表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

第三十二話 現実

 二度目の投稿。

 嘘だ、と思いたかった。

 セリアが死んだなんて、思いたくなかった。

 だが、ルーシェルの目の前で冷たくなっているセリアは、どう説明できるのだろう。


(……あ、そうか、夢なんだ)


 何だ、夢か。

 そう思うと、ルーシェルの顔には笑みが浮かんだ。涙も出なかった。セリアが死ぬはずがない。これはきっと夢で、本当はセリアは死んでいないのだ。目が覚めたら、いつもと変わらない日々がまた始まる。


「……ルーシェル?」

「ん? どうしたの、ノギス」


 笑顔で首をかしげるルーシェルを、ノギスは変なものを見るような目で見つめた。


「それはこっちの台詞(せりふ)だ。こんな時に、なぜお前は笑っている?」

「こんな時? だってこれは夢でしょ? セリアが死ぬはずない。そう考えたらおかしくなっちゃって。まあ、夢の中のノギスに説明しても無駄か」


 早く目、覚めないかな~とつぶやくと、ノギスはおもむろに口を開いた。


「……ルーシェル、手を出せ」


 何をするつもりか知らないが、ここは夢の中だ。深く考えなくともいいだろう。

 そう思って右手を出すと、ノギスが爪を出した。普段は絶対に出さないのに。

 え、と言うより先に、ノギスの爪がルーシェルの手の甲を引っかく。鋭い痛みが走って、ルーシェルは思わず目をつぶった。


「――っ!」

「その痛みが、夢だと思うか?」

「は……はは、痛みまである夢なんて、初めて見た」


 引きつった笑みを浮かべるルーシェルを、ノギスはじっと見つめる。

 しばらくし、ルーシェルは首を横に振った。


「ゆ、夢だよ。夢なんだって!」


 それでも、ノギスはルーシェルから目を離さない。じっとこちらを見つめる目が、これは現実だと言っている気がして怖くなった。

 現実のはずがない。

 ノギスにひっかかれた右手は痛いが、痛みを感じる夢だってあるはずだ。だから、これは夢なのだ。

 自分にそう言い聞かせる。そうしないと、セリアが本当に死んでしまったのではないかと考えてしまって。


「……こいつの、墓を作ろうか」


 墓。

 今までの人間たちには作れなかったもの。それを、セリアに作るのか? 冷たくなったセリアを、地面に埋め、墓を作る。それをしてしまったら、いくら夢でも――


「お前の手を見てみろ」


 のろのろと手のひらを見ると、そこにはべっとりと血が付いていた。自分の血ではない、セリアの血が。


「違う! これは夢、で、セリアは、死んで、なくて……」


 目の前にいるセリアは


「だっ、て。まだ、セリアの……誕生日、お祝いしてな、いのに……?」


 死んでいる


「セリ、アと友人になっ、て、まだ。一ヶ月、も経ってな……」


 死んでしまったのだ、セリアは。もう話せないし、笑顔も見れないのだ。

 セリア、と呼んでも返事をしてくれない。

 ルーシェルの目から、涙があふれた。


「う……死ん、じゃ……ひっ、ったの? セリア……」

「そうだ。死んだんだ、こいつは」


 無感動な声で言うノギスにカッとなる。


「何でそんなに平気でいられるの!? ノギスは……セリアのこと、どうとも思ってなかったの!?」


     * * *


 どうとも思っていなかったわけがない。

 ノギスは泣きながら怒鳴るルーシェルを、自分でも不思議になるほど冷静に見ていた。


「そうだよね、ノギス、セリアのこと嫌いなんでしょ!? セリアの誕生日をお祝いしたかったのは、ただ自分だけ仲間はずれなのが嫌だったんだよね!」

「……」

「何も言わないってことは、そうことなんだ! いいよ、ノギスがセリアのことをそんな風に思ってたなら、僕は君との契約を破棄する!」


 それもいいかもしれない、と思った。今ここで契約を破棄すれば、ノギスの寿命はここで終わる。悲しむルーシェルを、これ以上見たくないのだ。

 もともと、ルーシェルに拾われなければ死んでいた。だったら今ここで死んでも、変わらないではないか。


「いいぞ」


 気付いたら、勝手に口から言葉が出ていた。

 ルーシェルは目を見開いてノギスを見る。


「するならさっさとしろ」

「――っ何で!?」


 何で、とはどういうことだろう。


「僕、ほんっとうにひどいこと言ったんだよ!? 何で、ノギスは怒らないの……? 何で契約を破棄してもいいなんて言うの?」


 君まで、僕を置いていかないで。


 ぽつりとつぶやかれたその声を聞いて、ああそうか、と思った。

 契約を破棄してしまえば、彼女だけを残して死ぬことになるのだ。クロードやエデがいても、その二人が死んだらルーシェルは独りになる。ノエルという魔女もいたはずだが、あの魔女はルーシェルにとって大切な存在なのだろうか。千年前にあの魔女と何度も話しているのを見たが、セリアたちと話す時ほど楽しそうには見えなかった。

 独りになったら、彼女はもっと悲しむのだ。もしかすると、自殺してしまう可能性だってある。


「悪かった。ルーシェルのことを、何も考えずに言って」

「……謝らないでよ。僕の方がずーっとひどいこと言ったんだから」

「……とりあえず、こいつの墓を作るか?」


 ようやく現実を受け止められたのだろう。ルーシェルは、ためらわずにうなずいた。


「綺麗な所に埋めてあげたいな。できれば、アスメリ村の遠くで」

「だったら、あの男が来るのを待つか? 遠くの花畑にでも埋めてやればいい」


 セリアもそういう所に埋めてやったほうが喜ぶだろう。

 そうだね、とルーシェルはうなずくと、慎重にセリアを抱き上げた。セリアはルーシェルに感謝の気持ちを伝えられたからなのか、安心したような顔をしている。その顔を見て、ルーシェルはふっと微笑んだ。


「セリア、僕に会えたことで少しは幸せになれたんだよね?」

「言ってただろ。ありがとうって」

「うん。……軽いなぁ、セリアは」


 ちゃんと食べてたのかな、とルーシェルが何かが吹っ切れたように言う。


「お墓には、エデが買ったチョコレートを一緒に埋めようかな。僕の指輪も一緒に」


 エデはそんなものを贈るつもりだったのか、と呆れてしまう。ルーシェルの指輪はまともだが、いくら貴重だからと言ってチョコレートを贈るのはどうなのだろう。


「……泣いてちゃ駄目だ。笑ってなきゃ。セリアもそのほうが嬉しいよね?」


 ルーシェルが、もう二度と目覚めないセリアに問いかける。











 もちろん、とセリアの笑う声が聞こえた気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ