第三十三話 後悔
昨日、初めて一日のユニークが50を超えていて驚きました。……読んでくださっている方、ありがとうございます!
クロードが『移動』の術で洞窟に行くと、ベッドの上には血だらけの誰かが横になっていた。異臭が洞窟内に立ちこめている。
驚いて固まっていると、ルーシェルがこちらを見た。その顔は全くと言っていいほど表情がなくて、一瞬ルーシェルだとはわからなかった。
「あ、……クロード」
これは誰だ、と尋ねようとしても口が開かなかった。誰かはとっくにわかっている。セリアなのだ。だが、どうして彼女が血だらけになっているのだろう。それに――。
ベッドの上の人間は、とても生きているようには見えなかった。
「あのねクロード。セリア、死んじゃったんだ」
軽い口調で言うルーシェル。ルーシェルがこんな口調で、セリアが死んでしまったなんて言うはずがないと思った。
「……冗談、だろう?」
「こんな冗談……言わないよ」
ルーシェルの表情が変わる。泣きそうになるのを我慢しているような顔。
その顔を見て、冗談ではなく本当にセリアが死んでしまったのだ、と理解する。
だが、セリアは『巫女』だったはずなのに……? これはどう見ても人間の仕業だ。巫女のセリアがなぜ殺されるのだろう、と考えルーシェルを見て納得する。
「ばれたのか。……お前と会っていることが」
「うん。そうみたい。……クロード、綺麗な場所知らない? セリアのお墓、作ろうと思うんだ」
「エデも呼ぶぞ」
そのほうがいいね、とルーシェルは笑った。セリアが死んでこんなすぐに笑えるのか、とルーシェルの笑顔を見ると、無理をして笑っているのがわかった。セリアのためだろうか。
あの少女なら、ルーシェルが泣くことを望まない。笑顔でいることを望むだろう。ルーシェルも、セリアがそう考えると思って無理に笑っているのだ。
その笑顔は見ていて痛々しかった。無理をしているのだから当然だ。
(綺麗な場所、か)
それならば、ミリウス湖がいいかもしれない。あの湖は綺麗だし、今の季節たくさんの花が咲いているはずだ。
(……エデ、すまない)
心の中で、エデに謝罪する。おそらく、エデは許してくれないが。
『ねえ、あの二人のこと、クロードが守ってくれないかな?』
エデの言葉がよみがえる。
この二人を守る、と約束したのに。早くもその約束を破ってしまった。エデはあの時、もうすぐこうなることをわかっていたのだろうか。
クロードは、ベッドに横たわるセリアを見つめた。ひどい怪我をしているにも関わらず、その顔は安心しているようだった。
(村人にやられたのか)
村人はセリアを恐れて、死んだかどうか確認しなかったのだろう。彼女は最後の力を振り絞って、ルーシェルに会いにきたに違いない。
(……守れなかった)
悔しくて、申し訳なくて、クロードは唇をかみしめた。
守れなかった。
もしクロードがその場にいたら、助けられたのに。エデの言った言葉の意味をもっとよく考え、セリアと一緒にいれば。
「Й‡б§」
エデはどんな反応をするだろうか。
* * *
セリアが殺された。アスメリ村の村人に。
クロードが告げたその言葉に、エデは目の前が真っ暗になった気がした。
「……だから、あいつの墓をミリウス湖に作ろうと思ってエデを呼びにきたのだ」
クロードがそう言う。エデは答えられなかった。
(セリアが死んだ……)
ルーシェルは、今どれだけ辛いのだろう。
彼女の気持ちを考えると、胸が押しつぶられそうだった。
「――守るって……言ったくせに!」
クロードの後悔にあふれた顔を見て、エデははっと口を押さえた。
自分にそれを言う資格はない。セリアが殺されると知って、何もできない自分が。
エデは、セリアがもうすぐ殺されることを知っていたのだ。村人にではなく、あの魔女にだったが。魔女と言っても、ルーシェルではない。名は名乗らなかったのだ。
(ごめんね……ごめんね、セリア。ルーシェル)
謝っても許されない。自分が知っていたということを、ルーシェルとクロードに話す勇気はエデにはない。二人に、嫌われるのは嫌だ。
何もできなかったのは、仕方がない。人質を取られていたのだから。
そう一瞬でも考えてしまう自分に、吐き気がする。人質を取られていたのは確かだ。両親と……好きな人を。
昨日ルーシェルたちを待っている間に、魔女が来たのだ。なぜそんなことをするのか、と尋ねても魔女は何も答えてくれなかった。ただ、このことをルーシェルに言うなとしか。
黙っているエデの目を、クロードはまっすぐ見た。
「すまなかった」
「何で……謝るの?」
素直に謝るクロードに、苛立ちを感じる。
「クロードは、何も悪くないのに! 悪いのは、全部あたしで……」
クロードは理由を尋ねてこなかった。
昔からそうだ、とエデはうつむいた。いつも、エデが訊いてほしくないことは訊かない。してほしくないことはしない。
なんだかんだと言って、クロードはエデを大切にしてくれた。だからエデは、そんなクロードと一緒にいるのが安心するのだ。
無理だと思っても、ついぽつりと訊いてしまう。
「……セリア、生き返らせたりできないのかな? クロードなら、新しい術を作れるんじゃない?」
「無理だろうな、俺じゃ。フィルマンさまだったら……可能だっただろうが」
死んだ人間を生きかえす。それは世の理に反している。
フィルマンだったらできたのだろう。もし彼が生きていたら、と考え、エデは首を横に振った。『もしも』を考えたって、むなしいだけだ。
「行こうか、クロード」
エデは『移動』の術を使えない。術にはそれぞれ使う人間との相性があり、エデにもクロードにも使えない術はある。
「……泣かなくていいのか?」
「クロード、そういうのは思っても口に出さないで」
そう訊いてほしかった。同時に、訊いてほしくなかった。そう訊かれたら思い切り泣けるが、エデに泣く資格なんてないのだから。
それに、昨日も泣いたのだ。クロードの前で。二日連続も泣くのは嫌だし、泣くとしても今度は誰もいないところで泣きたい。
「行こ」
彼が『移動』の術を使わないと、ルーシェルとセリアが待つ洞窟に行けない。
エデが今泣きたくないのがわかったのか、クロードはうなずいた。
「Й‡б§」
どんな顔をして、ルーシェルに会えばいいのだろうか。
エデは、彼女に会うのがたまらなく怖かった。だが、会わなければならない。行って、セリアの墓を一緒に作るのだ。
守れなかったかわりに、せめてそれだけでもしてあげたかった。




