伝説を探して
「さて、何処から探そうかな」
一旦寮に戻り、荷物を置いた愛華は再び校舎の方へ戻っていた。広い学園内を調べるには闇雲に動きまわるよりも、普段から行き慣れた場所を探すのが一番だと考えたのだ。
「う~ん。ないなぁ」
しかし探す相手が伝説と言われているだけあって、そう簡単には見つからない。必死になって探す愛華のところへ2人の生徒がやって来た。
「どうかしたの?」
「あっ、高等部の図書委員の青蘭寺先輩と、委員長の城谷先輩」
「何か落し物?」
「あ、あの・・・」
「なら一緒に探すよ。一体何を失くしちゃったの?」
「そ、その違うんです」
「ん?」
「私が探しているのは・・・その・・・伝説の流れ星の事なんです」
それを口にして直ぐに愛華は慌てて口を閉ざした。いくら話しかけてくれた相手が物知りとは言え、高等部の生徒だ。伝説を探しているなどと幼稚な事と笑うかもしれない、と愛華は思ったのだ。しかしこの2人は決して笑う事はなかった。
「そう。伝説の流れ星をね」
「はい。その話を同じクラスの友人から聞きまして・・・」
「あぁ、ゆりの事ね」
「あっ、図書委員会でお世話になっているんでしたね」
「えぇ。えっと、伝説の流れ星の事だったわね」
「は、はい」
「確かこの時期は中等部だと1号棟の何処かに出るんですよね、先輩」
「えぇ、そうだったわね」
「1号棟ですか・・・」
「もし見つからなかったら図書館にいらっしゃい。私たちが文献の中から調べるわ」
「ありがとうございます」
有力な情報をもらった愛華は中等部の1号棟へと向かった。1号棟は3学年分の教室と、いくつかの特別教室があり、広い校舎と言われる。その広い校舎の何処かに現れるという伝説の流れ星。それを探すのは途方もない話になってくる。
「ん?夢美園?」
「あっ、吉澤君」
1号棟へ向かう最中、学園が広さを誇る校庭の前を通った愛華。その時声をかけられ、愛華が振り向くと其処には春樹の姿があった。
「どうしたんだ?こんなとこで」
「教室に忘れ物しちゃって・・・それを取りに行くの」
「そうだったのか」
「そう言う吉澤君は陸上部の練習?」
「あぁ。もう直ぐ大会があるからって先輩がヤケに張り切っててな」
「そうだったんだ。あっ、じゃあ私は教室に行くね」
「手伝うか?」
「大丈夫だよ。吉澤君は練習に戻った方が良いんじゃない?ほら、先輩が呼んでるよ」
「みたいだな。じゃあな」
春樹と別れた愛華は1号棟に居た。しかし教室が多くある1号棟を調べるのは至難の業だ。しかし誰にも頼れない以上は自分1人で探すしかない。
「(でも何処の教室から探したら良いんだろう・・・?)」
悩んだ愛華は1階から2階へ上がる階段の踊り場にある窓を開けた。悩んだ時には自然の風を感じると頭がスッキリするのだ。そのまま愛華は外を眺めていた。
「(もし運命の人と会えるなら・・・一体誰なんだろう?)」
「おやおや。何処のお姫様かと思ったら愛華ちゃんか」
「あっ、一之瀬先生」
外を眺める愛華に声をかけたのは現代文の担当、一之瀬先生。彼は愛華たちの担任である宮瀬先生と仲が良く、しょっちゅう愛華たちのクラスにやってくる。そして女子から多大なる信頼を得ているのだ。
「どうしたんだい?こんなところで」
「ちょっと考え事を・・・」
「考え事?そういえば何か考え込んだ顔をしているね」
「えっ、そんな顔してますか?私」
「と、言うより俺みたいな仕事してると生徒の気持ちを察するの得意になるから。それより考え込んだ顔は君には似合わないよ」
「一之瀬先生・・・」
「俺に話してごらん。誰かに話す方が気が楽になるよ」
「笑いませんか?」
「笑わないよ。可愛い生徒の話なんだから」
その言葉を信じた愛華は自分の考え事を打ち明けた。一瞬は一之瀬先生に話す事さえ悩んだが、折角の申し出だからと、そして彼なら安心して話せると思ったのだ。
「なるほど。伝説の流れ星を探しているのか」
「はい。でも一体何処を探せば良いのか・・・」
「そう言う事か。ならヒントをあげよう」
「ヒント・・・ですか?」
「そう。良いかい?伝説の流れ星は普通の教室には出現しないんだ。もし見つけたいと思っているのなら、特別教室を探すと良いよ」
「特別教室と言うと・・・音楽室とか理科室とかですか?」
「うん。特別な理由がない限り生徒に開放されているから、探せるんじゃないかな」
「なるほど!教えてくれてありがとうございます、一之瀬先生」
「役に立てたなら嬉しいよ。・・・愛華ちゃんの運命の人が俺だったらもっと嬉しいけど」
「えっ?先生、何かおっしゃいました?」
「何でもないよ」
「?」
愛華は頭にハテナマークを浮かべながら一之瀬先生を見ていた。すると彼が手に何冊かの本を持っているのに気付いた。さらに2階の階段わきにいくつもの段ボールが載った台車もある。
「あの、先生」
「何かな?」
「何かご用事の最中ではなかったんですか?」
「あぁ、そうだった。この本を資料室に戻さないとならないんだよ」
「じゃあ、あの台車は・・・?」
「あれは古典担当の大野先生が顧問をなさってる部で必要なものなんだ。あれを調理・被服室に届けないとならないんだ」
「資料室と調理・被服室って正反対の位置にありますよね?」
「そうだね。まぁ、これくらいは普段とは変わらないよ」
そう言って一之瀬先生は笑ったが、生徒の立場である愛華はその大変さを知っているが故に笑えない。日直になった時、前の授業で使った資料を資料室に片付け、残された5分で次の授業が行われる調理・被服室へと走った事があるからだ。これを1人でこなすのはいくら先生であっても骨が折れるだろう。
「あの、先生」
「ん?」
「私で良ければ手伝いましょうか?」
「愛華ちゃん・・・」
「さっき先生は悩んでいた私を助けてくれましたから。私にも何かお手伝いさせてください」
「ありがとう。優しい子だね、愛華ちゃんは」
「そ、そんな事・・・」
「それじゃあ重たくない方を任せようね。あの台車を頼んでも良いかな?」
「分かりました」
愛華は一之瀬先生について2階へ行った。台車を目の前にすると重いのか軽いのか分からない。けれど愛華でも簡単に押せたので軽いのだろう。
「それじゃあ頼んだよ、愛華ちゃん」
「はい!」
「今度、学園の外に出来たお洒落なカフェに連れて行ってあげよう。今日のお礼にね」
「良いんですか?」
「もちろん。但し、クラスメートや宮瀬先生には秘密だよ」
「分かりました」