちろんだ。お前、私を誰だと思っている?」
そう言われても、何となく不安なんだよなぁ……。
確かにサーシャさんは、百剣の異名を持つ有名冒険者だ。
でも俺は、その強さをあくまでも伝聞でしか知らない。
実際に戦ってるとこはまだ見たことがないし、それどころか残念な面ばかり見てきている。
こう、強い姿がいまいち想像できないというか……。
「考えていることが筒抜けになっていること、忘れてたな?」
「あっ!」
「ま、サーシャが戦っとるとこ見れば安心するやろ。ほら、危ないからこっちきいや」
くいくいっと手招きをするリーツさん。
俺はすぐさま、彼女の隣へと避難した。
「よし、やるか」
安全を確認すると、さっそく手を高く掲げるサーシャさん。
すると空間がゆがみ、どこからともなく巨大な剣が姿を現した。
あれは……!
即座に鑑定を発動すると、「魔剣ファウード」と名前が現れた。
闇の力を秘めた剣で、攻撃力も極めて高い。
こんなものをいきなり出すとは、サーシャさんも飛ばしてるな。
「うるさいから、これ使うとええで」
そういうと、リーツさんはそっと耳栓を手渡してきた。
うるさいって、いったい何のことだ?
戦闘音のことだろうか?
俺が首を傾げると――
「キィエエエエエエッ!!」
「おわっ!?」
剣を大上段に構えたサーシャさんが、いきなりとんでもない奇声をあげた。
な、なんだ!?
様子が一変した彼女を見て、たまらず俺は目をぱちくりとさせた。
すると隣のリーツさんが、慣れた様子で解説してくれる。
「スイッチ入ったみたいやね。サーシャはな、剣を構えるとちょっと性格変わるんよ」
「へ、へぇ……」
「よう見とき、ここからが殺魔次元流を極めた女騎士の凄さや!」
リーツさんがそう言うと、目にも止まらぬ速さで動き出したサーシャさん。
すごい、すごいのだが……!
何か、俺が求めていた女騎士のイメージとは激しく違うぞ。
女騎士というのは、もっとこう、勇敢な中にも気品や高貴さがあって……!
「チェストオオオォ!!」
俺のイメージなんてお構いなしに、敵へと突っ込んでいくサーシャさん。
そのまま天高く飛びあがった彼女は、一気に魔剣を振り落とした。
交錯。
タイタンの構えた棍棒とサーシャさんの魔剣が、激しくぶつかり合う。
「あっ!」
サーシャさんの魔剣が、ぶつかり合いの衝撃に負けて欠けた。
まずいな、いくらサーシャさんでも剣がないときついぞ……!
俺がそう思っていると、彼女の左手から即座に別の剣が姿を現す。
「これが、サーシャが百剣って言われるゆえんや!」
「え? 俺が聞いた話だと、何本もの魔剣を華麗に使いこなすからだって……」
「使いこなしとるやろ? ほら」
再び、破損した剣を交換するサーシャさん。
言われてみれば、上手く使いこなしていると言えなくもないような……。
俺が想像していたのとは、まったく異なるけれど。
あんな使い方するなら、ぶっちゃけ丸太でもよくね?
「そういや、そやな。あとで言ってみるか」
「今気づいたって顔しないでください! というか、丸太はさすがにやめて!」
丸太担いで突撃していく騎士なんて、いくらなんでも見た目がひどすぎる。
というか、そもそも騎士ですらなくなってるだろ。
もしかしたらギリギリ騎士の定義に当てはまるのかもしれないけど、俺は絶対認めんぞ!!
「首置いてけえええ!!」
そうこう言っているうちに、サーシャさんがタイタンの首を跳ね飛ばした。
戦闘時間、わずか三分ほど。
タイタンクラスの魔物を相手にしたにしては、驚くべき早業である。
「ふぅ、片付いたな」
「……野蛮だ!」
「ぐっ!」
「こら、言ったらアカンて! サーシャはな、これでも女の子らしゅうなるように努力しとるんやから! みんながドン引くことを気にしとるんやから!」
もしかして……そのために胸を養殖したのか?
いやでもな、敵にチェストって叫びながら突っ込んでいくのはな。
どう頑張っても、せいぜいアマゾネスぐらいにしかならんだろ。
女騎士として色気を出したいなら、まずもっと優雅な剣術を学ばないとな。
これじゃいくら身体が女性らしくなったところで意味がない。
「そうか、お前は私と一緒に肝練りがしたいのか……」
「すいませんでしたお断りさせてください!」
俺が必死で謝ると、サーシャさんはやれやれとばかりに剣をしまった。
するとたちまち、彼女の顔がどことなく穏やかなものとなる。
剣を握ると性格が変わるというのは、どうやらホントらしい。
「よし、行こうか!」
「はい!」
こうして、勇ましく歩き出した俺たち。
そしてしばらくしたのち、無事に聖剣の前へとたどり着いたのだが――。
「抜けん! 抜けんぞ!?」
魔法陣の中心に突き刺さった聖剣。
サーシャさんはそれを必死に抜こうとするが、ビクともしないのであった。
初めてサーシャさんの本格的な戦闘シーンを出せました。
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