6 - 7 心理戦は負けない
6章はここまでです。
次章に入る前に、今までの話の体裁を整えたいと思います。内容はほぼ変わらず、改行やルビなどを整えるだけなので、もう一度読み直す必要などはありません。
次章、ついにトキワ隊が動く……!
「FOX2!」
未来のミサイル発射を合図に、美穂のカバーをするふりをしながら次第にアルファに近づく。次の FOX2 が攻撃の合図だ。
「未来ちゃん、アルファが後ろから追撃中! 丁度いい、やっちゃって!」
「ウィルコ!」
そして未来は練習を重ね最近になって一気に様になってきたクルビットから一気に敵機の背後を取り、ミサイルを発射した。敵機はこれを予想していたのか、焦る様子を見せずにデコイを発射する。
「アルファのデコイ発射を確認!」
しかし、亜美たちはそのデコイを待っていた。未来のミサイル発射と時を同じくしてアルファへと機首を向けていた亜美とさくらは、同時に2本ずつ、計4本のミサイルを発射した。
「亜美ちゃん、後方から敵機! 2機で追ってきてる! さくら先生にも1機!」
空戦では敵を追っている時が一番隙が大きい。チャンスとばかりに亜美とさくらへ敵機が襲いかかる。亜美を追っている敵機の内1機は無人機を連れてきていたのでミサイルを積んでいなかったが、まだ残っている機銃で少しでもダメージを与えようと試みていた。
「ブレイク! 大丈夫、これなら躱せる!」
亜美は細かく旋回し、放たれた2発のミサイルの速度を急激に低下させる。亜美はそのまま上昇し、それを追いかけたミサイルが亜美を正面に捉えたときには既に機動力がほとんど落ちていた。亜美は冷静にデコイを発射し対処する。
「アルファの被弾確認! まだ飛んでるけど速力は低下、上昇は無理そう!」
「いよっしゃあ! 数で有利になればこっちのもんよ!」
「同じ作戦はもう通じないでしょうね。どうしますか? 鹿嶋さん」
残りがミサイルを積んだ3機とミサイルを積んでいない1機。数で勝っているので無理な戦闘は禁物だ。アルファはその後海面に墜落していった。
「このままかすみんが上空から援護! 美穂と未来、私とさくら先生でペアを組んで2機編隊! かすみんの指示に従って、各個撃破を狙うよ!」
「「「「ウィルコ!」」」」
亜美はさくらと共に霞の指示に従って攻撃を続ける。しかし相手の機動力は先程に増して高くなっており、なかなかミサイルを当てられない。
「亜美ちゃん、闇雲じゃ当たらないよ! ミサイル残数は?」
「そうは言っても〜! 残り22!」
「亜美ちゃんなら突破できるよ! その数ならもう無駄打ちは避けたほうが良い!」
亜美は先程から無駄撃ちばかり繰り返していた。しかも亜美は一気に2本撃つので、どんどんミサイルが無くなっていた。
◇◇◇
どうやって当てようかな。
もう一度あの日の事を、祐希と初めて戦った日を思い出す。
祐希に当てられなかった時、心理戦で負けてるって気付いて……それでどうしたんだっけ。
フラッシュバックのように思い出される記憶。今はどこか遠いところに行ってしまった祐希が、心理戦についてレクチャーしてくれたあの日。
『とりあえず後ろに付かれた時、逃げることを思考の外に投げちゃおう』
『逃げる、じゃないんだ。相手の一番意識していない所に移動する。もしそれが相手に近づく方向であってもね』
『少し隙を作ってあげて、そのパターンに誘い込む。誘い込めたらあとはもう一方的に攻撃するだけ』
祐希の言葉が頭の中に浮かんできては消えていく。他にも、1年近く一緒にプレイしてきて学んできたことが沢山思い返される。
「――よし。さくら先生、一旦かすみんと一緒に上空から援護をお願いします」
「鹿嶋さんは一人になってしまいますけど、大丈夫なんですか?」
「もし大丈夫じゃなかった時は上空から援護してください」
「……分かりました。ご武運を!」
そして上空へと昇っていくさくら先生。私は今の高度を維持し、単機に。
「美穂、未来、ちょっと私単機になるから、頑張って2機引き止めて!」
「「ウィ、ウィルコ!」」
今回の敵さんはこのチャンスをみすみす逃すような素人じゃない。そろそろ来るはず。
……やっぱり。私が単機になった途端に食いついてきた。それじゃ、作戦開始だ。
「かすみん、さくら先生。これから私が1機仕留めます。そしてその瞬間が一番狙われやすい。後ろに絶対食いついてくるはずなので――」
「私が先生と一緒に墜とせばいいんだね?」
かすみんはいつも察しが良くて助かる。
「そう。任せるね!」
「「ウィルコ!」」
こうやって無線を飛ばしている間にも敵さんはミサイルを撃たんと私の背後を目指して旋回してくる。距離はもう1500を切っているね。
ちらりとレーダーを確認する。予想通り、その後ろにもう1機ついてきている。
絶体絶命。
誰もがそう言う状況。でも私にとってはこれこそが今の状況を打開する次の一手だ。
敵さんはさらに距離を詰めてくる。旋回をあまりしていない私にさほど疑問を持っていないみたいだね。多分私が疲れたとか思ってるんだろうな〜。あれは確実にミサイルを当てられる位置まで寄ってくるぞ。
レーダーを見ながら無言でスロットルを握る。合図があるまで援護は無用、とか言っちゃったし、ここでミスるわけにはいかない。
さて、ここまでくれば、右にも左にも逃げ道は無い。もちろん上にも下にも。敵さんにとっては最高なポジショニング。
ここで今のまま飛び続ければいずれミサイルが飛んできて避けきれずに撃墜されてしまう。誰だってそう思う。私だってそう思う。
敵はもう逃げられない私を確実に仕留めようと絶対必中の距離まで寄せてくるはずだ。そしてその瞬間こそが最高のチャンスになる。
絶対そうなるとは限らない、リスクの大きい賭け。でも、今だけは、この予想は外れないと確信していた。
今追いかけてきている敵さん。私が注意して見始めた頃から、無理な位置からはミサイルを撃っていなかった。確実に当てられる位置まで待って、2発を時間差で撃つ。でも私たちにことごとく避けられていたからか、時間が経つにつれて近づく距離がだんだん短くなっていた。
私はさっきからポンポンミサイルを撃っていた。相手がそれに気づいているとすれば、チャンスはそこにしか無い。
次第に敵さんの機体と私の機体の距離が縮まる。レーダーにくっきりはっきり映ってるあたり、敵さんは既にウェポンベイを開いてミサイルを撃たんと構えているんだろうな。私が上下左右、どちらに逃げても当てられるように、十分に近づいて。
……上下左右、それが普通。でも普通じゃ勝てないんだよね!
私は左手でスロットルを絞る。機体は途端に加速力を失い、高度が下がる。
――相手の一番意識していない所に移動する。もしそれが相手に近づく方向であってもね
祐希の言葉をもう一度思い出す。相手の意識していない、上下左右ではない、後ろに逃げる事で、一気に形成を逆転する。祐希なら完璧に決められるだろう技。今までずっと練習を重ねてきたんだ。私にだってできる!
敵さんは慌てて上にブレイクしたみたい。ここまで綺麗に引っかかってくれるなんて嬉しいね。
すぐにフルスロットルへと移行。失った高度を再び得ながらさっきの失速でオーバーシュートした敵さんを追いかける。完璧な位置取り。
……ここで撃ってもデコイに撒かれる可能性が高い。今まではこのタイミングで撃ってたけど、今回はもう少し頭を使うよ。
敵さんの後ろに位置取ってすぐにミサイルを撃つ。敵さんは慌てた様子でデコイを発射し、旋回を始める。ミサイルはデコイの方に吸い寄せられて機体には当たらずに爆発。
しかし。
これでミサイルを避けきれたと安心するのはまだ早い。さっきまでは2本一緒に撃っていたけど、今回は1本だけ早めに撃って囮にして、もう一本、本命のミサイルを隠れるようにして撃っていたのだ。
敵さんはミサイルに気づくのが遅かったみたいだね。ミサイルアラートは確かに鳴っていただろうけど、気付けなかった。
その理由はミサイルの発射間隔だ。私はデコイに吸い込まれない、ギリギリのタイミングで2本目を撃った。そしてその発射は1本目のミサイルがデコイに当たる直前だった。敵さんは1本目のミサイルアラートが途切れずに2本目のミサイルアラートに変わっていたことに気付けなかった。
ミサイルがデコイに当たって爆発音が聞こえ、ミサイルアラートも消えるだろうと思っていたのに、いつまで経っても消えない。おかしいぞと思ったときには既に手遅れ。ミサイルがデコイに向かっている間も律儀にアラートを鳴らすBSS仕様を利用した作戦だ。
「スプラッシュワン。かすみん、さくら先生!」
「分かってるよ〜!」
「任せてください!」
敵機を狙っている間が一番隙が大きい。今の私は隙だらけだ。味方を1機落とされた敵さんが必死に私を追いかけてくる。
しかし、私を狙っている敵さんも同様に隙だらけなのだ。
「FOX2!」
かすみんの放ったミサイルは、私を追いかけて周りが見えていなかった敵さんに吸い込まれていく。
「こっちもやったよ!」
「ナイス〜!」
残る敵さんは2機。
「スプラッシュワン!」
すると、未来ちゃんから無線が飛んできた。どうやら向こうでも1機墜としたみたいだね。残りは……無人機を持ってきた機体だけだ。
1機、しかもミサイルは積んでいない敵さん相手に、無傷では無いにしろ5機で戦いを挑むなんて申し訳ないとは思うよ。でもゲームと言えど本気の戦いなんでね!
「スプラッシュワン!」
◇◇◇
「いやぁ勝った勝った!」
「決勝だけあってかなり強い相手だったね〜」
「まさか無人機を持ってくるとは思わなかったです」
「でも最後の撃墜は上手く決まったなぁ〜!」
「高萩さんの最後の撃墜、見事でした」
大会の閉会式も終わり、ロビーで反省会をしていた5人。すると、亜美にゲーム内チャットでメッセージが送られてきた。
「ん? 誰だろ……わお、大吾さんだ」
「お、何が書いてあったの?」
「まぁ待て待て……」
そう言ってメールを読み始めた亜美だが、なぜか終始無言で読んでいる。顔も真剣そのものだ。周りの4人はその雰囲気に何も喋ることが出来ず亜美の発言を待つだけだった。
「ふぅ〜」
ようやく読み終わったのか、亜美は椅子の背もたれに体重をかけて伸びをする。
「何が書いてあったの? 結構真剣に読んでたみたいだけど……」
「ああ、ええっと、まず最初に『優勝おめでとう』と」
「早いね〜」
「それで、次の内容は?」
「……この前の件で話したいことがあるので、空いてる日を教えてください」
「この前の件?」
「なになに、亜美ちゃんデートでも誘ったの?」
「さすが亜美先輩です!」
「ちがうやい! ……その、まだみんなには話してなかったんだけどね」
亜美の顔が再び真剣になる。4人はもう一度静かに亜美の言葉を待っていた。
「私、祐希を助けに行くよ」
「な、本気で言ってるの!?」
「鹿嶋さん、それは諦めたって前に――」
「分かってます。でも、やっぱり……祐希を見捨てたくないなって。私、ずっとなにか出来ることは無いかって考えてて、大吾さんにも相談していたんです」
霞とさくらはすぐに身を乗り出して質問を投げる。美穂と未来は黙り込んだままだった。
「大吾さんはその時はなんて……?」
「その気持ちはとても大事だけど、同じくらい自分を大事にねって」
「でも、今回呼び出したのもその話なんだよね?」
「たぶんそう。とりあえず話は聞いてみるよ。その後どうするかはしっかりと相談したい」
「絶対に相談してね。一人で勝手に決めないでね……」
俯きながら霞が言うと、亜美も頷いてログアウトしていった。
「私だって行けるなら助けに行きたいよ……」
残された4人は、みな俯いたままだった。
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