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虚無の涙  作者: 心憧むえ
6/7

完治

目が覚めた。意識はまだはっきりしていない。

遠くで誰かが喋っている声が聞こえる。

僕は薄目で目を開けると、明るすぎる光に目が眩んだ。

どうやらここは僕の病室ではない。


辺りを見渡すといろいろな手術道具や設備があって、手術室だということがわかった。

また僕は倒れてしまったんだろうか。


すると足音がだんだんこちらに近づいて来るのがわかった。

体を自由に動かすことが出来ず、僕はただ仰向けになって寝ていた。


「叶夢、目が覚めたか。これから大手術を始める。お前の病気、治るから、安心して寝てろ。」


この声は健人先生だ。喋ることもままならなかった僕は何も合図を送ることは出来なかった。


僕の病気が治ると先生は言った。

だがその言葉について考える力すらもなく、僕は再び意識を失った。



✱ ✱ ✱



目を覚ますとそこはいつもの病室だった。

意識も多少はハッキリとしていて体も何不自由なく動かせた。

上体を起こして病室を見渡すとそこには、まるで目の前に怪物でも現れたかのようなびっくりした父さんと母さんと、平然とした健人先生がいた。


「先生…息子は本当に…」

「はい、治りました。完治しました。」


健人先生がそう言うと父さんと母さんは泣き崩れた。

展開が早すぎて僕には何が何だかわからなかった。

そんな僕を見兼ねてか、先生が話してくれた。


「叶夢、お前の病気治ったんだよ。完治したんだよ。病院の外で生活することが出来るんだよ。」


15年間この病院で過ごしてきた僕にとってはここが僕の世界で僕の全てだった。

病院と僕とを鎖で結びつけ病院内でしか行動できないこの生活と、お別れする日がやってきたのだ。


僕はこの病院で生まれこの病院で死にゆくものだと思っていた。しかし、僕はまだ生きることが出来る。

急にその実感が湧き出して、自然と涙が零れた。


すると父さんと母さんが僕に抱きついてきて、3人で子どもみたいに泣いた。

泣いて泣いて、泣き尽くした。


でもその時の健人先生は、嬉しさの反面、何か申し訳なさそうな面持ちだった。



✱ ✱ ✱



ひと段落ついてから、僕は記憶の整理を始めた。

健人先生にいろいろ質問しながら僕はいつ倒れたとか、どのぐらい寝ていたとか聞いた。

聞いてるうちにひとつの重大なことを思い出した。


「そうだ、美夏が僕にお茶を飲ませて、それで僕意識を失ったんだ。美夏は僕に薬を盛ったんだ。美夏はどこにいるか知らない?先生」


先生は黙ったまま僕から目をそらした。

何か知ってるのは安易に読み取れた。


「先生、美夏はどこにいるの?教えてよ」

黙り込んだままの先生に憤りを覚え、声を荒らげた。


「先生!美夏はどこ!!」


すると先生が無言のままポケットから手紙を取り出して僕の前に差し出した。


「美夏から、叶夢、君宛ての手紙だ。読んでくれ。」


手紙?僕はわけもわからないままその手紙を受け取った。

その手紙を開けると女の子らしい丸みを帯びた字で『美夏より』と書いていて


僕はその手紙を読むことにした。

文学フリマ短編小説賞用に書きました。

ブックマーク、評価の程よろしくお願いします。


次回は6月14日21時掲載予定です。

おそらく次回が最終回になります。

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