第十一話 心を合わせて
「グゴアアアアッ!!」
三つの首をもたげ、咆哮を轟かせるドラゴン。
その迫力はすさまじく、ともすれば腰が抜けてしまいそうなほどだった。
こりゃ……ヤバいんじゃないか?
とっさに鑑定を発動して、ステータスを覗き込むと――。
名前:カオスインフィニットスーパードラゴン
年齢:315
職業:伝説のドラゴン
体力:580
魔力:110
攻撃:340
防御:280
敏捷:40
幸運:50
スキル:ブレス・咆哮・鋼破爪
備考:寝起き
「つよ! ふざけた名前のわりにつっよ!!」
あまりの能力値に、たまらずツッコミを入れる。
肉弾戦に特化した非常に高水準のステータスである。
敏捷がやや低いが、それを補って余りある体力と防御力だ。
職業も「伝説のドラゴン」とかなっているし、間違いなくSランクのモンスターだろう。
いくらフシノ樹海とはいえ、こんな化け物が出るなんて……!!
「どやった? コイツのステータス」
「とんでもないですよ! どう見てもSランクです!」
「ぐ……こんな時に!」
「もしかして、私に反応しておびき寄せられてきたんじゃ……。あ、何でもないです!!」
とっさに手を振って、誤魔化す魔王。
そう言えば、強い魔物は互いに引き寄せ合うとか聞いたことあるな。
ということはつまり……。
『お前のせいかよ!!』
俺たち三人の心の声が重なった。
その直後、ドラゴンは再び咆哮すると天を仰ぐ。
大きく開かれた顎の奥で、何かが黒く輝きだした。
「ブ、ブレスが来ますよ! カオスインフィニットスーパードラゴンの炎ブレスは、当たったら骨も残りません!!」
「散開、散開だ!!」
「逃げるが勝ちやで!」
サーシャさんの号令の下、一目散に走り出す。
こんなところで、こんなところで死んでたまるか!!
まだ……まだ、何も経験してないんだぞ!!
その日までは、絶対生き残らなくては!!
俺はステータスの限界近くまで、足を酷使した。
やがて轟音とともに、巨大な熱の塊が背中の上を通り過ぎていく。
爆発。
さっきまで俺たちが立っていた場所が、一瞬にして焼け野原となった。
『大丈夫か!?』
『ええ、何とか』
『うちも生きとるで。ぎりぎりやったけど』
ひとまず三人の安否は確認が取れた。
もう一人、魔王がいるが……まあ大丈夫だろう。
だって魔王だ、この程度でどうにかなるわけがない。
きっとどこかに逃げたんだろうな。
『しかし、厄介だな。あれを倒すなら、あと一人欲しいところだ』
『そうやね、私とサーシャじゃ少し戦力不足やな。あと一人、まともなのがいれば……』
『悪かったですね、Dランクで!』
『まあ、それについては仕方がない。ううむ……』
本当に困っているのだろう。
攻めあぐねるサーシャさんの思考が、ひしひしと伝わってきた。
せめて、何か弱点だけでもわかれば……。
俺はもう一度、ドラゴンの方を見て鑑定スキルを発動した。
すると――。
名前:カオスインフィニットスーパードラゴン
年齢:315
職業:伝説のドラゴン
体力:580
魔力:110
攻撃:340
防御:280
敏捷:40
幸運:50
スキル:ブレス・咆哮・鋼破爪
備考:寝起き
弱点:別れた妻・家を出た子供
うおお、増えた!!
俺の思いにこたえて、鑑定項目が増えたぞ!!
けど、全く役に立ってねぇ!
何だよ別れた妻と家を出た子どもが弱点って!
ドラゴンの生々しい家庭環境なんて、興味ねーよ!!
『……うん、よく頑張ってくれた。感謝する』
『せやね。きっとその力、役に立つで。たぶん、そのうち、いつか』
『その生暖かいフォロー、逆に刺さるからやめてください!』
そうこう言っているうちに、再びドラゴンがブレスを放った。
まず、ちょっと逃げるのが遅れた!!
俺はどうにかこうにかその場を離れようとするが、足がもつれて動かない。
動け、動け、動いてよ!!
必死にもがいているうちに、黒炎が迫る。
するとここで――。
「はあああぁ!!」
どこからか現れた魔王。
彼女は巨大な光の壁を展開し、黒炎を見事にはじき返した。
すっげえ、あれを防ぐなんて!
さすがは魔王、超越的な技術と魔力だ。
「ケガはありませんか!?」
「おかげさまで!」
「よかった……心配しましたよ」
そう言うと、魔王はほっとしたように胸を撫で下ろした。
その顔は自然で、心底安心したかのようである。
相変わらず、すさまじいばかりの演技力だな……。
でも俺は騙されんぞ、絶対後で何かがある。
この前のハンカチの一件、まだ忘れてないからな!
『魔王のやつ、逃げていなかったのだな! ここは少々不本意だが、共闘すれば何とかなるか』
『せやね。あの魔法で攻撃を防いでくれれば、私の大魔法でどうにかカタを――』
『よし、逃げましょう!』
『……え?』
『うまいこと魔王に任せて、俺たちは撤退するんです。そうすれば、魔王とドラゴンで潰し合ってくれるはずですよ』
俺がそうやって思念を送ると、二人の反応が途絶えた。
にわかに漂う沈黙。
騒々しいはずの戦場を、形容しがたい微妙な空気が包み込んだ。
なんだかんだ言って、表向きは人がよさそうに見える魔王。
それを見捨てるとあっては、気が咎める部分もあるのだろう。
しかし数十秒後――。
『そうだな、もとはと言えば魔王が原因なんだから!!』
まさかの全会一致。
こうして俺たち三人は、すぐさまその場から戦略的撤退を図るのだった――!