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第二十三話 川の音

 今日は一度しか投稿できない……。

 視線だけで人が殺せるのなら、とっくに彼女はこの男たちを殺しているだろう。

 水晶の中のルーシェルと、その他三人を見つめるノエルは、そう思えるほどの目をしていた。本来ならばこの魔法は水晶を使わなくてもいいのだが、それでは自分にしか見えないから水晶を使っている。

 見せない方がよかったか、と少し後悔してノエルに声をかける。


「ノエル、わかっているな?」

「殺したい殺したい殺したい殺したい……」


 何やら物騒な単語が聞こえる。自分も魔女だがそういうことはあまり好きではないので、思わず一瞬ひるんでしまった。


「……はっ! 申し訳ありません。少し取り乱してしまいました」


 少しとは言えない気がするのは、自分だけだろうか。周りに誰もいないので、何とも言えない。


「コホン。私は本当はこういうことは嫌いなんだ。それを君のためにやっているんだぞ?」

「……はい」


 落ち込むノエルを見て、少し言い過ぎたかと思った。


「そう落ち込むな。……しかし、面倒なことになったな」


 ルーシェルの近くに、術を使える者がいるとは。しかも、一人ではなく二人だ。


(……女の方の弱点はわかった)


 後はそれをどうするかだ。

 だがその前に、ルーシェルの正体をばらす。すでに、策は打ってあるのだ。


(あの女は、どう反応するか……)


 その反応次第で、女をどうするかノエルが決めるだろう。殺すか、生かすか。

 ノエルが生かすはずがないが。

 やはり、こういうことにはむいていない。ノエルが女を殺すことを想像し、思わず身震いしてしまった。


     * * *


 ステルダの観光が終わり、ルーシェルたちはエデと共にあの森へ向かっていた。人がいないのならば『移動』の術で、すぐに洞窟に行けるのにわざわざ森へ行くのはエデの希望だ。

 ルーシェルとセリアともっと一緒にいたいらしい。


「あたしたちの一族に、同じ年頃の女の子っていないんだ。だから、二人と友達になれて嬉しい」


 友達になったつもりはない。

 そう言おうとすると、セリアに睨まれてしまった。……確かに、エデがこんなに嬉しがっているのに否定するのはひどいかもしれない。

 セリアがにこっと微笑んだ。


「私も嬉しいわ。ディーちゃんと友達になれて。ルーちゃんも、でしょ?」

「……うん」


 エデと友達になれたら嬉しいとは思う。だが、エデはルーシェルが魔女だということを知らない。そのことがばれたら、きっと嫌われてしまう。

 それは嫌だ。


(それに……エデは『封印』の術を使えるんだし)


 もしかしたら、自分は封印されてしまうかもしれない。セリアもノギスも残して封印されたくなかった。だから、できればエデと友達になりたくないのだ。


「ふうっ。やっぱここは気持ちーね」


 だから好きなんだ、と言いながらエデは木々を見上げる。


「……あっ! そうだ、この近くの川に行かない? 近くって言うかはわかんないけど。まだ夕方にもなってないし、時間はあるよね?」


 そういえば森に来た時、遠くで川のせせらぎが聞こえたのだった。楽しそうだしいいかとうなずこうとして、ルーシェルにかけられた術が水に触ると解けてしまうことを思い出す。

 川に行ったら、嫌でも水に触ることになってしまうだろう。


「ごめん。僕この後人と会う約束してて……」


 嘘を言うのは心苦しいが、この場合他に言いようがない。


「そっか……。セリアもルーシェルと一緒に帰るの?」

「私、お母さんにここへ来るって言っていないの。だからそろそろ帰らなきゃ」


 セリアも申し訳なさそうに嘘を言った。お母さん、と言った時とても辛そうにしたのは、ルーシェルの気のせいだろうか。


「セリアはまだ子供だもんね……。何歳なのかな?」

「十二よ。……あ、だけど明後日で十三歳になるわ」

「へぇ。……え!?」


 驚いて、エデと一緒に変な声を出す。

 明後日で十三歳ということは、明後日が誕生日ということだろうか?

 セリアが何をそんなに驚いているのか、という不思議そうな顔をした。


「言ってなかった?」

「初耳だよ!」


 ルーシェルの誕生日は正確にはわかっていない。だから、カリマとあった日を誕生日にしていた。

 毎年カリマは、いつもより少し豪華な料理を作り祝ってくれた。

 最近は誕生日を祝わないのか、と尋ねたくなったが、エデに不審に思われてしまうかもしれないから我慢する。

 エデが近づいてきて、ルーシェルの耳のそばでささやいた。


「ルーシェル、明後日ってステルダに来れるかな?」

「来れるよ」

「なら、セリアの誕生日お祝いしよう」


 誕生日を祝う習慣は、昔も今も変わらないようだ。


「場所はあたしが確保しておくね。ルーシェルは……う~ん、約束した人と会ったら、またクロードとステルダに来てくれないかな? 広場で待ってるから」


 そういうことなら、セリアが家に帰ってすぐにでもここへ来たいのだが。言ってしまった以上、すぐに来るのは無理だ。

 残念に思いながら、ルーシェルはセリアに気付かれないようこっそりうなずいた。


「わかった。贈り物を買うの?」

「あたしと一緒に選ぼ!」


 買い物をするのなんて初めてだ。しかもそれが、人間の友達に贈る物なのだ。


「……ねえ、クロ君。私って気付かないふりをしてた方がいい?」

「そうだろうな」


 セリアとクロードが何か話しているが、ルーシェルの耳には入ってこなかった。


(楽しみだな……)


 思わずにやけてしまった時だった。

 子供の、悲鳴が聞こえた。


     * * *


 ルーシェルはクロードに『加速』の術をかけてもらい、悲鳴が聞こえた方へ走っていた。エデ、セリアも後ろからついてくる。クロードは転んでばかりで、あまり進んでいない。


「……ルーシェル、セリア。おかしいと思わない?」


 エデが険しい顔で言った。


「おかしい?」

「……川の音が、大きすぎるってこと?」


 ルーシェルはわからなかったが、セリアはわかったらしい。


「そ。ここのところ雨が降ってないのに、何でこんなに川の音が大きいのかな?」


 言われてみれば、おかしいとすぐに気付いた。セリアの話では、今年に入ってからはまだ雨が降ってないのだ。


「アスメリ村の、あの滝ならともかくこの辺りの川の水が、そんなに多いわけないわ」

「……セリアはアスメリ村から来たの?」

「そうよ。あの滝は、龍神さまの力が一番強いところ。雨が降っていなくたって、水は常にある。だけど、この辺りの川は……」


 水が多いわけない、とセリアはもう一度言った。

 エデが遠くを睨むような顔をする。


「……ここら辺、魔物も野生の動物も少ないから。子供が川によく水を汲みに来るんだ。ステルダには井戸が二つしかない」


 所によって、川に汲みに行った方が早いのだ。

 その言葉に、ルーシェルの顔が青くなる。


(ってことは、川に水を汲みに来た子供が……)


 落ちたのかもしれない。


「もうすぐ、川に着く。そうなったら、あたしが術で子供を助ける……あ、れ?」


 エデの走る速度がだんだん遅くなっていく。ついには、ぺたりと地面に座り込んでしまった。


「な、何でだろ。急に疲れて……」


 エデは小さく、術らしきものをつぶやく。真っ白な光が出て、エデの顔は楽そうになった。

 だが。

 立ち上がってしばらく走ったかと思うと、また座り込んでしまう。


「な、何で? ル、ルーシェルとセリアは先に行ってて」


 エデの様子が気にかかったが、子供の方が優先だ。そのままセリアと走り続ける。


「……ルーちゃん、どうやって子供を助けるつもりなの? まだ落ちたって決まったわけじゃないけど」


 それはもちろん泳いで、と言おうとして水に触ってはいけないことを思い出す。それに、ルーシェルの体力では子供を助けることができないかもしれない。

 ルーシェルがそう考えたのかわかったのか、セリアは走りながら首を振る。


「体力の心配はいらないと思うわ。ルーちゃん、全く息が切れてないから。……魔女だから、なのかな?」

「多分ね」


 そう言いながら、ルーシェルは迷っていた。

 体力の心配はない。だが、子供を助けるために川へ入ったのなら、『幻影』の術は解けてしまう。


(……魔女だって、ばれちゃうのか)


 クロードはもう見えないほど遠くにいる。術が解け、エデに見られる前にかけなおすのは無理だろう。そうなると、エデと友達ではいられなくなるのではないか。

 川に子供なんて落ちていないかもしれない。だが、絶対とは言い切れない。

 もし魔女だってばれても、とルーシェルは思った。










 もし魔女だとばれても、子供を見捨てることなんてできるはずがない。





 ステルダの観光、短かったですね……。本当はもっと長かったはずなのですが。

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