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リヴァイアサン(3)

暗い上に残酷な描写があります。

薔花は後宮の中では新参だが、人に恵まれた様だ。晴嵐が目を掛けている三人と自然と仲良くなり、随分と可愛がられている。三人とは勿論李礼熹、王千樹、黄芙蓉の事である。

晴嵐は表では後宮で女に現を抜かす暗君を演じながら、裏では小飼の部下に仕事を割り振り報告させるという二重生活を送っていた。当然心身共に疲れる。そんな日は、薔花の元に癒されに行く様になった。

薔花も大分打ち解けて、

「まぁ、お帰りなさいませ。」

とにこにこと幼い笑顔を浮かべながら、膝枕をしてくれたり頭を撫でてくれたりするようになった。

薔花の膝枕は柔らかくて大変癒される。自分の頭は小さな薔花には重いだろうと思っていたが、薔花の方もこの穏やかな時間を気に入ってくれているようなので、遠慮せず存分に堪能することにした。


父に手をかけた日にも、晴嵐は薔花のもとへ行った。この日は随分手荒に薔花を抱いたが、彼女は必死で自分についてきた。薔花の髪を撫でると、眠りながら幸せそうな顔をしたので自分の荒れた心も幾分鎮まった。やはり薔花は手放せないと、晴嵐は改めて思うのだった。

父には少しずつ毒を盛っていた。耐性の出来ない、蓄積する種類の毒だ。老侍医は既に自分の靡下にある。

毒の副作用か、どんどん悪化する体調への焦りからか、父帝は精神を病んでいっていた。新月の晩になる度、晴嵐は芙蓉を父の寝所へ導いた。月の無い夜は、父の精神も不安定さを増す。

妹は彼女の母によく似ている。蝋燭の炎のみの灯りの中、自分勝手に棄てた女の影を見るのは恐怖だったであろう。妹を棄てた女の亡霊と錯覚した父は、恐怖から益々狂っていった。

死が父にとって救いとなるのは、妹には赦せぬ事であったらしい。その日妹は、地獄で待つと繰り返しながら父の鼻と口を濡れた布で塞いだ。父の手足は自分が押さえた。父の目には恐怖と絶望があった。

地獄で待つのは父だろう。自分も妹も共に地獄へ引きずり込まれるはずだ。妹の目からは全ての感情が抜け落ちていた。親殺し。自分達兄妹もまた、宮廷の魔物となったのだ。


「薔花様は、私が人を殺めていると知ったらどうなさいます?」

芙蓉は薔花に問い掛けた。

父帝の死後すぐだ。自分の大罪が露見するかもしれない。それなのにあえて口に出したのは、自分の弱さだと芙蓉は思う。

「芙蓉さんが?」

薔花が不思議そうに首を傾げる。それから暫く思案した後、薔花は口を開いた。

「芙蓉さんは、自らの手を汚すのを厭わない心の強い方なんですね。お相手の事はわかりませんが、私は芙蓉さんの人と為りを存じているので、芙蓉さんの味方でありたいと思います。」

薔花は恐らく、自分の本当の罪を知ってもなお同じように言うだろうと芙蓉には分かった。ならば自分も薔花の味方になろうと芙蓉はこの時決めたのだった。


晴嵐は新たに帝となった。

誰を皇后とするかは側近以外に漏らした事はなかったが、薔花が帝のお気に入りである事は、後宮の女達にはなんとなく分かるらしい。薔花は他の女達に厳しく当たられるようになった。だが彼女の友人達のお陰で辛くはないようだ。

最近薔花は千樹に四書五経などを教えている。千樹は受験勉強に力を入れている様だ。元々優秀な彼女は水を得た魚の如く知識を吸収している。その彼女を指導できる薔花は、崔良の教えを受けているからか、相当の教師である。

本当は、薔花にも国試を受験させるべきかもしれないと晴嵐は考える。優秀な女性の登用は新政権の旗印になる。改革は進むだろう。だが、薔花の優しさは高級官僚には向かだろうないし、自分の隣で笑っていてほしい。皇后もまた蕀の道だ。自分の運命に巻き込むことを許してほしい。せめて彼女を地獄への道連れにしないようにと晴嵐は決意を新たにするのであった。


薔花の立皇を相談したところ、芙蓉から心強い後押しを貰った。

「ついでに後宮の女狐共を一掃致しましょう。私の公主という立場を明らかにするいい機会かもしれませんわ。お兄様は狸共を、私は狐等を。先帝の悪しき遺産を根こそぎ滅するのは私達兄妹の務めですわよ。」


狩りの罠は仕掛けた。

粛清の始まりだ。


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