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第二十五話 笑顔

 どうしたらタイトルが思いつくのか……。

「――ぷっ」


 エデから出たのは、そんな笑い声だった。


「エ、エデ?」


 わけがわからず、呆然として彼女を見る。ルーシェルの声に、エデは答えず笑い続けるだけだった。

 隠していたことを、怒ると思っていた。そして、魔女である自分を封印すると思っていた。

 エデはなぜ、笑っているのだろう。ルーシェルが魔女で、それを隠していたのがそんなにもおかしかったのだろうか。


「……ルーシェル、隈がすご……っ」


 そう言って、また笑いを堪えられなくなったのか笑いだす。

 セリアも改めてルーシェルの顔を見て、吹き出した。


「え? え?」


 そういえば、今日が楽しみで眠れなかった。そのせいで隈ができたのかもしれない。だが、瞳の色を確かめるため鏡を見た時、ルーシェルの顔に隈はなかったはずだ。

 そこまで考え、クロードが『幻影』の術をかけた際、一緒に隈も隠した可能性に気付いた。気付いた途端、先ほどの少年にも隈で変になった顔を見られたのか、と今更ながら恥ずかしくなる。


「セリア、あの子たちに見られちゃったかな!?」

「大丈夫、きっと気付いてなかったわ。私もディーちゃんに言われて気付いたから。……ディーちゃんが、どんな反応をするか心配で」


 まさかこんな反応だとは思わなかった、とセリアは笑いながら言った。


(……魔女だって、気付いてないわけないよ、ね?)


 だって、ルーシェルの髪は黒に戻っているのだ。瞳の色は自分ではわからないが、髪が戻ったのなら瞳も戻っているはず。

 それなのに、なぜエデはそのことに触れないのだろう。隈のことに気が取られているとしても、こんなに長い間。

 ルーシェルが魔女だと気付いていないはずがないのだ。

 尋ねるのが恐ろしくても、尋ねなくてはいけない。ルーシェルはおそるおそる、エデに尋ねた。


「エデ……。僕が魔女だってこと、気付いてるよね?」

「うん、それが?」


 けろりとエデは言った。そう返されるとは思っていなかったルーシェルは、驚いてしまった。


「それが? って……。どうも思わないの?」

「……魔女だからって何? あたしはルーシェルのこと、友達だと思ってるけど?」


 ルーシェルは違うのかな? と笑うのをやめ、ルーシェルを睨みつけて言う。


「あたし、本当は魔女も魔物もあんまり封印したくないんだ。ルーシェルは友達だし、余計にだよ? それとも、ルーシェルはあたしに嫌われたかったのかな? 封印されたいならあたしも、正式な依頼としてルーシェルを封印するけど。ルーシェルがそうしてほしいのならしょうがないもん」


 これは相当怒っているようだ。


(怖い……)


 怒っているエデは恐ろしくて、ルーシェルの目には涙がにじんできた。これなら普通に嫌われた方が数百倍いい。

 ルーシェルが涙ぐんでいることに気付いたのか、エデはばつが悪そうな顔をした。何かを言おうとしているのか、何度か口を開けそのたびにまた閉じている。


「……ああもう! あたし慰めるのとかすっごい苦手なんだから! だから泣くな! これ以上泣くなら、容赦なしに封印する!」


 それは嫌だ、と慌てて涙をとめようとする。ノギスともセリアとも、もちろんエデとも、もっと一緒にいたいのだ。セリアへの贈り物を買うのだってまだしていない。

 そんなことを考えられることに少しだけほっとして、涙は自然に止まった。

 そこでふと、本来ならここにいるはずのクロードの姿がないことに気付いた。


「……あれ? そういえば、クロードは?」

「多分クロード……もうめんどいからクロードでいいや。クロードはもうすぐ来るんじゃないかな? あの子は走るとすぐ転ぶからさ。それで遅いんだよ」


 昔から何も変わらない。そう言って、エデは笑った。


「クロードって真面目だから、からかうの面白いんだ。ルーシェルをからかうのも面白そうだけど」

「……僕、からかわれるの嫌いなんだけど」


 この間ノギスにまで面白がられていたと知り、少し落ち込んだのだ。正直に言うと、からかわれるのは嫌いだ。


「だってさ、セリア」

「知ってるわ。だけどルーちゃんは、絶対に私を嫌ったりしないから、安心してからかえるの」


 否定できない。ルーシェルがセリアが嫌うなど、髪の毛が黒くない魔女ほどありえないのだ。

 自分で考えておいて、髪の毛が黒くない魔女などいないだろう、と突っ込んでしまった。もしセリアが心を読めたのなら、ルーちゃんが一人突っ込みしてるーとからかわれたはずだ。


「……あ、何だか今、心を読めなくなったことがすごく残念だわ」

「セリア、君本当に心読めてないの?」

「巫女の勘ね」


 巫女の勘はすごい、と素直に感心してしまう。心を読めなくたって、ほとんど読めてしまうではないか。それとも元々心を読めた、セリアだからなのだろうか?


「……アスメリ村から来た……み、こ? ってことは、セリア偉い人!?」


 ルーシェルが魔女だと知った時よりも、セリアが巫女だと知ったときの方が反応するのか。

 慌てふためくエデに、セリアはさらりと肯定した。


「そうよ。それがどうしたの?」

「え、え? それがどうしたのって……。いや、セリアはセリアだよ? だけど巫女って……?」


 エデの困ったような顔を見て、セリアは唇を尖らせた。


「ルーちゃんの時はそんな反応しなかったのに……。ディーちゃんは私のこと、友達だと思ってないのね」

「ごめんごめん。セリアも友達だって。ただちょーっとびっくりしたかな? ってだけ」


 そうエデが謝るも、セリアはまだ不満そうだ。つーんと顔をエデからそむけた。


「……あ、クロ君。やっと来たのね」


 セリアの向いた方を見ると、服が汚れたクロードがよたよたと歩いてくるところだった。走るよりも、歩いた方が速いと思ったのだろうか。


「遅くなってすまない」


 本当に申し訳なさそうにするクロードに、三人は顔を見合わせうなずいた。


「遅すぎだよ!」

「おっそすぎ!」

「遅すぎるわよ」


 考えてたことは同じらしい。見るからに落ち込んでしまったクロードを、三人で睨む。


 本気ではないが。


「……クロード、僕はそんなことじゃ怒らないんだけど?」

「あたしだって。慣れてるからね」

「私たち、ただクロ君で遊んでいただけよ?」


 それを『ただ』と言えてしまうセリアはすごい。それに、ルーシェルを二人と一緒にしないでほしい。

 ルーシェルは遊んでいたのではなく、ただクロードの反応を見て面白がってるだけなのだ。


「ルーちゃん、それ、遊んでるのと同じ」


 もはや、セリアが心を読めないのに心を読まれてしまうのを疑問に感じなくなってきた。エデは何のことだかわかっていないようだった。


「……?」


 クロードが眉をひそめる。まだ自分が遊ばれていたことに気付いていないようだった。

 いい加減気付いてもいいだろうに。少し呆れてクロードを見る。


「……ま、いっか。クロード、僕とセリアを洞窟に送ってくれない? もう遅くなっちゃったし」


 子供を助けたりクロードを待っている間に、もう夕方になっていた。

 エデが何かに気付いたように「あ!」と叫んだ。


「ルーシェル、人と会う約束してたんじゃなかった!?」

「う……ごめん、それ嘘なんだ。クロードにかけてもらった『幻影』の術は、水に触ると解けちゃうから、川には行けなかったんだ」


 そう言うと、エデは納得の声を上げる。


「だから髪が黒に変わった……っていうか戻ったんだね。ふむ、未完成の『幻影』の術、か。クロード、長老に報告してないのかな?」


 その言葉に、クロードは「うっ」とうめいた。


「どうなのかな?」

「……完成するまで、長老さまには報告したくなかったのだ」


 術を作ったら、いちいち長老という人に報告しなければならないのか。何て面倒なのだ、とルーシェルは思った。


「あたしが知ったからには、絶対長老に報告してもらうから。ってことで、クロード、早く二人を送ってあげてね」


 とてつもなく嫌な顔をするクロード。そこまで嫌なのか、と少しクロードがかわいそうになった。嫌なことを無理やりやらされる思いはわかっている。ルーシェルも、大嫌いな勉強をしなければカリマに怒られてしまったのだ。


「じゃ、また明日……セリアには内緒でね?」


 最後にこっそりと付け加えられた言葉に、笑顔でうなずく。


「そろそろ行くぞ。近寄れ」


 不機嫌なクロードに近づくのは少しためらったが、このままでは帰られないので言われた通り近づく。セリアはルーシェルのようにためらったりせず、普通に近づいていた。

 不機嫌だからか、クロードはいつもより大声で術を唱える。


「Й‡б§!」









 真っ白な光を見て、やっぱり綺麗だとルーシェルは思った。




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