6 - 1 World Ace Championship
ここで新たに登場人物が。この男性は何者なのか?
再度掲載します。
BSS:Blue Sky Squad フルダイブVRを用いたフライトシミュレーションゲーム。
WAC:World Ace Championship BSSで行われる世界大会。6月に開催される予定。
「……あの」
ずっと黙ったままだった未来が俯きながら提案した内容は、五人を固まらせるには十分なものだった。
「私たち、戦闘機の操縦が出来るんですよね? それなら、戦闘機で戦うこともできるんじゃ……?」
「そんな……先生は反対します。いくらなんでもゲームはゲーム、現実とは違うんです。それにゲームと違って、負けたらそれは死んでしまうということなんですよ?」
「そうだよ未来。そんな簡単なことじゃないんだよ」
さくらと美穂はすぐに反対した。霞も頷きながら二人の意見を肯定する。
「部長からも言ってあげてください」
「……私は、未来と同じ考え。祐希を助けたいなら、出来ることをやるしか無いんじゃないかな」
「鹿嶋さん!?」
「ちょっと亜美ちゃん!? 自分が何言ってるか分かってるの!?」
亜美の言葉に、先程まで黙って座っていた霞が立ち上がりながら声を張り上げた。対する亜美は黙ったまま俯くだけ。さくらは涙目になりながら亜美のことを見つめていた。
「鹿嶋さん、言いたいことは分かります。助けられるなら助けたい。それは先生だって同じです。でも、それで鹿嶋さんに危険が及ぶのだとしたら、それは違う話になってきます」
「それでも!」
「良いですか、守屋さんは今何処にいるのでしょう? 戦うとして相手はどれくらいの戦力なのでしょう? 自分の武器はどうやって調達するんでしょう? 何も分かっていないんです。情報は命だって、ゲームでも散々学んできたはずです」
「そんな……」
さくらの厳しい追求に、亜美は返す言葉もなかった。全て正論であり、紛れもない事実。最初に言い出した未来もうなだれている。
「もうさ、私たちに出来ることって無いのかな……」
「元気な姿でいることが一番大事なことなんです」
必死にフォローを入れるさくら。その場は既にどんよりとした雰囲気になっていた。さくらの提案で一旦解散ということになり、亜美はトボトボと家路につくのだった。
◇◇◇
家に帰った亜美は、自然とベッドに横になり霞ヶ浦学園の校章が付いているDDを装着していた。そのままBSSへとログインし、一人で練習モードでCPU相手に黙々と練習をする。無心のまま30機目を機銃で撃墜した亜美は視界の端に通知を見つける。
”かすみんさんがログインしました”
亜美は敢えてチャットを送らなかった。もし相手が自分と同じ理由でログインしてきたのならば、今は一人にしておくべきだろう。そして脇目も振らずCPU相手の一人練習を再開し、ついに50機に届くと言ったところで
"みらいさんがログインしました"
"みほさんがログインしました"
二人が同時にログインしてきた。未来は助けに行きたいと言い出した張本人だ。少しばかり気まずいがこちらも二人で入ってきたということは二人で練習するということだろう。こちらもまたチャットなどは送らずに自由にさせておくことにした。
少し時間が経ち、夕方も過ぎて夜に差し掛かった時。亜美は既に150機を撃墜していた。
"さくらがログインしました"
先生も同じ気持ちなのだろう。ログインしてきてもチャットを飛ばしてこなかった。もしくは既にログインしていながら一つもチャットを飛ばし合っていない私たちを見て察してくれたのか。
どちらにせよ亜美にとっては気が楽で、正直ありがたかった。今は黙々と戦闘機を駆っていたい。次第にCPUの強さを上げていき、今ではエース級30機対自機といった様になっていた。
「(助けに行きたいのはみんな同じ)」
「(でも常に死と隣り合わせな戦闘機)」
「(……祐希を助けようとして死ぬんじゃ本末転倒だよね)」
亜美は、ここに来て冷静になっていた。そして、未来に個人チャットで連絡を取り始めた。
『未来ちゃん、今日言ってたことだけど――』
『亜美先輩、私前言撤回します。私は祐希先輩を信じて待つことにしました。それまではBSSして、帰ってきたときまでには祐希先輩より強くなります』
『うん。私もそれが良いと思う。まずはWACに向けて頑張ろうね』
『ありがとうございます』
未来もまた、美穂と話し合った結果その考えを改めていた。現状、武蔵国には危害が及んでいない。もしテログループがこのまま南極、南ストリアへの侵攻だけで終わってしまうのなら、鎮圧後に軍の人が祐希を連れて帰ってきてくれるだろう、そう結論づけていた。
次の日、同じ喫茶店で落ち合った5人は、亜美と未来の言葉に安堵の表情を浮かべていた。結局、私たちに出来ることは祐希についての情報を教えることぐらい。後はWACに向けて、BSSができない祐希の分、練習を積んでおくぐらいだということになった。さくらは特に安心したようで、涙さえ浮かべていた。
それからBSSの練習は更に熱の入ったものになった。隊長は亜美が引き継ぎ、6人が前提だった戦略、戦術を5人用に練り直した。何回も対戦を繰り返し、祐希がいない状態でも以前と変わらないレベルまで勝率を上げることができた。
それというのも、5人の実力は少しの差があれど祐希の手によってかなりのレベルにまで上げられていたのだ。そうそう簡単に負けるような実力ではなくなっていた。
◇◇◇
亜美は、以前クラン戦を申し込んでいた"ある人物"に再度連絡をとっていた。あの後、上手く予定が合わずクラン戦ができずにいたのだ。
祐希が誘拐されたこと、ほぼ確実にテログループに連れて行かれたことを、そちらの分隊内だけの秘密ということで教えた。相手はかなり驚いていて、早急な救助を願っていますと言ってくれた。亜美はそれを伝えた上で、自分たちに出来ることは信じて待つこと、そしてWACに向けてBSSを練習すること、そのためにクラン戦で腕を磨きたいということを話した。
クラン戦に関しては相手も問題ないようで、明後日にでもやりましょうという事で話はまとまった。
『しかし、こちらは6人です。そちらは祐希さんがいないので5人ですよね?』
『勝つことが目的ではなくて、強くなることが目的なので大丈夫です。それに5人でも十分戦えると思っています』
『……その心意気に釣り合う試合をさせていただこう』
ここに、MAF対トキワのクラン戦が決定した。
◇◇◇
「それで、クラン戦はどんな戦略でいくの?」
「うん、一度しか戦わない訳じゃないから、いろいろ試したいとは思うんだけど」
例の日から二週間が経ち、世の中はテロの話題一色……という事はなく、どこか自分とは関係ない遠いところの話といったような雰囲気の武蔵国。ニュースでは毎日のようにエイリアンによる侵略部隊との戦況が報告され、同時にその鎮圧に異様に手間取っている事が報じられている。
亜美たちはというと、春休みということもあって毎日のようにBSSにログインしていた。さくらは学校の仕事が終わり次第合流し、毎日のように分隊戦をするのだった。
そして、突然亜美から"クラン戦をする"という報告がされ、驚いた上にその相手がMAFであると知ってひっくり返る4人。MAFは数多の大会で優勝を勝ち取っていた強豪中の強豪分隊だったからだ。その中身は軍人なのではないか、いや一日18時間ログインしているんだ、いやいや開発陣が裏技でも使ってるんだろう、などなど噂が立つ分隊に、亜美がひょいっとクラン戦を申し込んできたことにも4人は驚いていた。
「まずは祐希のマネをしてやってみたいと思う。その後に私が自分で考えて指示を出してみる」
亜美は、この時点で既に隊長としての頭角を現していた。分隊戦では祐希の指示と見間違うほどの再現度でチームを勝利に導き、最近では亜美自身の戦略も出始めてきていた。
亜美のセンスが光っているだけではない。亜美は例の日から隊長としてゲーム部を引っ張るために、|MAFのリーダー《"ある人物"》からレクチャーを受けていたのだ。
◇◇◇
「よろしくおねがいします、大吾さん」
「ああ、今日もよろしくな」
その人物の名前は新治大吾。間違いなく武蔵国最強、いや世界最強のBSSクランであるMAFのリーダーである。祐希がその昔、分隊戦に関する様々なレクチャーを受けたのもこの大吾からだった。
大吾たちは夜、遅い時間にBSSにログインしてくる。亜美はログイン通知を受け取るとすぐにメッセージを送って一緒に分隊戦をするのだった。元々MAFは6人いるのだが、常に誰かが来ていなかったので亜美はそこに入って一緒に戦っていた。途中で隊長としての指揮の仕方を学びたいと言うと、その日から亜美の位置は二番機となり、大吾の真後ろで飛ぶことになった。
「どうだい? 隊長としてやっていけそう?」
「まだ自信はないです……」
「まあすぐには難しいだろう。でも祐希ができていたことだ、亜美君でも上手く出来るさ。それに機体制御は文句なしに上手い」
「これも祐希に鍛えられたからです」
「……祐希、助かるといいな」
大吾は文章上では"祐希さん"と言っていたが、口で話す時は呼び捨てだった。それだけ長い間一緒に空を飛んでいたのだろう。大吾の飛び方に祐希の面影が重なるときが度々あった。
「(祐希が帰ってくるまでに、絶対に強くなってやる。だから無事に帰ってきてね……)」
心の中で強く思う亜美だった。
◇◇◇
6月。テレビは未だにエイリアンとの戦争について毎日のように報道している。戦況は一向に良くならず、南ストリアが完全に占拠されるのも時間の問題だと言われていた。一般人も流石に危機感を覚えてきたのか、自主的な倹約をし始め、軍隊への食料援助等をし始める者が出始めた。
そんな中、WACは通常通り開催される事になった。異論や反発が大きかったが、市民の娯楽まで奪う訳にはいかないと大会の運営者が無理やり推し進めたのだ。
優勝候補は誰もがMAFだと思っていた。他にも優勝候補は何チームかあったが、その中にトキワも含まれていた。亜美たちは当然優勝を目指しているが、それ以上にMAFとの公式な場所での対戦を楽しみにしていた。今までのクラン戦では全敗しているが、何回か惜しいところまで行けていたのだ。
「えっMAFが不参戦!?」
「大吾さんがスマンなって言ってたよ」
「そんなぁ、せっかく公式試合ができるチャンスだったのに〜」
中間試験を終えた亜美たち(今回も亜美と未来はギリギリだった)は、WACに向けて最終調整をしていた。そんなところに大吾から直接メッセージが飛んできて、MAFの不参戦を告げられたのだ。
驚いた亜美たちだったが、亜美は何となく理由が分かっていた。
◇◇◇
WAC当日。実に50クラン以上がそれぞれ分隊を結成して試合に望むことになった。MAFの不参戦が発表された前日、とあるプレイヤーはライバルが減って優勝するチャンスが増えたと喜び、とあるプレイヤーはMAFのプレイが見れなくなって残念だと悲しんでいた。しかも、それに続いて優勝候補のうち数チームが続々と不参戦を公表。どの分隊も今回は優勝を狙えるかもしれないと意気込んでいた。
「私たちはやれることをやるだけ。笑顔で祐希に報告できるように頑張るよ!」
「MAFさんに鍛えてもらった私たちです。頑張れば優勝できるよ!」
「練習を思い出して、一機ずつ落とすだけ」
「め、迷惑にならないようがんばります!」
「先生も皆さんと一緒にがんばります。ここまで必死に練習してきたんです。ゲーム部の全国大会だと思って、本気で挑みましょう!」
トキワの面々もやる気は満タンだった。
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