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5 笑い話


(1)


フランソワーズ


笑えない

笑い話を

2つばかり

聞かせてあげよう


あの日の

我らの愁嘆を


失敬な

古参の秘書が

ドアの向こうで

粋な立ち聞き

してなかったら


そして5日も

たったころ


私の鈍さに

業を煮やして


「事実はどうあれ

彼女の弁は

本心じゃない」と


見かねて

耳打ち

してくれなければ


この鈍感な

朴念仁は


死ぬが死ぬまで

鈍感な

朴念仁の

ままだった


「マリッジ・ブルーの

蓮っ葉女が

何が悲しくて

詫びに来ますか」


「どこのめでたい

火遊び女が

抜け殻みたいに

憔悴しきって

とぼとぼ

帰っていきますか」


ノックも

そこそこ

部屋に来るなり

一方的に

言うだけ言って


私には

物言う暇も

与えずに


失敬な

古参の秘書は

あっという間に

出て行った


これが1つ目



(2)


その翌々日

親父が死んだ


晩年は

人の顔見りゃ

当たり散らして

毒舌嫌味の

雨あられ


ボケの果てなら

我慢もするが

正気とくるから

始末が悪い


いいかげん

絶縁しかけて

見舞いも

さぼりかけたころ


最期は

ホームで

独りで逝った


ご丁寧に

鍵までかかった

個室のタンス


遺品整理に

こじ開けてみた

その中は


本人の

遺品どころか


好き放題

怒鳴り散らした

憎っくき息子の

子ども時分の

テニスの戦果の

コレクション


優勝カップに

盾にトロフィー

賞状から

細かくたたんだ

新聞記事まで


色褪せて

古ぼけた

我が子の

昔の戦利品


頼まれた

わけでもないのに

捨てもしないで

後生大事に

何十年も

持ってた親父


ホームのタンスに

整然と

並べたそれを

独りこっそり

眺めた親父


それほど息子が

可愛けりゃ

素振りに出して

くれればいいのに


見舞いに行ったら

「よく来たな」くらい

たまには口に

出せばいいのに


偏屈の

殻にこもって

最後まで

ひとりぼっちで

あの世行きとは

笑わせる


親父のことは

血も涙もない

人でなしだと

思ってたから


私のことなど

嫌いなんだと

長いこと

決め込んでたから


タンスの中身に

呆気に取られて

思わず

座り込んでたら


いいかげん

冷たいはずの

親父が

言うんだ

横のベッドで

おもむろに


--同じ穴の

ムジナのくせに


おまえが

わしを

笑えた義理か


愛せるときに

思う存分

愛さにゃいかん


愛し方など

下手でかまわん


愛したかったと

地団駄踏んでも

天に召されちゃ

なす術もない


わしみたいな

轍を踏むな--と


説教なんだか

遺言なんだか


さんざん人を

手こずらせといて

最後の最後は

偉そうに


そう思ったら

やるせないやら

腹立たしいやら


フランソワーズ


これが

笑えない

笑い話の

2つ目だ



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