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4話 魔女の終焉(中編)

 少女を家に送り届ける際、了はCB400を使わなかったが、それはどう考えても走行中に彼女が落ちるのが確定的であったからである。


 幸い、変身すればかなり高速で移動できることと、長時間変身も全く苦ではないため、了は彼女を抱えてレミントンに促されるまま彼女の家へと向かった。

 ただし強化された身体能力といえど長距離移動をすると体力の消耗は激しく、やっぱ移動手段に何か必要だなと感じる了なのであった。


 家へと向かうとレミントンが中まで運ぶと言い、後のことはレミントンに任せてCB400まで戻り、そして自宅へと帰った。


~~~~~~~~~~~~~


「レミントン。俺はお前のような担い手しかいないと思っていたが、実はあんな薬漬けにするような馬鹿野郎だらけなのか?」


 了がCB400で自宅へと戻った後、すでに了の自宅に戻ってきていたレミントンに対し、了は部屋に入った直後でありながらいてもたってもいられず問いかける。


「低級の担い手からよろしくない噂ばかり聞くのは知ってはいた……ただ、ボクは実情をこの目で見たのは初めてだ。ダンテが言うようにブランクがあるのは否定しない。契約者を探すことばかり考え、自分達の行動を省みることはしなかったんだ」


 レミントンは落ち込んでいた。

 責任感が強いレミントンにとって、自分は正しい立場でいようと勤めていても、組織として動いている以上、了が不審がるような存在がいるというのは自分の責任でもあると感じていたのだ。


 了と接続するレミントンは了が担い手というのはやはり何か隠しているのではないかと疑いはじめていた。


 そう。あのふざけた魔法少女のアニメのように――


「了。こうなった原因は君が想像したアニメに起因する。アレは本当に参っている」


 レミントンが口にし、了が頭の中に浮かべたアニメとは、2011年に放送され、世界的な一大ムーブメントを引き起こしたものであった。


 一見するとまともな魔法少女が、実は裏でエネルギーの回収の道具とされ、契約すると最終的にはエネルギー回収のための魔物とされるという衝撃的な内容のものである。


 演出から何から何までが完璧であったそれは世界的な大ヒットとなった一方で、レミントン達の活動や契約を阻害する要因にまでなり、最終的に男性の契約者の解禁にまで至っていた。


 しかし了にとってレミントンの言葉が真実であると思っていたので、今の状況には納得できなかったのである。


 先ほどの魔法少女は、アニメで見た使い捨ての道具となんら変わらない。

 自分が不安視し、契約を躊躇った存在と同じ展開に、了は強い不信感と不安を感じている。


「あの作品は魔法少女をそういうものだと決め付けた。そのことで本当にそれに近い状況となってしまったが、彼女が命の灯を失うとしてもアクシオンは生まない。今回の件での問題は上層部が契約を行えない低級な担い手に対しての対策を怠ったことに起因すると考えている」


 レミントンは了の不安を取り除くよう、必死で状況を説明した。

 自分が認識していた事実と先ほどの状況から考えうることとしてレミントンが話したのは、以下のものである。


 1つ目、Aランク帯は今でも殆ど契約者に困っていないが、それは渡せる契約対価が大きいからである。

 だが、この契約対価が大きい理由は彼らの前任者となる契約者が莫大なまでのEPを稼ぎ、当人達も特殊で強力な力をもっており、契約対価が不信感を吹き飛ばすだけの力があるからである。


 2つ目、レミントン達Bランク帯の場合は契約者に困る者も出てきているが、自分自身は前任の者が非常に優秀だったため、同じレベルの者を求めて妥協しなかったためにブランクが生まれるほど契約者を探していた期間があり、最終的に了と契約している。

 他のBランクで契約に困ったという話は多少は聞くが、問題視されるほどではない。


 3つ目、契約と活動について不穏な話を聞くのはDランク帯以下であるが、彼らは契約対価もまともに用意できず、さらにサポート能力も低い一方で、ノルマこそないが担い手となると活動状況についていちいち重圧がかけられるため、特にEランク~Dランクあたりで今回のような状況が発生している。


 特にこれらは負の連鎖となっており、イメージの低下と更なる契約者の低下を招いていると思われるが、そういった対策を上層部が認知していないのか具体的に行っていないからこのような悲劇が生まれているのではないかということであった。


「――待て。俺が聞きたいのはそうじゃない」


「えっ……」


「調べて欲しいのは契約者の死亡記録と状況だ」


 レミントンの分析に対し、了はガツンとレミントンに訴えた。

 了にとって重要なのは上層部がサポートしたのかサポートしていないのかではなく、どれだけの者が犠牲になっていて、それらが記録されているのかであった。


 こういうのは氷山の一角であると見抜いている了は、レミントンの戯言よりも現実を求めたのだ。


「それは……ボクには調べる権限が無い……ゴメン……」


 レミントンはうなだれる。

 担い手にそのような権限はなかった。

 特に最近は個人情報関係のデータの登録が義務ではなく任意となったりと、データ自体が蓄積されているかも怪しい部分である。


 契約者登録もまともにされない状況の活動が許されることにダンテに指摘された後のレミントンも気にかけてはいたが、これが起因しているのではないかと了の言葉によって改めて思い知らされたのだった。


「レミントン。お前は何故、こういう行為が許されると思う。俺らが発展途上の物質世界の住民だからか?」


 了の声は段々と怒り交じりとなってきている。


「それは……」


「今まで、俺の戦闘記録は常にサーバーにアップロードされていて、俺の心境なども蓄積されていた。オペレーターはそれらを加味した分析をしていて、あの時、こうすれば良かったなと思う部分について的確に否定や肯定をしてくる」


 了は椅子にこしかけ、足を組み始める。


「この時、契約者が酷使されていてもオペレーターは何も言わないのか? 特にこの国じゃ少子化の一途を辿っているというのに消耗品に出来るなんて、今までのお前の話からじゃとても――」


「待って。今の話でボクには頭の中にふと浮かんできたことがある。さっきの戦闘記録についてなんだけどさ、まだ更新されていないが――どう書いているかでボクらの次の行動は変わってくると思うんだ」


「………なるほど。まだそんな長い付き合いじゃないがお前の考えが大体判る気がする」


 了はレミントンの言葉から落ち着きを再び取り戻した。



~~~~~~~~~~~~~~


 しばらくすると今回の報酬の振込みと戦闘データが送られてきた。

 それは了とレミントンの悪い予感通りのものであった。


「報酬は全額俺に振込みで戦闘記録にあの子の参戦記録は一切無い。どういうことなのかは……想像できる」


「サーバーにデータが行ってないのは間違い無いね」


「どうしてそういうことになった?」


 了は首を傾げつつもため息を吐いた。


「サーバーにデータが無いというのは契約者ではないといえる。だけど、あの子はアストラル体であるのは間違いない。契約時にアストラル体にする際、マスターとの接続が必要のはず……それをせずにアストラル体に出来るのかな?」


「それに何の意味がある?」


 レミントンの独り言を了は遮った。


「ハイメンタムはEP消耗して手に入れる使い捨てアイテムじゃないのか? オンラインで消耗品で探すとものすごい注意書きだらけだけど俺でも買える様子だぞ」


 了はそう言うと端末でハイメンタム購入のEPストアのページを開き、レミントンに見せ付けた。


「EPは討伐時にマスターとオペレーターが判断して付与するって言ってたじゃないか」


「そ、そうだよ」

 

 了が言いたいこと。

 それは、ハイメンタムを常用するならEPが必要で、活動した扱いとならずEPが稼げないというのはどう考えても矛盾しているということであった。

 


「それでEPは実は担い手と5:5で折り半していてお前もゲットしてて、俺らのEP蓄積状況が成果として総合的に評価されてるわけで、そいつのランクに影響するのに成果0にする意味ってなんだ」


「あの子以外が倒すことを想定しているとか……」


「は?」


「いや、だからね……あの子自体の戦闘力はとても低いわけだけど、こういった元来なら契約に値しない子を集めて多重契約していて、メインに据え置いてサーバーともやり取りしている者は別にいるとか……」


 レミントンは人間なら冷や汗をかいているような様子で呟いた。

 今現在、レミントンが理解している情報から導き出せる答えはそれぐらいだったのだ。


「多重契約は条件があるけど違法じゃない。だが、多重契約だと担い手の報酬は減る。例えばボクが了以外に3人契約していたとしてヴェノムを倒したとしよう」


 レミントンはポンと巨大な電卓を出現させた。

 四足で狼のようなレミントンでもボタンを押し間違えんばかりの大きな電卓である。

 どうやら計算を間違いたくない様子である。


「そのヴェノムの報酬20000だった時、了とボクだけなら1万EPだが、多重契約された場合だとボクの報酬は5000EPだ。通常なら三等分で6666にして、そこから半分の3333となり、3人分のEPの半分をボクが貰って1万EPほどボクがもっていけそうだが、5:5で折り半とは文字通り契約者と担い手のEPが均一に真っ平らにされる」


「じゃあ9人と契約していた時に2万だと2000EPか。これじゃ1人頭の報酬の時間的な効率はアクシオン回収のみと変わらんぞ」


 レミントンの計算からすぐさま了は暗算で答えを出した。


「勿論、多重契約した契約者が別々に稼いだ場合は別の話で、その時は1日の稼ぎから折り半だ。社会主義的に全体で稼いだ総数を折り半するからギクシャクする。」


 レミントンは大きく息を吐いた。


「例えば活動しない者がいたとしても?」


「いや、活動した場合の話。ただし活動がアクシオン回収しかしない者でも均一に分配される。こんな感じで不安定な状況となるから、余程のことが無い限り多重契約はしない。例の作品のように担い手が配分するような権限は無い」


 レミントンの言葉から、了は頭の中で状況を整理し始める。

 多重契約の無意味さを語るレミントンであったが、サポート皆無であると10代の少年少女ではきちんと立ち回りが出来るか怪しい。


 自分自身ですら未だに年齢と経験に起因したかのようなミスが多いのに、ごく最近に大量に契約者のような存在を抱えたって、まとまって活動できるはずがない。


 それに加えて少しでも活動するとEPが大きく磨り減るならば、それらの捨て駒は無契約でアストラル体にさせて活動させ、担い手としての成果を単一の契約者によって稼がせて本来より大きく見せようとしているのではないか。


 そしてなんとなくだが、その単一の契約を結んでいる契約者もさほど戦闘力が無い。

 なぜなら、優秀な者と契約しているならわざわざこんなハイリスクな行為に手を染める必要が無かった。


 恐らく自分のように一人では倒せないのだ。その者だけでは。


「マスターを通さずアストラル体にする方法は?」


「そんなのボクが知りたいぐらい」


 その言葉に了は状況をまとめた。


 ・今日の少女は魔法少女だが、正規に契約していない可能性が高い。

 ・成果を増やしたいのか何なのか、担い手は多重契約扱いにせずに酷使しているが、ここから逆算すると他にも尋常でない数の消耗品扱いの者達がハイメンタムを使われて強制的に活動させられている可能性がある。

 ・担い手としての成果の確保のため、絶対に1名以上の正規契約者がいる。

 ・少なくても白いパンツ……ブラック・クロークは状況からいってこのような事をするメリットはないので彼女と戦うようなことにはならなそうだがダンテや彼女がそのようなことをした場合、非常に危険な存在として立ちはだかるだろう。


「ダンテはそんな事をしないよ。あんなワルそうな見た目で人付き合いも苦手で、どう考えたって黒幕か何かのラスボスと縁がありそうな声はしているが、表裏がないヤツなだけさ。ボクよりも正義感は強い方だ」


 了の心配に対し、レミントンは0%ではないとしつつも、ブラック・クロークとダンテが背後にいないと予測した。


「ダンテって友人か何かなの?」


 了はその言葉からダンテとレミントンの仲が気になる。

 どうもある程度の関係はあったようなのだ。


「故郷が同じで、同年代なだけ。担い手を志した時、この国でいう警察学校のような場所で担い手となるよう一緒に学んだことがあるけど、彼はその時点でAランク以上になるだけの力があった」


 担い手にとっての警察学校のような存在があることに了は驚いたが、ダンテが知人程度の関係であることについては理解することが出来た。


「白いアレは見たいがブラック・クロークとは絶対に戦いたくないな……」


 了がブラック・クロークの下着だか水着だかわからないソレばかり注目しているのが接続されているレミントンにも伝わっていたため、レミントンはこんな時に何を考えているのか……男ってやつは……と、冷ややかな視線を了に送った。


「せ、戦闘ログは公開情報じゃないんだよな? さっきの子が戦っていた周辺とかで妙なログになっている者を探せそうだけど」


「アレは機密情報だ。友人関係のある契約者同士とか担い手同士が個人間で意見交換などのために見せ合うことはあるそそっちは認められているけど……」


「なら、当人に直接聞いて確かめるか。そっちの方が絶対に早い」


 白いアレがブラック・クロークと紐付けられている了は、レミントンの冷ややかな視線にまくしたてるようにそう言うと、彼女の体力回復を待って接触することに決めた――

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