第二十六話 買い物
短いですが、明日更新できそうにないので投稿です。
ステルダの市場で、ルーシェルは真剣な顔でセリアに贈るものを選んでいた。セリアには「ちょっとエデと約束があるから」と上手くごまかした。全く上手くごまかせていないことを、ルーシェルは気付いていない。
ノギスにはかわいそうだが、今日も洞窟で留守番してもらっている。
そんなことよりもルーシェルが不安なのは、エデとは別々に買うことになったから、一人で選ばなければならないことだ。買った後、広場で会う約束をしている。
幸い、千年前とお金は変わっていなかったから、ルーシェルでも普通に買い物ができるのだ。
銅貨、銀貨、金貨の順に価値が高くなっていく。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚ととても覚えやすい。それより高い場合は、紙幣になる。だが普通の市場などで使うと、ただの嫌がらせになってしまう。紙幣一枚で、金貨五十枚分の価値があるのだ。なぜこれだけ十枚ではないのか、と不思議に思うが、そう決まっているのだから仕方がない。これは全て、カリマに教えてもらったことだ。
今手元にあるのは金貨一枚。ルーシェルはお金を持っていないため、エデからもらったのだ。金貨が一枚あれば大抵のものが変えるが、それによって何を買うか悩まされている。
(セリアぐらいの歳の女の子って、何がほしいんだろう?)
ルーシェルの歳の十分の一にも満たないのだ。ルーシェルが十二、三歳だったときのことなんて覚えているはずがない。
市場にはちらほらセリアと同じ年頃の少女がいるが、怪しまれるのが嫌でなかなか話しかけられない。それに、いくら術で髪と瞳の色を変えていると言っても、何かの拍子に魔女だということがばれたらと思うと。
せめてエデがいればよかったのだが、とため息をついた。
別々に選んだ方が自分たちにとっても面白い、と何も考えないでそうしてしまったことを後悔する。
「あれ……? ルーシェルさん?」
自分の名を呼ぶ声に振り向くと、そこには昨日の少年がいた。そういえば名前を聞いていなかった、と思いながら知り合いを見つけたことに安心する。
少年は不思議そうに首をかしげた。
「どうしてここに?」
「セリアが明日誕生日なんだ。それで贈り物を買いに……というか、あの川で会ったのならここにいたっておかしくないんじゃない?」
「でも、その……。ルーシェルさんみたいな人は、人間がたくさんいる所に来ないかと思って」
魔女、と言わなかったのは、周りの人間に聞かれることを危惧してのことだろう。
「まあ、僕も本当はあまり来たくないんだけどね。だけど、セリアにどうしても、いつもの感謝の気持ちを伝えたくて」
少し照れながら言う。
セリアには感謝してもしきれない。初めての人間の友人だし、何より彼女のおかげで毎日が楽しいのだ。
今回の贈り物で、その感謝の気持ちが少しでも伝わってくれればいいな、と思う。
「あ、だったらいいものがありますよ」
「いいもの?」
少年がそう言って歩き出したので、後をついていく。そろそろ名前を訊きたいのだが、どう切り出そうか。
「えっと……君の名前、そろそろ教えてくれない?」
「! す、すみません。昨日は助けてもらったのに、名前も言わずに。帰ってから気付いて……」
少年は慌てて謝った。
「僕の名前はアーサーです。みんなにはアートって呼ばれています。えっと、助けてもらった弟はアンソニーで、僕はトニーって呼んでます。呼びやすいほうで呼んでください」
「じゃ、アートとトニーだね」
セリアだったらアーサーのことを、『アー君』と呼びそうだ。アンソニーは……『アン君』だろうか。彼女が人の名前を短くする時、最初の二文字をとることが多い。でもアンソニーのアンだと、女の子の名前みたいになってしまうな、とどうでもいいことを考える。
そんなことを考えている間に、アーサーは目的の店に着いたようだ。彼が止まったので、自然と後ろを歩いていたルーシェルも立ち止まる。
「ちょっと高いですけど……。最近の女の子に人気だそうですよ、この指輪。宝石を使っている割には安いですし」
指輪だったら、贈り物にも丁度いい。そう思って値段を確認してがっかりする。
金貨一枚半。
あと銀貨が五枚たりなかった。宝石を使ってこの値段なら確かに安いのだが、ルーシェルが持っているお金では買えない。
(とりあえず、どんなのが女の子に人気なのだけでも見ておこう)
ため息をついて指輪を一つ一つじっくり見ていくと、一つの指輪に目が引き付けられた。
「これ……」
思わず手に取ると、おばさんが話しかけてきた。店の人らしい。
「それは青玉の指輪だよ。気に入ったかい?」
「青玉?」
青玉はセリアの瞳と、少し違うがよく似た色をしていた。
じっとその指輪を見つめて、その場を離れようとしないルーシェルに、おばさんは苦笑する。
「相当気に入ったみたいだね……。そんなに気に入ったなら、譲ちゃんには特別に金貨一枚で売ってやろう」
「本当ですか!? 良かった……僕、金貨一枚しか持っていなかったんです」
気前のいいおばさんに、ルーシェルは顔を上気させて何度もお礼を言う。ルーシェルが持っているお金と、ぴったり同じ額にしてくれるとは。何て運がいいのだろう、と嬉しくなった。
「はは、そんなに喜んでくれるとはね」
「本当にありがとうございます! これ、お金です」
金貨を差し出すと、おばさんは大事そうにそれを受け取った。
「まいどあり。……誰かへの贈り物かい?」
「そうですけど……」
どうしてわかったんですか、と問うルーシェルにおばさんは笑って言う。
「譲ちゃんみたいな子は、自分のためにこんなものは買わないからね。少し待っていてくれ。綺麗に包装するから」
時間は気にしなくともいい。
ルーシェルはうなずいて、鼻歌を歌いながらおばさんが指輪を包装するのを待つ。歌なんて知らないから、適当に自分で作る。それくらい、今のルーシェルは機嫌が良かった。
「ほい、お待たせ」
「ありがとうございます!」
そんなに礼を言わなくていいよ、とおばさんは少し顔を赤くする。照れているらしかった。
もう一度「ありがとうございました」と言って振り返ると、そこにはまだアーサーがいた。
「あれ、アートまだいたんだ?」
「いえ……その、セリアに僕がおめでとうと言っていたと、伝えてください」
それだけです、と逃げるようにしてアーサーは走っていく。
どうしてそんなに慌てるのかわからなかくて、ルーシェルは首はかしげた。
(まあ、いっか。そんなことより……)
早く、エデと何を買ったのか教えあいたい。
ルーシェルは笑顔で、広場への道を進んでいった。
今回、少しお金の説明をいれました(少しではないですかね?)。話に関係はないので、別に覚えなくとも平気です。




