38.決断99!
「アーンーディー?」
「な、なにお父さん……?」
午前中の勉強中、ドアがゆっくり開くと横からお父さんが声をかけてきた。
なにこれ、怖いんだけど。
「ちょっと話があるから入るぞ」
「う、うん。どうぞ」
話があるみたいで部屋へと入ってきた。
一体何の話なんだろう?
最近何かやらかしたことに心当たりはないし、かと言っていいことをした記憶もない。
もしくは勉強の量を増加だったり?
でも、それなら手ぶらではなく何冊か持ってきたりするだろうし。
「話に聞いたところ、町に行ったときに模擬戦をしたみたいだな?」
「したけど、よく知っているね」
「お父さんの情報網を甘く見ないことだな」
まさかストーカー…なんてことはないよね。
多分あの大貴族様が親にでも言ったのかな?
なるほど、そういうことか。
それで負けて、なんかしら言い訳をして僕を怒らせようとしたのか。
これは相手が悪かったな、反省しないと。
「アンディ…お前ってやつは……」
「はい……」
「お前ってやつはなんてよくできた息子なんだ!!」
ええええっ!?!?
まさかの褒めるほう!?
怒られると思っていたのに、まさかの真っ反対の言葉が聞こえたよ!
「ど、どういうこと?てっきり怒られるかと……」
「あのエリクソンの子供に勝ったんだよな?」
「うん。最初は決闘だったけど、それだと賭けごとになるから模擬戦にと」
「それでもすごいぞ!エリクソン家は代々俺たちデルク家と同じく戦闘に秀でているんだ」
たしかにお父さんは強い、とは聞いたことがある。
家系的に元々強いみたいだけど、僕の場合はそれと関係なくとんでもないものを持っている。
「でも今はもう戦わなくていいんだよね?」
「もちろんその通りだ。だがいつでも危険なことがどこかで起きている。そんな時のためにお父さんは戦っているんだ」
あっちの世界で言う警察ってことかな。
平和と言ってもどこかで犯罪は起きていることがある。
その犯人を捕らえるために働いているのだろう。
こっちだと、それに加えて国王の護衛もある。
形づくりというのもあるが、こっちはどちらかと言えば伝統だね。
「それで向こうの親は何て言っていたの?」
「向こうもアンディのことを褒めていたぞ!しっかりと教育している息子が負けて悔しいとか言っていたな!!」
お父さん、嬉しそうに話しているけど僕はスキルで勝ちました。
少しだけ罪悪感があるよ……。
「それでなんだが、アンディのことをみんな知ってしまったんだ」
「うん……?」
そりゃあ知っているでしょう。
お母さんから昔に聞いたことだが、お姉ちゃんと僕が生まれた時は城中のみんなに言いまわったとか。
やっていることが子供と変わらないけど、それだけ嬉しかったんだろうね。
「それだけではない。エリクソン家に勝ったという尾ひれ付きだ」
「それはお父さん的にはよかったんじゃないの?」
「まあうれしいが、エリクソン家は戦闘部隊の頭になるんだ」
王国は大体戦闘部隊と護衛部隊に別れる。
エリクソン家は戦闘部隊、護衛部隊はデルク家。
まあ今はごちゃごちゃになって日替わりメニューみたいに毎日どちらかの部隊に変わる、なんてこともあるらしい。
基本的に変わらないのは頭のエリクソンとお父さんだけだ。
「難しい話だが、一番強い奴は戦闘部隊の頭。他に強い奴は基本優先的に護衛部隊になるんだ」
「なるほどなるほど」
恐らく戦闘力を見せつけるために、一番強いものを出しているんだろう。
他に強い人が護衛にされているのは、国の代表でもある国王を守るためである。
「それは分かったけど、それがどうしたの?」
「元々俺の跡を継いで護衛部隊の頭になってもらおうと考えていたんだ。だけど、アンディが戦闘部隊の頭にするべきという声が出てきたんだ」
「それって、どう違うの?」
「ものすごく違うぞ。戦闘部隊は常に城で待機していないといけない。それに対して護衛部隊は優秀な部下が多いんだ。だからサボ――ではなくて頭は基本時間をつくれるんだ」
今サボれると言おうとしていたよね?
それでもお父さんは出かけることが多い。
そんなことが無くても、元々信頼度が高くて国王も部下からも慕われてる。
誰も疑いせずに働いていると考えると、少し黒いな。
「この家に生まれてきたからには仕方ないと思っていたけど、何でそこまで?」
「お前にはエイミーちゃんがいるだろうに。一緒にいてあげた方がいいから動いていたんだ」
確かにエイミーのことを考えたら時間をつくれる護衛部隊のほうがいいだろう。
例え仕事が入ったとしても、王女であるエイミーにつけば一緒にいてあげられる。
…ん?なんか一生僕が世話をしてやれと言われている気がするのは気のせいかな?
流石に大人になったらできる限りのことはしてほしいけど……。
そんなことを考えていたら、お父さんは一枚の手紙を渡してきた。
「これ以上は大人である俺たちではなく、アンディ自身に聞くべきとみんなで考えたんだ」
手紙の裏にある蝋は、王国の印で押されていた。
国王直々の手紙である証拠だ。
「俺は出ていくから手紙は俺の部屋にある箱に入れてくれ。仕事に行くときに全部持っていくから」
「わかった。ありがとう」
お父さんは部屋から出ていった。
ここからは自分自身で決めろ、ということだ。
もちろん答えは決まっているけどね。
僕は封筒を切り、中にある手紙を取り出した。
書かれていた内容はこうだ。
『エイミーと一緒がいいかいやか、どちらかに〇をせよ』
そう言えば僕、こっちだとまだ6歳なんだよね。
自分自身で忘れるとは思わなかったよ。
それにしてもなんだ、このアンケートみたいな内容は。
仮にも娘の名前が書いてあるんだからもっとしっかり書こうよ……。
「こんなのもちろん、こっちだよね」
僕は迷わず『一緒がいい』のほうを選んだ。
こんなこと、今更迷うことはない。
僕はお父さんの部屋に行き、手紙を置いてきた。
その後、話はどうなったかは知らないし、それ以上言われることもなかった。
言われない、ということはこの生活を続ければいいんだろう。
自ら聞こうとも思わなかった。
もしかしてだが、こっちを選ぶ前提で手紙を書いていたのかもしれない。
僕に書かせたのは戦闘部隊がいいと思った人を納得させるためじゃないかな。
確かに模擬戦で勝ったし、このスキルがある限り負けることはないかもしれない。
だけど、僕はこう思っている。
強さが必ずしも一番ではない、一番は自分で決めたモノだと。
それなら僕の一番は『家族』。
この日常が大切なんだ。




