黒いアイツ
夜風の気持ちのいい風で起きた。
「んー‥‥あっ!窓開けっ放しで寝ちゃった‥‥。」
なるほど。夜風で起きたのはこのせいか。
‥‥というか開けっ放し?目の前には森とまではいかないけど、林があるよ??つまり虫が入ってくるんじゃないか?
そんなことをぐるぐると考えている間になにか黒いものが目の前を通りすぎた。
「ヒィッ!」
やはりみんな大嫌いのアイツだった。
そして運が悪い。ちょうどアイツを抹消するためのヤクは切れている。
「つまり‥‥まずい!!」
アイツは私をはやくも格下相手とみなし、攻撃態勢に入っている。
「うわうわ、駄目だって!誰か助けて‥!」
刹那、目の前にいたゴ‥アイツがいなくなっている。
やばい。後ろをとられたか!?
勢いよく振り向くとそこにはアイツではなく千佳さんがいた。屋根に立っていた。危ない。ちなみに対鬼少女の姿ではない。
「こんばんは。海ちゃんって、そんなに虫苦手だったんだ。意外だなぁ。」
「こんばんは‥‥というか、見てたんですか!?恥ずかしい‥。」
「いやぁ、気まぐれに訪ねようと来たら、虫と戦闘に入っているものだから‥‥わざとじゃないよ!?」
一生懸命笑いを堪えているだろう、千佳さんの私を見ているその目はピクピクと震えていた。
「‥‥‥よっ」
急に真顔になったと思ったら、手を振りかざすので何かと思ったが。なるほど。次の瞬間千佳さんの手には天敵がいた。
‥‥‥‥‥‥‥というか素手って。
「わ、わぁ」
コツコツと背筋を伸ばして歩いていく千佳さんはランウェイを歩くモデルのようで‥惚れ惚れとしてしまいそうなくらい美しかった。
月光とのコントラストも相まって、綺麗を通り越していた。
ここ屋根だよ?危ない‥。
「ほら、もう入るんじゃないよ。ここ、危険だから。」
最後の一言がとても余計だが、今は見逃してあげよう。
アイツを放してから、コツコツと戻ってきた。
「ていうか、なんで来たんですか‥?こんな夜に。」
「うーんとね、夜の見回りしようかなって。それに誘おうと来たら窓開けっ放しだったって訳。」
「見回り?」
そう聞くと千佳さんは目を伏せて少し寂しそうに
「夜は‥危ないからね。」とだけ言った。
何かあったのか。そう聞きたかったけれど、その寂しそうな横顔に話しかける勇気はなかった。
「ということで!」
急に立ち上がったと思ったら、手を伸ばしてきた。
「一緒に、行ってくれるよね?」
満面の笑みで。
「是非!」
☆★☆★☆★
力以外の能力を対鬼少女状態にする、『半対鬼少女』を千佳さんに教えてもらって、変身して今は屋根の上を走り、見回りをしている。
「いやー、こんな便利な機能があるなんて、知りませんでした!」
「まぁ私が独自に発見したものだしね。というか、海ちゃん可愛いね!」
「ナンパですか?」
「いやいや‥」
走りながら、冗談まじりで談笑する。
ちなみに今、横に並んで屋根の上で走って移動している。こんなことができるのも対鬼少女の力があるからだ。
「鬼壊いませんね。」
「いないほうがいいでしょ。それに私は早くても明け方にしか見たことがないし。」
じゃあどうして夜は危険と言ったのか。疑問が浮かんだが、失礼な気がしたのでやめた。
そういえば特殊能力って色々あるんだ。
千佳さんは何かな。
そう思い隣を見ると、真剣な眼差しで前だけを見る千佳さんがいた。
「‥千佳さんって特殊能力何なのですか?私は鬼壊の位置が分かるのですが‥。」
「私?私はね、未来予知だよ。数分後だけど。」
「へ‥」
『へぇ~』そう言おうと思ったが。
鬼壊の音がした。