勝利は決して能力だけで手に入らない。
魔導の天才のところの説明を一部追加、及び稀代の天才の称号についての文章を追加しました。
さて、俺がうまく誘導して俺の家族を愚弄した馬鹿どもとやることになった決闘であるが、現在はそれを行うために教会の地下にある大きな決闘室と呼ばれる場所に来ていた。
なんといか、地球の学校や公共の体育館の多目的室のような場所に来ていた。……ま、ここには何もないので地球の多目的室とはちょっと違う感じだけどな。
で、俺は今かませ犬君と多目的室のような場所の中央で対峙しているわけだが、俺とかませ犬君の間に一人、ちょいとすごい男性がいる。
「ではハル君とマルクァ君、準備はいいかな?」
話しかけてくるのは、審判役を買って出てくれたとある男性。
俺はその人に若干引きつった笑みを浮かべながら返答する。
「ええと……はい、私は大丈夫です──国王様」
そう、審判になってくれている人物は、なんとピラミッド王国のカイザー=フォン=ピラミッド国王様だ。……帝王なのか国王なのかはっきりして欲しい。
ちなみにかませ犬君(名前はなんだったか?)はなぜか既に抜け殻みたいになっている。
ま、それはいいとして、なんでここに国王様がいるのかっていうことなのだが、話は少し前にさかのぼる。
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「……仕方がないですね。この教会の地下にある決闘室をお使いください」
司祭様がかませ犬侯爵家の暴走で、決闘の舞台を用意してくれた。
これで俺の突発的かつ綿密な計画がほぼ間違いなく完了したが、これでもまだ完璧に完了したわけではなく、あと一つピースが足りていない。
では、完璧に完了するために必要なのは、かませ犬侯爵家を超える権力を持つものが審判役を買って出てくれることである。
かませ犬侯爵家は腐っても上級貴族だし、権力もそれなりにあるのは認めるしかない。まあ、それをすべてねじ伏せられるような力を得るために自らバグキャラになったわけなのだが……
それでも家族まですべて守るのは正直厳しいところだ。
権力というものの圧倒的な威力を前世でたっぷりと味わっている俺からしてみれば、やはり厄介な相手に違いないわけで、俺の家族を人質にとられたらかなり厳しい。
と、いうわけで何とかここにいるやつらでこいつと同等以上の権力をもち、こいつらみたいな腐った貴族でない真っ当な人物がいてくれればいいのだが……
「ほう、それはまた面白そうなことをしているな?」
そこにやってきたのは、先ほどのかませ犬侯爵家よりもゴテゴテとしてはいないのに、その雰囲気やたたずまいから明らかにどこぞのバカ貴族よりも高貴な身分であるとわかる、金髪に碧眼のダンディな雰囲気を醸し出す男性。
いや、ていうかいかにもなマントとかいかにもな王冠つけているんだから、まず間違いなくあんた国王様やろなんでここにいるんじゃい!
……いや、案外国王でないのかも? ちょっと技能の確認もかねて[神眼]を使ってみるとしようか。
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カイザー=フォン=ピラミッド
《種族》ヒューム
《性別》男
《年齢》41歳
《職業》ピラミッド王国国王
《レベル》570
《能力》
HP 50000
MP 10000
STR 6000
VIT 6000
AGI 4000
DEX 4000
INT 4000
LUK 5000
《技能》
[剣術][気配感知][殺気感知][身体強化][HP回復速度上昇][威圧(王)]
《ボーナスポイント》000
《称号》国王、賢王、剣王、剣バカ、、戦闘狂、娘大好き親バカ
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……これはなかなか強いと言っていいのだろうか?
ちな、気になる称号はこんな感じ。
称号:賢王
詳細:国を発展させる善政を敷くとつく称号。INTに上昇補正。
称号:剣王
詳細:剣をある次元まで極めた者につく称号。[剣術]が非常に上手くなり、全ステータスがやや上昇する。
あと、[威圧(王)]は俺の[威圧(神)]の下位互換だが、国民や敵国との戦争中などにはかなりの力を発揮するものらしい。
いや、それはそれとしてやっぱ国王じゃん!なんでここにいるんだよ!
そんな俺の不思議そうな顔を見て何を思っているのか察したのか、国王様が俺にその大人の男を体現したかのような顔立ちからは想像つかないような柔らかい表情でこう話した。
「何、可愛い娘が今年10歳になってな、祝福を受けにきただけだよお嬢さん」
「いえ、僕男です」
「「…………」」
「何、可愛い娘が今年10歳になってな、祝福を受けにきただけだよ少年」
「あ、はい。そうですね、うん、そうなんですね」
「「…………」」
俺と国王様の会話に周りがシーンとなっていた。
「ほら、あれですよ!自分エルフの血が入ってますので、よく性別間違われるんですよ。出会った人の7割は可愛いねお嬢ちゃん、って言いますから気にしないでください!」
「そ、そうか!それなら確かに間違えても仕方ないわな。いや、すまん、それでも男としては気になるよな」
「ええ、まあそれはそうですけど慣れましたから大丈夫ですよ」
「そうかそれは良かった」
「「ははははは」」
あれ? 俺は何をしようとしていたんだっけ?
こんなところで国のトップと笑っている場合ではなかったような気がしたのだが……
「──して、決闘の話だが、私が審判をしてやろう」
「「「へ?あ、はい!」」」
俺だけでなくかませ犬親子も一瞬キョトンとしてしまったが、俺たちが当事者だということを思い出した。そうだ決闘をしていたんだった!
………………ん?
「えと、審判をやると言いましたか?」
「ああ、この状況なら、権力などを一切取り払い公平に判断する役は私ぐらいなものだろう。というわけで行くぞお前たち! ついでに見にきたいものは来るがいい!」
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とまあ、このような感じでここまできたわけだが……
俺が国王様を見るとかませ犬君に話しかけていた。すごい恐縮しているな。
……そんなに怖くないような感じがするんだけどな、さっき俺の性別を間違えてチョット気まずい感じになったときなんかお茶目なお父さんって感じが凄かったのに。
俺が先ほどの会話を思い出して図らずも思い出し笑いをしそうになってしまったところで、かませ犬君の準備も終わったようだ。
お互い剣は持っていないから、近接格闘か魔法の勝負になるだろう。
そして、近接格闘になったらちょいとまずい。
負けることなどあり得ないが、俺もかませ犬君と同等以上の能力を持っていると思われるのは正直避けたいところだ。
だから、なんとか魔法勝負に持ち込む必要がある。
そのためには……
「両者構えて……それでは、決闘を始めグバァ!」
……………………。
……何が起こった?
決闘室にいた誰もが「何が起こった!?」と思って、国王の方を見ると、そこには頭を抱えて蹲った国王様と、もう一人、大量な羊皮紙の束を持った40代前半くらいの水色の髪に紅い瞳をした男性がいた。
国王様はワイルドな雰囲気だったが、こちらはどちらかというとクールな印象で文官をやっていそうな感じだ。
ただ、国王様と同等の強さを秘めているように感じるので、おそらく宰相とかではなかろうか。
ちょいと鑑定してみるか。
俺は[神眼]を発動させた。
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アヤト・サワシロ
《種族》(イクス)ヒューム
《性別》男
《年齢》43歳
《職業》ピラミッド王国宰相
《レベル》581
《能力》
HP 30000
MP 60000
STR 3000
VIT 2000
AGI 2000
DEX 8000
INT 8000
LUK 4000
《技能》
[基本属性魔法][時空属性魔法][結界魔法][MP回復速度上昇][多重詠唱][魔力感知]
《ボーナスポイント》000
《称号》大魔導士、魔法バカ、娘大好き親バカ
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ほう、やっぱり宰相だったか。しかも賢者。
称号:大魔導士
詳細:魔法を巧みに操り、偉大なる成果を上げたものに与えられる称号。MPとINTに高い上昇補正あり。
技能:[基本属性魔法]
効果:火、水、土、風、雷の基礎となる魔法をすべて扱うことができるようになる。また、技能:[多重詠唱]があれば5種類の異なる属性を同時に操ることも可能になる。
技能:[時空魔法]
効果:時間と空間に作用する魔法を扱うことが可能になる。魔力消費が[基本属性魔法]よりも魔力消費が多くなる。技能:[多重詠唱]の効果は得られない。
技能:[多重詠唱]
効果:魔法を複数同時に発動することができる。
ふうむ……まるで勇者パーティーのようだな。……他にもいくつか気になることはあるが、そこらへんはまあ後で調べることにしよう。
それにしても、二人とも娘大好きって……。
俺が称号を見て呆れていると、なにやら国王が宰相に怒られているようだった。曰く、「お前は一体何をやっているんだこの馬鹿野郎! なんで王城抜け出して遊びに来てるんだよ! 聞いたぞ? 娘が10歳になったからここに来ただっけ? てめえはアホか! 王女様は日付が変わった瞬間にもう祝福をしてもらっ
ただろうが! てめえは新年早々の仕事が嫌でほっぽりだしただけだろうが!」とのことだ。
……国王様、仕事さぼりたかっただけかよ。つか、2人とも仲良いな。もしかして本当にどこかに旅してたんだろうか?
……あれ、俺何しようとしてたんだっけ?
「ま、まあ待て!」
「いいや! この状況もあなたが引っ掻き回したと聞いたんだぞ!」
「いや、確かに引っ掻き回したのは認める」
認めるんだ……
「だが、それよりも俺はこの勝負が非常に面白いことになると予想しているのだ」
「…………そうか、お前がそういうならそうなんだろうな」
あれ? 面白いだけで通ってしまったぞ?
「ついでに娘も連れてきてくれないか? 同年代の子供たちを一度見ておくべきだと思うのだ」
「いや、しかしあなたの──」
「心配ない。仮面を付けさせて連れてきてくれ。ああお前の娘もな」
「……はあ、分かりました」
宰相さんはそういうとその場から消えた。おそらく[時空魔法]のテレポートを使ったのだろう。さっき突然国王が変な声を出したのもおそらくそれだったんだろうな。で、羊皮紙の束で叩かれたと。
……それにしても途中から王としての風格を感じたぞ。ちゃんと国王してるんだな。いや、その表現が出てきてしまう感じがすでに国王としてまずい気がするのだが……ま、あの宰相さんがいるなら大丈夫なんだろう。
……なんだか決闘の騒ぎが異常に大きくなってしまったぞ、なんなんだこれは?
俺が「どうしてこうなった?」とアニメやマンガ、ライトノベルにネット小説まで様々な作品で用いられてきた言葉を思い浮かべていると、宰相殿がまたしても突然現れた。
そこには俺と同い年くらいの少女が二人。
ひとりは青髪に、宰相殿よりもやや明るい、ややつり目がちの薔薇色の瞳をした親に似てクールな印象を同い年くらいなのに受ける美少女。
そしてもう一人は、国王に似た金糸のような髪に、荘厳な雰囲気を感じさせる装飾を施した仮面をした少女。
青髪の少女は淡い水色のワンピースで、仮面の少女はお姫様が着るようなかわいらしいドレスだが、どちらも明らかに上流階級の人間が着るのであろう丁寧に仕上げられているのが分かる。詳しくは見えないが、装飾などもおそらく凝っているのだろう。
とりあえず[神眼]を使ってみるか。
まず青髪の少女。
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アヤセ・サワシロ
《種族》(イクス)ヒューム
《性別》女
《年齢》10歳
《職業》ピラミッド王国公爵家次女
《レベル》001
《能力》
HP 00200
MP 02000
STR 0020
VIT 0020
AGI 0020
DEX 0100
INT 2000
LUK 0050
《技能》
[基本属性魔法][時空属性魔法][魔力操作(賢者)][多重詠唱]
《ボーナスポイント》000
《称号》賢者、魔導の天才
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ふむ、宰相と同じく魔法使いタイプだな。MPとINTが規格外だ。
称号:賢者
詳細:魔法の扱いに非常に長けた存在につく称号。MP、INTに絶大な上昇補正。[魔力操作(賢者)]を獲得する。
称号:魔導の天才
詳細:魔法において他を置き去りにするほどの才覚を持つものに与えれれる称号。MP、INTに絶大な上昇補正。および、レベルアップ時のボーナスポイントをMPやINTに使用したときの能力の上がり方に上昇補正がかかる。魔法を使うたびに上昇補正が大きくなる。
それにしてもイクスヒュームか……これには何かあるのかな?
ま、それはともかく、次が仮面の少女。
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ステラ=ファン=ピラミッド
《種族》ヒューム
《性別》女
《年齢》10歳
《職業》ピラミッド王国第三王女
《レベル》001
《能力》
HP 01000
MP 01000
STR 1000
VIT 1000
AGI 1000
DEX 1000
INT 1000
LUK 1000
《技能》
[剣術][身体強化][光属性魔法][炎属性魔法][限界突破][成長速度上昇・極][真映眼]
《ボーナスポイント》000
《称号》稀代の天才
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称号:稀代の天才
詳細:この世界でもトップクラスの才覚を持った人間に与えられる称号。あらゆる能力の成長に絶大な補正がかかる。
これは……すごいな。全ての能力がすでに1000とか、ビックリするわ。俺がいうのもなんだけどとんだバケモノだな。というか[真映眼]の効果を[知恵の書]で知ることができない……特殊な何かなのか?
転生者かなとも思うが3つの願いでこれだけの力を得るのはまず無理だろう。
恐らくはこの2人は普通にこの世界の住人で、その中でも規格外の存在といったところか。
まさか全員がゲームのプレイヤーのようにこの世界に転生しているわけでもなし、この世に生まれる人間の数の方が自殺者よりもはるかに多いだろうからな。この予想は間違っていないんじゃないか?
ゲームに当てはめて言ってみれば最強のNPCみたいな感じだろう。ま、彼女たちは機械ではなく本当の人間だけど。
……というかなんでこんな大物がいっぱい出てくるんだ?割と定番の貴族との対決イベントのはずだったのにまるで権力者紹介とヒロイン登場みたいな感じになってしまっているのだが、気のせいだろうか? ま、誰のヒロインかは知らんけど。
なんだか決闘などどうでもよくなってしまうような事態に俺は呆れながら王族たちを見ていると、国王が下がって、宰相が俺とかませ犬君の間にやってきた。……やべ、本格的にかませ犬君の名前を忘れてしまった。
「二人とも、国王に変わって審判は私が務めさせていただくが構わないな?」
「はい、こちらは構いません」
「ひゃ! ひゃい! かまいまひぇん!」
……かませ犬君や、緊張しすぎだぞ。
ふう、それにしてもやっと決闘が始まるか……ほんと、なんでこんな大ごとになっているんだか……
ま、いっちょやりますかね。
宰相さんは俺とかませ犬君が構えたのを見ると、真剣な表情で言い放つ。
「この決闘の結果におけるわだかまりが決闘終了後にあることなどないように両者注意してください。それでは、決闘始め!」
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~~~~~~アヤト・サワシロ視点~~~~~~
はあ、国王であるカイザーの馬鹿を連れ戻しに来たはずなのになんでこんなことになっているんだか……
私はアヤト・サワシロ。ここ、ピラミッド王国の宰相を務める、公爵家の人間だ。
8つある公爵家はピラミッド王家の遠い親戚が多く、私が生まれたサワシロ家はそうではないらしく、かつての国王と友だった人間の血筋を引いているらしい。
そして、サワシロ家は大抵の人間が非常に賢く、また代々祖先の教えを引き継ぎ、いつだって公平にして、冷静であることを求められているため、代々の国王の宰相になることがほとんどだとか。もちろん例外もあるらしいが、その時はたいていがうまくいかず国が傾くことが大半だったりしたため、ここ数代はすべてサワシロの人間が宰相をやっている。
同時に国王は友でもある。これも政治をするうえで大事なことだそうだ。
なんでも、「友だからこそ裏切らず、かつ友が間違えばそれを正してくれる」とのこと。これは祖先の教えの一つである「友であること」の一説だ。確かに私もその通りだと思った。……かなり大変なこともあるし、何より私が道を外さないように意識しなければならないので大変なのだが……
おっと、愚痴が思わず出てしまったな。
気を取り直して現状を確認する。
私は国王の馬鹿を連れ戻しに来たのだが、奴が「面白いこと」と言ったのでそれに付き合ってやることにした。
この馬鹿は馬鹿だが、意外に鋭いところがあり「面白いこと」「いやな感じ」「たぶんこんな風」などの言葉が出てきたら大抵そのようになる。昔から不思議な男だ。
で、その奴曰く「面白いこと」の内容だが、侯爵家の長男と騎士爵の六男の決闘とのこと。
騎士爵は当代限りの特殊な立場で、そこの息子などもはや小金持ちな平民家庭の子供程度の存在だ。しこもその六男などほとんど価値がない。
さらにその六男の少年、ハル君といったかな? そのハル君曰く、「自分は侯爵家の長男の5分の1の能力しかない」とのこと。
どうやら最近悪い噂が多発しているマセイヌ侯爵家の阿呆な当主が強引に決闘に持ち込んだようだが、これの何が「面白いこと」につながるだろうか?
そんなことを思いながら私は二人に確認をとり、合図をした。
「それでは、決闘始め!」
さて、どうなることやら……
私が注意して両者を見ていると、ハル君がマセイヌの長男、たしかマルクァ君だったか? に話しかける。
「僕も一応魔法が使えるんですが、私の扱える魔法は[水属性魔法]なんですよ。ですからあなたの[火属性魔法]は相性が悪いですよ?」
ふむ、確かにその通りだ。魔法には土台となる五種類の魔法があり火、水、土、風、雷と分類される。私と娘のアヤセが持っている[基本系統魔法]はこれら全ての総称だな。
さらに、それぞれに相性があって、火には水が、水には雷が、雷には土が、土には風が、風には火が強いという性質があり。同党の威力でそれぞれの魔法をぶつけた場合、後者が威力の半分ほど押し切る形になる。
つまり、相性を突けば二倍の威力を持つということで、これはそれなりの魔導士である私も使える基本的な内容だ。
──しかし、甘い。
確かに相性の上ではハル君に軍配が上がるだろうが、ハル君とマルクァ君のステータス差は5倍もある、それぞれ得手不得手があるので一概には言えないが、それでも2倍近くの差は最低でも存在しているはずなのだ。
それはすなわち相性というアドバンテージがほぼ皆無であることと同義。
そうなればMPの総量の勝負になる。そして、MPの総量はおそらくマルクァ君の方が上だろう。
もしかすれば奇襲で優位に立つことができたかもしれないのに、やはり子供か……手の内を不用意にさらしてしまった。
私がそのように一瞬で現在の戦況を分析していると、ハル君のその言葉に怒った印象のマルクァ君が喚く。
「何を言ってるんだこの無能が! ぼくちんの火魔法はお前の水魔法なんて消し飛ばしてお前を焼き尽くすことができるに決まっている!」
「へえ、じゃあやってみてよ」
ハル君が煽り、それを聞いたマルクァ君が右手を構える。
「言ったな! 火の聖霊よ! その力の一片を我に貸し与えたまえ! 《ファ────ィゥ!」
マルクァ君が火属性魔法の基本中の基本である火を一定範囲に放射する《ファイア》を発動しようとした瞬間にその声が止まった。
何事か! と思ってみてみると、
「ゲホッゲホゲホゲホッ」
……まるで異物が気管にでも入ったかのようにせき込んでいる。いったい何が?
一瞬、何が起こった? と思ったが、もしやと思ってハル君を見てみると、いつの間にやら右手を突き出していた。
ハル君がつぶやく。
「──《ウインドバレット》」
それは先ほど打ち出したのであろう魔法の名前。おそらく私やほかの人間にもわかるように言ったのだろう。《ウインドバレット》は風の小さな弾丸を打ち出す魔法。不可視の弾丸で、バレット系の中では《サンダーバレット》と合わせて二強となっている。そもそもバレット系の魔法は消費魔力が少ないが発動するための魔力操作がかなり難しい魔法だ。
それを祝福を受けたばかりの少年が無詠唱で! さらに口の中に狙って入れたのか!?
おそらく小さな空気の弾丸が詠唱で大きくあいた口の中に入って、それが気管に入ったのだろう。それはせき込むのは当然だ。
私は驚きの表情とともにハル君という少年を見る。
魔法には本来マルクァ君のように詠唱が必要で、それ故に魔法使いはその間に無防備になる傾向があるのだが、慣れていけばそれを詠唱せずとも発動できるようになる。
無詠唱は技名含め一切言葉を必要とせずに魔法を発動することを言い、魔法使いの一つの究極系だ。ちなみに技名だけを言うことで魔法を発動することを短縮詠唱と言うが、これができる人間すらかなり少ない。
それに無詠唱は狙いを定めるのも難しく、それを口の中に入れるなど、もはや数えるほどしかできないだろう。
そのことが分かっている大人たちは驚愕するのも仕方ない。中には口をあんぐりと開けて間抜けな顔で見ているものもいる。
私を含めた多くの人間が驚く中、ハル君がもう一度口を開く。
「確かに俺は[水属性魔法]が使えると言ったが、それ以外の魔法が使えないとは言ってないぜ?」
口調が変わっていた。
……彼の言葉から察するに、最初に言ったあの言葉は一つのフェイクだったのだろう。マルクァ君に魔法を発動させる準備をして無防備になった瞬間を狙うための。
しかし、どうやらマルクァ君はVITが高いようで、今の一撃でダメージを受けている様子はない。
ここからいったいハル君はどう倒す?
などと思っているとハル君はニヤリと笑ってマルクァ君に右手をかざした。
「《ウォーターボール》」
ハル君の言葉とともに、マルクァ君の顔を水の塊がすっぽり覆った。
「ゴボォッ!」
せき込んでいたマルクァ君は水を飲み込んでしまい呼吸ができなくなる。
な!? 《ウォーターボール》は水で出来た球体を飛ばすものなのにそれで相手の顔を覆うなど、なんてトリッキーな使い方だ!?
しかも魔力操作が非常にスムーズだ……彼は一体何者なのだ?
私がハル君という特異な存在に顔撮られているうちに、誰だったか……ああ、マルクァ君だったな……マルクァ君が気絶した。
私はとっととハル君と会話をしたくて宣言した。
「勝者──ハル・クライス!」
次話も早めに投稿したいなと思います。