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魔女と巫女の物語  作者: 藤崎珠里
後日談
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後日談 エデの恋[上]

 二ヶ月も更新せず申し訳ありません。今回は二話まとめて更新いたします。



 最初はシルヴァ視点です。本文の中でノエルに見覚えがある、と考えていますが、彼はノエルに人質に取られていた間の記憶を消されたという設定です。人質に取られていたということは以前書いていましたが、記憶が消されたということは書いていなかったのでつけたしします。

 雪。それを見ると、どうしても彼女のことを思い出してしまった。

 亜麻色の髪と、琥珀色の瞳。そして、雪のように真っ白な肌。真っ白なのにもかかわらず、自分と話す時には必ず彼女の頬は桃色に染まった。

 嬉しそうに微笑む彼女の笑顔は、綺麗だと思った。


「……もう、君が死んで十年が経つな」


 彼女が死んだ時は、自分は十二歳。今は二十二歳で、あの時七歳だった弟はもう十七歳だ。弟の幼馴染の少女も、弟と同じで十七歳。二人して自分の後を引っ付いて離れなかったあいつらが、最近は他の友人のもとへよく遊びに行っているなんて。自分も年を取ったな、と思ってしまうのはそのせいだ。

 その友人を紹介するとエデが言って、一昨日の聖誕祭は十一人という人数で祝った。いつもは三人だけなのに、今年はにぎやかだった。そういえばノエルという女にどこか見覚えがあったのだが、気のせいだろうか。数日間の記憶がないことと、何か関係があるのかもしれない。


(そんなことはどうでもいい)


 今まで考えていたことを頭の隅に追いやる。

 十年の時は長い。色んなことが変わってしまう。

 そんなことを思いながら、彼女の墓に積もった雪を丁寧に払った。彼女が好きだった紫陽花(あじさい)ではないが、持ってきた花を供える。少し逡巡した後、思わず買ってしまった指輪をそうっと置く。

 指輪を贈るのは、彼女との約束だった。


『大きくなったら、わたしに指輪を贈ってください。約束ですよ?』


 にっこりと微笑んで、彼女は言った。彼女は丁寧な口調で話すのが癖で、かなり親しい自分にもこの口調だった。まあその口調で言う言葉のほとんどが、ぐさっと来るようなきついものだったが。

 そのことを思い出して苦笑しながら、口を開く。


「大きくなったら……具体的な年齢がわからなかったから、いつ買えばいいのかわからなかった。約束する時は、もっと具体的に言ってもらわなければ困る」


 ここに来ると、なぜか彼女の墓に話しかけてしまう。完全な独り言だが、返事が来ることをほんの少し期待した。

 もちろん、もうこの世にはいないのに答えが返ってくるわけはない。目を閉じて、彼女が言いそうな言葉を考えてみた。


『仕方ないじゃありませんか。あの時は緊張していて、そんなこと考え付かなかったんです。約束した次の日に死んでしまったんですから、言い直す暇もありませんでしたし』


 頭の中の彼女はそう言って、拗ねたように顔を逸らす。もし彼女がここにいたら絶対にこう言うだろうと思って、何だかおかしくなった。十年経っても変わっていなかったら、だが。

 雪は絶えず降り続けている。また積もり始めた雪を払って、墓を優しくなでた。


『はあ……貴方、いい加減わたしのことなんて忘れて、恋人を作ったらどうですか』


 なぜだかそんなことを言われた気がして、むっとしてしまう。自分が愛しいと思うのは、今も昔も彼女だけだ。弟や、その幼馴染の少女だって好きは好きだが、それは彼女に対する想いとは違う。

 恋人を作る、なんて絶対に無理な気がした。自分は彼女に心からほれ込んでしまっているので、他の者に特別な感情を抱くことはまずないだろうと思う。十年も経っているのにどうしてそこまでわたしを好きでいるんですか、と彼女には呆れられてしまいそうだが。


(……さて、行くか)


 帰ったら、弟が作った『幻影』の術を調べるか。一族の中でも弟は強い力をもっているので、自分にはできない『新しい術を作る』ということも、いとも簡単にやってのける。自分にできるのは、術の改良を手伝うことくらいだ。


「……もう行くことにする」

『ふん、来年貴方がまたここへ来ないことを期待しますよ』


 生意気なことを言う彼女が頭に浮かんで、顔をしかめる。いちいち彼女の言うことを想像してしまうとは、自分はどれだけ彼女のことが好きなのだろう。とても好きなのはわかっているが、ここまで好きだと自分でも呆れてしまう。


「……クリスラ」


 彼女の名前を呼ぶ。


「君に、もう一度会いたい」


 それだけつぶやいて、歩き出す。

 弟のように力が強くても、死者と再び会えるような術は作れない。弟よりも力の弱い自分が、そんな術を作ることは不可能だ。

 だがそれでも、そう願ってしまうのだ。

 彼女に、もう一度でいいから会いたい。

 願ってしまう自分が嫌になる。

 シルヴァは小さく首を振って、歩を進めた。


     * * *


 何だか、エデの様子が変だ。

 そのことにルーシェルが気付いたのは、エデとクロードが来てからしばらくしてからだった。

 いつもと同じように話しているのだが、何度も小さなため息をついている。そして時折、窓の外をどこか遠くを見つめるような目で見るのだ。


「……はあ」


 耳を澄ましていなければ聞こえないほどの小さなため息が、また聞こえた。ノギスの耳にははっきりと聞こえるのだろう、彼はしっぽをパタパタしながら丸くなっている。

 エデの様子がおかしいことに、セリアは気付いているだろうか。

 セリアの顔をそうっと伺うと、セリアと目が合ってしまった。セリアは目を瞬いた後、困ったように微笑んだ。どうやら彼女も気付いているらしい。エデの様子が変だと思ったのは、ルーシェルの勘違いではなかったのだ。

 そうなると、エデのことがますます心配になってくる。訊かれたくない雰囲気を出しているので、理由を尋ねたくとも尋ねることができない。


(クロードなら、何か知ってるかな?)


 クロードとエデは親しいし、何か彼女から聞いているかもしれない。

 だが、この狭い家でクロードに尋ねるとなると、必然的にエデも傍にいることになってしまう。それだったらクロードに訊く意味がないのだ。それにクロードは今、椅子に座って本を読んでいるので話しかけにくい。彼はここに来ると決まって何か本を読んでいるが、だったらなぜここに来るのだろうか。

 急に訪れた沈黙に、エデは不思議そうな顔をした。


「どうしたの? ルーシェルもセリアも、急に黙っちゃって」

「……もしかして、何回もしてたため息は無意識だった?」


 エデが小さなため息をついたから、この沈黙は訪れたのだ。ため息をしていたのはエデなのに、本人がどうしたのと訊いてくるということは、あのため息は無意識だったのだろう。

 確信を持ってエデに尋ね返すと、エデは予想通り首をかしげた。


「ため息?」


 何度もしていたため息が意識的にしていたものでないのなら、それほど何か嫌なことがあったのだろうか。

 しかし、何があったかは尋ねられない。

 どうしようかと考えながらエデの顔をじっと見つめると、エデは苦笑いしながら口を開いた。言いたいことが伝わってしまったらしい。


「ちょっとね……シルヴァの、ことで」

「告白でもしたの? ディーちゃん」


 あっけらかんと、セリアはエデに訊く。それは訊いてはいけないことなのではないだろうか。そもそも、この質問ができるのなら何があったか普通に訊けた気がするのだが。

 エデの顔が瞬く間に赤くなっていった。音で表すのなら『ボンッ』だろうか。それほど一気に顔が赤くなった。


「こ!? そ、そんなのできないって! そもそも玉砕するのわかってるのにこ、告白なんてできるわけない!」


 玉砕するのがわかっている、という言葉を聞いた途端セリアはにっこりと笑う。なぜそこで笑うのだ、とルーシェルは目でセリアに訴えかけた。セリアの笑みのせいで、エデがものすごく落ち込んでしまった。


「あたしが玉砕するのがそんなに嬉しいのかな、セリア……」

「そういうわけじゃないの。ちょっと今の話を聞いて、ムカッとして。こんなに可愛いディーちゃんを……シラさんは、ディーちゃんのことを妹みたいに扱ってるの?」


 どうしてそれを、とでも言いたげに、エデは目を見開いた。


「うーん……勘? 玉砕するのがわかってるってことはシラさんにきっぱり断られたか、そういう対象に見られてないってわけでしょう? クロ君……弟の幼馴染なんだし、ディーちゃんは妹みたいに扱われてるのかな、って」


 エデは言葉に詰まった。妹のように扱われているのは事実らしい。メリアから聞いた話は本当だったというわけだ。そんな嘘をついてもメリアには何の得もないから、事実なのだろうとは思っていたが。

 エデはうつむいて、ぼそぼそと話し始める。


「シルヴァはあたしのこと、妹しか見てくれないんだ。いや、今日落ち込んでたのはそのせいじゃないんだけど。妹として見られるのが当たり前で、そのことに慣れてるから」

「それに慣れちゃ駄目よ。ディーちゃんがそう思ってると、シラさんだってそう思って一生恋人になんてなれないわ」

「それはわかってるけど……恋人になれなくても、ただ傍にいるだけでいい、かな。それだけで幸せだし」


 ルーシェルはこういう話が苦手だ。一人だけ仲間はずれにされているようで、セリアがエデの相談を聞くのを寂しく思いながら見つめる。

 ただ傍にいるだけで、幸せ。

 その気持ちがわからないのは、ルーシェルが魔女だからだろうか。セリアやノギス、エデたちの傍にいるだけで幸せなのだが、それはエデが話しているものとは違う気持ちだろう。

 することがなくなったルーシェルは、丸まっているノギスのことを意味もなくじっと見てみた。眠ってしまっているようで、ルーシェルの視線にはいくら経っても気付かなかった。


(昔は、することがなかったら薬を作ってたんだよなあ……)


 魔力がない今、薬を作ることはできない。

 おそらくだが、昔であったらすることがなくとも気にせず、ぼーっとしていただろう。


(変わったな、僕も)


 最近、人とかかわりを持つことにためらいがなくなってきた。『幻影』の術をかけてもらっているおかげで、魔女だとばれる心配がなくなったからかもしれない。メリアや他の知り合いが家を訪ねてきたときのために『幻影』の術をクロードにずっとかけてもらっている。髪の毛が茶色なのにも、瞳が緑色なのにも慣れてしまって、最初からどちらもこの色だったと錯覚してしまいそうになるのだ。

 慣れてしまっては駄目だ。

 慣れてしまっては。


(……ん? 何で、慣れたら駄目なんだっけ)


 それさえわからなくなってしまったとは、相当重症のようだ。何が重症なのかはわからないが。

 ふと、出窓に置いてある白猫のぬいぐるみに目が行った。ノエルが誕生日にくれたもの。彼女も変わったな、と思う。

 皆、変わってしまうのだ。変わらないものなど何もない。

 セリアもエデもクロードも、皆年を取っていく。しかしその中で、ルーシェルだけはずっと生きていかなくてはならない。ルーシェルだけは、姿が変わらないのだ。

 アデライードは言っていた。『蘇生』の魔法を使ったら、魔法を使えなくなるが寿命が変わるわけではないと。


(僕は千年封印されていた。……その間って、きっと寿命は減らないんだよね)


 ノエルも千年以上生きている。アデライードだって、もう二千年はこの世を生きてきたのではないだろうか。

 魔女の寿命は、短くて百年。

 一万年生きる魔女もいるらしいが、それはごく少数だ。

 つまり、ノエルもアデライードもルーシェルより先に死んでしまうかもしれないのだ。ルーシェルが先に死ぬよりも、その可能性の方が高い。


(契約が破棄されるまでは、ノギスとはずっと一緒にいられる、のかな)


 ルーシェルがノギスとの契約を破棄することはまずない。魔女が死ぬまで使い魔は生きるのだ、それだったらルーシェルが死ぬまでノギスは生き続ける。

 白猫のぬいぐるみから、本物の白猫に視線を移す。

 ノギスは以前より言葉が少なくなり、眠ることが多くなっているのだ。それは、衰えによるものなのだろうか。

 千年も歳が離れた使い魔。そんなものは聞いたことがない。

 だから不安になるのだ。


(ノギスと……ずっと一緒に)


 一緒に、いられるのだろうか。


「セリアの言う通り、シルヴァに伝えてみようかなあ……?」

「そうしたほうがいいわ。玉砕したって構わない、もしそうなったら他の恋を見つければいいんだから。ディーちゃんみたいな可愛い女の子、ほしがる男はたくさんいるわよ」

「……セリア、たまにすごいくさい台詞言うよね」

「え、今のくさかったかしら」


 セリアとエデの会話で、はっと我に返る。聞いていないうちに色々と話が進んで、エデはシルヴァに告白することにしたらしい。

 何だか彼女たちの話を聞いていると、セリアのほうが年上のように思えてしまう。セリアの歳は十一だった気がするのだが。そしてエデの歳は十七だった気がする。


「何だか二人の歳が反対のような気になってくるのは、僕の気のせい?」


 少しの間黙り込んだ二人は、同時に「「確かに」」とうなずいた。そして顔を見合わせて笑いあう。それでいいのか、とルーシェルは言いたくなった。

 そのとき、今まで本を読んでいたクロードが何かを思い出したように顔を上げた。


「そういえばエデ、兄さんは誰かに指輪を買っていたようだぞ」

「え」


 エデの表情が凍りつく。

 ルーシェルはがたん、と椅子を倒して立ち上がった。エデの気持ちを考えれば、彼にだってそれは言ってはならないことだとわかるだろうに。慌てふためきながらクロードを責める。


「ク、クロード! わざわざそんなこと言わなくても……! というか、それどうして知ってるの?」

「家族のことでもあるし、兄さんが指輪を買うところを目撃した人が、なぜか俺に報告してきた。エデには伝えるなと言っていたが……言ってはまずかったか」

「当たり前だよ!」


 エデに伝えるなと言われていたのに、なぜこんなあっさり言ってしまうのだ。もしかしてクロードはするなと言われるとしたくなる人なのだろうか。

 クロードに報告をした者にも、文句を言いたくなる。彼に言わなければ、エデにシルヴァが指輪を買っていたことを知られずにすんだのに。

 固まったままのエデの顔を、ルーシェルはおそるおそる覗きこんだ。エデはルーシェルを見て、はっとして口を開いた。


「ルーシェル……知ってたのかな? シルヴァが誰かに指輪を買ってたって」

「それは」


 傷ついたような顔をしているエデに、ルーシェルは言葉を続けられなかった。


「……ルーシェルを責めたって仕方ないよね。ルーシェルは、あたしのことを思って言わないでおいてくれたんだもん」


 エデは自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。

 ルーシェルはエデを慰めようとして、その瞳が涙で潤んでいることに気付きまた何も言えなくなる。どうやら彼女を傷つけてしまったらしい、ということはわかっても理由がわからないルーシェルには、何を言う資格もない。

 クロード、とエデは彼に声をかけた。


「シルヴァが指輪を買った相手って……クリスラお姉ちゃん?」

「はっきりとはわからないが、おそらくそうだろう」


 クリスラ。どこかで聞いた気がする。

 そしてああ、と思い出した。一昨日聞いたばかりだ。メリアが、シルヴァはクリスラという少女のために指輪を買ったと。

 メリアとの会話を思い出しているルーシェルの頭を、急に誰かがなでた。クロードとエデは話しているのだから、セリアだろう。

 後ろを向くと、予想通りセリアがいる。ルーシェルが立っているので、彼女は背伸びをしている状態だった。

 エデたちが気にしないよう、ルーシェルは小声で言った。


「どうして、僕の頭をなでるのさ。今なでるべきは、僕じゃなくてエデじゃない?」

「ディーちゃんは、いいの」


 優しい笑顔でセリアは首を振った。そんな顔で言われると、ルーシェルにはなでられ続けることしかできない。

 セリアはなでるのをやめると、ルーシェルが倒した椅子を元に直す。無言で椅子を指差されて、ルーシェルは素直に座った。座った途端、今まで眠っていたノギスがひらりとルーシェルの膝の上に乗る。そのまま丸くなって寝始めたが、彼なりの気遣いだろう。


「ありがと、ノギス」


 聞こえていないだろうが礼を言って、ノギスの少し硬い毛をなでる。

 なぜ傷ついているエデではなく、ルーシェルが慰められているのだろうか。間違っている気がするのだが。

 エデのほうを向くと、彼女はうつむいて何かを考えているところだった。


「クリスラお姉ちゃんのこと……シルヴァ、まだ好きだったんだね」


 よし、とエデは両手を固く握った。


「当たって砕けろだ、玉砕してやる! 今からシルヴァに告白してくるよ!」


 そう言うなり、ものすごい速さで走って家を出て行ってしまった。おそらく何らかの術を自分にかけたのだろう。あまりの速さに、ルーシェルはエデを止めることができず唖然とした。

 当たって砕けろとは、成功するかどうかわからなくても思いきってやってみようという意味だった気がする。それなのに玉砕してやるとは。失敗することが確定しているではないか。


(……どうして、振られることがわかってるのに告白しようって気になるんだろう)


 それを勇気と呼ぶべきか、無謀と呼ぶべきか。走り出すまでのエデの体が震えていたような気もするから、無謀ではなく勇気と呼ぶべきなのかもしれない。

 ただルーシェルには、結果がわかっているのに行動することが理解できなかった。少しでも可能性があるのならともかく、エデ自身でもシルヴァがクリスラのことを好きだと確認していたというのに。


「セリア。君には、エデの気持ちがわかる?」

「ルーちゃんはわからないの?」


 反対に訊き返されてしまって、ルーシェルはたじろいだ。そう尋ねてくるということは、セリアにはエデの気持ちがわかるということなのだろうか。

 セリアは小さく笑った。


「なんてね、私にもディーちゃんの気持ちはわからない。特別な意味で人を好きになったことはないから。……けど、何て言えばいいかしら。ディーちゃんが何でそう思うのかって言うのは何となくわかる」


 それは、どういうことだろう。

 エデの気持ちはわからない。なのに、エデがなぜそう思うのかはわかる。

 ルーシェルには、セリアの言っていることがよくわからなかった。

 首をかしげると、セリアは笑みを深めた。


「ルーちゃんはやっぱり……恋した方がいいと思うな」

「どうしてそうなるの!?」

「ふふっ、今頭に浮かんだ人は誰?」


 浮かんだ人なんでいないよ、と言い返しながらも、ちらりと頭を過ぎる顔にルーシェルは苦い表情をする。なぜその顔が浮かぶのだ。確かに、今は大事な友人だと思ってはいる。だが。だが、だ。

 彼と出会ったときのことを忘れたわけではない。しかも、今日まで過ごしてきて彼に惹かれるような出来事は、何一つないはずだ。

 ルーシェルの表情を見て、セリアは苦笑してつぶやいた。


「自覚するまでもう少し、か。思っていたよりも早かったな」

「……何のことさ」


 独り言のつもりだったのか、ルーシェルが尋ねるとセリアは目を瞬く。そして、満面の笑みを浮かべた。









「覚えてない? 前に、『先は長い』ってディーちゃんと話してたこと!」




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