表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第14話「それでも、ひきこもっているよりはマシです」

 翌日から、思いつめた表情の夏咲が俺のことを迎えに来た。さすがに、「人間はひきこもる生き物だよ!」などとは言えず、俺も渋々学校へ行く。

 もう一度会って話そうと深月のいる教室に行くが、どうやら来ていないらしい。聞いたところによると、学校を休んでいるそうだ。

「風邪ですかね」

「かもね。それに昨日の今日だから学校に来づらいとか?」

 生徒会長不在ということもあり、校内では昨日まで規制されていたイチャコラ行為が横行している。見せつけるようにイチャコライチャコラ。

 時折、俺たちの顔を見て睨んでくる生徒もいたけど、全力で黙殺した。


 それから三日間、深月は学校には来なかった。

 夏咲が心配してメールを送っても返信はなし。電話をかけても留守番電話になってしまう。


 さらに一週間が経った。

 深月はまだ学校には来ていない。

 いよいよ心配になり、放課後に高島先生に事情を聴くことにした。

「ん? ああ、深月か。先週からずっと学校に来ていないな。なんでも、行きたくないの一点張りだそうだ。キミたち、なにか心あたりでもあるのか?」

「え、えっと……」

 返答に窮してしまう。

 知っている。確かに知ってはいる。でも、それを先生に言ったところで、解決されるかどうかわからない。

 余計に他言するのは、深月のためにならないだろう。

「いえ、わかりません」

「そうか? でも他人のことを心配するのはいいことだぞ、小野宮」

 ポン、と肩を叩かれた。

「それじゃあ、まるで俺が他人に無関心みたいじゃないですか!」

「楓くん、ちょっと」

 先生との会話の途中で、夏咲に腕を引っ張られた。

 踊り場まで引っ張られ、ようやく解放される。

「な、なにさ。夏咲」

「もしかして、今の深月さんって、ひきこもりをしてるんじゃなでしょうか?」

 夏咲は深刻そうに言った。

 俺は迷わず答える。

「そうだと思うよ」

 顎元に手を当て、しばし考える仕草を作る夏咲。

「楓くん。深月さんの自宅へ行きましょう」

「え、どうして?」

 俺の問いに、夏咲は感情の読めない表情で答える。

「ご自宅に行って、深月さんを直接説得するんですよ」

「だからどうして?」

 俺にはそれがわからない。

「深月さんがひきこもっている原因は、生徒会の人たちとの心の溝です。なので、もう一度、しっかりと話をして、わかり合うことができれば、深月さんはまた学校に来ることができるはずです」

「どうして、学校に来る必要があるの?」

 その問いに夏咲は顔をしかめる。

「楓くんのようにひきこもっていては、なにも解決しないからですよ」

「でも、もし学校に来ても解決しなかったら? もっと心の傷が大きくなったら? 一体どうすればいいのさ」

 無意識の内に口が動いていた。

 俺の様子に異変を感じたのか、夏咲がしっかりと俺のことを見る。

「それでも、ひきこもっているよりはマシです」

 その言葉を受けて、俺はさらに疑問をぶつける。

「なにがいけないんだよ? ……ひきこもりのなにがいけないんだ。もう一度、学校に来たからといって、心の傷が修復される保証なんてどこにもないんだよ! だったら、ひきこもっていた方がいいよ! ひきこもっていれば、これ以上、傷つくことはないんだ! ……なのに、どうして、ひきこもることがダメなのさ?」

 気づけば、俺は声を荒らげていた。

 夏咲は小さなため息を漏らし、

「鈴原さんの一件で、少しは良い人だなって思っていたのに……。鈴原さんの時のように、助けてあげようとは思ってないんですか?」

「思ってるさ。今だって鈴原の時と一緒さ。一番負う傷が少ない方法を実行する。それが、深月がひきこもることなんだよ。彼女自身が、一番傷つかないと思う方法を選択したなら、彼女の考えが変わるまでそれを否定しちゃいけないんだ」

「わかりません……」

 ボソッと呟き、夏咲は俺を睨む。

「私には、楓くんの言っていることが正しいのか、わかりません。ですが、深月さんは楓くんとは違います。楓くんがひきこもりを全肯定しても、私はそれを否定します」

「夏咲……」

「楓くんのようにひきこもることが、正しいことだとは私には思えません。なので、私は私が正しいと思った行動をします。楓くんは付いてこなくていいです」

 そう言うと、夏咲は俺の横を通り、どこかへ行ってしまった。

 最後に「さよなら」という言葉を残して。

 …………俺にだって、なにが正しいのかわからない。自分の心を守るための手段を一つしか知らないんだよ。ひきこもることでしか、自分の心を守れない……。

 ひきこもって、自分の殻に閉じこもって、時間という薬で自らの傷を癒していく。この方法しか、知らないんだ……。

 夏咲の背中がどんどん小さくなっていく。


 その日以降、俺は学校へ行かなくなった。

 当然、夏咲も俺の家には来なくなった。

 深月の絶望によって、俺は再びひきこもり生活を手に入れた。

 こんにちは、水崎綾人です。

 いかがでしたでしょうか? 続きが気になっていただけたら、嬉しいです。

 では、この辺で失礼します。また次回。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ