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プロローグ

こういう王道があってもいいんじゃない?

そんな気分で作ってます。


注意:プロットはありますが、ストックはありません。

   なるべく日刊連載したいです。

   日刊の場合は16:00時に更新。

 ピピピピピピ!


 小型の端末が鳴り響く。

 それは契約者達が担い手から渡される、地球の文明より先に進んだ携帯用の通信可能な小型端末である。


 端末のアプリ機能の1つ、エマージェンシーコールが鳴り響いているのだ。


「2km先にヴェノム出現警報が出た。生存率47%。どうする?」


 その情報を読み上げる了は担い手である《レミントン》に指示を仰いだ。

 了が目にしているエマージェンシーアプリは、契約者の能力に応じて様々な指示を表示するものである。


 地球上の各所を監視するセンサーやネットワーク情報から参照し、了達の活動をサポートするため様々な反応を示してくる。


 端末はネットワーク回線を解して中央マスターサーバーへデータが蓄積、それをマスターサーバーは独自の遺伝的アルゴリズムによって解析、判断したものを契約者に指示として返答する形だ。


 このような端末を契約者が所持する理由は、担い手によってはほとんどサポートできないタイプの種族や、性格的に契約者の自主性を尊重して一切助言などを行わない者達がいるためである。


 端末のアプリを用いて契約者が判断する場合は、この情報と自身の能力を合算して独自に判断するわけだが、あまりに危険な場合は離脱や回避、迂回、退却などの指示をリアルタイムで更新してエマージェンシーという形で知らせてくる。


 そんなアプリは了に対して生存率を47%と見積もり、戦闘判断の見送り。現場に向かう場合は一時待機して状況確認を指示している。

 これはつまり、契約者として日が浅い了とヴェノム、双方のデータが不足しているために発生している事象であった。


「周辺の空間データを見たところ下級のヴェノムだ。放出する《アクシオン》の量も大したことがない。ちょっとの間ブランクがあったとはいえ、ボクの能力をマスターサーバーは甘く見すぎているな」


 走行中のCB400のタンデムシートに器用に座る四本足の狼のような白いフワフワとしたややクセのある毛で覆われた可愛らしい顔つきと声色の生物は了に呟いた。


 名は《レミントン》といい、了の担い手、つまりサポート役である。

 レミントンは担い手としては勤勉で真面目、サポートや指示なども一切怠らず、二人三脚で契約者と活動するタイプの人物であった。


 了が知らないことではあったが、このサポート能力によって担い手としての評価ランクがやや高く見積もられている。

 総合評価という形で多少上下するランク制度が担い手には存在したが、彼の場合は元来見積もられたランクからそのサポート体制能力によって2つランクが大きくされていた。


 それは裏を返せば彼が最低限のサポートしかしない場合は2つ下のランク程度の能力しか保持していないということになる。


 それだけ高いサポート能力を了も、これまでの活動によってなんとなく理解しかけてきており、現在までに殆どの状況でエマージェンシーコールの指示を聞いていない。


 契約した直後には多少のいざこざがあったものの、現在の二人はそれなりの仲で上手く活動している。


 蝉の鳴き声が大通りにまで響く夏の昼下がり、2人を乗せたCB400SBは軽快な四気筒エンジンの音を蝉に負けないとばかりに鳴り響かせながら目的地へと駆けていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「人的被害は現在までに確認されていない。典型的な下級のヴェノムだ!」


「生存率が28%に下がったんですが」


「知るかッ! さっさと変化へんげして!」


 エマージェンシーアプリの端末は生存率の低下とヴェノムとの相対距離をこれ以上詰めないようにと指示していたが、レミントンは状況の打破を了に指示した。


 烏山の閑静な住宅街に出現したソレは学生が夏休み期間とはいえ平日である状況から周囲の住民に被害を及ぼしてはいなかったが、放置しておくと帰宅時間あたりを境により危険な存在へと昇華しつつ、人間に対して負の感情を抱かせ惑わすより危険な存在となるのは明らかである。


「今朝、すぐ近くの踏切で人身事故があった。原因は間違いなくコレだね」


 レミントンは狼のような四本足の前足部分を器用に生かして、アライグマなどのように器用に自身の携帯端末を用いて周辺情報を確認していた。


 ヴェノム。それはアクシオンと呼ばれるエネルギーによって誕生する意思をもった怪物のようなものである。


 アクシオンとは素粒子力学の中で存在が予測されているダークエネルギーまたは暗黒物質の1つであるが、その実態は異なっていた。


 この世を形成するエネルギーはいくつもあるが、その中に最も重要なエネルギーが3つ存在する。

 1つは《アストラル》。感情や思想を司るエネルギーであって、このエネルギーによって人は活動できており、アストラルを生み出す電池のようなものを三次元世界、つまり地球を含めたこの宇宙の生物は内包しており、脳などとリンクさせて《メンタル体》と呼ばれる魂を維持している。


 問題はこのアストラル。感情の状況によっては、アクシオンと呼ばれるエネルギーに変化してしまう。


 これがこの宇宙にとっても非常に厄介である。


 現代の物理学でもすでに証明し、確認されていることだが、この宇宙ではなぜか「素粒子」と呼ばれる存在などが突然消滅することがある。


 宇宙における体積が計測不能たため、地球人類はこれがどういう状況になったのか上手く計算できていない。


 かの物理学者、アルバート=アインシュタインですら、計測は不可能であった。

 

 彼ができたのは宇宙にも体積が存在しうるという特殊相対性理論までで、では、宇宙の体積についてどうやって計測すればよいのか、現在の体積は増えているのか減っているのかという点については宇宙を構成する8割ものエネルギーや物質が地球文明においては解明できていないので不可能である。


 一方、レミントン達担い手は、そこからさらに高い次元の領域まで文明を発達させ、ついにはエネルギー生命体へと進化し、三次元世界より上の五次元世界という領域にまで到達した。


 そこまで到達した彼らは、アクシオンという存在が素粒子を消滅させる原因となっていることを五次元世界に到達する前の段階で突き止めていた。


 アクシオンによって素粒子が消滅すると三次元世界においては文字通り物質となる存在が減るため、減り続けると最終的に宇宙全体を構成するために必要な体積が足りず、宇宙は一気に縮小に転じて消滅してしまう。


 すでに三次元世界を離脱することも可能となった者達にとって、それはさほど怖いことでは無く、彼らの技術力をもってすれば再び宇宙を形成することも可能ではあったが、元々は三次元世界の住民であるレミントン達にとって、宇宙の維持というのは非常に重要な使命であった。


 理由としては、生物の進化は五次元世界よりも三次元の方が速かったのだ。

 時間の概念が実質的に存在しない五次元世界では、宇宙の誕生と終焉は一瞬に近いように見えてしまう。


 一例を出すと、五次元世界から見たこの宇宙は、わずか地球時間換算80年程度の間にこのような状態へと至ったように見える。


 実際に三次元世界へと移動すると特に時間が加速したといった感覚が狂うようなことも無いが、次元がより高次元へと移動すればするほど時間の進みというのは遅くなる傾向にあった。


 よって五次元世界へと到達したレミントン達は、基本的には三次元世界で過ごしており、そこでさらなる次元への生物的進化などを画策していた。


 現在の彼らの技術によって判明していることは1つ。

 五次元世界は観測データなどから本来はもっと正のエネルギーが多く、時間の流れももっと速かったが、何らかの理由によって負のエネルギーが大量に増加し、これ以上増加すると消滅しかねないこと。


 五次元世界における正のエネルギーは8%しかなく、負のエネルギーは92%という数字であり、三次元の外側の世界は縮小傾向にあった。

 

 当然、五次元世界が消滅すると三次元世界も維持できないため、よろしくない。


 これを緩和するためには、大量の正のエネルギーを生産せねばならないが、このエネルギー自体は三次元世界と五次元世界を当たり前のようにすり抜けられる。


 素粒子は消滅するとアクシオンと同化するが、これが増加し続ければ最終的に世界が消滅しかねない。


 つまり、了などの契約者に与えられた活動と役割とは、少しでも負のエネルギーの比率を減らして世界の安定化を行うというものである。


 先ほど説明したように三次元世界の方が時間の経過が非常に早いため、負のエネルギーを減らすには三次元世界の方が好都合であった。


 他方、アストラルと呼ばれるエネルギーを内包する三次元世界、レミントン達が物質世界と呼ぶ世界の高度な知能を持つ住民達は、負の感情を生み出しやすい傾向にある。


「亡くなったのは中学生か……これは……自殺かもしれない」


「本人の負の感情と、人身事故で電車が停止した際に生まれたであろう、大量のアクシオンが死んだ直後の学生のメンタル体を包み込んで変貌したと見ていいかな?」


「君もようやくいろいろわかってきたようだね。今回のヴェノムのコアは恐らくメンタル体で間違いないよ」


 ヴェノム。

 それはアクシオンが何らかの形によって一定の行動を行えるようになった怪物である。

 アクシオンは感情や思考、思想といったものを吸収するとそれらに合わせて様々な現象を引き起こすが、それらは基本的に悪い方向へと向かうものばかりであった。


 物質世界の住民が持つメンタル体とは、即ち魂のことであるが、これはそれそのものが思考や感情を持つことは無く、それらは有機物で構成された肉体によってもたらされている。


「前も言ったけど、メンタル体は感情や思考を受けてアストラルを精製するため、物質世界の住民達は死亡すると通常はメンタル体もしばらくすると消滅する」


「わかってるよ」


 了はレミントンの言葉を聞きつつも身構える。


 レミントンが言うように、通常であれば死亡するとメンタル体はその状態を維持できない。

 だが、負の様々な感情が融合し混ざり合ったアクシオンによって包み込まれると、まるで生物のように一定の感情にしたがってエネルギー生命体のような形となって行動をするようになってしまう。


 思考回路のようなものはなく、残留思念ともいうべきものに取り憑かれた状態である。

 了はこれを「妖怪」と呼称しているが、まさに日本語で表せばこれほど適切な表現も他にないであろう。


 ただし重要なのは、あまりにも低級なヴェノムならば、結局はその状態を維持することができないので自然消滅してしまう。


 問題はヴェノムの行動が付近の人間に悪影響を及ぼし、さらに負の感情によって周囲のメンタル体を持つ知的生命体がアクシオンを放出し、ヴェノムがそれを吸収して肥大化、強化されていくことである。


 アクシオンの量が特異点にまで達すると、通称《ディラックの海》と呼ばれる虚数空間を生み出し、現実世界の物質を飲み込んでいく。


 この虚数空間は月と同じぐらいの大きさとなるだけで太陽系銀河が消滅するほど危険なものであるとされ、ヴェノムは即刻消滅させねばならないというのが掟なのであった。


 ヴェノム自体はメンタル体を含めた様々なコアをもって始めて誕生するものだが、メンタル体だけがコアになるわけではない。


 このため、簡単に出現が予想できないのがネックなのであった。


「何があってそうなったのかは知らないが、悪いが仕事なんでな」


 そういうと了は大きく息を吸い込んだ。

 了の足元の地面から光のレーザー光のようなものが真っ直ぐ空へと何本も迸り、そして了全体が光に包まれたかと思うと、アストラル特有の光のオーラを発しながら了の姿は一瞬のうちに変化した。


「いつみても、魔法少女なんて言葉とズレた見た目だ」


「でも、嫌いじゃないんでしょ?」


 それは頭頂部には犬のような獣耳を備え、レミントンとそっくりの髪質のクセっ毛で覆われた半妖のような姿である。


 契約者は担い手と接続することで活動することとなるが、変身した姿は担い手の持つ特性に影響するのだ。

 担い手が獣の姿だからといってすべてこのような姿になるわけではないが、レミントンと契約した者はみんなこのような姿になるのだという。


 長髪の非常に長い頭髪を備えたそれは、まるで人気のスマートフォンによるオンラインカードゲームのフェンリルと呼ばれるような者に類似する姿となった了は、戦闘準備を完了した。


「さぁ、今、開放してやるよ――!」


 了はそういうとアスファルトの地面がヘコむほどの力で地面を蹴り出してヴェノムに突撃していった――

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