第二十八話 青玉の指輪
タイトルが……。思いつかないです。他の作者の方は、どうやって考えているのでしょうか?
翌日、ルーシェルはクロードと、セリアが来るのを待っていた。ノギスは今日も一緒にいけないということで、しっぽをぱたぱたとしている。
(ノギスも、セリアの誕生日を一緒に祝いたいよな……)
一応、ノギスもセリアのことを、少しは大切だと思っているのだろう。それなのに誕生日を祝えないなんて、彼がかわいそうだ。
(そういえば、エデにまだノギスのこと話してないんだっけ)
エデにノギスのことを話したら、絶対に連れて来いと言うだろう。ルーシェルは怪しまれたくなくてそうするのだが、エデはそんなことを気にしないと思う。ルーシェルだって、できればノギスを連れて行きたいのだが……。
(……セリア、遅いな)
もうそろそろ、太陽が真上に来る。いつもはもっと早いのに。何かあったのではないか、と心配になってしまう。
時々セリアは用事があって、いつもより遅い時間に来ることがあるが、今回もそうなのだろうか。
セリアが遅くなる時、何だか彼女は暗い顔をしている気がする。ルーシェルの気のせいかもしれないが、彼女の誕生日にまでそんな顔をしてほしくない。
クロードが、洞窟の外を見ながら言った。
「……あいつが、ここに来ないことはあるのか?」
「ないけど……あ、でも一回あったな。僕とセリアが友人になる前」
「だとしたら今日、来ない可能性もあるのではないか?」
あ、と思わず声が漏れる。
「ど、どうしよう!? もしそうだったら……せっかくエデが場所も用意してくれたのに!」
「……ひとまず落ち着け。もしもそうだったら、明日に変えるよう俺がエデに言うだけだ」
呆れたようなクロードの声で、しゅんとなる。
こんなに楽しみにしていたのに、その楽しみが明日までお預けになるなんて。
もしかしたら、自分が楽しみたいからセリアの誕生日を祝いたいのかもしれない。純粋に、今までの感謝の気持ちを伝えたいとも思っているが。
(はあ、何でその可能性を考えなかったんだろう)
自分に怒りたくなってくる。
心の中で自分をけなしていると、ノギスの耳がぴんっと立った。
「あいつの足音だぞ」
彼の耳はすごくいい。ノギスが言うのならば、今セリアはここに向かっている途中なのだろう。
先ほどの気分は綺麗に吹っ飛んで、ルーシェルはまたわくわくしだした。
セリアの姿を見た途端、そのわくわくは最高潮に達した。
「ルーちゃん、クロ君遅れてご――」
「セリア! 待ってたよ! さ、クロード。急いで、すぐ、一刻も早く行こう!」
「……それは全て、似たような意味だ」
余計なことを言うクロードをせかして、術を使ってもらうよう頼む。しぶしぶと、彼は従ってくれた。
「Й‡б§……」
「え、そんないきなり!?」
セリアの叫んでいる声がしたが、気にしないことにする。
* * *
洞窟に着いたら、いきなりステルダの近くの森へつれていかれてしまった。遅くなったことで、ルーシェルの我慢はもう限界だったらしい。これからきっと、セリアの誕生日を祝うのだろう。
それがわかっていたから、そんな気分ではなくとも洞窟へ行ったのだ。だが、来ない方が良かったかもしれない、と思った。
横で話しているルーシェルの話は、少しも耳に入ってこない。全て適当に相槌をうっているだけだ。
(龍神さまが……捕らえられた)
頭の中で、何度もそのことを考える。昨日龍神さまと話してからは、ずっとそうだ。
あの時、滝へ行かなければ良かった。龍神さまの声が聞けたのは嬉しかったが、あんな話を聞かされては……。この調子では、今日せっかくルーシェルたちが自分の誕生日を祝ってくれるのに、楽しめそうにない。
「……セリア? 大丈夫?」
いつの間にか、ルーシェルがセリアの顔をじっと見つめていた。
「やっぱり、セリアが遅くなった後って、必ず暗い顔してるよね?」
「そ、そう?」
ルーシェルに言われ、初めてそういえば、と思った。ルーシェルに会いに行くのが遅くなった時、嫌なこと、気になることが必ずあった。
こんな気持ちで、このままルーシェルたちと過ごすわけにはいかない。
「……ルーちゃん、私ちょっと熱があるみたい。頭が痛いし、何だかぼーっとするの」
「熱!? 大変だ、クロード、すぐに洞窟に送って!」
慌てるルーシェルを見て、心の中が罪悪感でいっぱいになる。本当は熱なんてないのに。
「わかった」
クロードも、セリアの言葉を少しも疑わずにうなずく。
この二人は、どうしてこんなに真面目で、素直で、優しいのだろうか。セリアは悲しくなってきた。ここにいないエデだって、真面目ではないにしたって素直で優しい。
(もうすぐ、お別れか)
「Й‡б§!」
何だかあせっているような、クロードの術を唱える声が、セリアの心でつぶやいた言葉に重なる。
(クロ君、私のこと少しは心配してくれてるのかな?)
そうだったら嬉しい。クロードもノギスも、セリアのことをあまり好きだとは思っていない気がするから。
セリアは大好きなのに。ルーシェルもノギスも、クロードもエデも。
いつの間にこんなに好きになっていたんだろう、と真っ白な光の中で思った。
* * *
熱がある、と言ったセリアが帰るのを、ルーシェルは心配しながら見つめた。ルーシェルの肩の上では、ノギスも心配そうに見ている。
本当なら家まで送っていきたかったが、セリアに断られてしまったのだ。村の誰かに見られたら、怪しまれてしまうからと。
(……何かあったんだよね、あの顔は)
これからセリアがいつもより遅い時間に来たら、何かあったと考えることにしよう。
「……クロード、エデに伝えておいてね。セリアが来れなくなったって」
「わかった。そう伝えておく」
そう答えた声は、早口だった。彼もセリアを心配しているのか、と不謹慎だが嬉しくなった。クロードとセリアが仲良くなったようで。
クロードが『移動』の術を唱え、その姿が消える。
(あ……。そういえば、トニーを助けた時)
あの時『移動』の術を使えなかったのだろうか。エデは川へ行ったことがあったようだし、その術を使えれば一瞬でアンソニーを助けに行けただろうに。クロードはわからないが。
まあ、結果的にアンソニーを助けられたのだしいいか、と考えることにする。だが、一応今度会った時訊いてみようと思った。
「ルーシェル。やはり、俺はステルダに行ってはいけないのか?」
流石に二日留守番は辛かったようで、ノギスは元気がなかった。
「うぅ……。そうだよね、ノギスもセリアの誕生日、一緒にお祝いしたいよね」
「べ、別に祝いたいとかは考えていない!」
「はいはい。ま、ノギスもセリアのことを嫌いじゃなくなった、ってことだね。……僕もノギスを連れて行きたいんだよな。こっそりついてくる?」
そう言うと、ノギスは目を大きくして耳を立てた。余程嬉しいのだろう、しっぽをぴんと垂直に立てている。
「本当だな?」
「うん、絶対」
こんなことで嘘をついても、ルーシェルには何の得もない。ノギスもそれをわかっているから、嬉しそうにしているのだ。
ノギスは否定したが、本当はセリアの誕生日を祝いたいのだろう。相変わらず意地っ張りだ。
(早くお祝いしたい)
ルーシェルは、そうっと服から指輪の入った箱を取り出した。あのおばさんが綺麗に包装してくれた。だからもったいなくて指輪を見ることができないのだが。
(青玉、見たいな)
この指輪についている宝石は、セリアの瞳とよく似ている。見ていると安心するのだ。
ルーシェルは箱を見て微笑んだ後、取り出した時と同じようにそうっとしまった。




