バレンタインダィ
最近忙しくて気が付いたらもうこんな時期に。
遅れてきた季節ネタ。
女「あ、あのっ! これ! 受け取ってください!」
見た目が美少女と言われるだろう女が、顔を赤くしながらチョコを男に差しだしている。
その光景を見ていた周りの男どもから舌打ちが聞こえる。
男「ははは。ありがとう。ありがたく頂くよ」
モテそうなイケメン男が爽やかフェイスでチョコを受け取る。
女「やた!」
女はガッツポーズをとっている。
男「これはおいしそうだね。頂くよ」
イケメン男が包装を解いて、チョコを食べだした。
女「はい! 愛情をたくさん入れましたから!」
男「そうなんだ。ありがとう。美味し……っう!」
チョコを食べていたイケメン男が突然苦しみだして、泡を吹いて倒れた。
命に別状はないようだ。
女「あれ? どうしたんでしょうか。 味に感動しすぎたのでしょうか」
女はかがんで倒れた男の様子をみている。
男「あ、あんた! いったい何をチョコに入れたんだ!?」
周りにいた男達が、その光景をみてたまらず聞いた。
女「何って。男の人が元気になるものを入れただけですよ。ええ。愛情たっぷりに」
男「いったい何を入れたんだ……」
男どもは慄いている。
女「……ところでまだチョコがあるんですが」
男達「ヒィっ!」
女が差し出したチョコを見て、男達はそこから逃げ出した。
そして倒れた男と女だけが残った。
女「んー? 間違えたかな?」
ぽつんと女が独り言を言う。
この女が作った異物混入チョコはまだ大量にあるのであった。
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バレンタインデー
それは異世界人によってこの世界に広められた風習である。
とはいってもなぜバレンタインという名前なのか詳しく知っている人間がいなかったため、名前と内容だけが広まった。
特定の日に女性から男性へチョコを送る。
男性から女性へ告白するのがほぼ暗黙の了解となっていたこの世界で、この風習はそれなり多くの女性から支持を受けた。
いつまでも煮え切らない態度の男性が多かったという証拠でもある。
また、気持ちを伝えるのができなかった女性を後押しするという機会を作るものでもあった。
商人や生産者からは儲けられるということで大いに喜ばれた。
この風習により結ばれたカップルも結構いるという。
……しかし、良いことばかりというわけではなかった。
光が差せば影ができる。
チョコをもらったものともらえなかったものと二つに分けられてしまったのである。
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男「どこに行っていたんですか? みんなもう活動していますよ」
団長女「野暮用ですよ。女に秘密はつきものです。しぃくれっと いず うーまんうーまんです」
ここは地下の「ほーりーしっと団」の拠点の一つ。
彼らのようにゲリラ活動するものには必要不可欠である。
「ほーりーしっと団」は、ただリア充爆発するべしという信念のもと密かに集まった団だ。
身分や立場など関係なく集まっており、ほとんどお互いに無関係である。
そのため、その繋がりを掴まれることがなく、拠点もいくつもあるのであった。
信念のもと集まっているため、彼らの結束は固い。
男「まさか、チョコを渡していたわけじゃないでしょうね?」
団長女「ト、ト、トップシークレットです」
男の追及に団長女の目がわかりやすいほど泳いでいる。
男「てめえ! それでも団長か! リア充撲滅はどうなった!」
団長女「くっ! 団長である前に一人の女です! 私だけ幸せになりたかったんです!」
男「やっぱりそうか! 一人だけ抜け駆けしやがって!」
団長女「ほ、ほら! ちゃんと戻ってきましたし活動しますよ」
その言葉を聞いて激昂していた男がははーんと笑う。
男「うまくいかなかったんですね」
団長女「ごふっ!」
男の口撃は団長女にクリティカルヒットしたようだ。
男「流石は団長。そこに痺れる憧れる!」
団長女「そんな憧れ要らないです……」
男「さぁさぁ! リア充撲滅のためにいきますよ」
上機嫌になった男が楽しげに言う。
団長女「くっ! 早くリア充になってこの団から抜けてやる!」
男「ハイハイ。寝言は寝てから言いましょうね」
二人はリア充撲滅活動をしに出かけるのであった。
信念のもと集まっているため、彼らの結束は固い。
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団員達と合流し、各自少人数に分かれてリア充撲滅活動を行う。
少人数に分かれるのは機動力に優れ、すぐに逃げられるためでもある。
また相性の良い相手と組んだ方が連携を取りやすい。
ひそかにこの活動により団員同士でリア充カッポーになった裏切り者もいるらしい。
無論そんなやつは粛清対象である。
ほーりしっと団は血の団結で結束しているからである。
男「あ、あそこにイチャついてるカッポー発見!」
団長女「よし! 水を差してやんなさい!」
男たち「イエッサー! マム!」
団員たちの視線の先に二人だけのムードを作っているカップルがいた。
男「公衆の面前でイチャついてるんじゃねーよ! 水でもかぶって頭を冷やしな! ウォーター!」
男の魔法で出た水がリア充カップルに襲い掛かる。
バシャ!
カッポー女「キャアっ!」カッポー男「な、なんだ!?」
リア充カップルが突然のことに驚く。
団長女「やったか!?」
悪戯に成功したことに喜ぶ団長女。
満足そうに頷く男数名。
これでリア充カップルの甘い雰囲気が台無しになったように思われた。
カッポ―女「何よ急に水が降ってきて、もうべたべた」
衣服が水に濡れたため、カッポー女の艶やかなボディラインが浮かび上がる。
カッポー男「なんて綺麗なんだ。そんな君の姿を皆に見せるわけにはいかない」
そう言ってカッポー男はカッポー女を抱きしめる。
カッポー女「も、もう。恥ずかしいこと言わないでよ」
そう言いながらも満更ではないカッポー女。
カッポー男「風邪をひくといけない。服を脱げる場所へ行こう」
カッポー女「う、うん」
真っ赤になったカッポー女が答える。
そして二人は二人だけの世界を作りながら行ってしまった。
……ほーりーしっと団だけがそこに残された。
団長女「何をやっているんですか!? 余計に仲良くなっているじゃないですか!」
男「あんたが水を差せっていったから水をかけたんだ!」
団長女「私のせいにするんですか!?」
男「俺のせいじゃないだろ!」
互いにおまえが悪いと水掛け論をして醜く争うほーりーしっと団。
「衛兵さん、こっちです!」
どこかから声が聞こえた。
団長女「誰かが通報したようです。どうやら水入りです。各自散開して逃げますよ! 合流はいつもの場所で!」
男たち「イエッサーマム!」
ほーりーしっと団は逃げ出した。
仮面をつけているため、彼らの外見上は目立つ。
しかしその仮面が目立つために、取ってしまえばどこにでもいる一般人になる。
そのため、ほーりーしっと団はなかなか捕まることがなかった。
また、団員同士はほぼ無関係なため一人を捕まえても繋がりがわからず、現場を抑えて捕まえるしか手がなかったのであった。
ほーりーしっと団。やることはセコイが捕まらないためには労力を惜しまない。
今回はうまくいかなかったが、大体において彼らの活動によりリア充カップルの熱が覚まされている。
ターゲットの情報はほーりーしっと団の団員の様々な構成により多様に得られている。
弱みとなる情報も得られている。
カップルの前でその情報をさり気なく会話に混ぜ、こんな男性女性は嫌だよねーなどと話す。
カップルの片方がそれに気が付き相手に追及すれば、幻滅して自然消滅だ。
といっても逆にその弱み情報を使って相手を逃げられなくするツワモノもいたりするから難しいところだ。
ほーりーしっと団ではリア充を爆発するための様々な方法を日夜研究している。
そんなことをしているからモテないのであるが、そのことに彼らは誰も気が付かなかった。
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団長女「今日は『ほーりーしっと』な日だったのでそこら中にリア充カッポーがいました。またリア充カッポーに変態するやつらもいました。しかしみんなの活動により消滅したカッポーも数多く出ました。これもみなさんの活躍のおかげです。今日はお疲れ様でした!」
団員「うわああああ!! イエッサーマム!!!」
ここはほーりしっと団の拠点の一つである。
団長女の演説に男ども(一部女も含む)が歓声を上げている。
近隣の住人が騒がしさに眉をひそめるが、関わり合いになりたくないため知らないふりをした。
団長女「『ほーりーしっと』は死んだ! なぜだ!」
団員「ジーク! ほーりーしっと!」
団長女の演説は興に乗ったのかわけがわからないものになっている。
団員もわけがわからない返答をしている。
これが群集心理というやつなのだろうか。
一通りに演説が終わって団長女が言った。
団長女「そういえばチョコが余っているんですが、誰か欲しい人いますか?」
その言葉にモテない男どもが食いついた。
男ども「な、なんだってー!!!ΩΩΩ」
「俺がもらうんだ!」
「いや、俺がもらう!」
「みなさん見苦しい。もらうのは私に決まってるのですよ」
「てめぇ! 何を戯言を言ってやがる! 俺がもらうんだ!」
「I'm hungry」
男達が互い争って主張する。
団長女「ああ、みんなにあげても余るぐらいありますから良かったらどうぞー」
男達「「「マム! マム! マム!」」」
そうして配られる大量のチョコ。
「俺、女の子からチョコもらうのなんて初めてなんだ……」
「これが! 女性手作りの! チョコレィトゥ!」
「これは……夢か……チョコが……もらえるなんて……」
感激のあまり泣く男達もいた。
そんな男どもを一部いる女性たちは冷ややかな目で見ていたが、意中の人がいる女性は(私だって……)とひそかに意気込んでいる。
男たち「「「それでは、いっただっきまーす」」」
ほーりーしっと団はしばらく活動を休止した。
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幼「はい。あんたにバレンタインチョコだよ」
妹「私からも手作りチョコです」
娘「あー」
娘がチョコを差し出している。
俺「ははは。娘からもか、ありがとうな」
そういってみんなの頭を撫でる俺君。
幼「そういえば最近、聖を見かけないねー」
妹「どうでもいいことで忙しいんでしょう」
娘「あー」
バレンタインデーでも俺君一家は平和であった。
ほーりーしっとを英語で検索してはいけませんよ。




