二人での戦い
「ちょっと貸して♡」
「え?ああ‥」
千佳から瓶を受けとり、蓋を開けて巨大化したナイフに振りかけた。
かまえると手にドロっとした薬が掛かり、嫌悪感が差して顔を歪めそうになったが、千佳の前だ。そんな顔をするわけにもいかない。
頑張って笑顔という仮面をつけた。
「これで‥!」
近づくと鬼壊も反応して歩みよってくる。
チラッと後ろを見ると唖然とした、頭の上に?が浮かびそうな間抜けな顔をしていて、くすっと笑ってしまうが、すぐに顔を引き締めた。
「な、なにをするんだ‥?」
「いいから♡見ててよ‥!」
鬼壊をザクッと1刺しすれば、これだけでも結構効果があったようだ。
痛そうにして、暴れている。
やはり、私の案は間違ってはいなかったようだ。
ナイフと、千佳の薬を混ぜ合わせた技。
千佳の薬は効果があるが、イマイチ硬い皮の上では余り効かなかったようだ。
そこでナイフ。ナイフにかけることで切れなかった皮を薬と掛け合わせて切り、内面から薬を吸収させる。
そういう案だったのだが、かなり効き目がある。
時々千佳に薬を投げてもらえば、それで薬の補充もできる。
あとはー‥
そんな事を一人の世界に閉じ篭って考えていると言葉の降り注ぐ音がした。
「あ‥痛‥!くそっ!」
はっとして鬼壊を見ると千佳を尻尾のようなそれで掴んでいた。
千佳は強く締め付けられていて、顔が歪んでいる。
今にも破裂しそうな千佳の姿を見て、私の少しあった理性が、消滅してしまった。
命の恩人なのに、助けてくれたのに、今度は私が、助けなきゃ‥!
「あぁああ!!ゆるさないよ♡」
コロスから♡
どうしてまた奪おうとする?
逃さないよ。
全速力で駆け寄る。
千佳の薬を持ち、自分のナイフにかけながら。
頭のなかはコロスという感情で埋め尽くされ、なにも考えることができない。
ただ、目の前の獲物を狩るためだけに身体は動いていた。
「コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡コロス♡」
そう言いながら、顔は無表情で、本当の殺人鬼のようにおぞましくなっていた。
ザクッ、ザクッと無表情で獲物を刺している少女の姿は、狂気の沙汰と言うに相応しかった。
いくら鬼壊に抵抗され、傷だらけになっても。
行為を辞めなかった。
そして、鬼壊が消滅する。
少女はみるみるうちに笑顔になり、ニンマリとした笑みで倒れている友に近づく。
「千佳〜私倒したよ♡楽しかった♡」
「‥」
「なに〜嫉妬してるのぉ?私が強いから♡」
うつ伏せになっている千佳を仰向けにする。
刹那、少女の歓喜に満ちた、少し狂気じみた笑みは、絶望の闇の顔へと変わった。
仰向けになった彼女の顔は‥目に光がなく、今の少女の顔と同じ闇に染まった顔をしていたからだ。
☆★☆★☆★★☆
「‥」
千佳さんは、まだ、起きない。
今は私の部屋にいる。千佳さんが倒れていたところから連れ帰ってきたところだ。
私がもっと千佳さんを気に掛けていれば‥。
私に一人の世界に閉じこもる癖がなければ‥。
そんな言葉が心の中で自動生成されて、傷を抉っていく。
「千佳さん‥」
「‥うっ!がっ‥」
自分以外の声がした。すぐに千佳の声だとわかった。
嬉しい、より悲しみのほうが先に込み上げて来て、今にも壊れそうだった。
「千佳さん!起きたんですか!?よかった‥。私、心配で、心配で‥。」
「お母さん‥お父さん‥‥‥きかい‥‥‥‥‥‥‥いや゛あ゛あああ!」
千佳さんは起きた途端、虚ろな目をしてどこか遠くを見るように、呟き始めた。
静かになったと思ったら、突然叫びだしたもので、正直心底驚いた。
「大丈夫ですか!?千佳さん!なにか痛いところでも‥」
問いかけても叫ぶばかり。このままにしておくと近所迷惑にもなるので、誰か頼れる人はいないか‥と焦りながら思考を巡らせると、『あの人達』が頭によぎった。出来るだけ関わらないようにしようとしていたけれど、こればかりはしょうがない。と思う。
「千佳さん、待っていてくださいね‥!」
そう言って家を飛び出した。
一刻も早く‥
また遅くなってしまい‥ごめんなさい