7 - 3 第9世代戦闘機
第5世代戦闘機がNF-22とNF-35、その後に第6世代戦闘機、第7世代戦闘機、そして第8世代戦闘機と過去に比べて驚異的なスピードで戦闘機の刷新が行われています。ソレもコレも第三次世界大戦のせいです。
「私は頷かないって、鹿嶋さんが一番分かってると思うのですが」
「だからと言って先生に何も言わずに行くのは、私が一番許せません。これは『トキワ隊』宛に来ているんです。先生が行かないのでしたら行く意味が無いです」
亜美はさくらの教員室に来ていた。大吾から送られてきた、差出人が国連となっているメールをさくらに見せ、一緒に来てほしいとお願いに来たのだ。さくらは亜美の予想通りいい顔をしなかったが、亜美は引かずに説得を続けていた。
「国連が送ってきてるんです。今の状況、さくら先生だってよく知っているじゃないですか!」
昨晩の、亜美との通話を思い出すさくら。
――核攻撃。禁忌とまで言われている攻撃を実行する計画が進んでいるというニュース。
「……分かりました。同行しましょう」
さくらの心が、ほんの少し動いた。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
亜美は礼儀正しく礼をして、日時を伝えて教員室を後にした。
◇◇◇
国連が示した日時。トキワ隊のほとんどのメンバーが学生であることは既に知っているはずだが、平日を指定していた。
「国連と話し合い……」
「亜美ちゃんが珍しく緊張してるね」
「私だって緊張くらいするよ!」
亜美と霞が緊張をほぐそうと会話をしている後ろで、
「美穂、私もう無理……」
「未来、私も……」
美穂と未来は周りからの鋭い目線に、既に及び腰だった。
厳重な警備が敷かれた国連総本部。その入口の前で集合したトキワ隊の5人。さくらはただ一人冷静だった……
「(あああ警備が厳重ですねねねこれから会う方はどれくらい偉い方なのでしょうかかかか……)」
ように見えるが、内心は4人と同じく緊張していた。
緊張ではち切れそうな5人の待つ入り口に、一人の男が女性の警備員と共にやってくる。
「待たせてしまい申し訳ありません。亜美さん以外はこうして顔を合わせるのは初めまして、ですね。新治大吾と申します」
「本日はよろしくおねがいします。話し合いの内容がまだ良く分かってないのですが、始まるまでに準備しておいたほうが良い事などはありますか?」
流石と言うべきか、さくらは固まっている4人の代わりに挨拶と質問をこなしていた。大吾は笑って、
「何もありません。会議が始まるまでどうぞゆっくりおくつろぎ下さい」
と言うだけだった。
◇◇◇
国連総本部は豪華な外見とは裏腹に、内側はとてもシンプルで無駄のないデザインだった。専用のインテリグラスを渡された5人は、会議の時間まで施設内を見学することにした。
「思っていたより人が少ないね」
「部屋はたくさんあるんだけど……人が全然出てこないね」
「飲み物も食べ物も全部食べ放題なんだ〜」
「お菓子は無いのかな〜」
「ここには何人か職員さんがいますね」
総本部の中は、亜美たちが思っていたよりも静かだった。職員はほとんど出歩いておらず、警備員がそこら中に立っているだけ。唯一、食堂で数人の職員を見たくらいだった。
一通り歩きまわり亜美たちが食堂で思い思いに昼食を食べていると、インテリグラスにメッセージが表れた。
「あ、準備が出来たみたいですね」
「あと20分で始めるって!」
片付けを済ませ、インテリグラスに表示されるナビで目的地まで歩くと、ドアの前で大吾が待っていた。
「お待たせしました。この中でフルダイブしてもらいます」
大吾はそう言うと、ドアを開けて5人を中に通す。そこにはベッドと軍事用に開発されたフルダイブデバイスが置いてあった。
「これ、この前ネットで調べたやつだ!」
亜美はそのフルダイブデバイスをみて目を輝かせた。一台50万は下らないデバイスを使うことが出来るとなればそうもなろうが、他の4人は緊張もあって黙ったままだ。
「(亜美ちゃんは凄いなぁ……)」
この状況でいつもの雰囲気と変わらない亜美とその様子をこわばった顔で眺める霞。亜美の強みであるメンタルの強さはここでも遺憾なく発揮されていた。
5人はそれぞれベッドに入ってデバイスを装着する。いつものようにダイブして下さい、と言われダイブを始めた。
◇◇◇
亜美たちがダイブして最初に見たのは、白い壁に囲まれた部屋だった。余計な装飾は一切ない、無機質な部屋。そこに5人がそれぞれ現れ、最後に大吾が現れた。
「ご協力に感謝します。そのままお待ち下さい」
そう言い残して大吾は姿を消す。すぐにメッセージが現れ、飲み物が提供された。亜美たちは飲み物を飲みながらさっきまで見ていた館内について語り合った。
数分で大吾は戻ってきた。どうやら最終的な準備が整ったらしく、これから会議が始まるようだ。
◇◇◇
白い部屋から会議室に切り替わり、大吾に言われた場所に着席すると、亜美たちの前にきらびやかな勲章を付けた見るからに偉い人が姿を現した。思わず起立する5人に座るよう言ったその人は、その後の自己紹介で国連軍の参謀と名乗った。
「まあ、なんというかそう畏まらなくていいんですよ」
「は、はい……」
そうは言われても。
心の中でそうつぶやいた亜美。すると、自己紹介が終わったその偉そうな男の人は一旦席を立ち、亜美たちの目の前から離れた。
何が始まるんだと訝しむ亜美たちの目の前で、一つの動画が再生された。その動画は、今の国連軍とエイリアン軍の戦績を紹介するもので、最初こそ順調に阻止していた国連軍が、次第にその勢いを止められなくなってきている様子が手に取るように分かった。
南ストリア大陸を占領され、ラジル大陸に上陸されたところで戦況についての内容は終わり、そのまま次の内容へと移る。そこには、亜美たちがよく知っている戦闘機の姿があった。
「これ、NF-7だよね」
小声で霞に確認する亜美。霞も頷いて返した。
バーチャル世界とはいえ、戦闘機で毎日のように飛んでいる亜美たちはすぐにその戦闘機に違和感を覚えた。その違和感は、次の戦闘機がアップで映された映像でさらに強くなった。
「コックピットが無い?」
正しく言えば、キャノピーが不透明だった。外を見渡す必要のあるコックピットは、透明で軽くて丈夫な特殊樹脂で出来ているはずなのだが、この映像に映っているNF-7はそれとは全く逆で、真っ黒なパーツで中が見えないようになっていた。
そのまま映像は続き、最後に"―ACE Girls Project―"と表示されたところで映像は止まった。
「ご視聴ありがとうございます。私達から申し上げたいのは、ここでお見せしたACE Girls Project、それに協力していただきたい、いや――」
参謀の言葉は一旦途切れ、少しの間静寂が訪れる。亜美たちは次の言葉を静かに待った。
「――その中心となって、パイロットとして、活躍していただきたい。この地球を、一緒に救っていただきたい、ということです」
全員の顔が一斉に強ばる。さくらを除く4人は望んでいたことではあったが、こうやって現実になると色々と考えてしまう。死と隣り合わせの戦場。しばらくは会えなくなるであろう家族。厳しい訓練。それらが一気に現実となると思えば仕方のないことではある。
そんな4人を差し置き、たった一人、さくらだけは目を瞑って整然としていた。そして、4人に先駆けて、口を開く。
「分かりました。協力します」
「さくら先生!?」
亜美が驚いてさくらを見る。最後まで反対していたさくらが、一番最初に声を上げたことに、驚きを隠せない。
「私も、志願します」
「わ、私も!」
「私も同じく」
さくらに続いて、霞、美穂、未来も声を上げた。全員が真剣な眼差しで、自分の意思で決めていた。
「(私は、本当に覚悟が決まっているの……?)」
霞とサークルを立ち上げた日を思い出す。それから一年。祐希、美穂、未来がメンバーとして加入して、そしてさくらも一緒にBSSをする事になった。6人で楽しく遊んだ日々。不満なんて一つもなかった毎日が、突然崩れた3月。
祐希が居なくなってからの日々を思い出す。街の中を走り回って探し回った日々。スクランブル交差点で見た報道、そこにいた祐希。WACに向けて5人で練習をし、なんとか手に入れた優勝。祐希を助けに行きたいと声を上げてくれたみんな。
大吾と話をした喫茶店を思い出す。国連軍の現状。VRの相性。戦争の恐ろしさ。
命は一つしか無い。この命を懸けられるのか?
答えは――
「私はまだ受けられません」
「亜美ちゃん!?」
「せ、先輩?」
「私はBSSではそこそこ出来る方かもしれませんが、本物の戦闘機に乗れるとは思っていません。私が活躍できる場所はここではない。そう思います」
亜美は、自分の力が最大限活躍できる場所じゃなければ、命をかけるつもりはなかった。さくらとの話し合いの末、考え抜いた末の結論だった。ここが祐希を、世界を救う未来が見える場所には見えなかったのだ。
「そうですね。説明はまだ終わってません」
その言葉を聞いた参謀は、そう言って新たな映像を流し始める。そこには先程から映っていたNF-7に似た何かの詳細な内容が映されていた。
「これは……」
映像に映ったのは、その操縦方法。真っ黒なキャノピーの内側が、簡単な図で解説される。
図で説明されている機構、それは――
「――フルダイブ技術と戦闘機を組み合わせた、新しい戦闘機。第9世代戦闘機です」
フルダイブ技術と戦闘機。ゲームでは既にあったアイデアを、軍事に転用したものだった。そしてその戦闘機は、亜美たちの懸念を払拭するのは十分なものだった。
「こ、これで私達でも操縦できる……?」
「操作性は少し異なりますが、大部分は亜美さん達がプレイされたBlue Sky Squadというゲームに近づけてあります」
戦闘機の内部には、特殊な液体で満たされたコックピットが存在する。その中に入ることで、液体を通じて戦闘機とリンクを確立。搭乗者は特殊な装置を喉の奥に装着することで、液体から酸素を受け取る。
液体は酸素供給と搭乗者の脳とのデータ通信以外にも、耐衝撃性の点で現行の戦闘機に比べ勝っている。問題は重量だが、液体の比重を軽くすることで全体的な重量増加を防いでいる。またコックピットまわりの機材が一切いらなくなるため、逆に軽くなるほどだ。
他にも、液体の中ではいくらか移動が可能であり、対G性能も高いという。このような全く新しい戦闘機の開発が成功し、今は最終チェックをしている所だという。
「(大吾さんが言っていたフルダイブの相性って、このことだったんだ!)」
亜美は、喫茶店での大吾の不可解な発言にやっと納得した。大吾は分かっていたのだ。いずれ亜美たちにこの戦闘機に乗ってもらうようお願いするということが。
「この戦闘機なら、私、出来ます。やれます!」
一度は腹をくくったんだ。ここで諦めてたまるか。
心の中に新たに炎を灯した亜美だった。
誤字脱字、おかしい点などがありましたら指摘していただけると恐縮です。また、是非よろしかったら感想、レビュー、ブクマ、評価の方をよろしくおねがいします。とても励みになります。ここまで読んでいただきありがとうございました。




