表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/56

第三十三話 後悔

 昨日、初めて一日のユニークが50を超えていて驚きました。……読んでくださっている方、ありがとうございます!

 クロードが『移動』の術で洞窟に行くと、ベッドの上には血だらけの誰かが横になっていた。異臭が洞窟内に立ちこめている。

 驚いて固まっていると、ルーシェルがこちらを見た。その顔は全くと言っていいほど表情がなくて、一瞬ルーシェルだとはわからなかった。


「あ、……クロード」


 これは誰だ、と尋ねようとしても口が開かなかった。誰かはとっくにわかっている。セリアなのだ。だが、どうして彼女が血だらけになっているのだろう。それに――。


 ベッドの上の人間は、とても生きているようには見えなかった。


「あのねクロード。セリア、死んじゃったんだ」


 軽い口調で言うルーシェル。ルーシェルがこんな口調で、セリアが死んでしまったなんて言うはずがないと思った。


「……冗談、だろう?」

「こんな冗談……言わないよ」


 ルーシェルの表情が変わる。泣きそうになるのを我慢しているような顔。

 その顔を見て、冗談ではなく本当にセリアが死んでしまったのだ、と理解する。

 だが、セリアは『巫女』だったはずなのに……? これはどう見ても人間の仕業だ。巫女のセリアがなぜ殺されるのだろう、と考えルーシェルを見て納得する。


「ばれたのか。……お前と会っていることが」

「うん。そうみたい。……クロード、綺麗な場所知らない? セリアのお墓、作ろうと思うんだ」

「エデも呼ぶぞ」


 そのほうがいいね、とルーシェルは笑った。セリアが死んでこんなすぐに笑えるのか、とルーシェルの笑顔を見ると、無理をして笑っているのがわかった。セリアのためだろうか。

 あの少女なら、ルーシェルが泣くことを望まない。笑顔でいることを望むだろう。ルーシェルも、セリアがそう考えると思って無理に笑っているのだ。

 その笑顔は見ていて痛々しかった。無理をしているのだから当然だ。


(綺麗な場所、か)


 それならば、ミリウス湖がいいかもしれない。あの湖は綺麗だし、今の季節たくさんの花が咲いているはずだ。


(……エデ、すまない)


 心の中で、エデに謝罪する。おそらく、エデは許してくれないが。


『ねえ、あの二人のこと、クロードが守ってくれないかな?』


 エデの言葉がよみがえる。

 この二人を守る、と約束したのに。早くもその約束を破ってしまった。エデはあの時、もうすぐこうなることをわかっていたのだろうか。

 クロードは、ベッドに横たわるセリアを見つめた。ひどい怪我をしているにも関わらず、その顔は安心しているようだった。


(村人にやられたのか)


 村人はセリアを恐れて、死んだかどうか確認しなかったのだろう。彼女は最後の力を振り絞って、ルーシェルに会いにきたに違いない。


(……守れなかった)


 悔しくて、申し訳なくて、クロードは唇をかみしめた。

 守れなかった。

 もしクロードがその場にいたら、助けられたのに。エデの言った言葉の意味をもっとよく考え、セリアと一緒にいれば。


「Й‡б§」


 エデはどんな反応をするだろうか。


     * * *


 セリアが殺された。アスメリ村の村人に。

 クロードが告げたその言葉に、エデは目の前が真っ暗になった気がした。


「……だから、あいつの墓をミリウス湖に作ろうと思ってエデを呼びにきたのだ」


 クロードがそう言う。エデは答えられなかった。


(セリアが死んだ……)


 ルーシェルは、今どれだけ辛いのだろう。

 彼女の気持ちを考えると、胸が押しつぶられそうだった。


「――守るって……言ったくせに!」


 クロードの後悔にあふれた顔を見て、エデははっと口を押さえた。

 自分にそれを言う資格はない。セリアが殺されると知って、何もできない自分が。

 エデは、セリアがもうすぐ殺されることを知っていたのだ。村人にではなく、あの魔女にだったが。魔女と言っても、ルーシェルではない。名は名乗らなかったのだ。


(ごめんね……ごめんね、セリア。ルーシェル)


 謝っても許されない。自分が知っていたということを、ルーシェルとクロードに話す勇気はエデにはない。二人に、嫌われるのは嫌だ。


 何もできなかったのは、仕方がない。人質を取られていたのだから。


 そう一瞬でも考えてしまう自分に、吐き気がする。人質を取られていたのは確かだ。両親と……好きな人を。

 昨日ルーシェルたちを待っている間に、魔女が来たのだ。なぜそんなことをするのか、と尋ねても魔女は何も答えてくれなかった。ただ、このことをルーシェルに言うなとしか。

 黙っているエデの目を、クロードはまっすぐ見た。


「すまなかった」

「何で……謝るの?」


 素直に謝るクロードに、苛立ちを感じる。


「クロードは、何も悪くないのに! 悪いのは、全部あたしで……」


 クロードは理由を尋ねてこなかった。

 昔からそうだ、とエデはうつむいた。いつも、エデが訊いてほしくないことは訊かない。してほしくないことはしない。

 なんだかんだと言って、クロードはエデを大切にしてくれた。だからエデは、そんなクロードと一緒にいるのが安心するのだ。

 無理だと思っても、ついぽつりと訊いてしまう。


「……セリア、生き返らせたりできないのかな? クロードなら、新しい術を作れるんじゃない?」

「無理だろうな、俺じゃ。フィルマンさまだったら……可能だっただろうが」


 死んだ人間を生きかえす。それは世の理に反している。

 フィルマンだったらできたのだろう。もし彼が生きていたら、と考え、エデは首を横に振った。『もしも』を考えたって、むなしいだけだ。


「行こうか、クロード」


 エデは『移動』の術を使えない。術にはそれぞれ使う人間との相性があり、エデにもクロードにも使えない術はある。


「……泣かなくていいのか?」

「クロード、そういうのは思っても口に出さないで」


 そう訊いてほしかった。同時に、訊いてほしくなかった。そう訊かれたら思い切り泣けるが、エデに泣く資格なんてないのだから。

 それに、昨日も泣いたのだ。クロードの前で。二日連続も泣くのは嫌だし、泣くとしても今度は誰もいないところで泣きたい。


「行こ」


 彼が『移動』の術を使わないと、ルーシェルとセリアが待つ洞窟に行けない。

 エデが今泣きたくないのがわかったのか、クロードはうなずいた。


「Й‡б§」


 どんな顔をして、ルーシェルに会えばいいのだろうか。

 エデは、彼女に会うのがたまらなく怖かった。だが、会わなければならない。行って、セリアの墓を一緒に作るのだ。









 守れなかったかわりに、せめてそれだけでもしてあげたかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ