職場での出来事
仕事をするようになって1年、私は覚えたての仕事をなんとかこなせるようになっていた。
そんなある日、残業することになった私は他の数人とともに残って仕事に取り組んでいた。
シーンと静まり返る中、突然だった。
バタッと何かが倒れる音が聞こえて来た。
おかしい…。倒れるものなんてこの部屋にはないはず。
じゃあ何?
わからない。わからないが怖い。そう思った同僚と一緒に部屋の中を見て回ることになった。
部屋は薄暗かった。所々電気が見えるだけ。
そう、自分たちの机の上だけ明かりがついているだけなのだ。
携帯の明かりを頼りに各々部屋を見て回っていた。
目の前に倒れたと思われる本が床一面に広がっていた。
バラバラになっている。
「こんなになるなんて変だ。」一人の同僚が言った。確かに変だ。倒れたぐらいでバラバラになるなんてあり得ない。じゃあ何?
ギ〜〜ッ。
ドアがゆっくりと動く音だ。
嫌だ。怖い。
なんかいるのこの部屋。
昔からなんかそういうのがあるとは聞いたことがあるが、まさか自分が体験するなんて思っても見なかった。
皆固まって移動することにした。
皆怖いのだ。
小さな音にも反応する。
ドキドキが止まらない。
その時1人の同僚が言った。
「あそこに人がいる…。」
「何処に?」
皆で同僚が指差した方を見るが誰もいない。
「キャハッ。キャハハ。」「おい、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。」「そんなわけないじゃん。おかしいよ?」
「何処が?クスッ。」不気味に笑う同僚に気味悪くなった仲間の1人が言った。
「こいつ変だ。」
そう、確かに変だ。
今まで大人しい…で通っていた子だった。
それなのにこの変わりよう。どう考えても変としか考えられない。
(その子を避けるように部屋をうろつく自分らもおかしいのかもしれない。でも、その子よりは意識はしっかりしてるだけマシかぁ〜?)なんて思っていたりした自分が怖い。
それでもそのままにすることはきっとまずいだろうと思い、数人でその子の周りを取り囲んだ。どうする?何か縛るものが欲しい。でも、この部屋にはそんなものはない。
なので、あり合わせになるが、男子のネクタイをしばりあわせて即席の紐を作った。
笑いながら…でも暴れたりしない。どうなってるんだ?
腕時計の針は夜の9時を回っていた。
そろそろみんな帰らないとまずい。
その子はケタケタ笑ったまま…。
散らかった書類を片付けないといけない。
皆で集めて整理して本棚に戻していった。恐怖はあったが、警備員が来る前に帰りの支度くらいはしておかないと。
部屋の電気をつけたが、一瞬で消えてしまう。
泣き出す子も出てきた。
それはそうだ。僕だって怖いさ。でもね、大の男が怖がってちゃ女子にモテないからさ。我慢だよ我慢。
皆帰り支度を終え帰ろうとした時、突然だった…。ギーッと音がしてドアが動き出した。まさか?
そう思った僕らは身構えた。
するとそこにいたのは警備員だった。
「いつまで残ってるんですか?就業時間はとっくに過ぎてますよ。」
「あっ、はい。帰ります。」
「?その子なんで縛られてるの?」
警備員に言われて慌てて紐を解いたが、その子は動こうとしない。俯いたままブツブツと何か言っているようだ。
警備員は不審に思い近づいていくと…突然その子が警備員に襲いかかった。
「ひーっ!」
叫びながら逃げ出す警備員。
もう1人の警備員は何やらブツブツと言っている。
ここにもおかしなのがいたのかと思ったが、どうやら念仏を唱えていたようだ。
まるでこうなるのを知っていたかのようだ。
いつの間にか数珠を取り出して唱えている。
そして掛け声とともにその子はその場で倒れた。
おそるおそるその子に近づく仲間達。
しかし特に何か変わったことは起きなかった。
「その子に何かしたんですか?」「いや、何か取り憑いてる感があったから払ったまでの事。まさか本当に取り付いていたとはな。でもこれでもう安心。あるべき場所に帰って行った。」「ならもう?」「その子には何も問題ない。」
僕等は慌ててその子に近寄り揺さぶって起こしにかかる。
するとゆっくりと起き上がった。心配だったが、名前を言って確かめて見た。やはり大丈夫なようだ。さっきの警備員の言った通りだ。
僕等は慌てて荷物を手に職場を後にした。
その姿を警備員は黙って見ていた。
一瞬後ろを振り返った時、そこにはもう誰も立ってはいなかった。
おかしいよ?
ついさっきだよ?警備員を見たのは。
それなのにもういない。
まるで消えてしまったかのようだ。
それにしてもさっきの警備員、よく考えたら見た事ない人だったなぁ〜。新しく入った人なのかなぁ?
その時同僚の一人が言った。
「あの警備員、誰だ?」
「お前知らないのかよ。」
「お前も知ってるやつか?」
「あ、いや、知らない。」
「じゃあいったい…。」
分からなかった。誰なのか…。なので警備員室へみんなで行くと、さっき怯えて逃げた人が1人で座っていた。
「あの〜。」
「ひっ?!あっ、すみません。あなた方でしたか。で何か用ですか?」
「えっと、あなたは1人で巡回してましたか?」
「はい、そうですがそれが何か?…」
「実は…。」そう切り出して話し始めた僕らとは対照的に警備員は真っ青な顔をしていた。
「やっぱり出たんだ。山田さん。」
「山田さん?」
「あっ、はい。実は先日入ったばかりの新人だったんですが、突然来なくなってみんなで心配してたんですよ。一人暮らしだと言ってたから、今度の休みにでも行ってみようと思ってたんですよ。もしかしたら亡くなってたりして…。」そう言いながらぶるっと震えていた。
そんな話を聞かされて、ますます怖くなった僕らはこれからは残業だけはしないようにしなきゃと口々に言ってたっけ。
それでもどうしても残業となったら何人かに残ってもらい一緒に仕事をしてもらえるようにした。本当はいけないんだけどね。
その後はその山田さんという人の自宅に行ったという警備員さんへ話を聞くと、やはり亡くなっていたと聞かされ、この話はこれでおしまいとなった。
その後、残業をしないように定時で仕事を終えるようになり、出会うこともなくなった。
警備員は大丈夫だろうか?
今日も見回りをしてるだろうに…。




