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第六話 友人

 短いです。……どうやら私、長く話を書けないようです。

 もう長くするのは諦めます。

 ルーシェルが目を覚ますと、近くでノギスが眠っていた。いつもなら自分より早く起きているはずなのに、と不思議に思いながら大きな欠伸をする。

 その時に出た小さな声が聞こえたのか、ノギスが身動(みじろ)ぎをした。


「……ん」

「あ、起こしちゃった? 眠いなら寝ててもいいよ」

「いや、いい」


 そう言って、ノギスはむっくりと起き上がった。目が半分以上閉じている。なぜこんなに眠そうなのだろう。

 ノギスが昨日の夜出かけていたことを知らないルーシェルは、首をかしげて彼を見た。


「具合悪いの? 薬を作ろうと思っても、魔法使えないしな……」


 薬を作るには『調合』の魔法を使う必要がある。しかも材料を集めるのにだって魔法を使うのだから、どうしたってルーシェルには薬が作れない。



 魔法が使えない魔女は、寿命が長いだけの人間だ。



 そのことを改めて感じて、ルーシェルは少し落ち込む。

 髪の毛が黒くて、瞳も黒い。魔法が使えないのにそれは変わらず、それだけで人間から恐れられる。今の自分は非力だ。もし人間たちに襲われたら、太刀打ちできない。

 それは、大切なものを守れないということ。

 魔法が使えないのなら、自分は生きている意味がないように思う。契約のせいで、自分が死ぬとノギスまで死ぬようになっているから、わざと死んだりはしないが――


「魔法が使えないのが何だ。ルーシェルはルーシェル、それは変わらん。俺は守られるだけなんてごめんだ。これで少しは、お前の役に立てる」

「……ノギス、この千年の間に心が読めるようになってないよね?」


 つい疑ってしまうと、睨まれる。


「あいつじゃあるまいし、俺にそんなことできるわけないだろう」

「……セリア、もう来ないのかな」


 つい漏らしたルーシェルの言葉に、ノギスはしまった、という顔をした。彼は彼なりに、きっとルーシェルのことを心配してくれている。だから、そんな顔をしなくともいいのに。


「別に気を遣わないでいいんだよ。僕はノギスが心配してくれてるだけで嬉しいし」

「な! 誰がお前の心配なんかっ!」

「あははっ」


 必死に否定するノギスがおかしくて、思わず笑ってしまう。

 ルーシェルの笑顔を見たノギスが、なぜだか安心したようにため息をついた。


「?」

「いや、何でもない。……きっとあいつは来るぞ」


 彼がそう言った途端、誰かが洞窟に飛び込んできた。


「ルーちゃん! 昨日は来れなくてごめんね!」


 そう言いながら。

 ルーちゃん、と自分のことを呼ぶのはセリアだけだとわかっているのに、彼女のことを凝視してしまう。海と同じ色のこの瞳は、まさしく彼女だ。瞳に気をとられて髪の毛をそこまで見ていなかったが、銀色の髪も美しい。思い出せば確かにセリアは銀髪だったから、目の前にいる彼女が本物だとわかる。


 なぜセリアは謝ったのだろうか。来れなくて、ということは、本当は来るつもりだったのだろうか。だったらなぜ来なかったのだろう。

 ぐるぐると頭の中を考えがめぐって、ルーシェルは何が何だかわからなくなった。


「ちょっと昨日は用事があって……。ごめんなさい」

「え!? な、何で謝るの? セリアは何も悪いことしてないよね?」

「今日はルーちゃんと、友人になりに来たの」


 さらっとルーシェルの質問を流したセリアの言葉に、首を傾げる。一昨日友達になるのを断ったはずだ。友人も友達も意味は同じだと思うのだが。もしかして、言葉が違うのならいいとか、そういうことだろうか。


「ええ。『友達』になるのは断られたけど、『友人』になるのは断られてないわ。……白猫君にも、昨日の夜ルーちゃんと『友人』になってほしいと頼まれたから」

「余計なことを言うな!」


 だから、ノギスは眠そうだったのか。納得してノギスを見つめると、彼は怒ったように顔を背ける。これはノギスの照れ隠しだ。


「……ノギス。君は僕とセリアが友人になってほしいんだね?」


 答えは返ってこなかったが、それを肯定の意味だと受け取る。ルーシェルはため息をついて、それでも笑顔でセリアに言った。


「しょうがない。ノギスの頼みなら断るわけにはいかないよ。僕は『友達』になるのは断ったけど、『友人』になるのはまだ断っていない。……よろしくね、セリア」


 握手をするため手を差し出すと、セリアはその手を無視して抱きついてきた。


「ルーちゃん大好き!」

「へ……。セ、セリア、照れるからやめて」


 顔を真っ赤にしてつぶやくと、もっと強く抱きしめられる。セリアの力はそれほど強くないから、逃れることはできるが……。

 セリアの嬉しそうな顔を見て、このままでもいいかと思った。彼女の笑顔は本当に嬉しそうで、ルーシェルも思わず笑みを浮かべてしまう。


 何だかノギスがしっぽをパタパタ振り始めた。なぜ怒っているかわからなくて、ルーシェルは抱きしめながら首をかしげる。彼が怒るようなことを、した覚えはないのだが。今したことの中に、何かがあったのだろうか。

 ルーシェルが考えれば考えるほど、ノギスのしっぽの動きは大きくなっていた。


     * * *


 気に入らない。

 ルーシェルが笑っているのも、首をかしげているのも。


 自分には、滅多に笑いかけてくれることなどないのに。ノギスがなぜ怒っているのか、ルーシェルがわかっていないのも腹が立つ。長い間一緒にいるのに、彼女はノギスの気持ちがわかっていない。


(……まあ、いいか。こんなに嬉しそうなルーシェルは初めてだしな)


 今まで彼女の笑顔は数えるほどしか見たことがない。それなのにここ数日笑顔が増えたのは、少女のおけげだろう。

 あの魔女と友達になった時は、ここまで嬉しそうにはしていなかった。やはり、この少女が人間だからなのだろうか。


(ったく、自分で頼んで嫉妬するってのはどうなんだ?)


 少女に頼んだのはノギスだ。それでもやはり――









 大切な主に、ノギスは笑いかけてほしかった。



 ノギスは、ルーシェルに対して恋愛感情を抱いていません。大好きではありますけどね。

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