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虚無の涙  作者: 心憧むえ
3/7

佐野美夏

吹き抜ける風が僕の頬に触れた。

揺れる木々の葉音に耳を澄ます。

無機質な病室に色を持った人間がいた。


「風がすごく気持ちいいですね」

「ああ、いい部屋だ」


僕はベッドに座り、彼女は丸椅子に座っていた。

この病室に家族と担当医と看護師以外で入ってきたのはこの女の子が初めてだった。

僕だってそれなりに緊張していた


「じゃあ早速だけど話を聞いてもいいかな」

「は、はい。何を話しましょうか?」

「名前を知りたいな」

佐野美夏(さのみか)です。そちらは?」

「僕は滝澤叶夢(たきざわかなと)。」


僕たちは恥ずかしげに会釈した。

そんな僕らがおかしくて、吹き出してしまった。


「はははっ。硬いことは抜きにしよう」

「そうですね」

彼女は口もとを手で覆って笑った。

そんな彼女を見て胸が高鳴るのを感じた。


僕は女の子とあまり話したことがなかった。看護師さえも。

何故か女の子の前となるとあがってしまった。

でも彼女、美夏の前では不思議とあがる事は無かった。


「美夏の事を教えてよ。生い立ちとかさ」

「私の生い立ちですか。今年で15歳になる目立たない読書好きの女です。」

「15歳、僕と一緒だ。そういうことなら敬語なんて無くそうよ」

「叶夢くんも15歳なんですか!?じゃあその姿はいつから……」


彼女は何か聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったのか、慌てて「す、すいません。」と言った


「別に大丈夫だよ。生まれてからずっとこんな感じでね。臓器が膨張していく病気でね、名医でも治せないときた。」

「そ、そうなんですか。すいません。」

「だから大丈夫だよ。それより僕からもひとつ質問いいかな?」

「はい、何でしょう?」

「美夏は誰のお見舞いに来ていたんだい?」

すると美夏は少し口ごもってから間をあけて言った。


「おばあちゃんです。もう80歳になります。家で介護するには限界があるのでここの病院に面倒見てもらっているんです。」

「へぇ、そうなのか。」


✱ ✱ ✱



それから僕たちはお互いのいろんなことを話した。

美夏は学校や友達の話。僕は田中さんから聞いた色んな話をしてあげた。

とある一族の話にすごい興味を抱いていたのが印象的だった。


気付けば夕刻5時を周り、夕焼け空の色が病室にまで入り込んでいた。


「も、もうこんな時間。私そろそろ帰りますね」

美夏は慌てて支度した。


「今日は色々とありがとう。また話しでもしよう」

「はい!」


美夏はそう言って足早に病室を去った。

またこんな楽しいひとときを過ごせたらいいのに。

そう思いながら僕は目を瞑った。


明日もまた、美夏と会えるかな。

文学フリマ短編小説賞用に書きました。評価の程よろしくお願いします。

次回は6月11日21時に掲載予定です。

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