なんてベタな
帰り道、ふらふらと歩いていたらいつの間にか周りがとても暗くなっていた。
そう、さっきまでとても明るかった筈なのにだ。
焦ってポケットから弟からのプレゼントの時計を取り出し、見てみる。
午後4時。まだギリギリ明るい筈の時間。
「ー・・・ー・・・・」
何者かの気配がした。
と思ったら、頭上から葉のような物が落ちてきた。
暗くてよく見えなかったが、よくよく見てみるとそれは羽だった。
「ッ!?」
驚いて後ろを振り向いてみると、
そこには羽が生えた人ー・・・天使のような少女が浮いていた。
「ぁ‥あ」
声を出したつもりだったが、出ていなかったようだ。
出るのは嗚咽ばかり。退化してしまったような感覚に不快感を覚える。
「ねェ‥‥君は、」
『‥‥ーーーーー?』
そこで記憶は止まっている。
☆★☆★☆
次に目を醒ましたのは自分のベットの上で、日にちは次の日になっていた。
どこまで夢だったのか?
ぐるぐると思考回路が取り囲むように周るが、考えても分からない。
取り敢えず新聞を見て気分を落ち着かせようとポストに新聞を取りに行った。
「ふわぁ〜あ」
欠伸をしながらポストの中に手を突っ込むと、手紙のような物と新聞のような物に手が触れた。
眠い目をこすりながらみると、
新聞と名も描いていないシンプルな手紙が出てきた。
興味を唆られ、その場で封を切ってみる。すると、その中に入っていた手紙の内容がチラッと見えた。『対鬼』という単語が見えたような気がしてドキッして、部屋に戻ってからみよう、と決めた。
部屋に戻ってベットの上で手紙を開いてみる。
「いや〜ここで私も対鬼少女になる権利が届いたとかだったら、どんなB級‥‥」
やはり、千佳さんと同じ内容だったようだ。とてもお決まり。
どうする?唱えるか?だが‥‥
などと考えているうちに口が先に唱えてしまっていた。
『ラヴンシクカ』
「ッ―!」
瞬間、目も眩むような眩しい光が辺りを包む。
光が静まった時、身体に異変を感じる。
「ま、魔法少女みたいな格好になってる‥‥。」
自分で着ていて少し恥ずかしい。
髪型も、顔も変わっている気がする。
鏡でみると、やはり変わっていたようだ。
手紙を見てみると、新しいことばが浮かんでいた。
『その状態では、まだ裏人格にはなっていません。次の変身からは裏人格に変わります。尚、貴方の裏人格は、「無差別快楽殺人者」です。』
ムサベツカイラクサツジンハン‥ムサベツカイラクサツジンハン‥
少しの間言葉の意味がよくわからなくなっていたが、少し経ってきたところで意味が分かった。
「え‥!?む、無差別快楽殺人者‥!?それって、けっこう‥‥あぶない?」
心あたりがない。殺人に憧れたことも、快楽に思ったことも勿論ない。
「ん、んー?よく分からないなぁ‥‥あ、そうだ千佳さんに電話してみる‥‥‥‥‥‥
電話番号教えて貰ってないじゃん!」
はぁー・・・
深い溜息をつく。
本当、私って・・・・
ここでこうしていても意味はない、取り敢えず昨日いた場所を周ろうと思い、朝食を作ろうと席を立った。
??「・・・・・・・」
ゆらりと現れた監視する陰に海は気づかなかった。
ギラギラと差し込む太陽。夏本番だ。この気温で動くのはキツくないのか。
少し不安を覚えるも、足を進める。
いつもと変わらない風景。だが、外に居る人々は確実に段々と減っていっている。
ドシンッ
「っ!」
近い。振動の大きさからそう悟った海は、人目につかない所に駆け込む。
「えっと‥‥唱えれば変身できるんだよね‥‥?」
『ラヴンシクカ』
まばゆい光がまた周りを包む。
どうやら毎回これで変身するようだ。
変身した瞬間、脳が交換されたようにいつもと違う回路で回り始める。
「ふふ‥‥獲物、どこ?あぁ、ハヤク誰か、殺したぃ♡でも、ヒトは駄目だなぁ。怒られちゃぅ♡向こうかな?」
カッと、目を見開くと鬼壊の位置がわかる。
そういえば、千佳さんが対鬼少女は一つ能力を持っていると言っていたが。これだろうか。
自分が、自分ではないように、どうしても誰かを殺したくなってくる。
殺したい、殺したイ!
思いに駆られ、ダッと地面を勢いよく蹴る。
自分の能力とは桁違いの身体能力に驚きつつも、殺すべき者の元へ駆ける。
流石に近かったようだ。すぐに着いてしまった。
ピギャァア・・・・
視界に捉えると鬼壊は威嚇するように吼える。
だがそれを耳にも入れずに鬼壊に近づき、ジャンプした。
鬼壊の顔の前に来ると、勢いよく目に向かって投げナイフを投げた。
「殺す!」
ナイフは綺麗に軌道を描き、吸い込まれるように鬼壊の目に刺さった。
ングァアア!!
イマイチダメージが少なかったようだ。
だが、相手は片目しか見えなくなっている。
これはチャンスだ。
「ンフフ♡私の攻撃を受けて耐えるなんて‥♡でも、そぅ甘くはぁ‥ないんだよ?」
もう片方の目にナイフを刺した。
再び鬼壊が呻く。
「煩いなぁ‥‥一気に逝っちゃおうか♡」
片手を大きく半円を描くように動かすと、手が通った空間に何本ものナイフが現れる。
そのまま人型の弱点部位、後方に向かってバッと、腕を伸ばすと、ナイフの切っ先がその方向に向けられる。
「じゃ、いっけぇー♡」
掛け声をかけるとナイフは一斉に弱点部へと向かっていく。
鬼壊は目が見えないため、何が起こっていて、敵が何処にいるのか分からない暗闇のなか、怯えているのだろう。
ウグァ‥‥!だの、グガァ‥だの喚いている。
実に憐れだ。実に愉快だ。
ギィアアアアアアアアア!!
弱点部に集中攻撃された鬼壊は、呆気なく消え、骨だけが残った。
「‥‥‥‥‥‥」
戦いが終わると自動的に元の姿に戻るようで、思考回路も元の回り方に戻り‥‥‥
「うぉー!!すっげぇ!!!」
と声を出したのは私ではなく‥‥
誰だ?
周りには誰もいなかったはず‥?
じゃあ声などするはずもない。だったら何故‥?
などと考えてくると、上から少女が降ってきた。
それも普通の少女ではなく‥魔法少女のような格好をした少女だった。
「あっ、貴方は誰‥?ですか‥?」
恐る恐る、声をかけてみる。
仕方ないじゃん。だって、上から降ってくるんだよ?可笑しいじゃん。びっくりするじゃん。ね?
すると。その少女はガッと肩を掴んできて。
「すげえ、すげえ!!お前の戦い見てたよ!格好いいな!お前!」
まるで聞いていない。
迷惑そうな顔をしても、その子は怯まない。
私は誰か、聞いているのに‥‥。
「あのっ!貴方は何者で、誰なんですかっ!?」
肩を掴んでいた手の手首をガッと掴み、問いかけてから離した。
かなり睨んだはず‥なのに
その子は、一瞬驚いたような表情をした。が、すぐに表情が戻り‥
やはり怯まない。大した度胸だ。
‥‥‥‥私が睨んでも怖くないのかもしれないけれど。
「あっ、いや〜ごめん、ごめん。ちょっち興奮しちゃってさ。俺は櫻川菜摘。お前と同じ‥‥対鬼少女だ。」
「コホン。‥‥私は、矢口海です。」
「へえー海?そうか。‥‥んで、また‥‥‥‥‥‥な。」
最後のほうが聞き取れなかった。
まぁ独り言だろう。気にしないことにする。
「じゃ、じゃあ私はこれで‥‥」
そそくさと帰ろうとするが、腕を掴まれる。
嫌な予感がしてぎこちない笑顔で振り返るとやはりキラキラした目で彼女が腕を掴んでいた。
「俺のこと、お前のこと、まだ全然話してないじゃないか!お前、俺んとこのアジトにこいよ!」
「うぅ‥」
半ば、というか完全に強制的に引きずられて彼女のアジトに連れて行かれた。
引きずられながら思った。
(私って、本当に変な人達に絡まれるな‥‥。)