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ハードボイルドウイザード  作者:        
ハードボイルドウイザード Ⅰ ~ ウイザードは仮想ハーレムの夢を見るか? ~ 第四章    デスゲームと甘い罠あるいはアナザーワールド・アドベンチャー
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<ノイジー・インテルメッツオ>~皇国官吏の災難~






<ノイジー・インテルメッツオ>~皇国官吏の災難~




 よく役人は融通が効かなくて困るという人間がいるが、そういう人間に限って裏で自分以外

の人間が融通を利かしてもらったなどと聞けば、不正だと騒ぎたがるものだ。

 あたりまえの話だが役人が融通を利かせれば行き着く先は不正行為だ。


 だからこそ、役人とは融通の利かない人間の代名詞なのだ。

 だが官僚制度というものが権力を持てば持つほど、特別になどと融通を利かせる人間は増え

てくる。

 これを官僚制度の腐敗と例えるのは、これが普遍的に繰り返される事実だからだ。


 ならば役人に一切の権限を与えなければいいのだが、権限を民間に移したところで内実が同

じなら意味はない。

 それどころか原子炉事故の責任さえとらずに逃げ出し、子会社や関連会社で重役に納まる電

力会社の人間を考えれば、公共に類する事業を形だけ民間にしておくなど論外だろう。


 では、どうすればいいか?

 簡単なことだ。


 利益の一般開放を行い公益を侵す‘下種脳’を排除して、利益の流れを公開し、不正の監視

を民間でできるようにし、不正を行ったものに対する罰則を強化すればいい。

 

 電力会社で言えば送電設備の開放などの独占的な既得権益の開放だ。

 独占禁止法の精神は、本来、こういった権益の集中によって公益が損なわれることに対する

ものなのだが、‘下種脳’どもの利権争いでしか使われることがない。


 公益が失われ続ければ待つのは社会の破綻しかない。

 そうして確実に訪れる破綻から愚かさで目をそらし、何の関係もない人間や自分の子孫を巻

き込んで破滅する人間は数知れない。

 

 だが過去や歴史に学ばず、自分達は例外と考える愚かさもまた‘下種脳’故に歴史は繰り返

していく。

 流行や時代の流れといった‘下種脳’達自身の作った価値観に惑わされず、自らの怠惰さを

容認せず、間違いを正し続ける人間達だけがそれを変えられる。


 だが‘下種脳’達は様々な不利益を訴えて、それを認めようとしないだろう。

 効率的な権益の集中と合理化という自分達の為のシステムを公益の為のシステムと騙り、や

つら‘下種脳’は盲目的にそれが正しいと言い続ける。


 もちろん、公共事業に関わる者や官吏と名乗る者全てがそんな‘下種脳’ではないだろう。

 しかし、やつらは保守と呼ばれる者の中にも革新と呼ばれる者の中にもいる。

 オレは目の前の男を見ながら、こいつはどうだろうと考えていた。


「それでは自働式回街車を破損したのは、あなただということですね」

 そう言ってこちらを見てきたのは、五十くらいだろうか、白髪交じりの銀髪、ドイツ系によ

くある筋の通った高い鼻と窪んだ灰色の眼の男だ。


 自働式回街車、要はオレ達が乗っていた乗合魔動車の運行責任者らしい男だが、この男も唯

のAIというには、役人くさすぎる。

 木端役人特有の保身と形式ばった無責任さが透けて見える態度は、作られた人格からくるの

か、それとも演技なのか。


「何をきいてたの!? わたし達は被害者だよ」

 そう言ったのは、今までのことを説明していたシセリスではなくユミカだった。

 椅子から立ち上がった拍子にボリュームたっぷりのポニーテールが揺れ踊る。


 まるで自分が責められたような顔で椅子から立ち上がりくってかかる彼女に、壁際でオレ達

を監視していた警察士がぴくりと動きそうになったが、ユミカが文句を言うだけなのを確認し

て動きを止めた。


 ほとんど黒に近いダークブラウンの制服と制帽で身を包んだこの若い男は、オレ達が氷塊か

ら出た後、直ぐに賭けつけて来た集団のリーダーで、この村の警備責任者らしい。

 こっちも金髪碧眼のアーリアン系で警察というよりは軍人を思わせる男だ。


 リアルティメィトオンラインでは警察士は魔物とも戦うという設定なのでかもしれないが、

油断は禁物だろう。

 氷の中に閉じ込められた乗合魔動車を見て最初は警戒していたが、ミスリアに事情を説明さ

れてからは納得したのか、それとも女達の美貌に誑かされたのかオレ以外に対する警戒は解い

ている風だが、それも演技でないとも言い切れない。


「私はただ事実確認をしているだけでして」

 琥珀色の瞳で睨んでくる少女に少し苦々しげな顔で応対していた役人はちらりとまたこっち

を見て言う。


「被害を御主人様に請求するというのは筋違いという事は御承知ですよね?」

 今度はシセリスが涼やかな笑みを浮かべて、それに対した。


 いかにも敏腕秘書然とした口調の台詞がその形のいいくちびるから出た途端、役人は更に苦

い顔になった。

 どうやら、オレ達に幾許かの金銭を請求する気だったらしい。


 それが自分の懐に納まらないのならたいした忠犬ぶりだが、そのつけを回されたほうはた

まったものではない。

 自分達が国の金を使う分には甘すぎる金銭感覚を発揮するのに、それが外部の人間となると

手の平を返して杓子定規に出し渋るのが役人根性というやつだ。


「もし、あのまま放って置いたらもっと酷いことになっていましたよね?」

 今度はミスリアが、薔薇が咲いたような満面の笑みで、警察士を味方につけるべく発言を促がす。


「あ、はい。報告では自働回街車は、暴走していたとありますから、おそらくは」

「おそらくでは困るんですよ。自働式回街車は国有財産。陛下の持ち物なのですから、それを

損壊したからには責任が──」

 オレ達の方を向かずに警察士のほうを見ていう役人の神経質そうな声は、しかしそこでまた

遮られる。


「その責を負う者なら今でも街道の脇に立っていますよ」

 シセリスが凄みのある笑みを浮かべて、役人に冷たい視線を向ける。

「このままなら永遠に立ち続けているでしょうから、逃げはしません」

 

「それはどういうことですかな?」

 役人が怪訝そうな顔をして問うのに警察士がミスリアから説明された話をする。


 推測だが暴走の原因が盗賊の仕掛けた落とし穴のせいだろうという話とそいつらが石になっ

て突っ立っているという話だ。


「その話、確認は──」

「今、部下をやっています」

 再び台詞を遮られて渋い顔を役人が浮かべるが、これも人徳の無さが原因だろう。


「・・・嘘じゃない」

 シュリにその夜色の瞳で見つめられ、役人は決まり悪げに目をそらした。


 オレが何もせずとも話が進んでいくのはシナリオを誰かが書いているからか?

 だとすれば、ここで一石を投じればどうなるのだろう。


(相手の出方をただ待つよりはましか)

 オレは殺気を役人達にぶつけながら、ゆっくりと立ち上がった。


 空気が凍り、役人達ばかりか女達までが身を固くした。

 役人は脅えたように椅子から転げ落ち。

 警察士は腰の剣帯に手をやる。


 ユミカは驚いたようにふり返り。

 シュリはきょとんとした顔でオレを見る。

 ミスリアは面白そうな顔になって。

 シセリスは冷然と警察士を見やる。


「トイレに行きたいんだがいいかな?」

 オレは殺気を消してにやりと笑って見せ、言う。


 もちろん本当に欲求に駆られたわけではない。

 ASVR内で目覚めてから排泄をもよおしたことはなかった。


 さんざん食ったり飲んだりしているのに腹も張らず、げっぷすらでない。

 女達はそうではないのでこれはハックの影響、多分飢餓や満腹ペナルティーの無効化が関係

しているのだろう。


「・・・そこを出て左だ」

 警戒していた警察士がやられたという顔で苦笑いを浮かべ、緊張が緩む。


 役人と少女達だけが何があったか判らない様子だった。

 少女達にいたずらっぽい笑いを浮かべて見せると、ユミカはなるほどという顔になって、

シュリは含み笑いを浮かべた。


 これで皆、オレが役人達を脅かして見せたと思い込んだろう。

 だが、オレの狙いはもちろんそんなことではない。


 女達を含めた周囲の反応を見たのだ。

 どうやら、演技をしていた人間はいないようだ。


 誰かを騙そうと演技をしている人間に不意打ちで殺気を浴びせると、どんな詐欺師や名優で

も、反応してしまうものだ。

 もちろんそうでない人間も殺気自体には反応するが、その反応には明らかな差がある。


 昔の武将やヤクザが使う手口だが、殺気に慣れてない人間にも慣れすぎた人間にもきくので

目を養う必要はあるが有効な手段だ。

 ただ完全に洗脳下に置かれた人間は騙しているという意識が潜在意識の中にすらないので効

果はない。


 ユミカとシュリも意識的にオレに近づいたのではなく、オレに懐いて見せているのではないようだ。

 シセリスも自然に警察士のほうに注意を向けていたし、ミスリアは検証済みだ。


 役人達はと言えばごく自然に反応していた。

 少なくとも彼らにオレをハメているという意識はないだろう。


 では、この村の他の人間達は?

 オレは部屋から出ながら、彼ら全てが人格を書き換えられているのだろうかと考えていた。








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