第三十七話 蘇生の魔法
ぎりぎり投稿できました。かわりに、明日は午前中ではなく午後に投稿すると思います。絶対とは言えませんが。
急いだので、また見直しできませんでした。
セリアがゆっくりと目を開けた。それを見て、ルーシェルはほっと安心する。
あの壺を割っても、何も変わったようには思えなかったのだ。
(ちゃんとまた魔法使えるようになっててよかった……)
『蘇生』の魔法は無事成功したようだ。
(……君のある物と引き換えに、か)
どうやらそれは、命ではないらしい。つい『蘇生』の魔法を使ってしまったが、もしかしたらルーシェルは死んでいたかもしれない。しかも、ルーシェルが死んだら契約が破棄され、ノギスも死んでいたのだ。改めて、よかったと思う。
セリアは自分が目を開けたのが不思議なのか、目を瞬かせた。
「……どう……こほん、どうして?」
しばらく話してなかったから話しにくいのか、一度せきをしてから体を起こす。
「「セリア!」」
ルーシェルとエデの声が重なった。ノギスとクロードは何も言わないが、驚き喜んでいるのがわかる。この二人は本当に素直じゃない、と呆れてしまった。
そのせいで、彼女に抱きつこうと思っていたのに、エデに先を越されてしまった。エデに抱きつかれながら、セリアはよくわかっていない顔をしながらも、彼女の頭をなでる。
「ディー、ちゃん? ルーちゃん? 私、怪我してたはず……? もう駄目だ、って思うくらいひどい怪我だったし、実際ルーちゃんにありがとうって言った後……どうやって、ここに来たの? それに、その子はノエちゃんよね」
どうしてここにいるの? とセリアは首をかしげた。
ルーシェルの心を読んだ時、ノエルの容姿もわかったのだろう。ノエちゃん、と呼ばれ彼女がどんな反応をするのか、そうっと見る。ノエルはまだ、呆然としたようにセリアを見つめていた。
ぴくりとも動かないノエルが少し心配になったが、ひとまずセリアの質問に答えることにする。
「怪我は、エデが術で治したんだ。……それでね。セリアは確かに死んでたよ」
「それは……どういうこと?」
「僕が『蘇生』の魔法を使ったんだ」
そう言うと、一瞬の間の後顔を青くさせた。
「そ、それってルーちゃんのある物と引き換えよね? もしそれが命だったらどうするつもりだったの?」
先ほどから質問ばかりだ。
彼女の前で、『蘇生』の魔法のことを考えただろうか? いちいち考えたことを覚えているはずがない。無意識に考えてしまったのだろう。
「ごめん、壺が見つかってつい……」
「壺が見つかった? ああ、あの変態さんにもらったものね。……それはどうでもいいわ。ついで自分の命がどうなってもいいなんて、思ってないわよね?」
笑顔なのに、目だけが笑っていない。
それはこんなにも恐ろしいのだな、と冷や汗をかきながら答える。
「いや……。もし僕が死んじゃったらノギスも死んじゃうし」
「ふ~ん?」
「だけど、ノギスも僕ももう十分生きたから……」
「それで?」
だんだんと無表情になっていくセリア。何がそんなに悪かったのだろうか。そんなに悪いことをした覚えはないのに。
「死んじゃっても、セリアが生き返るならいいかな……って」
「……ディーちゃん、どう思う?」
まだ自分を離さないエデに、セリアは無表情で尋ねた。
「信じられないかな? あたしもセリアも……あとクロードも、ルーシェルが死んじゃったら悲しいのにね?」
「えっと、エデさん? セリアさん? 二人とも、顔が怖いです、よ?」
二人は顔を見合わせる。
「聞いた? セリア」
「ええ、聞いたわ」
「あたしたちは怒ってるんだから、怖くて当然だよね?」
「もちろん。ルーちゃんは、何で私たちが怒ってるかわかってない。そこがね……」
二人の会話の意味がよくわからない。だがここでわかってない、という顔をしたらもっと怒ってしまうだろう。必死で反省しているような顔を作る。
だが、そんなのは無駄だった。
「……ルーちゃん、やっぱりわかってないのね」
「なっ何のことかなっ?」
声が裏返ってしまったが、ばれていないといい。
「ばれてるわよ?」
「ま、また心読まれた!」
本当に、彼女はどうやってルーシェルの心を読んでいるのだろうか。いくらルーシェルの思考が単純でも、ここまで正確にわからないと思うのだが。
じとっとした目で見てくるセリアとエデに、ルーシェルは今の言葉が自白になってしまったことに気付いた。
「……ごめんなさい。何で怒ってるのかわかりません」
「素直なのは、ルーちゃんのいいところよ。ね?」
「うん、ルーシェルのいいとこは素直なとこ」
何度も素直と言われると、自分の長所がそれだけのような気がしてしまう。
二人の顔を見ていられず、そういえば、と未だに動かないノエルを見る。
(……ノエル、は)
まだ、ルーシェルと話しているセリアを、信じられないものを見たかのように目を大きく開けていた。その目には先ほどとは違い涙がうっすらと浮かんでいて、ルーシェルはぎょっとし彼女に声をかけた。
「ノエル? な、何で泣いて……」
ノエルは、はっとしたようにルーシェルに視線を移す。
「ルーちゃん、話を逸らさないで……あ、ノエちゃん本当に泣いてるの?」
ルーシェルが話を逸らすために言ったと思ったのだろうか。そんな嘘はつかない、と少しむっとする。だがそんなことより、ノエルがなぜ泣いているのかが気になった。
彼女はうつむいて、口を開いた。
「今のは……魔法?」
「うん、『蘇生』の魔法だけど……?」
自分で言って、自信がなくなる。魔法を使う時、あんな光は出ない。もしかしたら、あれは魔法ではなく術なのだろうか。
だが、あの変態――フィルマンは、『魔法』と書いていた。術であるならクロードやエデが知らないとは思えないし、やはりあれは魔法なのだろうか。フィルマンに教えてもらった魔法でセリアが生き返ったのだから、名前で呼んでやろうと関係ないことをちらりと考える。
「それは、誰に教えてもらったの?」
ノエルの声が震えていることに疑問を持ちながらも、質問に答える。
「フィルマンって言う……人間、だよ」
「嘘よ」
人間、と言った瞬間にノエルが否定した。
「人間なんかがそんな魔法を知ってるわけないもの。アデライードさまが教えてくれなかったのは、きっとその魔法が存在しないから。そんな魔法があったら、あたしに教えてくれたはずよ」
自分自身に言い聞かせるように「きっとそうよ」とうなずくノエル。アデライードを疑ってしまうのを、無理にそうしまいとしているようだった。
『蘇生』の魔法がそれほどまでに、ノエルを取り乱す存在なのだろうか。何よりもアデライードを大切にしていた彼女が、アデライードを疑うなんて考えられない。
「……あのね、フィルマンって人間は魔法を作れるだけの力は、あったと思うんだ。ノエルは術って知ってる?」
ルーシェルの問いに、ノエルは力なく首を振った。
「魔法のもととなったもの。術は、人を守るためのものなんだ。何でフィルマンが『蘇生』の術ではなく魔法を作ったのかは謎だけどね。……アデライードさまが知らなかったのも、無理はないよ」
「そんな……そんな術があったら」
お母さんとお父さんを、生き返らせれたのに。
そうつぶやいて、ノエルはうつむき傍にあった椅子に座る。
「……ルーシェル、あたしやっぱり人間を許せないわ」
「え?」
「そんな魔法を隠してたなんて。その魔法があったら、お母さんもお父さんも生き返らせれた。……ルーシェルには言ってなかったけど、あたしの両親は人間に殺されたのよ」
両親を生き返らせれた、と言うということは、両親を生き返らせたかったのだろうか。ノエルが、人間のはずの自分の両親を生き返らせたいと思うのだろうか。
それとも、両親はノエルを大切に育ててくれたのに、その両親を人間に殺されたのが人間が嫌いになった理由なのだろうか。
「お母さんもお父さんも、あたしを大切に育ててくれた」
何も恩返しできなかった、と怒りに燃えた目でルーシェルを見る。
「その魔法があれば……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。フィルマンは、ノエルのお母さんとお父さんが死んじゃった時にはまだ、生まれてな――」
「そんなことどうでもいいのよ。ただ、復讐を実行するだけ。……ああ、そこの女」
エデを睨んで言う。
「もし反撃したら、人質を殺すわよ。わかってるわね?」
「……」
エデはだまって、唇をかんだ。
いつの間に、エデは人質を取られていたのだろう。
ルーシェルは、大切な人たちを傷つけるノエルが許せなかった。
「あと、その女。龍神には、あたしに手を出したらあんたを殺すって言ってあるから」
「!」
目を見開いてセリアは絶句した。それを見て、ノエルは満足そうに笑顔を浮かべる。
その笑顔を見て、もっと彼女を許せないと思う。人が傷つくのを見て、笑うなんて。
「男は、あたしでも相手はできるわね。残るはルーシェル。……ルーシェルに、あたしは攻撃できる?」
それは、先ほど攻撃しなかったことを言っているのだろう。
ルーシェルはかっとなって、答えるより前に魔法を唱えた。
「л○Ж! ……え?」
『炎』の魔法。ちゃんと威力を調節すれば、死ぬほどの威力にはならない。だが十分な痛手を与えられるだろうとこの魔法を使ったのだ。
「ふざけてるの?」
苛立ったようにノエルは言う。
魔法が、使えなくなっていた。




