第二話 使えない魔法
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最初はセリア視点です。
村へ戻っても、自分がいなくなったことに誰も気付いていなかった。こっそりと家に入ると、思った通り誰もいない。
セリアは、静かな家に響く自分の足音を聞きながら考えた。
(……これなら、ルーちゃんともっと話していてもよかったかも)
龍神さまへの祈りの時間は、夜が明ける頃に一度だけ。雨が降るよう祈るのが、巫女であるセリアの役目だった。『巫女』とは龍神さまの声が聞ける者を指す。
普通の巫女だったら、村人たちに崇められ大切にされるのだが……。どうしてか産まれた時から、セリアには特別な力があった。生き物の心が読める、という。
その能力のせいでセリアは人々から恐れられ、こうしていつも独りでいる。両親でさえ、セリアを気味悪がって近づかないのだ。たまにここへ来るのだって、きちんと巫女の役目を果たしているかを訊きに来るだけ。最後に両親がここへ来たのは、いつ頃だろう。
(あの人たちと違って、ルーちゃんは私を嫌わないと約束してくれた。自分だってあんな辛い思いをしたはずなのに……。どうしてあんな素直な子に育ったの?)
心を読んだから、彼女の一部の記憶まで知ってしまった。それなのにあんな風に育つなんて、奇跡に等しいと思う。本当に不思議だ。
(……また明日、会いに行こうかな。友達になろうってちゃんと言わなきゃ)
今日はそれを言えなかった。どんな話でも、彼女たちと話すことは楽しいのだが。
変わった魔女とその使い魔を思い出し、セリアは微笑んだ。
* * *
翌日。セリアがそんなことを考えていたとは知らず、ルーシェルはノギスと仲直りする方法を考えていた。ノギスはまだ、機嫌が悪そうにしっぽを振っている。どうにかして仲直りしたくて、昨日から話しかけてはいるのだが……。ルーシェルがしつこすぎたのか、とうとう何も返事をしてくれなくなってしまった。
黙って木の椅子に座っていられなくて、ルーシェルはうろうろと歩き始めた。
(物で釣るっていうのも……確かノギスの好きな物はベルガエンフェン、だっけ?)
ベルガエンフェンは金色をしていて、とても美味な魚だ。ルーシェルも好きだった。だがそれも、千年前の話。もしかしたらもうノギスは好きでなくなっているかもしれないし、ベルガエンフェンが絶滅しているかもしれない。
そこまで考えて、ふと洞窟に置いてある棚に見慣れない物があることに気付いた。ここには千年前に作った薬が並んでいた。もちろん、もう飲むことはできないが。
(これ……手紙?)
棚には、手紙らしき白い封筒があった。それを手に取り見てみても、宛名も差出人の名前も書いていなかった。
「それは、あの男が置いていった物だ」
ノギスが話してくれたことに少し喜びながら、手紙の封を切る。手紙は二枚入っていた。その内の一枚を開き、小さく口で読み始めた。
「拝啓……ってな、何これ?」
だが、最初の一文で思わず顔が熱くなる。手紙には、口に出すのが恥ずかしいほどの美辞麗句が延々と続いていた。こんなことを書く変態は、あの男だけだろう。
ノギスがルーシェルの肩に飛び乗り、手紙を覗き込む。
「何が書いてあった?」
「口が裂けても言わないよ。こんな恥ずかしいこと……」
ノギスは人間の文字が読めないから、見せても大丈夫と、ルーシェルは手紙を隠さなかった。
だが。
「ふむふむ。これは面白いな」
「へ!? な、何で……もしかして千年の間に文字を覚えた、とか?」
「暇だったからな。ん、この手紙には重要なことは書いてないぞ。早く次の手紙を見せろ」
固まっているルーシェルの頭をぽんぽん叩いてくる。ノギスの手では、封筒の中の手紙を取り出せないからだろう。ルーシェルはため息をつき、手紙を見せる。本当はあんな変態の手紙なんて読みたくなかったが……ノギスと仲直りできそうだったから。
「……? ルーシェル、これは呪文か? お前に教えるって書いてあるが」
「呪文? 何であいつが呪文なんか知ってるの? 呪文って魔女しか知らないはずなんだけど……しかも僕に教えるって?」
カリマがどこからか持ってきた本に、簡単な魔法は書いてあった。ルーシェルはそれで魔法を覚えたのだ。難しい魔法は、その後知り合った魔女の友達に教えてもらった。
だから、人間が魔女に教える魔法など、存在しないはずなのだ。それはあの変態もわかっているはずだ。首をかしげながら手紙に目を通す。
『こっちが一番伝えたかったこと。この手紙を読んでいるってことは、もう封印が解けているんだろう? 残念ながら、僕よりも強い力を持つ奴がいたようだね。もちろん、それを知っていて書いているんだけど。
今から教えるのは、『蘇生』の魔法だ。君が使うことがあるかもしれないと思ってね。
νЪ§
簡単だろう? 君にだったらこれを読めるはずだ。
君のある物と引き換えに、他の生き物を生き返らせることができる。ある物が何かは説明しないよ。この魔法は本当に大切な存在に使ってくれ。それから』
その先を読んだルーシェルは、手紙をぐしゃぐしゃに丸めた。あの変態は、やはりルーシェルとは相容れないようだ。
この手紙をどうしようか? そのままにしておくのは腹が立つから、燃やしてしまおうか……。ノギスに離れるように言って、手紙を地面に置く。そして
「л○Ж!」
『炎』の呪文を唱えた。――はずなのに。
何もでない。
本来なら、この魔法で手紙が燃えるはずだ。ルーシェルは嫌な予感がしながら、また呪文を唱える。
「л○Ж! л○Ж! л○Ж! л○Ж! л○……何で魔法が使えないの!?」
他の呪文も試してみる。『水』『風』『樹』『雷』――どれも簡単な魔法だ。カリマにもらった本に書いてあったくらいの。魔女ではなくとも、何年かかければ人間でも使える。どの人間にも魔力は少しあるから、魔法を使えるのが魔女とはいえないのだ。
そんな人間にも使えるような魔法が、魔女の自分に使えないわけがない。
ノギスは炎がでないことがわかったからか、ぐしゃぐしゃになった手紙を伸ばして続きを読んでいる。
「……あ。おい、ここ読んでみろ」
「ふぇ?」
半泣きの状態のルーシェルに、手紙を口にくわえて持ってくる。しわだらけの手紙を読むと、最後にこう書かれていた。
『追伸 僕が封印したせいで、魔法が使えなくなってたらごめんね』
「……うん。これは見なかったことにしよう」
何となくそうしたくなり、手紙を今度は綺麗に折りたたむ。そして封筒に入れなおし、元の場所に戻した。
「ルーちゃーん! 白猫くーん!」
そこへ元気なセリアがやってきた。ルーシェルとノギスは同時に黙り込む。
(……ふう、セリアは元気いいよな)
ルーシェルは今、とてもそんな元気はでなかった。
何を感じたのかセリアはうろたえ始める。
「え、え? 私って来ちゃ駄目だった……の?」
「ううん、僕は来てくれて嬉しいよ。嬉しいんだけど、ねぇ……」
顔を見合わせた二人(?)にセリアはあわあわと口を動かした。
「ま、まだ怒ってるのね? そうなのね? そうなんだ……」
「何で自分で訊いて自分で答えてるのさ。君なら心が読めるはずでしょ?」
その言葉ではっと気付いたセリアが落ち着き、昨日言いかけた話を切り出すのまでそうはかからなかった。
またあまり進んでいませんね……。
多分火・木・金曜日は更新できません。
すみません! 投稿した後にタイトル間違えてたのに気がつきました。




