放課後にカフェで
「やっと終わった~」
楽しみがあると時間は早く過ぎてしまうもの。放課後に気付けばなっていた。今日。ゆりかは図書委員の仕事があるので先に教室を出ている。
「愛華」
「あっ、東城君」
「お待たせ。それじゃあ行こうか」
「うん」
勇人が迎えに来ると愛華は一緒に教室を出た。何処へ行くか知らされていない愛華はとにかく勇人について行くしかない。しばらくして到着したのは町にある1軒のカフェだった。
「東城君。私に付き合って欲しい場所って・・・此処?」
「うん。美味しい紅茶とケーキで有名なんだ。だから愛華と一緒に来たくてさ」
「どうして?」
「う~ん・・・愛華の笑顔を1人占めしたいから、かな。ほら、中に入ろう」
「う、うん」
勇人からの相変わらずな言葉に頬を赤く染めた愛華。けれど相手が勇人だから何処か許せてしまうのだ。店内に入るとお洒落な雰囲気が広がっていた。
「愛華、何にする?」
「ごめんね。どのケーキも美味しそうで1つに選べなくて・・・」
「そうだよね。じゃあ、このケーキセットにしたらどうかな?僕もこれにするし」
「良いかも!あっ、この中から3つケーキを選べるんだ。東城君は何にするの?」
「僕はスコーンとズコットショートケーキと苺のパフェかな」
「えっと、ズコットショートケーキって?」
「スポンジケーキにフルーツや生クリームを挟んだケーキだよ。このお店では生クリームにチョコチップやナッツを入れているみたいだね」
「じゃあ私、1つはそれにしようかな」
「あと2つは何にする?」
「えっとね・・・この苺のショートケーキとアップルパイにしようかな。私、アップルパイ好きだし」
「紅茶はどうする?」
「う~んと、このマスカットティーが良いな。それで、あまり熱いと飲めないからアイスにしよう」
「なら僕はミルクティーにしようかな。じゃあ頼もうか」
「そうだね」
「あっ、来たみたいだね」
「うん。とっても美味しそう!」
しばらくして頼んだケーキセットと紅茶が運ばれてきた。美味しそうなケーキと紅茶を見る愛華の目はキラキラと金平糖のように輝く。そんな愛華を見る勇人の目は優しかった。
「それじゃ早速、いただきま~す」
「いただきます」
「・・・ん!このアップルパイ、林檎が甘くて美味しい!」
「このズコットショートケーキ、優しい甘さで美味しいよ。愛華も食べてみて」
「うん!・・・ん、本当だ!」
「何だかそのアップルパイも美味しそうだね」
「あっ、じゃあ良かったら1口どうぞ」
「ありがとう。・・・うん、美味しいね」
愛華と勇人の2人は仲良くケーキを食べていた。こうして美味しさを共有していられる時間が、瞬間が、愛華は好きなのだ。
「あっ、そうだ。東城君、1つ聞きたい事があるんだけど・・・」
「ん?何?」
「東城君はどうしてスイーツに興味を持ったの?」
「えっ?」
「あ、その、別に変っていう訳じゃないんだけど・・・ちょっと気になっちゃって。どっちかって言うとスイーツって女の子が興味を持つもののようなイメージがあって・・・」
「そっか。まぁ、気になるのも分かるよ。今までだって何度も聞かれた事あるし」
「そうなの?」
「うん。僕がスイーツに興味を持つようになったのは・・・両親からの影響かな」
「ご両親からの?」
「うん。僕の父親はショコラティエで、母親はパティシエールなんだ」
「そうなんだ。じゃあ物心ついた時からスイーツに囲まれて育ったって言う事?」
「そう言う事。おやつに新作のスイーツが出るのは普通だったなぁ。だから自然とスイーツに興味持ってたし、自分でスイーツを作りたいって思うようになってたんだ」
「へぇ~。それでだったんだ」
ようやく分かった勇人のスイーツ好きな理由。それならスイーツ&甘味研究会で勇人が一目置かれる存在だと言う事も納得がいく。すると勇人は思い出したように携帯を取り出した。
「あっ、そうだ。スイーツと言えば僕、愛華を誘いたいところがあったんだ」
「ん?」
「此処、なんだけど」
「これってスイーツバイキング?」
「うん。あるホテルで開催されているんだ。良かったら今度の休日にどうかな?」
「良いの?」
「もちろんだよ。僕が誘いたいのは愛華だけだから」
「ありがとう。ぜひ一緒に行かせて」
「良かった。じゃあ待ち合わせ場所とかは明日にでも話し合おう」
「今日は誘ってくれてありがとう、東城君。お陰で美味しいスイーツが食べられたよ」
「こちらこそ。僕も愛華と一緒に居られて楽しかったな」
学園への帰り道。隣に並んで互いに微笑み合いながら愛華と勇人の2人は歩いていた。真っ白な山茶花が両側の道に植えられているのを見ながら、2人は学園の正門をくぐった。
「それじゃあ明日の放課後、2Aの教室に迎えに行くから」
「うん。待ってるね」
「じゃあ、また明日」
「うん。じゃあね」