第二十二話 長い先
何だかタイトルが変……。
からかいがいありそう、とエデが言うとセリアは仲間を見るような眼差しで彼女を見た。それはセリアもそう思っているということでいいのか。
睨むと、彼女は曖昧な笑みでごまかした。
セリアのことを睨んでいると、エデが頬を膨らませる。
「もう、クロードこーんな可愛い知り合いがいたなら、紹介してくれたらよかったのに」
クロードはうんざりしたようにため息をついた。
「紹介する必要があるか? それに、こいつらに知り合ったのは一昨日だ。お前はジャルマールに行っていたのだから、紹介するのは無理だろう」
「う~ん、こんなことなら依頼を受けなきゃよかった。今回封印した魔物、すっごい瞳がうるうるしてて罪悪感が……」
魔女だけでなく魔物まで封印するのか、と感心する。
この世界には魔物というものが存在する。魔物は人間を食らうもの、人間に悪意がなくひっそりと暮らしている二種類のものがいるのだ。そういう魔物は植物を食べていた。エデが封印したのはそっちだろう。
昔は多かったのだが、セリアに聞いた話では数が少なくなっているらしかった。
エデの言葉に引っかかることがあって、ルーシェルは首をかしげた。
「依頼? エデさんは依頼を受けて、魔物や魔女を封印しているんですか?」
「そんなかたくならないでいいって。あたしのことはエデでいいし」
ルーシェルには珍しく丁寧な口調で話したのだが、エデは顔の前で手を振った。こういう喋り方は苦手なので、素直に普通に話すことにする。
「じゃあ言い直すね。エデは依頼を受けて、魔物や魔女を封印してるの?」
「うん。『封印』の術が使える人だったら、みんな誰かに依頼されて封印するんだ。この町に、そういう依頼するとこがあるんだよ? あ、クロードに術の話は聞いてるよね」
クロードもそうなのか、と彼を見るとクロードはうなずいた。
あの変態も、誰かに依頼されていたのだろうか。女性には優しくしないと、と言っていたあの変態が、自分から進んで魔女を封印するとは思えない。
そう考えていると、エデがじれたように言った。
「そろそろ名前教えてくれないかな? あたし、まだ君たちの名前知らないんだけど」
自己紹介がまだだったことに気付き、慌てて姿勢を正す。
「えっと、僕はルーシェルだよ」
「私はセリア。……あなたのこと、ディーちゃんって呼んでもいい?」
エデの名前は二文字なのに、それでも短くするのか。
エデはセリアの言葉を聞いて、面白そうに笑った。
「ディーちゃんか。いいよ、そう呼んで。……二人のことは呼び捨てでいいよね」
ルーシェルは別にどう呼ばれてもいいので、うなずく。
「じゃ、ルーシェルとセリアね。それで、二人はクロードとどういう関係なの?」
「え? ただの知り合いだよ?」
なぜ訊かれたのかわからない、という風に答えると、エデは見るからに残念そうな顔をした。……そしてなぜかセリアも。
クロードもルーシェルと同じようにわかっていないようで、二人でエデとセリアを訝しげに見る。
それを見て、彼女たちはもっと残念そうな顔をした。
「セリア、この二人どう思う?」
「ルーちゃんもクロ君も、きっとわかってないと思うわ。……だけどしばらくすれば、私たちの期待通りになるかも」
期待通りとはどういう意味だ。
こそこそと話しているが、丸聞こえだ。
「クロ君……ね?」
「……勝手に呼ばれているのだ」
にやりと笑うエデ。クロードは、なぜ言ったのかとセリアを恨めしげに見る。
「あたしも『クロ君』って呼ぼうかなー」
「拒否する」
「ふはははは。クロ君、君に拒否権はないのだよ」
二人は仲が良さそう(クロードが聞いたら絶対に否定するだろうが)に話している。思わずむっとし、そのことにルーシェルは不思議になった。
(これって……嫉妬?)
嫉妬するほど、クロードのことが好きではないはずだが。
変な気持ちで二人が話すのを見る自分を、セリアはにやにやと見てきた。
* * *
やはり、ルーシェルは思っていることが顔に出やすい。今だってエデとクロードが話しているのをむっとして見て、なぜだかわからず不思議そうな顔をしているのだ。
(クロ君の最初があんなだったからね……。私もどうしてルーちゃんがクロ君を好きになるかわからないけど)
クロードではなく、彼に似ているあの変態が好きなのだろうか。だがクロードとあの変態の中身は全く違う。顔が同じだけで好きになるのは、ルーシェルの性格ではありえないと思う。
もっとも、彼女は自分の気持ちに気付いていないが。
「あ、ルーシェルにしか訊いてなかったけど、セリアはクロード……じゃなくてクロ君のことどう思ってるのかな?」
エデの質問にきょとんとする。
セリアはクロードのことをどう思っているのか。
エデと話していたせいか、疲れた顔をしているクロードをじっと見つめる。
「クロ君は……友達? いや、お兄さん? お父さん?」
「候補多いね。……セリアは、ルーシェルとクロ君のことを応援してる?」
エデは声を落として言った。セリアもルーシェルとクロードに聞こえないように声を落とす。聞こえたら聞こえたで、二人の反応は面白そうだが。
「うん。ってことは、ディーちゃんはクロ君のこと、ただの幼馴染って思ってるの?」
「恋愛対象には見てないよ? あたし好きな人いるしね」
「え! 今度教えてくれな……」
ルーシェルとはこんな話はできないから、つい夢中になってしまった。
(……今度なんて)
後五日。セリアがルーシェルたちといられるのは、五日だけなのだ。
黙り込んだセリアを不審に思ったのか、エデが首をかしげた。
「ん? どした?」
「う、ううん! 何でもない。気にしないで」
そんなセリアを、ルーシェルが心配そうな顔をして見てくる。もしかして、今自分は暗い顔をしていたのだろうか。
せっかくステルダに来たのに、そんな顔をしてどうするのだ。
自分を叱咤して、ルーシェルに微笑む。
「ルーちゃん、どうしたの?」
「……気のせいか。何でもないよ」
気のせいではない。
ほっとしたように笑うルーシェルを見て、辛くなる。騙すようなことなど、本当はしたくないのだ。
(……ルーちゃんは、ディーちゃんとも友達になった)
セリアの目的は達成された。ルーシェルは、名前を言っただけでエデと友達になったとは思っていないかもしれない。
彼女のためにもはっきりさせておいた方がいいだろう、とセリアは口を開いた。
「ディーちゃん、私とルーちゃんのこと、友達だと思ってる?」
「あたしはもう会った時点で友達だと思ってたけど?」
案の定、ルーシェルは目を見開いた。慌てて何かを言おうとしたが、それを遮る。
「それじゃ、二人で……クロ君とルーちゃんを応援しようね」
「そうだね。直接手伝ったりしないで、こっそり応援しよう。その方が面白いからね!」
「セリア、エデ! 君たち、こっそりと話してるようで丸聞こえだからね!? 応援って何なの!?」
聞こえて当然だ。ぎりぎり聞こえる声量で話しているのだから。
「応援は応援よ。ね、ディーちゃん?」
「ね、セリア?」
顔を合わせるセリアとエデを見て、ルーシェルはむすっとした顔をした。何を言っても無駄だと理解したのだろう。
エデはにっこりとクロードに笑った。
「さて、クロ君はこの会話の意味がわかるかな?」
「クロ君と呼ぶな!」
「拒否権はないとって言ったもんね! ……で、わかんないんだ。これじゃ先は長いかな?」
ルーシェルもクロードも、そういう話には疎い。この会話の意味を全くわかっていないのがその証拠だ。
「「……先が長い?」」
声を揃えて言う二人。エデの言う通り、先は長いかもしれない。下手をすれば年単位で。
その先を見られないと思うと、寂しくなった。
明日は学校があるので、投稿できるかわかりません……。




