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第三十四話 希望

『今から教えるのは、『蘇生』の魔法だ。君が使うことがあるかもしれないと思ってね』


 クロードとエデを待っていると、手紙の中のそんな一文が頭に浮かんだ。

 『蘇生』の魔法を使えれば、セリアを生き返らせることができたのに。

 ルーシェルは寝台の横に椅子を持っていき、それに座ってセリアの顔をじっと見た。昨日まで普通に自分と話していた彼女は、もう動くことも話すこともできないのだ。

 魔法が使えない、無力な自分。魔法なんて使えなくていい、と思っていたのに、今は使いたいと思っている。自分勝手だとはわかっていても、あの変態を恨まないなんてできなかった。


『僕が封印したせいで、魔法が使えなくなってたらごめんね』


 なって()()ではなく、あの変態はこうなることがわかっていたに違いない。『蘇生』の魔法を使う必要があることも、彼はわかっていたのだろう。

 だがそうなると、なぜわざわざ『蘇生』の魔法を教えたのかわからない。魔法が使えなくなることをわかっていたはずなのに。それとも、ルーシェルの魔法がまた使えるようになると思っていたのだろうか。

 自分でしておいてそれはないだろう、と考え、あの変態からもらった壺の中身をまだ確認していないことに気が付いた。


(もしかして……!)


 希望は、まだあるのかもしれない。


「ノギス!」


 振り向いて叫ぶと、ノギスは驚いたのか乗っていた机から落ちた。


「……大丈夫?」

「ああ。どうしたんだ?」


 不思議に思いながら、先ほどまでの勢いをなくして彼に尋ねる。


「あの変態からもらった壺、本当にどこに埋めたか覚えてない? あの壺に……僕の魔力が入ってるかもしれないんだ」

「『蘇生』の魔法のためか。……悪い。もう、埋めたと思ったところ一帯を探したんだが……」

「そっ、か」


 ルーシェルががっくりとうなだれると、ノギスも同じようにうなだれた。魔力が入ってるかもしれない、と言ってすぐに『蘇生』の魔法のためだと気付いたのだ。彼もルーシェルと同じことを考えていたのだろう。

 セリアの体にたかってくる虫を、手で払いのける。


(……セリア。もうすぐ、綺麗な所に連れて行ってあげるからね)


 クロードがどこに墓を作る気なのか知らないが、彼が選ぶなら本当に綺麗な所なのだと思う。

 墓を作る前に、セリアの傷を癒してくれないだろうか。

 ふと、そんなことを思いつく。術は人を守るためにあるのだし、傷を癒す術だってあってもいいはずだ。


(『蘇生』の術は……?)


 『蘇生』の魔法があるなら、術もあるのではないだろうか。

 そう考えて、ルーシェルは首を振った。そんな術があるのなら、クロードはあんな顔をしなかったはずだ。生き返らせないのがわかっていたからこそ、あんな辛そうな顔をしたのだ。


 その時、真っ白な光が洞窟に広がった。意外に早かったな、と思いながら座っていた椅子から立ち上がる。

 エデはセリアを見ると、ふらふらと寝台に寄ってきた。今までルーシェルが座っていた椅子に、エデが座る。


「セリア……」


 彼女の瞳に、みるみる涙が溜まっていった。だが、その涙を手でぐいっとぬぐう。その顔は、泣いてはいけないと思っているように見えた。

 泣いてもいいのに、とルーシェルはエデを見つめた。ルーシェルだって泣いたのに、エデは泣かないつもりなのだろうか。


「……ию」


 エデが何かをつぶやくと、セリアの体が白い光に包み込まれた。その光の中でセリアの傷が治っていくのを見て、これはきっと『治癒』の術なのだろう、と思った。

 光が消えると、セリアの傷は完全に治った。彼女に刺さっていた矢も、どうやったのかなくなっている。

 生きているように見えるのに、セリアの白い顔が生き返ったわけではないと物語っていた。

 エデが椅子から立ち上がった。


「……ルーシェル、セリアが死んで辛い?」

「え? ……辛いに決まってるよ」


 急に何を訊くのだろう。


「セリアが死んだこと……セリアのこと、忘れたい?」


 そう言ったエデの顔は真剣だった。

 彼女は、術でルーシェルの記憶からセリアのことを消し去るつもりなのだろうか。


「忘れない。僕は、セリアのこと忘れたくない」


 初めて、一緒にいて心から楽しいと思える友人。ノエルの場合、楽しいは楽しいのだが疲れてしまうのだ。

 セリアと友人になって一ヶ月も経っていないなんて、信じられないほど彼女と過ごした日々は楽しかった。話してばかりだったが、話すことは尽きなかった。あまり話すことが得意ではないルーシェルでも、ずっと話していられたのだ。

 話す以外にも、最近はステルダへ観光へ行った。そこでエデと友達になり、アンソニーを助け。そういえば、アーサーが「おめでとう」と言っていたと伝えるのを忘れていた。アーサーのためにも、あの壺を探さなければ。


 質問の答えを聞いてほっとしたようなエデと、クロードに言う。


「エデ、クロード。あの変態からもらった壺を、一緒に探してくれない? それに壺に、僕の魔力が入っているかもしれない。……そしたら、『蘇生』の魔法を使える」

「「!」」


 二人は、ルーシェルの言葉に目を見開いた。この反応では、やはり『蘇生』の術は存在しないのだろう。


「協力して……セリアを生き返らせるために」


 エデもクロードも、『蘇生』の魔法が使えることを信じていいのか迷っているようだった。当然だ。魔法は人を傷つけるためのものしか存在しない。人を生き返らせるための魔法なんて、誰が想像できるだろう。

 あの変態が嘘を手紙に書いたのかもしれない。だがそんな嘘をつくような人間には見えなかったし、セリアを生き返らせるかもしれないのならどんなことでもやりたかった。


「……うん、頑張って探そう! あたしはその壺が見つかるまで探す!」

「そうだな。俺も協力しよう」


 心なしか、二人の表情は明るくなったようだった。


「――う~ん、残念! それは無理ね」


 聞いたことのある声に、はっと洞窟の入り口を振り返る。

 そこには、面白そうにこちらを見ている、ノエルの姿があった。その手に握られているものを見て、ノギスが息を飲む。


(……あれって、壺?)


 てっきり大きな壺を想像していたが、その壺は手のひらほどの大きさもなかった。

 そんなことを考えていると彼女がルーシェルをじーっと見てきて、思わずたじろいでしまう。なぜこんなにも見られるのだろ――


「ルーシェルー! 会いたかったー!」

「ふぁ!」


 一瞬にして、ノエルがすぐ近くにやってきてルーシェルに抱きついてきた。


「ノ、ノエル……」


 僕も会いたかった、とは嘘でも言えなかった。








 ノエルの眩しい笑顔見ながら、最悪の人物が来てしまった、とルーシェルは思った。



 

 希望ってタイトルはあってないでしょうか?

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