3.
―――次の日。朝六時ごろに起きた優は、朝食も食べずに街を歩いていた。街の変化した場所を調べるためだ。
「(この家は取り壊しが四日後に決定…この家は高宮っつー人が越してきたのか。…高宮?なんかどっかで聞いたことがあるような…)」
時間になったので、優は考えるのを放棄して学校に行くことにした。
席に着き、本を読むふりをしてクラスメートの噂話に耳を傾ける。盗み聞きではない、ただの情報収集である。
『知ってる?前いた○○先生、離婚したんだってー』
『昨日、またピエロがでたらしいね』
『来週、高宮って人が入ってくるらしいよ』
「(人を虫みたいに言うなよ…。てか、高宮サンは同学年なのか)」
その先を聞こうとしたが、本鈴が鳴ったため、話は打ち切りとなってしまった。
「待てこら!」
「待つかバカっ!」
全速力で走っている姿は、正に『追う女に追われる男』(ふつうは逆だが)。だが、ここは20世紀。男はタキシード、女は手錠を持っているのだ。
この構図になった理由は、今から三十分ほど前のことであった―――
今回は、ドイツの某政治家の『国家予算の私用』を暴露してきた(父の異常な操縦テクを使い、一晩で片づけてきた)。そこまでは、滞りなく進んでいたのだが…
警察―――対ピエロ特殊部隊が意外に早く着いたのだ。なので、さっさとずらかろうとした。
銭形警部を知っているだろうか。天下の大泥棒、怪盗ルパン三世をしつこく、それは粘着する男刑事のことだ。あのような立ち位置の―――こちらの方がまだましだが―――女刑事が、毎回毎回追ってくるのだ。そして、今回もまた、例外ではなかった。
「今日こそ捕まえてやるぞ、ピエロ~!」
「…そして、言っていることもまた同じ、ってか」
一体頭の中はどうなっているのだろうか。そう思いながらまた一つ、ビルからビルへと跳んだ。そんな危ないことをやってのける優はすごいが、ほとんど息を切らさずについてこれる刑事は半端ないと思う。
「ったく!『父さん、まだかよ!』」
「『すぐ目の前のビルにいる。今いくぞ!』」
妙に張り切った声で言うのは、優の父、勇。迎えが遅い。
「『今だ、飛び乗れっ!』」
「3、2、1っと」
掛け声とともに、優は近づいてきたヘリから降ろされた縄梯子に飛び乗る。
「まてっ!……くそっ」
どうやら諦めてくれたようだ。
「…遅せぇよ」
「はっはっは!すまんな!電車が遅れて!」
「あんたヘリだろ」
「これは軽いジョークじゃないか!」
「…ウザっ」
「うわぁぁん、息子にウザいって言われたぁぁぁっ!」
「いい加減黙って操縦しろ」
夫婦どちらも『ウザい』人種であった。