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魔女と巫女の物語  作者: 藤崎珠里
後日談
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後日談 喧嘩

 先に謝っておきます。ぐだぐだです。長いです。後日談遅くなってすみませんでした。

 セリアが洞窟で暮らすようになって、しばらく経った。

 最初のうちは、ルーシェルとの日々がただ楽しかった。これからも大切な人たちと一緒にいられると思うと、嬉しかった。


(……私が生きていることがばれたら)


 今は違う。毎日そのことを考えてしまって。まだ夜中なのに起きてしまったのは、それが原因だろう。

 もし、セリアが生きていることを村人が知ったら?

 そしてもし、この洞窟に来てルーシェルと自分を見たら、どんな行動をするだろう。自分だけが死ぬのなら、まだいいのだ。一度死んだ時に、伝えたいことは伝えたから。

 セリアは、寝台で眠っているルーシェルの顔を見た。洞窟にエデは明るくする術を使ってくれて、夜中であってもぼんやりと辺りを確認することができる。あの白猫はどこにいるのか、洞窟内には姿が見えなかった。


(私だけならいいけど、ルーちゃんには)


 彼女には、危険な目にあってほしくない。

 セリア自身も、もう一度死にたいとはもちろん思っていないのだ。寿命まで、ルーシェルたちと一緒にいたい。

 自分が死ぬまでは、人間の『死』というものをそこまで深く考えたことはなかった。雨が降らなかったら、巫女は生け贄としてささげられると知っていてもだ。


 だが今は、死んでしまうのが怖い。


 死ぬというのは、言葉にならないほど辛くて恐ろしいものだった。殺される、という恐怖もあったが、セリアが一番恐ろしかったのはルーシェルやエデ、クロードを悲しませることだった。


(普通の人だったら、死ぬ時どんなことを考えるのかな?)


 ありがとう。幸せだった。

 セリアは死ぬとわかったとき、それをルーシェルに伝えようということばかり考えていた。最期には、ルーシェルの笑顔を見たかったと考えはしたが。


(……ここにいるのは、危険、よね)


 ルーシェルは、魔法が使えない。セリアを助けるために『蘇生』の魔法を使い、魔力がなくなってしまったからだ。

 毎日のようにエデやノエルがここに来るが、朝や夜に襲われたら助けを求める人物は誰一人いない。今のようにこの洞窟にいるのはセリアとルーシェル、そして今はいないのだがノギスだけだ。

 視界の端で何かが動き、セリアはそちらへ顔を向けた。


「ノギス君? どこに行ってたの?」


 セリアが起きているとは思っていなかったのか、白猫は驚いたようにこちらの顔を見てきた。その口に何がくわえられているかがわかり、思わず顔を引きつらせてしまう。

 それに気付いたのだろう、ノギスは洞窟の外のセリアに見えない位置に移動した。

 しばらくし、ノギスが洞窟に入ってくる。口には何もくわえていなかった。


「……ルーちゃんが何も食べなくて平気だから、ノギス君もそうだと思ってたのだけど」

「前までは、な」


 では、今は違うということだろうか。

 先ほどノギスがくわえていたのは、ねずみだった。


「俺が何も食べなくても生きていけたのは、ルーシェルの魔力をもらっていたからだ。……今、ルーシェルには魔力がほとんどない」


 それだったら、ルーシェルも食べなくては生きていけないと思うのだが。何も食べなくとも生きていけたのはルーシェルの魔力をもらっていたから、だとしたら、ルーシェル自身だって魔力がないと何かを食べなくては生きていけないはずだ。


「魔法が使えなくなったと言っても、魔力が完全になくなったわけではない。完全になくなっていたら、ルーシェルは死んでいるだろう。今のルーシェルだって、人間の倍は魔力がある。お前たちと何かを時々食べるだけで生きていける」


 セリアの疑問に答えるように、彼は言う。


「使い魔には、魔力が全くないんだ。魔女と契約することによって、使い魔は魔女から魔力を与えられる。……ルーシェルの魔力を今もらったら、こいつは死ぬ」


 ちらり、とノギスはルーシェルの顔を見た。

 セリアたちが深刻な話をしているというのに、その寝顔は幸せそうだった。


「……えで、もうおなかいっぱいだよ。あとはぜんぶ、のぎすにたべさせてー」


 ルーシェルの寝言に、ついノギスと一緒にふきだしてしまう。夢の中でエデは、一体ルーシェルにどれだけの料理を食べさせているのだろう。残りを全てノギスに食べさせるのは、彼の体に悪い気がする。ノギスはこれでも、猫なのだから。

 これ以上ルーシェルは何も言わなさそうなので、ノギスは話を続けた。


「魔女が死んだら契約が破棄され、使い魔も一緒に死ぬ。……死なないためには、何かを食べなくてはいけない」

「一応訊くけど、ノギス君が食べるものは普通の猫と同じなの? ねずみとか、魚とか」


 先ほどのねずみは、おそらくノギスのお腹の中だ。答えはわかっているが訊いてみる。

 思っていた通り、ノギスは「ああ」とうなずいた。その瞬間、ルーシェルが飛び起きた。あの夢の続きで、何かあったのだろうか。不思議そうに周りを見て、セリアとノギスで視線を止める。


「あれ? こんな時間に何で起きてるの?」

「それは……」


 ノギスは言うのをためらった。ルーシェルに心配をかけたくないのだろう。

 彼には上手く誤魔化せそうになかったので、代わりにセリアが口を開く。


「ルーちゃんの大きな寝言で起きちゃったのよ。ディーちゃんとのお食事はどうだった?」


 そう言うと、ルーシェルは見ていて面白いほど慌て始めた。


「へ……!? な、何か言ってた? えっと、その、例えば……。ノギスに……へ、変なものを食べさせて、ノギスが死んじゃった……と、か」


 言ってから自分の失言に気付いたのか、はっと口を押さえる。ノギスは呆れて、何も言えないようだった。

 セリアは少し憤りを感じた。そんな夢を、ノギスが死んでしまうような夢を見ていたのか、と。


「……ルーちゃん。そんな夢を見てたの?」

「う、うん」


 彼女も悪いと思っているのだろう。おそらく、セリアが考えているよりもずっと。ルーシェルはうつむいて、寝台の掛け布団をぎゅっと握り締めた。


(ノギス君が怒ってないのなら……私が怒るのはおかしい、か)


 だがもし次にこんなことがあったら、ノギスが怒らなくとも絶対に怒ろう。ルーシェルだったら、ないとは思うが。

 気を取り直してセリアはこの洞窟で暮らすのをやめないか、と話を変えようとしたが、あまりのルーシェルの落ち込み具合に言い出せなくなった。

 どうしたら、ルーシェルは元気を出してくれるだろうか。

 考えをめぐらせていると、ふと自分が死んでしまった時のことを思い出した。あの時のように、彼女の頭をなでたらどうだろうか。


「……セリア? いきなりどうしたの?」


 セリアが頭をなでると、顔を上げて不思議そうな顔をした。次第にその顔が悲しそうに歪んでいくのを見てしまって、セリアはなでるのをやめる。

 セリアが思い出したように、ルーシェルも思い出してしまったのではないだろうか。そうだとしたら、頭をなでたのは逆効果かもしれない。


「う~ん、何となく。ルーちゃんの髪の毛って、サラサラで気持ちいいなって思って。湯浴みどころか、水浴びもそんなにしてないのに不思議ね」


 洞窟の近くには、水場があまりない。それにアスメリ村の近くには、行きたくないのだ。セリアは龍神さまに会う前には必ず湯浴みしていたため、水浴びもしないのは辛い。

 ルーシェルもノギスも、そういうことは気にしないようだ。エデやクロードに言われて初めて、思い出したように水浴びをするのだ。


「ねえルーちゃん。この洞窟で暮らすのをやめない?」


 わずかにルーシェルの表情が(やわ)らいだので、そう切り出してみる。

 セリアの言葉に彼女は考えるような顔をして、あっさりとうなずいた。


「いいよ。……って言ってもどこで暮らすの?」


 そんなにあっさりと承諾されるとは思っていなかった。セリアがきょとんとしていると、ルーシェルはもう一度同じことを言う。


「いいよ。どこで暮らすの?」

「ちょ……ちょっと待って! そんなにあっさりと?」


 今度はルーシェルがきょとんとする。


「え? 何か駄目だった?」

「駄目じゃない、駄目じゃないんだけど……。ルーちゃんは、ずっと昔からここに暮らしてるのよね?」


 何か思い入れはないのだろうか。ルーシェルは、あの人間たちが消えるのもここで見届けていたのに。

 いや、だからなのかもしれない。見届けていたからこそ、ここから離れることに抵抗を感じないのかもしれない、と思った。

 ルーシェルは、どこか遠くを見ているような目で言った。


「昔から暮らしてる、けどね。……そろそろ、色々と乗り越えなきゃいけないから。セリアはどうして、この洞窟で暮らしたくないの?」

「……だって、水浴びも湯浴みも滅多にできないじゃない」


 一番の理由はそれではないが。それでもこの理由も大きい。毎日身を清めることができる所に暮らしたいのだ。

 セリアの答えに、ルーシェルは大笑いした。


「あははっ。それが理由なんだっ? ……ははっ」

「むう……そんなに笑わないでよ」


 ここまで笑われるとは。これなら、一番の理由を言った方が良かっただろうか。アスメリ村の近く――両親の近くで暮らしていたくない、と。

 近い、と言えるほど、ここからアスメリ村までは近くはない。だが、遠くもない。子供の足でだって、一日はかからないだろう。


(ルーちゃんは……もしかしたら、私がここにいたくない理由がわかってるのかな)


 わかっていて、わざとこうして笑っているのかもしれない。ルーシェルには、そんな器用なことはできないとわかってはいるが。


「まあ、とにかく夜が明けるまでもう一回寝たら? あ、暮らしたいところの要望とかある?」

「……ルーちゃんが嫌じゃなければ、ステルダがいいわ」

「ステルダ……?」


 ルーシェルは顔をこわばらせる。何度か遊びに行ったが、遊びに行くのとそこで暮らすのとでは全く違う。何より、ルーシェルが魔女だとばれてしまう可能性が高くなるのだ。『幻影』の術を、クロードが改良してくれていたら話は別だが。

 ルーシェルは、言葉を捜すようにして言う。


「……僕も、あの町の人はいい人だと思う。だけど、魔女だってばれたら? アートみたいに、信じてくれる人なんていないよ」

(アーサーだって、最初はルーちゃんのこと怖がってたじゃない)


 アーサーのことを考えるといらいらしてしまった。

 セリアはあの時のことを、いつまでも根に持つつもりだ。ルーシェルに石を投げようとしたのは許せない。自分のことを棚に上げて、セリアは考える。

 誕生日の贈り物を選んだ店に、ルーシェルを案内したとしても許す気はない。そんなことで許してもらおうなんて、考えが甘いのだ。


「アーサーは、本当にルーちゃんを信じてくれているの? 私は信じられない」

「ううん、アートは信じてくれてる」


 ルーシェルの言うことに、セリアは納得できなかった。

 なぜ、人を簡単に信じることができるのだろう。彼女だって、アーサーが自分に意思を投げようとしていたことを知っているはずなのに。


「……アーサーのことなんてどうでもいいわ。ルーちゃんが、魔女だってばれるのが怖いならこの洞窟に住んだままでもいい」


 わざわざルーシェルの癇に障るような言い方をしてしまったのは、やはり自分がアーサーのことが嫌いだからだろう。

 ルーシェルから顔を逸らしてしまったので、彼女が今どんな顔をしているのかわからない。おそらく、傷ついた顔をしているのだろうが。


「僕はただ……ばれてセリアやエデ、クロードに迷惑をかけたくないだけだよ」

「そうやって、他人のせいにするのね」


 私がここにいるのが怖いって、わからないの?

 その言葉を、出てくる寸前にのみこむ。

 ルーシェルと会ってから、自分はわがままになってしまったようだ。言わなかったのはセリアが言いたくなかったからなのに、そんなことを言うのは間違っている。


「セリア……どうしたの? 今日はおかしいよ。いつもはそんなこと――」

「別に、どうもしてないわ。そもそも、()()()っていつのこと? ルーちゃんに見せたことのない私もいるの」


 勇気を出して、ルーシェルの顔を真正面から見つめる。ぶつかった瞳は、傷つき、困惑しているようだった。

 彼女の言う通り、今日の自分はおかしい。このところ気持ちが安らぐことがないから、苛立っているのだ。

 セリアはルーシェルに、八つ当たりしているのだろうと思う。

 言ってしまったことを、後悔してはいない。おそらく、明日になって冷静になれば後悔するだろうが。


「……話は、また明日にしましょう」


 このまま話している気にはなれなくて、セリアは眠りについた。


     * * *


 朝になりエデとクロードがやってくるまで、気まずい雰囲気が洞窟を支配していた。白い光と共に現れた二人を見て、セリアはほっとした。

 もしかして、これが喧嘩というものなのだろうか。今まで喧嘩をしたことがないからよくわからない。


「……あれれ? どしたのかな、二人とも。喧嘩でもした?」


 セリアとルーシェルがいつもと違うことに気付いたのだろう、エデが冗談でも言うように笑う。

 彼女がそう言うということは、これはやはり喧嘩なのだろう。こっそりとセリアはため息をつく。仲直り、とはどうすればいいのだろうか?

 エデは目を瞬かせた。


「え、え? 冗談のつもりだったんだけど……?」


 そのエデに、セリアもルーシェルも何も言わなかった。クロードが首をかしげるのが見える。

 昨日もそうだったが、いつも存在を忘れられてしまうことが多いノギスは困ったような顔をしていた。昨日セリアたちが喧嘩した時、彼は口を挟まなかった。どうすれば止められるのかわからなかったのだろう。


(謝れば終わりなんだろうけど……)


 自分が悪かったとわかっている。だからこそ、「ごめん」とそのたった一言が言い出せないのだ。

 こういう時、以前のように心が読めたら、と思ってしまう。ルーシェルが、セリアが言ったことをどう思っているか。許してくれそうなら、すぐにでも謝ることができる。……許してくれそうになかったら、立ち直れないだろう。

 許してくれないほど、ルーシェルが怒っていたら。


(……どうやって謝ればいいんだろう)


 心を読めたら、今謝るべきか謝らないべきかわかるのに。

 ない物ねだりをしたって、どうにもならない。今思えば自分は、心を読む力に頼りすぎていたのかもしれなかった。

 誰も何も言わない中、エデは必死に何を言おうか考えているようだった。


「……け、喧嘩したなら仲直りしなきゃ!」


 それが簡単にできたら苦労しない。

 思わずエデを冷ややかな目で見てしまうと、彼女はダラダラと汗をかいていた。


「えっとえっと……仲直りってどうやってするんだっけ? あたしの場合、喧嘩してもいつの間にか元通りになってるし……と、とりあえず、遊びに行く?」


 そうすれば、エデのようにいつの間にか元通り、となるだろうか。


「……そうね。行くならステルダがいいな」

「僕は今日、この洞窟でノギスと話でもしてるよ」


 一緒にいることを拒絶されたようで、セリアは悲しくなった。

 セリアが沈んだ顔をしたことで、これ以上ここにいるのはやめた方がいいと判断したのだろう。慌ててエデがクロードに声をかける。


「クロード! 早く行きょうか!」

「……噛んでるぞ」


 呆れたように言いながら、彼はセリアとエデを近くに来させ術を唱えた。


「Й‡б§」


 もうすっかり見慣れた白い光に体を包まれながら、ステルダに行くことによって、ルーシェルに謝ることができるようになったらいいなと思った。


     * * *


 エデ、クロードと共に市場の道を歩いていく。何度かここには来ているので顔を覚えられたらしく、数人の商人たちに声をかけられた。


「おや、お譲ちゃん。今日はあの子はいないのかい?」


 その中の一人、ルーシェルに指輪を売ったおばさん……いや、女性が不思議そうに尋ねてくる。この女性には、ルーシェルとクロードへの指輪も売ってもらった。

 悪気も何もないだろうその言葉に、セリアの気持ちは沈む。エデは慌てたように、セリアの顔を覗き見てきた。

 彼女にも心配しなくて平気、と伝えるためにセリアは微笑んだ。


「……ちょっと、喧嘩をしてしまったんです」

「喧嘩? そりゃあ駄目だねぇ。本人たちは大したことない、と思ってても仲直りできずそのままってこともあるし」


 少し悲しそうに、女性はそう言う。もしかしたら彼女は、仲直りができずそのまま死んでしまった人を知っているのだろうか。

 私たちは大丈夫です、とセリアは言おうとして口を閉じた。一緒に暮らしているのだから、そのうち仲直りできるだろうが……。()()()()なんて考えでは、一生仲直りできないかもしれない。


「……あ、そうだ。この花を贈って謝ってみたらどうだい?」


 女性は花瓶にいけてあった、可愛い小さな桜色の花を指差す。

 セリアはルーシェルの髪にその花を挿したところを想像してみた。あの綺麗な髪の毛に映えそうだ、と知らず知らずのうちに顔が緩んでしまう。


「でもどうだろう。茶色い髪には……いや、あの子だったら似合いそうだね」


 そこでようやく、女性がルーシェルの髪の毛の色が黒だと知らないことに気付いた。

 もしステルダで暮らすことになったとしたら、隠しておくのは難しいだろう。こんなによくしてくれているこの女性は、ルーシェルが魔女だと知ったらどう思うだろうか。

 勇気を出して、セリアは尋ねてみることにした。


「あの、話は変わりますが……」

「ん?」

「貴女は、魔女という存在をどう思っていますか?」


 いきなりそんなことを訊かれた女性は、一瞬きょとんとしてからあっさりと言い放った。


「別にどうとも? 私から見たら、魔女だってお客様だからね。お客様は大切にしなくちゃいけないだろう?」


 魔女だってお客様。

 そんなことを言える人間は、この世に数えるほどしかいないだろう。

 答えてくれたことに感謝の言葉を述べ、花を受け取りもう一度「ありがとうございます」と言う。


「……私は、セリアと言います。貴女のお名前を伺ってもいいですか?」


 この女性とは、これからも親しくしていきたい。


「メリア、だよ」


 母の名前と同じだ、とセリアは瞠目(どうもく)した。

 名前が同じでも、全然二人は違う。そう思うと、なぜだか嬉しくなった。


「さ、早く帰って謝っておいで」

「……はい!」


 笑顔のメリアにうなずいてから、セリアは後ろにいた二人に「早く帰りましょう」と言う。待ち構えていたように、エデはセリアの腕を引っ張って走り出した。クロードは転ばないだろうか、と走りながら後ろを振り向くと、案の定彼は転んでいた。またか、という顔をしているのはクロードを知っている人たちなのだろう。

 それを見て、セリアはまた微笑んだ。


     * * *


「ルーちゃーん!」


 洞窟に帰ると、すぐにセリアはルーシェルに抱きついた。

 ルーシェルは面食らったように、目を瞬く。


「ど、どうしたの?」


 右手に大切に握っていた花を、ルーシェルに見せる。


「これ指輪を売ってたお店の女の人にもらったの女の人の名前はメリアって言うんだってそれからごめんなさい!」


 そこまでを一息に言うと、息が苦しくなった。

 深呼吸をするセリアを、ルーシェルはぽかんとして見ている。早すぎて聞き取れなかったのかもしれない、と一番伝えたいことを再び言う。


「ごめんなさい。ルーちゃんに許してもらいたいです」


 ルーシェルは眉をひそめる。

 彼女の表情を、許してくれないほど怒っているのだと判断して、思わず下を向いてしまう。



「――セリア、僕が許さないとでも思ってたの?」



 その言葉に、セリアは顔を上げた。その先にあったルーシェルの瞳は、呆れたようにこちらを見ていた。


「……実を言うと、ほんのちょっと怒ってたんだよ? だけど」


 セリアが持っていた花を見て、そんな気持ちが吹き飛んでしまった、と彼女は笑った。それから、セリアの必死そうな顔も、と。

 自分は一体、どんな顔をしていたのだろうか。

 熱くなった顔を隠すように、セリアはルーシェルの髪に花を挿した。思っていた通り、よく似合っている。


「ありがとう。それから、ごめんね」

「ううん、ルーちゃんは謝らなくてもいいの。私が悪かったんだから」

「僕も悪かった。図星を突かれてつい、あんなこと言っちゃった」

「あんなことって? 私は、傷つくようなこと言われてないわ」


 少しの沈黙の後、二人は同時に笑いあった。







 もはや空気と化してしまった二人と一匹も、セリアとルーシェルが仲直りし、ほっとしたような表情を浮かべていた。



 次の更新はいつになるかわかりません。後日談、番外編どちらにするのかも決めていないので、大分先になるかも……?

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