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祈り石  作者: 蝸牛
1/2

始まり・1

チャイムが鳴り、高校になって初めてのHRが終わった。


周りはまだ緊張感の薄れない様子で互いに名前を名乗り合ったり、携帯のアドレスを交換し合ったりしているようだ。俺はそれには参加せず、真新しい鞄を抱えて教室を出た。参加したくなかったわけじゃないし、むしろ友人を作りたいって気持ちはあった。ただできなかったんだ。この後の用事に時間通りに行くことの方がより重要だったから。


慣れない校舎を、見取り図を見ながら歩いていく。数年前に改築されたばかりの綺麗な校舎は木の香りがした。中学の頃とは大違いだな、と思いつつ歩を進めた。南校舎から渡り廊下を経由して、北校舎へと入る。こっちは理科室や職員室など、HR以外の教室が並んでいる。


そして五階の、階段を背にして右半分。そこが俺の目指していた場所だった。


五階には倉庫と現在使われていない第三芸術室、そして「その」教室だけだ。


フロアの右半分を使ったその教室は、備品室という建前に比べ明らかに大きく、不自然だった。五階を訪れる生徒はまったくと言ってもいいほど居ないから、その奇妙さに気付かないみたいらしいけれど。


俺は備品室と書かれた教室の扉の前に立った。心臓がどきどきいってる。馬鹿みたいに緊張してる。まぁ、今の自分の状況を考えると、仕方ないことだろう。


俺は小さく深呼吸をした。徐々に心臓が平生を取り戻してきたのが分かる。・・・もう大丈夫だ、そう自分に言い聞かせて扉を二回叩いた。


・・・が、反応がない。思わず拍子抜けする。そういえば、防音になっているため外の音は聞こえないのだと言われていたことを今更思い出した。勝手に開けてもいいものなんだろうか・・・。一応、初めから礼儀を欠くっていうのは良くないよな。でも、ずっと此処でじっとしているわけにもいかない。けど初対面っていう大事な席で・・・。


そう悩んでいると、内側から扉が開いた。扉にぶつかりそうになり、反射的に飛び退いた。おかげさまでせっかく落ち着いた心臓がまた鳴り出した。


「何してるん?入らへんの?」


そう言って中から顔を覗かせてきたのは、おそらく俺と同級生であろう男の子だった。髪はアシンメトリーで、猫のように大きな、少し目尻の方が上がった目をしている。


「え、あ・・・」


返事をしようとして、ふと疑問が頭をよぎった。どうして俺が居ることが分かったんだろうか。


「ま、とりあえず入りぃや」


俺の心情を知ってか知らずか、その子は俺の手を引いて中へと連れ込んだ。えらく小さな手だった。


教室へ入ると、背中でバタンと扉の閉まる音がした。ぐるりと中を見渡す。教室の中は想像以上に広かった。大きなテーブルが一つ、その周りにソファーが置いてある。見るからに高機能のパソコンや大きなテレビまで置いてあり、更に部屋の両側に扉がある。まだ部屋があるってことだろう。


そして、部屋には俺の他に、さっきの子を含めて7人、生徒が居た。皆ソファーに座っている。


その中で、扉から見て真正面に居た人が声をあげた。


「初めまして、白石秋良(しらいしあきら)君・・・だよね。まぁとりあえず座ってくれる?」


そう促され、俺はさっきの子の隣に腰かけた。今まで座ったこと無いくらいふわふわで、思わずバランスを崩した。絶対高い、このソファー。


全員が揃ったのを確認すると、その人はぐるりと全員を見回した。


「じゃあ、まずは自己紹介かな。俺は3年の黒川候(くろかわこう)。一応部長みたいなのやってます」


そう言って、黒川先輩は軽く笑う。大きな目、小さい身長に白い肌と、一見すると女の子に間違えそうになるほど可愛らしい。茶色がかったふわふわの髪は、前髪をピンで留めている。


その次に、黒川先輩の右隣に座っていた人が口を開く。


「俺は3年の堤紫(つつみゆかり)だ」


髪は短く、綺麗な黒色。二重でキリッとした目をしていて、厳格な感じがありながらもどこか妖艶な雰囲気がある。


「・・・3年赤谷大翔(せきやひろと)です」


そう言ったのは俺の隣の隣に座ってる人。後ろは肩まで、前は鼻の辺りまで伸びた長い髪の下から見える鋭い目が若干怖い。身長もかなり大きい。


赤谷先輩の向かいに座っていた人が次に口を開いた。


「あ、次は僕かな。僕は2年の宮沢橙一(みやざわとういち)って言います。よろしくね」


後ろ髪と同化した長い前髪を真ん中で分けていて、後ろ髪は上半分を束ねている。黒縁の眼鏡から見える目は、一重で優しい印象を持たせた。話し方も落ち着いている。


「えっと、俺は高崎青也(たかさきあおや)!1年やで!」


俺の隣の男の子が元気に言った。その笑顔は本当に嬉しそうだ。隣に座って分かったけど、かなり小さい。160ないくらいかな。


「じゃあ次は俺?俺は1年の式部緑羽(しきぶりょくう)です~」


宮沢先輩の隣の人がそう言った。のんびりとした口調、ふんわりとした目や顔立ちをしていてるけれど背は大きい。少し癖のかかった髪をしている。


式部君は、ちらりと左隣・・・俺の真正面の男の子の顔を見て、さっきの口調で語りかけた。


「ほら、龍ちゃん。次龍ちゃんの番だよ~?」


ちっ、とその子は舌打ちをして、不愉快そうに眉間に皺を寄せた。


黄島龍(きしまりゅう)、1年」


目を覆うように伸びた前髪から、少したれ目の目が覗く。目の下には泣きぼくろがあり、典型的な男前といったやつだろうか。少し迫力のある顔だ。見るからにヤンキーだ。


一瞬空気が止まって、皆が俺の方を見た。自分の番だと忘れてて、慌てて声を発する。


「あ、お、俺は1年の白石秋良っていいます。よろしくお願いします・・・」


俺以外全員美形じゃないか、と異様なコンプレックスに襲われる。ちなみに自分で言うのも悲しくなるが、俺はいたって普通の見た目だ。突出していいとことも悪いところもない、THE 平凡。


そうして全員の自己紹介が終わり、初めに口を開いたのは黒川先輩だった。


「じゃあ、分かってると思うけどもう一度説明しておこうか。俺らの仕事・・・祈り石について」

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