第三十六話 大嫌い
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……タイトル相変わらず思いつきません。
今回はノエル視点ですね。
真っ赤だ、と思った。
昨日まで普通に話し、優しくしてくれた両親は、真っ赤になっていた。家の床に、どろっとした血が広がっている。
「お母……さん? お父さん?」
大好きだった両親。自分が魔女だとわかっても、大切にここまで育ててくれた両親。
その両親は、殺されていた。鋭い刃物で、何度も体中を刺されて。犯人はおそらく、この村の住人だろう。
「……逃げろって、このことだったの?」
少女の声に、答える者はいない。
昨日まだ夜も明けぬ頃に、少女は両親に言われ一人で遠くの森に逃げた。本当は両親と一緒に逃げたかったが、駄目だと言われたのだ。
一旦は逃げたものの、心配になって戻ってきてしまった。その時はまだ、両親が殺されたなんて考えてなかった。
目の前の光景を見て、少女は怒りで拳を震わせた。
「許さない……」
両親を殺した犯人を。人間を。
そして、たった一人で逃げた自分を。自分が魔法を使えば、両親は殺されなかったかもしれない。
それを両親が望んでいなかったからこそ、自分は逃がされたのだろうが。
「……ごめんね、お母さん、お父さん」
死体に、ぽつりと謝る。
その日、少女が住んでいた村は壊滅した。
* * *
「ノエルがそんなことするなら、僕は君を攻撃する! どうやったって、この三人が殺されるのを阻止する!」
涙を溜めてそんなことを言う、ルーシェルの気持ちがノエルにはわからなかった。それに、一人はもう死んでいるのだから殺せないではないか、と余計なことも考える。
「……どうしてそこまで、人間の味方をするのよ」
そう言ってから後悔した。どうせ、先ほどと同じように「好きだから」と答えるに決まっているのに。
ルーシェルは、騙されているのだ。人間のことを好きだなんて信じられない。ノエルは大嫌いだ。人間なんて。
「好きだからだよ。人間が、好きだから」
「同じことを二回も言わなくていいわよ」
やはり、思った通りだった。
「あたしは大嫌い。……大っ嫌い!」
彼女が二度好きと言ったから、ノエルも大嫌いと二度言う。本当は、こんなでは足りない。何十回、何百回大嫌いと言っても、満足できないのだ。
ルーシェルは、目に溜まった涙をぬぐった。赤くなった目で尋ねてくる。
「……ノエル、君は何でそこまで人間を嫌うの?」
「理由なんてない。魔女だからってだけで十分じゃない」
「それだけじゃないよね? 何か他にあるはずだ」
ノエルはルーシェルから目を逸らした。今まで彼女にその話をしなかったのは、ルーシェルに話したってわかってくれないと思ったから。
人間が、両親を殺した。ルーシェルだったら、憎むのはその犯人だけでいいではないかと言うだろう。その優しいところが好きなのだが、同時に嫌いでもある。
「ルーシェルにはきっと、あたしの気持ちはわからないわよ。……そろそろ、この二人を殺したいんだけど? あたしに攻撃するなら、攻撃すればいいわ」
何だかもう、何もかもがどうでもいい気分だ。ルーシェルに殺されるのだったら別にいい、と思ってしまうほどに。どうしてこんな気分になるのかはわからないが。
ノエルがそう言うと、そろそろ、と白い何かが歩いてきた。
「ルーシェル、あの男は必要だと思ったらその壺を壊せばいいといっていたぞ」
「……ああ、白猫。あんたいたのね」
全く気付かなかった。
この白猫は、ノエルがルーシェルと付き合いだしたきっかけだったな、と懐かしくなる。一応ノエルは、魔女がいるという噂を聞いたらそこへ行くようにしている。その魔女を気に入ったら、魔法を教えた。普通、魔女は魔女に魔法を教わるのだ。
白い使い魔なんて、いるとは思っていなかった。もし生まれたとしても、それは生まれてすぐに捨てられたり何なりするだろうと。しかもそんな使い魔と契約する魔女は、もっといるとは思っていなかった。
それが、ルーシェルに興味を持った理由だ。最初はただ興味を持っただけだが、その後彼女と付き合ううちに好きになっていった。
ノエルは、白猫(名前は何だっただろうか)に言われても壺を割ることをためらっているルーシェルを、ふんと鼻で笑った。
「さっさとやったらどう、ルーシェル。それともやっぱり、あたしは攻撃できないの?」
「……ノエル、僕は壺を割るけど、それは君を攻撃するためじゃないからね」
だったら何のためなのだろう。壺を思い切り地面に叩きつけるルーシェルを見て、ノエルはぼんやりと思った。
壺は割れたときに音を発さなかった。いや、そもそも割れたのかもわからない。ルーシェルが地面にたたきつけた壺は、跡形もなく消えていた。
「へ?」
ルーシェルも驚いたのか、間抜けな声を上げる。
「……何にも変わった気がしない、けど?」
平気なのかな、と首をかしげて寝台に横たわる少女を見るルーシェル。
ノエルに攻撃せず、何をするつもりなのだろうか。
「えっと確か……νЪ§!」
ルーシェルがそう言った途端辺りに真っ白な光が広がって、ノエルは目を見張った。
魔法を使う時、こんな光はでない。では、これは魔法ではない? いや、そんなはずは……。
ノエルが頭の中でぐるぐると考えていると、もっと信じられないことが起きた。
「……え?」
寝台に横たわる少女の顔に、みるみる血の気が戻っていく。
その少女は、ゆっくりと目を開けた。
明日はきっと投稿できません……。ですが、土曜の午前中には投稿します。




