テンプレはちょっと遅れてやってくる。
私、転生者サポート課平社員をしている女神──ライムは一仕事終えて、スライムの格好から女性の格好に戻ってとあるトンデモナイ願い事をした少年の資料を見つめていた。
私たちが転生者に与える環境は無限に存在し、それぞれランダムに送られるのだが、やはり私が今回の転生案内で一番印象に残っているのは、目の前の何万枚ものA4サイズの紙にびっしりと個性的な生活が資料に描かれた少年だ。
その少年の名前は朝霧真冬
それが、トンデモナイことをしでかしてくれた彼──ハルの前世の名前だ。
この資料には自殺した人たちの産まれた時から死ぬまでが事細かに書かれている。その人の歴史と言ってもいいだろう。
はっきり言って全て読むのは大変なので、彼の人生を大きく変えたターニングポイントを読んでいく。
13歳、中学1年生の時に仲良くなった親友が殺された。
犯人は同級生の5人。いわゆるイジメの発展みたいなものだった。
普通であれば少年であれ重い罪で裁かれるはずのその事件は、しかしそのイジメグループのリーダーとなる存在が警視庁の重役で、限りなく軽めな罪に終わった。
それに憤慨した真冬が、そのイジメグループに復讐するためにとった行動は、
──自らの殺害をそのイジメグループに起こさせ、それをリアルタイムでネットにあげるというものだった。あれね、盗撮した動画をYouTu〇eにあげたのね。
真冬はイジメグループにイジメの時に使っていたスタンガンなどなど色々と証拠を持ってきて、相手を煽った。それはもうウザいぐらいに。
しかもイジメグループがナイフを取り出して脅してきたのに、それすらも無視して煽り続けたからね。
この資料には真冬の発言もあるんだけど、イジメグループがナイフを取り出した時の言葉は、
──「うーわ。言葉攻めで反論できなくなったから物理攻撃で脅しとか、アホですか? 頭筋肉ですか? あ、脳筋じゃなかったらこんな事態になってないか。もともとお前バカだったからねーいやーウケるわーつか脅しってさあ、ちゃんとこっちに攻撃して来ないと意味ないって知ってる? 最低でも指一本落とすぐらいじゃなきゃダメでしょ。ま、お前ら弱過ぎて俺に攻撃できなかったみたいだし? 近づくのさえ怖いんだろ? うわー脳筋のくせに弱いとかないわー。しかも自分よりも弱いやつ襲って……」
……これは流石にイラつくわね。
ちなみに最後が途中になってるのはイジメグループのリーダーが襲ってきたからよ。
真冬は普通にかわすことが出来たんだけどその時はあえてナイフをギリギリで受け止めて、最終的には自分の首を切らせるように仕向けて死んでいった。16歳っていう若い年齢でね。
もちろんこれはリアルタイムで流されてて言い逃れも出来なくて、そのイジメグループは法的にも社会的にも死んだわよ。
ま、あれは他殺にしか見えないからね。
本当は真冬自身が首を切られるように仕向けて、自ら殺されに行ったなんていうのは本人と我々神しか知らないことよ。
それにしても、真冬の次はハルか……
新たな人生に、本当に春がくるといいわね。
……自分で言って見たけど面白くないわねこれ。
ま、本音だからいいか。
「っと仕事しないと」
私はスライムに変身して仕事に向かう。
また誰か、彼のようにトンデモナイ人はいるかしら?
そんなことを思いながら、私は新たにやってきた自殺者に向かって挨拶した。
「ハロー」
……あ、そういえばハルには転生者以外にも普通にあの世界で生まれ育った魂が存在するんだよというの忘れてたわね。
しかも時々イレギュラーが存在することも。
……あ、そういえばもう5人ほど記憶を保持した状態で転生した子がいたような……ま、いいか。
◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆
「お父様、遅れて申し訳有りません」
僕は慌てて大きな家を飛び出し、馬車の前で待っていた父に頭を下げる。
「いや、下手に慌てても仕方がないから構わんよ。よし、じゃあ行くかハル」
「はい」
僕──ハルは父であるナツキ・クライスの後に続いて馬車に乗り、我が家を出発した。
僕が住んでいるのはピラミッド王国という場所だ。
このピラミッド王国がなぜピラミッド王国と呼ばれているのか理由がちゃんとあるのだが、今はどうでもいいことなので省くとして、このピラミッド王国は王国というだけあって貴族と呼ばれる存在がいる。
「貴族と呼ばれる存在がいる」という言葉から分かると思うが、国によっては貴族がない場所もあるそうだ。
それで、僕の父であるナツキ・クライスはこの貴族の中でも騎士爵と呼ばれる1代限りの貴族である。
ちなみに貴族の階級は公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵の順番で、騎士爵は男爵と同程度の階級だ。
辺境伯っていうのは周りにある国々との国境沿いにある領土を納めている伯爵だそうで、国防や交渉の場の筆頭であることから普通の伯爵よりも重宝されているそうな。
ま、これ以上貴族の話をしても面白くないので僕のこれからのことについて話そう。
僕はクライス家の六男で、お母様はエルフのリーフィアと人間のお父様の間に生まれたハーフエルフだ。
……お父様は他に2人の奥さんがいる。かつて冒険者をやっていた時のパーティーメンバーだそうだ。他二人は人間であるが、正直ちょっと羨ましいなぁと思う。だってお母様を含めてみんな美人なんだもの。男の子なら憧れるよね。
ま、それはいいとして、今年僕は10歳を迎えた。
この10歳というのは、神様からそれぞれの子供達に対して大きな才能を与えてくれるという祝福と呼ばれるものを授かる年齢だそうだ。
今日は新年の一番最初の日で、その時に10歳になった子供達が一番近くにある教会に行って祝福を受ける事になっていて、僕もそこに向かっているのである。
「お前がどんな祝福を受けるか、楽しみだな」
「はい、僕も楽しみですお父様」
この祝福だが、中には特別な存在がいることもあったりするそうだ。いわゆる天才と呼ばれる人たちだな。ちなみにお父様は天才なタイプだった。ま、血筋は関係ないらしいので僕は凡人だろう。
ともかく、努力次第でなりたいものになれる可能性があると言われているこの世界で、初めて自分の力を確認できるっていうのは少し不安もあるけど楽しみなものなのだ。
べ、別に才能があったらいいなぁなんて思ってないんだからね?
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自分の能力を初めて知るというドキドキワクワクした感情のまま、僕とお父様は教会にたどり着き、案内された席に座って祝福を受けるのを待っている。
教会には貴族や平民の人も含めて、たくさんの子供達がいる。1000人くらいはいるかな?
貴族と平民はやや離れて座っているが、これは貴族にはプライドが非常に高い人が多くて、平民よ人たちを見下す傾向が強いため、色々とトラブルが発生するために、それを回避する理由があるそうだ。
貴族の人たちの生活は平民の方々のお陰で成り立っているのに、なんで見下す必要があるんだろうか?
普段は温厚で通っている僕もこの事にはすごく苛立ちを感じている。なんと言ったらいいかわからないけど、魂が怒ってる感じなんだよな……なんでだろ?
ま、見下すのは良くないっていうのはきっと正しいことだしいいか。
僕が無駄なことを考えている間も実は祝福を受ける作業は続いている。
祝福は教会の祭壇に5人ずつ並んで行われる。
しかしこの祝福、なんだかすごく長い呪文を唱えているので待ち時間が結構ある。しかも呪文が終わったら終わったで祝福の光がずいぶん長いことあるから余計に時間がかかる。さらに1000人もいるので時間は最後の人なんかはそれなりにかかるものだろう。
幸い貴族のくらいの高い人たちから順番にやって、それが終わったら平民の人たちっていう形になっているので、真ん中あたりで僕の順番だ。
そして僕の順番がやってきた。
長い呪文をウズウズとしながら僕は待つ。
そして呪文が終わった瞬間に僕は優しい光に包まれて、
──頭が焼き切れるような痛みを感じた。
「くっ!」
僕は痛みで小さく声を漏らす。
──流れてくるのは誰かの記憶。
──いや、これは誰かではなく自分の記憶。
──親友を亡くし。
──復讐にあけくれ。
──復讐を遂げて死んだと思ったら女神にあって。
──そしてちょっと面白い自体になった。
──そう、これは紛れもなく俺の記憶だ。
こうして俺は、前世の記憶を取り戻した。
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記憶が戻った俺は取り敢えずお父様の元へ向かいながら思考していた。
さて、これからどうしましょうかね?
お約束のある異世界転生だと記憶が戻ったら確実に戦闘になるんだけど、それもなさそうだな……
……ま、取り敢えず現状を確認するのが一番か。
俺はハル・クライス。
父の代限りの騎士爵の六男で、今年10歳。
この【TO】の世界のピラミッド王国と呼ばれる場所に生まれていて、この春から学校に通う年齢だ。
ちなみに、この【TO】の世界の時間や季節は地球とほぼ同じだ。違うところは1年が365日じゃなくて360日とキリがよく、閏年もないことだな。
話を戻そう。
学校にも色々あるそうだがそれは置いておいて、やっぱゲームに近い設定のあるこの世界なら将来的にはまず間違いなく冒険者になるのがベストだよな。
あ、この世界の冒険者について説明しておこう。
この世界にはいくつものダンジョンと呼ばれるものが存在している
あれだ、白髪赤目の少年が金髪の美少女騎士に出会うやつだ。……まあ、これは一部の人間の偏見だが。
それはともかく、冒険者とはこのダンジョンに潜る人たちのことを言うのだ。
このダンジョンはオタクっ子たちならわかると思うが、財宝の塊みたいなもんだ。命と引き換えに富と名声を得ることが出来る場所。
しかもこの世界、どうやらダンジョンの数が国力と言われてるみたいなんだよな。ま、ダンジョンには無数の特殊かつ強力なアイテムがあるらしいから、それが手に入る可能性のあるダンジョンっていうのはそういった役割になるのは当然なのだろう。
ちなみにピラミッド王国はダンジョンの数が5つある。これは結構多いらしい。つか、ピラミッドって……
まあ、ダンジョンの話はともかく冒険者は富と名声を得ながらも、国に縛られることのない自由な役職だそうだ。いわゆる冒険者ギルドって呼ばれるところが国々から自治権をもらっているらしいからな。
……なんというか、神々が作った世界だって言ってたけど、かなりテンプレに近い世界だな。ま、俺的には前世のオタク知識が使えるから問題ないが。
……オタク知識か、あいつと楽しく話してたなぁ。
っと、この思考はまず間違いなくまずい方向に向かうな。
えっと、なんだったか……そうだ、冒険者になるんだったな。
ならそれなりの準備をするためにちょいとステータスを見てみるか。
――――――――――――――――――――――――
ハル・クライス
《種族》ハーフエルフ
《性別》男
《年齢》10歳
《職業》ピラミッド王国騎士爵家六男
《レベル》001(???)
《能力》
HP 00200(?????)
MP 00200(?????)
STR 0002(????)
VIT 0001(????)
AGI 0003(????)
DEX 0002(????)
INT 0003(????)
LUK 0002(????)
《技能》
〈武術系統〉[剣術](投擲)
〈魔法系統〉[風属性魔法](雷属性魔法)[水属性魔法](元属性魔法)(理属性魔法)(滅属性魔法)
〈便利系統〉(偽装)(鑑定)(隠密)
〈固有系統〉(並列思考)(知恵の書)(ステータス調整)(無限収納)(成長速度上昇・極)(心身即時理解)(技能融合)(技能昇華)(技能付与)(能力譲渡)(技能譲渡)(超再生)(瞬未来視)(完全解析)(完全記憶)(反射)
〈追加技能〉[念話][威圧(神)][神眼]
《ボーナスポイント》???ポイント
《称号》亜神
――――――――――――――――――――――――
ふむ、だいたいはあの時に色々といじった通りの感じだな。〈固有系統〉が増えているのは願い事で得たものだ。多分これくらいあればいいかなぁといった感じで入れてみた。足りなかったら俺の頭が回らなかったと思ってあきらめる。それとそれぞれの技能は様々な能力があるが、それぞれ使う時になったら説明しよう。
気になる点としては称号の亜神か。なんだろうかこれは……
そんなふうに考えていると、ピコンと脳内で音がして、情報が流れてきた。
称号:亜神
詳細:人でありながら神と同等の力を持つ存在に与えられる。ある条件を満たすとさらに高位の称号が手に入る。[念話]、[威圧(神)]の技能を獲得する。
技能:[念話]
効果:他人の脳に直接語りかけることが出来る。動物やモンスターとの会話も可能になる。
技能:[威圧(神)]
効果:[威圧]の技能の神バージョン。大抵の人間、動物、モンスターが失神するレベル。熟練度が上がれば任意の相手のみに威圧をぶつけることができる。
技能:[神眼]
効果:シンガンの読む。[心眼]、[鑑定]、[解読]、[解析]、[千里眼]など視覚系技能の全てを組み合わせて、さらにそれぞれの効果を上昇させた、完全上位互換。
……ふーん。なんか便利だな。
それにしても今のは[知恵の書]の効果だろうか?
ピコンッ!──そうです。
お、おうそうなのか。これから度々使うと思うからよろしく頼む。
ピコンッッ!!──了解しました。
……どうしよう、技能と会話できるようになってしまったぞ。
ま、まあいいか。何がいいかわからないけど特に害も無いから問題ない。
それよりも、この後お父様にステータスを見せなきゃ行けないんだから偽装しないとな。ついでだし他にも色々技能をとっておくか。
あ、あと、新たに出てきた称号や技能は取り敢えず[偽装]で表示しないように設定しておこう。今回みたいにいきなり出てきてそれを鑑定されたら困るし。
「HAHAHAHAHAHA!」
俺がステータスを今後に向けてチート化していると、突然アメコミのカートゥーンで出てくるような笑い声が聞こえてきた。
その声の発生源をチラリと見てみると、なんだか随分とゴテゴテした、いかにも金を無駄遣いしていますと分かるような服を着た丸々太ったそっくりさんな貴族の親子がそこにいた。
……なんだろうか、かませ犬の雰囲気を物凄く感じる。
二人のいかにもゲスいですと分かるような貴族親子は、しばらくアメコミ風大笑いをした後に、さらに大きな声で話し始めた。
「我が高貴なるマセイヌ侯爵家の長男──マルクァ・マセイヌは天才だ!皆の者!刮目せよ!」
そんなことをアメコミみたいに仰々しくマルクァ君を親が指差すと、マルクァ君が『ステータスオープン』と言って、全員に見えるようにステータスが表示された板を拡大した。拡大の仕方はスマホの画像を拡大する方法と一緒だった。
で、マルクァ君のステータスはこんな感じ。
―――――――――――――――――――――――
マルクァ・マセイヌ
《種族》ヒューム
《性別》男
《年齢》10歳
《職業》ピラミッド王国マセイヌ侯爵家長男
《レベル》000
《能力》
HP 01000
MP 01000
STR 0015
VIT 0015
AGI 0010
DEX 0010
INT 0010
LUK 0010
《技能》
[剣術][火属性魔法][魔法剣][限界突破][成長速度5倍]
《ボーナスポイント》000
《称号》魔法剣士
―――――――――――――――――――――――
ふむ、確かに通常よりも強いな。
3つの願い事を使ったのだろう。
おそらく、
・[成長速度5倍]の技能獲得。
・[限界突破]の技能を獲得。
・称号:魔法剣士を獲得。
といったところかな?
ちなみに次が[知恵の書]が教えてくれたことだ。
技能:[限界突破]
効果:一定時間、使用者の能力を5倍にする。ただし、効果が切れた後は能力が5分の一になり、しばらく衰弱する。
称号:魔法剣士
詳細:剣と魔法で戦うのが上手な人につく称号。[魔法剣]の技能を獲得する。
技能:[魔法剣]
効果:覚えている魔法を剣に宿すことができる。どんな武器でも発動できるが、通常の武器では発動後に武器が壊れる。
……なんというか、どれも男のロマンを感じるが、どう考えても欠陥だらけである。
いや、強いけどもね? なんというかイタいなーとちょっと思っちゃうわけなんですよ。ん? 俺の方が神とかついちゃってイタいって? ……言わないでくれ、自覚してるから。
ま、強いことに変わりはないよな。
でもこういう場合大抵面倒ごとのイベントがやってくるのが定番なんだが……
……ま、こういうのは大抵平民に勇者的な何かが出てくるパターンだから俺には関係ないだろう。
……などと楽観視していたのが甘かったのだろうか。
「HAHAHAHA! 我が息子は優秀なのだ!」
「そうだ!おいそこのお前! ちょっとステータスを見せてみろ! このぼくちんが優秀であるとお前が見せることで証明してやれ!」
なんと、マルクァ君が指を指してきたのは俺だった。つか、ぼくちんて……
「え? 僕でしょうか?」
「そうだお前だ!」
えーなんでこんなことになったんだろうか?
「お前みたいな優男はぼくちん見たいな良い男の引き立て役になればいいのだ!」
……これはつまりあれか?
俺がハーフエルフで、エルフっていう特性によって美男子であるから嫉妬して引き立て役にしようという事なのか?
ちなみに俺の容姿はお父様譲りの黒髪に、エルフのお母様に似た翡翠色の瞳をしている。
あ、エルフだが、ファンタジーものの小説と大抵一緒の性質を持っている。
一応詳しく説明しておくと、まず耳が長く、顔立ちが整っている子が多くて、華奢な体の人が多く、なおかつ300年くらいは生きることが出来る種族だ。
ちなみに俺のようなエルフとヒューム(この世界での人間のこと)の間に生まれたハーフエルフは、血の濃さで違いが発生するが、普通のエルフより耳が短く、顔立ちが整っていて、エルフよりも体ががっしりした人が多く、なおかつ200年は最低でも生きていけるようである。
これは記憶が蘇る前に得た知識によるものだ。
10歳までのハル君はそれなりに好奇心が旺盛で、本が好きだったらしい。勉強は大事なことだ。俺はあまり好きではないけど……
……こういうテンプレは、オタクな俺としてはノッてやってもいいのだが、[偽装]の技能で一般人を装っている現状は避けて通りたいところだ。
というかメンドくさい。なにこれ、こんなメンドくさいテンプレいらないわー。
だってもしこれでもし勝ったりしたら、それはそれで色々と権力っていうくだらなく、しかしただの物理的な力では抗えないほど強力な力で押し潰しにかかってくるわけだろ?マジでメンドくさい。
そもそもこういったタイプの人間は俺の前世でロクなことをしたことが無かったのだ。はっきり言ってもう関わり合いになりたくない。
よし、ここは普通にへりくだっておくか。
「そうですね。私などが、ステータスを見せる必要などないくらい離れてますから。マルクァ様は私のステータスの5倍もありますし、特殊な称号もあって素晴らしく才能に溢れたお方だと思います」
「そうだろうそうだろう」
マルクァ君が自信満々に頷く。つか、今気がついたけどマルクァ・マセイヌ君って……思い切り狙ってるよな? マルクァ・マセイヌ→マルクァマセイヌ→マルカマセイヌ→マル・カマセイヌ→マル・かませ犬だし。
あ、ちなみに俺の発言は嘘ついてないぞ?
ステータスを見せる必要がないくらい離れているのは、俺のステータスが全て無限だから正しいし、俺のステータスの5倍は偽装したステータスの大体5倍だからあってるし、特殊な称号のあたりは普通に賞賛すべきことだからな。
うん、嘘はついてない。
こういうのは嘘をつかないのが大事だからな。相手に嘘ついてると思われたらこういうタイプは本当にメンドくさいのだ。
ま、なにはともあれこれにて一件らくちゃ──
「HAHAHA! ま、所詮は冒険者風情だからな! 私や息子のように高貴な存在には手も足までまい!」
……なんだと?
俺は盛大に腹がたった。
別に俺の悪口を言うのはいい。前世でもそんなことを気にしているくらいだったら復讐を遂げたかったから、その程度のことは慣れた。
だが、俺の身内を貶めるのは許さない。
かつてそれで一人、大切な存在を失ったのだから。
俺は心の中で怒りを燃やしながら、しかし脳は限りなく冷静にして、この状況で相手を圧倒する手段を考えた。
うん、これで行こう。
「ではこれにて失礼します。あなた方が大声でお話をしていたため未だ祝福が終わっていませんから」
「何!? まるでこちらがわるいと言っているようではないか!?」
──かかった。
俺は内心ニヤァと悪い笑みを浮かべながらも、しかし作戦を完全に遂行するためにもう一押しする。
「……はて、なんのことでしょう?」
「なめているのかキサマァ! よし、お前!我が息子と決闘しろ!?」
「決闘? ここでですか? ここは神聖な場所ですよ? こんな場所でそんなことをすれば大問題だと思うのですが?」
「そんなものは我の権力でどうとでもなるわ!」
「ええと……」
ここで戸惑えば……
「おい司祭! ……別に構わんよな?」
やっぱりこういうタイプはそう動くよな。
「……仕方がないですね。この教会の地下にある決闘室をお使いください」
司祭が諦めたように首を振った。
よし、これであいつはこの大衆の面前で権力で俺を強引にテンプレな展開である決闘の舞台に引きずり出したことになる。
しかも、自己申告ではあるが、ステータスが5分の1しかない俺を引きずり出したのだ。
これで奴は逃げ道がほぼない。
こうなれば、かませ犬君を圧倒しても問題はないだろう。
もう、勝利方法は分かってるし。
いやー単純でよかったわー。
……というかここ決闘室なんてのがあったんだな、何のためだろ?