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異世界、その入り口

1980年代、日本は高度経済成長以降かつてない好景気に見舞われていた。実態が無い好景気、いわゆる「バブル景気」である。


企業も人々も、儲かってしょうがないと言わんばかりの時代。人々は株や土地、海外旅行先ではブランドバックを買い漁り、居酒屋で後輩に対して奮発し、ディスコ(*今で言う『クラブ』)では踊りながらも出会いを求め、海外の名画を次々と高値で落札した。スポーツカーを改造して峠を走り回る者も現れた。



そんな中で、どうしても費用がかかりがちな冠婚葬祭においても、バブルらしいものとなっていた。

結婚式では多くの客を招待し、盛大に披露宴。高級なシャンパンを振る舞い、派手な演出で来場者を沸かせた。

一方葬儀は、派手な演出こそ出来ないものの、参列者が香典を多く持ってくるため、比較的余裕を持って大きな葬儀が出来ていた。おまけに高齢化の時代でも無いため葬儀社自体が少なく、一部の葬儀社による独占・寡占の状態が続いていた。








8月19日 夜9時

お盆が一段落した後の時期、人が疎らとなっている路線バスの車内で、蘆名はぼんやりと外を眺めていた。黒のスーツに黒のネクタイ。普通この時期はしない服装だが、彼は葬儀社に勤めていた。



「(部長は今日も呑気に飲みに行ってるんだろうな…)」



蘆名は外を眺めながらそう考えていた。


彼は新卒で葬儀社に入ったのだが、正直会社のやり方には辟易していた。残業代はしっかり出るし、上司も先輩も皆優しく、休みも月に10日はきっちり休める。おまけに給料やボーナスも良いため待遇としては問題ない。


しかし、お客様に対しての対応は酷く、遺体の扱いはとても雑。頭を落としても謝罪一つせず、見積りの打ち合わせの時もやたら高圧的。裕福でない相手にも「香典でもらえますから」等と高い葬儀を勧めていく。

クレームが起きても、相手が悪いと開き直るばかり。しかも訴訟に備えて優秀な顧問弁護士を何人も抱え込んでいるなど用意は周到。


蘆名もこれに異議を唱えたい部分はあるが、下手に言えば自分の待遇を悪化させかねない。何よりまだ入社して日が浅い人間が文句を言っても意味が無さそうだった。


そんな思いも露知らず、彼の上司は今日もキャバクラに飲みに行っていた。蘆名自身は妙に体調が悪い為、直ぐに帰ることにした。



『次は、(ゆたか)1丁目~』



バスのアナウンスが、次の停車先の名前を放送する。蘆名の下りるバス停はまだ当分先だった。



「(どうせ終点で下りるんだし、しばらく寝てよう。…どうも気分が悪い…)」



彼はそう考えて、瞳を閉じる。そして早々に意識を手放したのだった。

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