<ハーレム・イリュージョン>~現に在るは仮初めか~
初めに言っておこう。
人生というやつは限りなく不公平だ。
普通の人生と言われてるやつは、ありふれてはいるが全てではないし、絶対でもない。
世の中にはありふれた人生もあるが、まるで想像できないような事が起きる人生もある。
だからあきらめてはならない。
安易な妥協と満足は、人生の終わりを意味する。
そう、だから決して──
「ねぇ♥ 何、考えてるの?」
涼やかな女の声が耳をくすぐり、柔らかな二つのふくらみが背中にあてられる。
嗅ぎなれた香木に似た香りがただよい、オレを包んだ。
聞くものによっては冷たく感じられる声質のこえだが、今は甘い響きがこもっていた。
下着をつけていないのか小さく柔らかな尖りが、背中に感じられる。
「ああっ! ずるい、あたしもっ!」
やや高めのアルト──少女のはずむような声がして、右腕がとられ背中の膨らみよりはやや小振りの胸が押しつけられ、しなやかな白く長い脚がベッドに腰掛けたオレの脚にからむ。
「………………」
オレは読んでいた本から顔を上げず、そのまま調べものを続けた。
顔を上げれば、絶世のとついてもおかしくない美女と美少女が挑発するようにオレを見ているだろうことは判っている。
だからこそ、オレは黙ってやるべきことを続ける。
「あなた達っ! また御主人様のお邪魔をして!」
扉が開く音がして、清楚と呼ぶのがふさわしい凛とした声が二人をとがめた。
オレを御主人様と呼ぶこの声の持ち主も他の二人に勝るとも劣らない美貌の持ち主だ。
「わたしは、彼の雇い主だからいいのよ」
背中でそう声が答え、小さな尖りがすべるように動いた。
「あたしも恩返しをしてるんだから、いいの」
右側でそう声がするのを聞いて、今度は左腕にも小さなふくらみが押しつけられた。
「恩返し……します」
左から聞こえたのは、少し幼さの残る少女の鈴のような声だ。
微かに震えるようなソプラノはどこかさびしげにも聞こえるが、決意に満ちている。
こっちもその声や歳に似合わない妖艶な美しさを持つ少女だということをオレは知っていた。
「ああもう、あなた達がそんなだから、真似しちゃったじゃないですか」
「そうね。 人まねはよくないわね。 あなたたちは離れなさい」
「えーっ! そんなのなし ずるいよ」
「……や」
(女三人よればというが、それは容姿や性格に限らずらしい)
オレは作業を続ける頭のかたわらでそう思った。
不自然なほど、美女達が集まるこの空間をハーレムなどと呼ぶやつもいるかもしれない。
しかし、オレは据え膳を食って腹を壊したやつを山ほど見てきた。
考えてみればいい。
不自然なことには大概、裏があるものだ。
まして、今、オレが置かれた状況は自然さのカケラもないものだった。
納得できない?
なら語ってやろう。
どうしてオレがこの状況に置かれたのか。
幻想、或いは
狂気、或いは
レジスタンスの物語を。