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虚無の涙  作者: 心憧むえ
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Happy Birthday

一昨日死にかけたとは思えない心地いい目覚めだった。

桜の木の枝に止まった小鳥のさえずりで目が覚めるなんてなかなか風流なものだ。


上体を起こして辺りを見渡すと、ベッドの横にこしらえられた机の上に一通の手紙が置いてあった。


僕はすぐさま手紙を手に取って目を通した。


『貴方が生きてて本当に良かった。私たちはお仕事があるから手紙だけ残していきます。冷たいだなんて思わないでね、ごめんなさい。帰ってきたらまた病室に寄ります。母より』


僕の両親は共働きで2人ともとても忙しい毎日を送ってる。

なるべく家族に迷惑をかけたくないから仕事の都合で僕に会いに来れないことには何も言わない。


それにもう、慣れた。


そしていつもの時刻がやってきた。


ガラガラーー

ドアの方に目をやると今日は健人先生と、もう1人いた。


「美夏、どうしてこんなに朝早くに」

「今日は叶夢くんの誕生日、だから……」

「先生と美夏は知り合いなの?」

「まぁ私は美夏ちゃんのおばあちゃんも担当しているからね。」


そう言って先生は美夏を僕の横に行くように促した。

健人先生はヒューヒューと小バカにするように病室を去っていった。


「ごめんね、あの先生いつもあんな感じなんだ」

「私は、大丈夫。」


美夏は丸椅子に座った。丸椅子に座ると、美夏は僕の瞳に強く視線を当てた。


「ど、どうしたんだい?」

「今日、取っておきの誕生日プレゼント用意するから、楽しみにしていてね」

「あ、ありがと……」


美夏の言葉を聞いて、昨日美夏と別れた後のあの胸のざわめきがぶり返した。

何かとんでもないことを企んでいるんじゃないだろうか。

嬉しさのざわめきなのか、それとも不安のざわめきなのか。

圧倒的に後者が前者を上回る。


美夏はふとなにかに気付いたように丸椅子から立ち上がった。


「お茶淹れるね。喉乾いてるでしょう。」

「あ、うん。ありがとう」


お茶の葉からとったお茶を2つのコップに注ぎ、小さなお盆に2つの並べてまた丸椅子に腰掛けた。

美夏は片方のお茶を持って僕の手の上に差し出した。


「熱いから気を付けてね。」

「ありがとう。」


手に取って口に運ぶと、確かに物凄く熱かった。

だけど我慢してなんとかゆっくりの流し込んだ。

お茶の葉から作るお茶は、最高にうまい。

美夏は自分のお茶には手をつけず、ただ僕をずっと眺めていた。


「どうしたの?お茶、飲まな…」

ここまで言ったところで急に視界がぼやけ始めた。意識が段々と遠のき始め音も遠くなった。

うっすらとした視界には、申し訳なさそうな顔をした美夏が映った。


一体僕に何を飲ませたんだ。


意識がなくなる直前、うっすら聞こえた最後の言葉。


「Happy Birthday」

文学フリマ短編小説賞用に書きました。

ブックマーク、評価の程よろしくお願いします。


次回は6月12日21時掲載予定です。

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