楽しい2人きりのお出掛け
「(楽しみで30分前に来ちゃった)」
翌日。愛華は勇人とのお出掛けが楽しみで、9時半には待ち合わせ場所に来ていた。今日は出掛けるのに最高の天気だ。正門の近くにあるベンチに座って愛華は空を見上げた。
「(そのカフェはパフェで有名だって分かったし、どのパフェを食べようかなぁ)」
昨日、勇人にカフェの名前を聞いてから女子寮の共用パソコンで調べていた愛華。フルーツやアイスが山ほど載っているパフェを見て、早く食べたいと思っているのだ。そして9時50分頃、勇人がやって来た。
「おはよう、東城君」
「おはよう、愛華。早かったみたいだけど何時来たの?」
「東城君より5分早い・・・くらいかな」
「そっか。それなら良いけど・・・」
「それより早く行こうよ。私、ずっと楽しみにしていたの」
「そうだね。じゃあ行こうか」
昨日は先生と、だったので同い年と一緒に居るのが安心する。この日は昨日の授業中に考えていたシンデレラのようなワンピースを着ている。勇人はシンプルながら大人っぽいスタイルだ。
「今日の格好・・・可愛いね」
「ありがとう」
「何だか愛華がシンデレラに見えるよ」
「本当?嬉しいな」
「昨日会った時は白雪姫だったっけ。もしかしておとぎ話、好き?」
「うん。特にお姫様が出て来るお話が好きかな。あっ、別に白馬の王子様を待ってる訳じゃないんだよ?でも・・・」
「分かるよ。純粋にストーリーが好きなんだよね、愛華は」
「そうなの。東城君、よく分かったね」
「分かるよ。愛華の考えている事なら、ね」
「・・・っ!?」
「愛華?どうかした?」
勇人からの言葉に顔を真っ赤にしてしまった愛華。同じクラスではないし、会うとしても放課後くらいの仲だと言うのに勇人は何でも分かる、と言いたそうなのだ。
「そ、それより今日行くカフェについて調べて来たよ」
「教えた通りで良い場所でしょ?」
「うん!パフェがいっぱいあって、何にしようか悩んじゃって」
「そうだね。ところで、そのカフェには料理系のメニューもあるんだけど気付いた?」
「そうだったの?気付かなかった」
「サンドウィッチとかグラタンとかドリアだよ」
「美味しそうだね」
「実はお昼どうしようかって思ってたんだ。パフェもそれなりに量あるんだけど、甘い物じゃ満腹にはならないだろうし・・・。そのカフェに行ってから行きたい場所があるんだ」
「じゃあお昼もそのカフェで食べない?ちょっと気になるなぁ」
「分かった。じゃあそうしよう」
「着いたよ。カフェはこの建物の2階だから」
「うん。・・・って、どうしたの?東城君」
「えっ?だって今日の愛華はシンデレラなんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「ならエスコートしてあげるのが普通でしょ?ほら、手」
「あ、ありがとう」
カフェへと向かう螺旋階段を愛華は勇人にエスコートされながら上った。今までこんな事をされた事がなかったのでドキドキしている。そしてカフェの前に到着した。
「少し混んでるみたいだね」
「うん。じゃあ其処に名前を書いて待っていようか」
「そうだね」
2人でどちらの名前を書くか話し合い、愛華の名字で呼んでもらう事にした。待っている間、ずっと立っているのはきついのでカフェの前にあるベンチに座った。
「楽しみだなぁ」
「そうだね。そうだ、愛華。1つ聞いても良い?」
「うん」
「昨日の事なんだけどさ。僕が昼休みに2Aへ行った時、話してた子は誰?」
「えっ?あっ、ゆりかちゃんだよ。私が流星学院に入学してからの友達なの。もう親友って呼べるかも」
「へぇ~。じゃあ今度、2Aに行ったら話してみようかな」
「じゃあ来てくれる時、何かスイーツを持って来てくれない?私が東城君の作ったスイーツの話をしてたら、ゆりかちゃんも『食べたい』って言ってて」
「構わないよ。じゃあ何か作って行くから」
『お待たせ致しました。2名様でお待ちの夢美園様、いらっしゃいますか?』
「はーい」
『お待たせ致しました。ご案内いたします。どうぞ、こちらへ』
勇人と話していると直ぐに呼ばれた。店員の後についてカフェに入ると、店内は勇人が言っていたようにプラネタリウムのようだ。愛華たちが案内されたのは窓寄りの席だった。
『ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください』
「はい」
店員が離れると愛華は直ぐにメニューを見た。全てで13種類のパフェがあり、美味しそうなドリンクがあり、ケーキがあり、と目移りしてしまう。さらに料理系のメニューもある。
「愛華は決まった?」
「う~ん・・・。どれも美味しそうで迷っちゃうよ」
「お昼も兼ねてるからしっかり食べても良いし、パフェだけでも良いよ」
「それじゃあパフェだけにして、パフェは自分の誕生星座にしようかな。そうなると・・・乙女座か。東城君は?」
「僕は獅子座だよ。だから・・・これだね」
「美味しそう!ねぇ、後で少しもらっても良い?」
「もちろん。じゃあ僕も良いかな?」
「うん!」
「パフェ、すっごく美味しかったね」
「うん。今日はいつもより美味しかったよ」
パフェを食べ終わってカフェを出た愛華と勇人の2人は、カフェ最寄りの駅から電車に乗っていた。次に勇人が連れて行きたい場所へは電車に乗らないと行けないのだ。
「こうやって電車に乗るの久しぶりかも。ねぇ、次は何処に行くの?」
「ある複合型施設の遊園地だよ。クラスメイトからチケット貰ったんだ」
「遊園地!?」
「うん。あれ?もしかして愛華、遊園地って好き?」
「大好き!小さい頃は1年に1回、家族で揃って行ってたんだ」
「そっか。じゃあ一緒に楽しもう」
「うん」
本当に嬉しい様子の愛華に勇人はクラスメイトからチケットを貰って正解だと思った。学園の外に2人で出るのは初めてだが、2人で過ごしていると楽しいのだ。
「此処だよ」
「うわぁ!色んな施設があるんだね」
「うん。僕たちはこの遊園地で遊ぶ訳だけど・・・何か乗りたいものはある?」
「えっ、私が決めて良いの?」
「もちろん。小さい頃、よく乗ったアトラクションとかある?」
「えっと・・・それじゃあ観覧車に行って良い?」
「うん。案内するよ」
多くの人で賑わう中を勇人は愛華を連れて歩く。離れないように手を繋ぎながら・・・。観覧車の乗り場に向かう階段を愛華はエスコートされながら上った。この日は休日にも関わらず、観覧車はあまり混んではいなかったのでスムーズに乗る事ができた。
「良かったね。今日は空いていて」
「うん。それに1周が14~5分かかるみたいだし、ゆっくりできそう」
「そうだね。あっ、あれは僕たちの学園じゃないかな?」
「本当だ!」
「やっぱりシンボルの時計塔で分かるね。あっ、そういえばさ、愛華」
「ん?」
「昨日さ、愛華が行ったカフェのメニューの事なんだけど・・・」
「あぁ!あの後、すぐお兄ちゃんに連絡してその事を伝えたの。そうしたらちょうど予備のメニューを持ってたみたいで送ってくれるって」
「ありがとう。ごめんね、愛華に頼んで」
「大丈夫だから気にしないで。お兄ちゃん、私の頼みなら大体聞いてくれるから」
「そ、そうなんだ・・・」
「東城君、今日はありがとう」
「こちらこそ。僕も楽しかったよ」
遊園地から最初に行ったカフェ最寄りの駅まで戻り、駅から徒歩で学園へ戻った。気付けば空は茜色に染まっていて、白い雲でさえ茜色に見える。
「それじゃあお兄ちゃんからカフェのメニュー届いたら持って行くね」
「うん。お願い」
「じゃあ月曜日に校舎でね」
「うん。それじゃ」
中等部の男子寮と女子寮への分かれ道で勇人と別れた愛華。寮に向かう並木道をゆっくり歩きながら今日の思い出を振り返っていた。すると後ろから肩を叩かれた。
「おかえり、愛華ちゃん。お出掛けはどうだった?」
「あっ、ゆりかちゃん。うん、とても楽しかったよ」
「それは良かったね」
「そうだね。ところで、ゆりかちゃんは何処か行ってたの?」
「えっ?あっ、うん。春樹の応援にね」
「そっか。吉澤君、陸上部で短距離走のエースだもんね。結果はどうだった?」
「次の本戦に進出したよ。だから次も応援に行ってあげるつもり」
「きっと吉澤君も頑張り甲斐あるだろうね」
寮への並木道を愛華は、ゆりかと話しながら進んだ。お互い最初は男子と親しくなるつもりはなかったのに、今となっては特定の男子と親しくしている。ゆりかの場合は幼馴染だが、それが2人には面白いのだ。