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魔女と巫女の物語  作者: 藤崎珠里
後日談
48/56

後日談 雪の日[上]

 遅くなった上、始めての上下もの……。思ったよりも長くなってしまったんですよね。[下]を投稿できるのはいつでしょうか……。

 目の前に、銀世界が広がっていた。

 手のひらを上に向けると、空からふわふわと落ちてくるそれは溶けていった。


「……セリア、雪積もってるよ!」


 家の中に声をかけると、驚いたような声の後に急いで走ってくる足音が聞こえる。

 バン、と勢いよく扉が開き、手袋と襟巻きをしたセリアが出てきた。興奮しているのかセリアの顔はほんのり桃色に染まっていた。手袋と襟巻きも桃色で、よく似合っていると思う。

 後ろから、ノギスが寒そうに出てきた。猫は寒さが苦手なのだろう、ちらっと雪を見た途端に中へ戻ってしまった。ノギスのことは放っておこう。こんな寒いのに外へ来させたら可哀想だ。

 さっそく雪の玉を作っているセリアを、ルーシェルは微笑ましげに見る。


「ここら辺は雪があまり降らないってメリアさんは言ってたけど、見事に積もったね」

「えい!」


 返事の代わりか、雪の玉がルーシェルの顔面に直撃した。

 数秒ルーシェルは固まった後、ふるふると首を振って雪を落とした。セリアのことをキッと睨み、素手で雪を掴んで玉にすると投げつける。冷たいが、気にしない。

 顔に当てられたからとは言え、顔に当て返すのは可哀想なのでお腹の辺りを狙う。


「……えーい!」


 セリアは大きめの雪玉を作り、投げつけてきた。

 売られた喧嘩は勝てないとわかっているとき以外買う主義だ。ルーシェルはまた素手で雪玉を作った。


「仕返しだ!」

「えい!」


 生まれて初めての雪合戦。雪合戦という名の遊びがあることは知っていたが、相手がいなかったのでできなかったのだ。そもそも魔女の自分が、こうして外に出ていることさえ以前では考えられないことだ。『幻影』の術が水を触ってはいけないものだったら、きっと雪も触れなかっただろう。

 しばらく雪合戦を続け、手の感覚がなくなってきた頃ルーシェルはつぶやいた。


「……セリア、僕、思ったんだけど」

「な、何、ルーちゃ、ん」

「雪合戦、って、ずっとやっ……てると、つか、れるね」


 いや、単に自分たちの体力がないだけなのかもしれないが。まだそこまで時間が経っていない気がするのは気のせいなのかそうじゃないのか。

 力なくうなずいたセリアは、座り込もうとして顔をしかめた。雪があったことを一瞬忘れていたのだろう。雪の上に座るのは冷たいし、服がぬれるからやめたほうがいい。


(……ん?)


 息が整うのを待っていたルーシェルは、首をかしげた。


「ねえ、僕って何をしに外に出たんだっけ?」

「あ……。えっと、メリアさんの所に行くんじゃなかった?」


 そういえばそうだった。メリアに会いにいこうとして外に出たのに、つい雪を見て気分が高揚し雪合戦をしてしまった、と。

 雪を見たのは別に初めてではないが、一緒に遊ぶ者がいるのは初めてだった。メリアに会うのは約束していたことではないからまあいいか、とルーシェルは手のひらに息を吹きかけた。かじかむ手のひらを握ったり開いたりしてみるが、まだ感覚が戻らない。


(うーん、霜焼けになるかもしれないなあ)


 ルーシェルは寒さに弱いので、足の指先が霜焼けになることがよくあった。またあのかゆくて痛い思いをするのかと思うと、気分が重くなる。せめてセリアのように手袋をすればよかった。


「……とりあえず、行ってくるね」


 メリアに会って何をするわけでもないが、あの人に会うのは楽しい。暇なときはいつも、メリアに会いに行くのだ。セリアもたまに一緒に行くのだが、今日は行かないようだった。


「行ってらっしゃい」


 セリアはにっこりと笑う。


(何だか雪の中だと、余計セリアの髪の毛が綺麗に見える)


 銀色の髪の毛はキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。

 いつもと少し違うように見えるセリアに見送られ、ルーシェルは雪の上を歩いていった。


「……あ」


 慌てて戻り、不思議そうにしているセリアの横をすり抜けて家の中に戻る。手袋と襟巻きをしてから外へ出た。今更しても遅いと思うが、ないよりはいいだろう。

 セリアにもう一度「行ってらっしゃい」と言われる。


「行ってきます」


 セリアと同じように笑みを浮かべながら、ルーシェルは答えたのだった。それを言う相手がいることに安心し、そしていつまでこの言葉を言えるのかという一抹の不安を感じながら。


     * * *


 市場は人がいっぱいだった。いつもはこの時間は混雑していないのに、歩くのもやっとなくらい人がたくさんいる。

 何か特別なことでもあるのだろうか。

 人の流れに流されないように必死で前に進み、何とかメリアの店が見えてきた。ほっとした途端、メリアの店で指輪を買った者にぶつかられよろめいてしまった。


「悪い」


 それだけ言って立ち去る、無愛想な男。謝るだけまだいいのだろうと思うことにして、ルーシェルは気を引き締めた。気を抜くと、今のようなことが何度も起こるに違いない。

 メリアの店の前は、特に人が多いようだった。何もないときには指輪を買う者はあまりいないから、やはり何か特別なことがあるのだろう。

 足に力を入れて、人とぶつからないようにルーシェルは店へ向かった。

 そこでふと立ち止まる。こんなに客がたくさんいて、何も買うつもりのないルーシェルが行ったら迷惑ではないだろうか。

 一瞬迷った後、ルーシェルは家に帰ることにした。お世話になっている方に、迷惑をかけてはいけない。


「……あ、ルーシェルじゃないか!」


 しかし、帰ろうとしたときメリアに気付かれてしまった。どうしてこんなに人がたくさんいるのに気付くのだろうか。

 呼ばれたのに帰るのも悪い、とルーシェルはメリアの店へ近づく。


「メリアさん、すみません。忙しそうなのに……」

「いやいや、別に構わないさ。……あ、お客さん銀貨が一枚足りないよ!」


 メリアはルーシェルに笑いかけた後、慌しく接客に戻った。

 指輪はもう少しで売り切れそうだった。指輪を載せてある硝子(ガラス)の机には、うっすらと雪が積もっていた。

 こんな寒いときによく皆出かけるな、と感心しながら指輪が飛ぶように売れていく様を見ていると、ほどなくしてメリアが並んでいた客たちに「売り切れだよ! また来ておくれ」と大声で言った。

 客たちは残念そうに店を離れていった。こうして見ると、客のほとんどが男だと気付く。


「何か特別なことでもあるんですか?」

「ルーシェル、知らないのかい?」


 信じられないとでも言いたげに、メリアが目を丸くした。


「もう少しで聖誕祭があるんだよ」

「聖誕祭……?」


 聞きなれない単語に、ルーシェルは首をかしげる。聖誕祭。名前的に何かの祭りなのだろうが……。カリマはそういうことは教えてくれなかったので、聖誕祭が何か全くわからない。

 メリアは急に、ルーシェルがはめていた左手の手袋を取った。その薬指にクロードのとおそろいの指輪があることを確認すると、にやりと笑う。


「おや。セリアがルーシェルはクロードとおそろいの指輪を嫌がってるって聞いたんだけどね……ちゃんとつけてるじゃないか」

「こ、これは別に! 綺麗だからいっつもつけてるだけで、それにクロードとおそろいが嫌ってわけでもなくて、えっと、その……」

「照れなくていいんだよ」


 照れていない、と反論したかったが、先ほどから顔が熱いのは確かだ。雪が降るくらい今日は寒いのに、ここまで顔が熱くなるのはおかしい。

 どうして自分が照れているのかわからず、ルーシェルは左手で頬を冷やした。手の感覚は戻っているが、まだ十分冷たかった。


「聖誕祭は、言っちゃうと年に一度恋人が愛を誓い合うような祭りだね」

「愛!?」


 世の中の恋人たちはそんな恥ずかしいことをするのか。

 もっと顔が熱くなったので右手の手袋もはずして両手で顔を冷やす。


「まあ、最初は誰か偉い人の誕生日を祝う日だったみたいだけど。だんだん誰の誕生日を祝う日だったのかも忘れ去られていったんだよ。今じゃすっかり、恋人同士の行事になっちまって。こっちは売り上げが増えて万々歳なんだけどね」


 満足げなメリアの視線の先には、雪だけが載った硝子の机があった。そういえばいつもは木の机なのに硝子の机になっているのは、雪が降っているからだろうか。木では雪が溶けたらぬれてしまう。


「で、どうなんだい、ルーシェルは」

「何がですか?」

「クロードとのことだよ。あの子はそういうことに疎いからねえ。はっきり言わないと伝わらないよ」


 そういうことってどういうことですか。

 口に出しそうになった言葉を飲み込む。何だか口に出したら、またからかわれる気がしたのだ。それにもともと、どういうことかは理解している。

 話題からしても、メリアの視線がルーシェルの左手に向いていることからしても、ああいうことだろう。


(……ああいうことって、うん、つまり。そういうことだよね)


 メリアに何と言うべきか思いあぐね、ルーシェルはおずおずと口を開いた。


「あのですね、メリアさん。僕はクロードとは何にもないんです。本当に」

「へぇ……じゃあそういうことにしておくさ」


 絶対に信じていない。これ以上否定しても信じてくれないだろう、とルーシェルはそうっとため息をついた。真っ白な息が広がる。そうっとついても、これではばればれだ。

 今度は堂々とため息をついて、市場を見回した。

 聖誕祭があるからこんなに人がいるのか。

 誕生日を祝う日なのに、どこをどう間違えて恋人が愛を誓い合う行事に変わってしまったのだろうか。


(そういえば、さっきの男の人も女の人のために指輪を買ったのかな?)


 とてもそういう相手がいるようには見えなかったが。

 しかしどうしてだろうか? あの男をどこかで見たような気がするのだ。それも、一度ではなく何度も。

 どこで見たのか思い出そうとしたルーシェルの目の前を、真っ白な雪が落ちていく。雨は龍神が降らしているが、雪は何が降らせているのだろう。やはり龍神だろうか。


「ルーシェル、さっきは言い忘れたけどね」


 メリアの声に、ルーシェルは視線をそちらへ投げた。


「聖誕祭は恋人が愛を誓い合う行事でもあるけど、親しい人同士で祝う行事でもあるんだよ。ルーシェルも、セリアとクロードと祝ったらどうだい? ……誰かもわからない人の誕生日をね」


 苦笑しながらメリアは言った。

 親しい人。ぱっと思いつくのはセリアとノギス、エデとクロード。そしてここにいるメリア。ノエルとアデライード。もっと考えてみれば、アーサーとアンソニーも思い出した。だがセリアはアーサーを嫌っているようだし、アーサーも呼んで一緒に祝うのは駄目か。ああそうだ、食いしん坊な龍神もいる。

 ルーシェルたちの家には入りきらなさそうだ。祝うとしたら、エデの両親が経営している店だろうか。


「メリアさんも」

「ん?」

「メリアさんも、僕たちと一緒に祝いますか? 誰かの誕生日を」


 親しい人。それでメリアが思い浮かんだのは、自分でも不思議だった。人と親しくなることを恐れていたはずなのに。セリアたちは、ルーシェルが魔女だということを知っているからいいのだ。だがメリアは知らない。

 それなのに、親しい人と考えたときにメリアが浮かんだ。

 メリアはびっくりしたような顔をした。


「私が一緒に?」

「はい。……駄目、ですか?」


 もしかしたらメリアはもう、誰かに誘われているかもしれない。

 やはり誘うのは駄目だったかとうつむいたとき、メリアの笑い声が聞こえた。


「ははっ、ぜひ行かせてもらうよ。いやあ、びっくりした」


 そんなにルーシェルが誘うのがおかしかったのだろうか。


「ルーシェルは、あまり人とかかわろうとしないだろう? セリアやエデ、クロードは別だけどね」

「……人とかかわろうとしないのは、そう、ですけど……。メリアさんとは、親しかったつもりですよ」


 メリアはそう思っていなかったのだろうか。そう考えるとルーシェルは拗ねたい気持ちになった。セリアたちよりは親しくしていないかもしれないが、メリアのことも大切に思っているのだ。相手がこちらをそう思っていなかったというのは悲しい。


「私も初めはただのお客様としか見てなかったんだよ? お客様とこんなに親しくしたのは初めてさ。もっとも、ルーシェルたちはもう指輪を買わないだろうから『お客様』ではないんだろうけどね」


 う、と言葉に詰まってしまう。やはり何か買うべきか。だが指輪はいくつも必要ない。する機会もないので、あっても無駄になってしまう。だとしたら、買わないべきなのだろうか。

 メリアは意地悪そうに笑った。


「別に買えって言ってるわけじゃない」

「……でも、買ったほうがいいんじゃないですか?」

「そのほうが嬉しいは嬉しいけどねえ。……歳の離れた友達と、こうして話すだけで嬉しいからいいんだよ」


 さらっと言われたその言葉に、ルーシェルは驚いて目を瞬いた。

 歳の離れた友達、とはルーシェルのことだろうか。誰か別の人のことではないのかと、きょろきょろ辺りを見る。こうして話すだけ、ということは今メリアと話している人物なのだから……やはりルーシェルのことだろうか。

 この場合、どちらが年上でどちらが年下なのだろうか。見た目的にはメリアが年上だが、ルーシェルの方が絶対に百年以上は長く生きている。封印されていた期間を入れれば千年以上になるのだ。


「僕が年下?」


 どちらが年下なのかわからずそう尋ねると、メリアに呆れられてしまった。


「……何当たり前のこと言ってんだい。それで私のほうが年下だったらおかしいじゃないか」


 そうか、当たり前なのか。

 この人はルーシェルが魔女だということを知らないのだから、それでいいのだろう。いつか教える日が来たら、きっと驚くんだろうなとルーシェルは小さく笑ってしまった。

 メリアは怪訝そうな顔をして、それから破顔した。

 その笑顔を見ながら考える。


(いつか教える日が来たら、か)


 本当にそんな日が来るのだろうか。教えて、嫌われることはないだろうか。

 そんな不安はあったが、なぜだかメリアに嫌われる想像はできなかった。自分でも楽観的すぎる気もするが、できないのだから仕方がない。


「話は変わりますけど、魔女ってどう思いますか?」


 だから、意外なほどにするっと訊けたのだろう。

 答えは大体予想できる。メリアと付き合いだしてからそれほど時は経っていないが、それくらいはわかるのだ。

 しかし返ってきた答えは、予想とは少し違ったものだった。


「二人して同じ質問するなんてねえ。セリアにも言ったけど、別にどうとも思ってないさ。私から見たら、魔女だってお客様だからね」


 魔女だってお客様。その言葉よりも、セリアが同じことを訊いていたということにルーシェルは驚いた。

 セリアはその質問を、どんな思いでしたのだろうか。


「あの、セリアが訊いたのっていつ頃でしたか?」

「ん? ああ、確かあんたたちが喧嘩した時だったよ。普段は仲が良かったから、喧嘩したことにびっくりしたのを覚えてる」


 桜色の花をセリアからもらった時、彼女はメリアからもらったと言っていた。その時に魔女のことをどう思うかメリアに尋ねたのだろう。


「あ、それでルーシェル。聖誕祭は明後日だけど、どこで祝うんだい?」

「えっと……許可が取れれば、エデの、というかエデのお父さんお母さんのお店でやりたいです」


 エデのことだから、言えば早速準備してくれるだろう。

 そういえばエデは、どうして聖誕祭のことを教えてくれなかったのだろうか。エデの性格だったら、そういうことは真っ先に教えてくれそうなものなのに。ルーシェルたちが知っていると思っていたとしても、一緒にお祝いをしようと誘ってくれるはずだ。

 忘れていたのかな、とルーシェルが首をかしげると、同時にメリアも小首をかしげる。


「それは無理じゃないかい? エデは今年、シルヴァと祝うだろうし」

「シルヴァ?」

「エデの好きな人さ。まあ、シルヴァのほうはエデのことを妹のようにしか思ってないようだけど。そうそう、クロードの兄でもあるよ」


 これでエデとシルヴァが結婚して、ルーシェルとクロードが結婚したら、ルーシェルはエデの妹になるんだねえとメリアは言った。


(……エデの好きな人?)


 そんな話聞いたことがない。

 だからエデはルーシェルたちを誘わなかったのか。シルヴァという人と、聖誕祭で祝うために。

 エデとクロードは幼馴染なのだから、必然的にエデとシルヴァも幼馴染のような関係になるはずで。ルーシェルとよりもシルヴァと仲がいいのはわかるが、何だか寂しくなった。


「……やる場所は、明日までに考えておきます」


 エデの邪魔をしては駄目だろう。今年の聖誕祭は、エデ抜きで祝うしかない。いや、シルヴァはクロードの兄なのだから、クロードもエデたちと一緒に祝うのだろうか? そしたら、クロードも抜きか。

 もしかしたらノエルは、メリアのことを嫌がるかもしれない。そうなったらノエルも抜きに……。

 お祝いに誘う者も、もう一度考えたほうがいいかもしれない。


     * * *


 その夜。ルーシェルたちの家の扉を誰かがトントン、と叩いた。


「はーい!」


 セリアが扉を開けに行く。この家に来るのはノエルやアデライード、エデとクロード、メリアだけだ。その五人の誰かだろうと扉の外を見ると、予想通りそこにはエデの姿があった。

 家の中の灯りが、外に積もった雪が照らす。キラキラと光るそれは、昼間とは違う綺麗さだった。


「夜にごめんね。明後日の聖誕祭、一緒に祝わないかなーって思って」


 思わずセリアと顔を見合す。メリアと話したことはセリアにも教えてあるので、エデがシルヴァという人と祝うことは彼女も知っているのだ。

 どうして自分たちを誘いに来たのだろうか。

 不思議に思いながらエデの顔を見て、続きをうながす。


「シルヴァって人も一緒なんだけど……いいかな?」

「それって、ディーちゃんの好きな人のこと?」


 セリアが訊くと、エデは一瞬の間の後顔を真っ赤に染めた。


「ななな、何でそのことっ」

「メリアさんに聞いたの。ディーちゃんは、聖誕祭をシルヴァっていう好きな人を過ごすんだって」

「シルヴァってクロードのお兄ちゃんなんだよね?」


 そこまでばれてるのかあ、とエデは真っ赤な顔でつぶやいた。襟巻きで顔の下半分を隠す。それで隠せているつもりなのだろうが、耳が赤いのは隠せていない。


「毎年シルヴァと祝ってたんだけど……今年は、ルーシェルとセリアにも来てほしくて。来てくれるかな……?」

「それはいいけど。それならエデ、メリアさんも呼んでいい?」

「メリアさんだけじゃなくて、ノエちゃんとアデルさんと龍神さまも」


 アデライードと龍神はともかく、ノエルは来てくれるだろうか。

 疑問に思ったが、とりあえずエデが了承してくれたら誘うことにしよう、とルーシェルは決めた。


「もちろんいいよ。あ、じゃあアートとトニーも呼んでおくね。これからアートの家に行くから、今日はこれで。明後日、あたしの店に来てね」


 こちらの返事も聞かず、エデは慌しく去っていた。

 おそるおそるセリアの表情を(うかが)うと、先ほどまでの楽しげな表情とは打って変わって不機嫌そうな顔だった。アーサーの名前が出てきた途端にこうなったとしたら、つまり、そういうことなのだろう。

 セリアはエデのことをため息をつきながら見送り、無言で椅子に座った。


「セ、セリア……? どうしてアートのこと、そんなに嫌いなの?」

「……好きなのに理由がいらないみたいに、嫌いなのにも理由はいらないの。ただ一つ理由を挙げるとしたら、あの時にルーちゃんに石を投げようとしたから」


 まだそんな昔のことを根に持っているのか。

 セリアを怒らせると怖いということに初めて気付いたルーシェルは、アーサーに少し同情した。少なくともアーサーはセリアのことを嫌っていないのだ。人に嫌われるのが辛いことを、ルーシェルはよく知っている。


(これじゃあ、明後日どうなるんだろう)


 セリアは、エデが楽しみにしているのならいくら嫌でもアーサーが来ることを受け入れるだろう。そしてアーサーのことを、とことん無視するに違いない。









 その様子が容易に想像ついて、ルーシェルはこっそりとため息をついた。




 なるべく早めに投稿できるよう頑張ります。きっと[下]は今回ほど長くないと思います。

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