1.
風呂上りであろうか。少しぬれた髪をかきながら、青年はベッドに倒れ込み、うめいた。
「あーっ、はずいわーーっ!『では、私が、あなたを連れ去ってしまいましょう』?ただのイタいやつじゃねーか!うぁぁぁぁぁ!」
そう言って足をバタバタさせる。この青年は、”怪盗ピエロ”こと、#山田 優__やまだ ゆう__#。なぜ怪盗をやっているのか。それは、山田家の家業にあった。
山田家の先祖は、あの有名な”鼠小僧”である。民を助け、下劣な奴らを排除してきた。先々々代まではその名でやってきた。
だが、その次の代━━━優の祖父からおかしくなってきた。ピエロという名もそこから始まった。そう、先々々代は━━━中二病だったのである。
”鼠小僧”から”ピエロ”に変えた理由を、小さい頃に尋ねてみたことがある。簡単だった。
『かっこ悪いからに決まっとるじゃろ!』
と、きっぱり言い切った彼は、ある意味清々しかった。
だが。
「なにも、中二気質まで似なくても…」
そう、先代も中二病患者であった。そして、『ぐはあっ!…ふ、ふふふ、そそそんなものなど効かんぞ!”』とか言ってる人だ。というか、思いっきりやられている感が半端ない。
更に、そんな変人に嫁ぐのも、また中二病の方で…。自分は常識人でよかったと思っている。
「(というか、さっきの娘も中二がかかってたな…)」
先程の少女は、レイラ・スワグナー。アメリカ大使___今回のターゲットととなった須ワグナー氏の溺愛する一人娘だ。もちろん米人なので、会話はもちろん英語。優は英語、中国語、フランス語、ドイツ語、そして日本語の計五ヶ国語を話すことができる。英才教育のたまものだ。
十五歳までアメリカに留学、飛び級し、大学卒業資格まで持っている。まあ、『聞いてよ奥さん、あの家の子、高校行ってないんですってよ』とか言われたら大変なので、一応高校二年として活動しているが。
その時、ガチャっと扉を開ける音が響いた。
「おかえりなさい優ちゃん!」
…あぁ、またか。