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第二十一話 幼馴染

 お気に入り件数が5件になりました……!



 サブタイトルが思いつきません。

 広場の長椅子に座ると、棒のようになっていた足が少し楽になった。ルーシェルの隣にはセリアが座る。長椅子は二人用だったので、クロードは立ったままだ。


「ごめんね、クロード。クロードも疲れてるんじゃない?」

「いや、俺は慣れているから疲れていない。ゆっくり休んでいろ」


 そういえばセリアも疲れていた顔をしていないし、あれしか歩いていないのに疲れるのは、やはりルーシェルの運動不足が原因だろう。


(……ん? 慣れている?)


 あの森からここまで、結局クロードは五回転んだ。町人でクロードに声をかけた人は、全員が転ばないように気をつけて、ということを心配そうに言っていた。慣れているのなら、なぜ転ぶのだろうか。

 それを訊いてもきっとクロードは答えられないから、その疑問は口に出さずに、彼に親しげに話しかける人々をぼんやりと見る。


(結構有名なんだな)


 よくクロードはここに来るのだろうか。挨拶されるたびに彼は笑顔で挨拶を返している。そのことに違和感を感じて、ルーシェルは小さく首をかしげた。


「クロ君の笑った顔、初めて見るわね」


 セリアの言葉で、違和感の正体はそれだったのかと納得する。昨日話している間、クロードは一度も笑っていなかった。ずっと眉間にしわを寄せていたのだ。この町に来るまでも、ずっとそうで。


(僕たちに気を許してない、ってことか)


 なぜだか寂しくなる。


(……べ、別にクロードと仲良くなりたいなんて思ってないもん。仲良くなりたいとは思ってなくても、信頼されてないのは寂しいだけだよ!)


 心の中であせりながら否定したが、自分は誰に言い訳をしているのだろうと不思議になった。誰に何を言われたわけではないのに、なぜこんな言い訳をしているかと。否定する意味があるのかもわからなかった。


「ね、ルーちゃん。どんなことしたい?」

「え? あ、僕はどんなことでも。……だって、こんな時どんなことをしていいのかわからないし」


 声をかけられた時また心を読まれたのか、と思ったがどうやら違うらしい。心の中で誰に言い訳してるのと笑われなかったから。

 ルーシェルの返答に、セリアは困った顔をした。


「私もよくわからないの。……ルーちゃんが初めての友達だから。友達とは、普通どんなことをするのかな?」


 クロードだったらわかるかもしれない、と彼を見ると小さな子供にからかわれている最中だった。この子供たちも、クロードがよく転ぶことを知っているらしく、クロードもからかわれるのは半ば諦めているようだった。


「転ぶのの何が悪い」


 開き直ったのか子供たちにそう言う。子供たちは笑いながら親のもとへ走っていった。


「うん、転ぶのは悪くないよね。仕方ないことだよ」


 ルーシェルは立ち上がって、ぽんとクロードの肩を叩いた。彼は間違ったことを言っていない。転んでしまうのは仕方ないことで、悪いことではないのだ。


「……あの子たちの言葉以上に傷つくぞ」

「まあ、ルーちゃんに悪気はないんだから、怒らないでね」


 セリアも立ち上がり微笑む。

どこが悪かったのだろう。必死に考えても、ルーシェルにはわからなかった。とりあえず、クロードに頭を下げる。


「何だかわからないけど、ごめん」

「…………」

「素直なのはルーちゃんのいい所ね」


 黙ったクロードを慰めるようにセリアは言ったが、全く慰めになっていないと思う。ただルーシェルのことを褒めているだけだ。


「……そろそろ平気か?」


 まだ足は疲れているが、先ほどに比べたら大分いい。クロードにうなずくと、どこに行こうかという話になった。

 ルーシェルもセリアもこの町のことはよく知らないから、クロードに任せることにする。


「任せるよ」

「案内、お願いね」


二人に言われ、しぶしぶとクロードは了承してくれた。


「だが、お前たちが楽しめる所へ連れて行けるかわからないからな? それよりだったら、適当に歩いて見て回った方が余程いいと思うのだが」


 ルーシェルはセリアと顔を見合わせた。こんなに言うのであれば、彼の言う通り案内なしでそこら辺をぶらぶらしていた方がいいのかもしれない。


「じゃあ、そうしようか」


 クロードがあからさまにほっとした顔をする。


「――っていうのは嘘で、やっぱりクロードに任せるよ」

「なぜだ!」

「うんうん、その反応を見たかったんだ。セリア、行こう」


 少しクロードに意地悪をしてから、セリアに声をかける。セリアは笑いながら歩き出した。


「ふふっ、ルーちゃんが言わなかったら、私が言ってたわ」

「そうだよね。クロードの反応って何だか面白いから」


 その会話を聞いているのか聞いていないのか、クロードは悄然として後ろをついてくる。


「何でみんなあいつと同じこと……」


 おそらく聞こえていないのだろう。


     * * *


 十二歳の自分にとって、ルーシェルの足についていくのは少し大変だった。ルーシェルはセリアを十歳くらいだと思っていたようだが、正確には十二歳。ルーシェルが速めに歩くと、セリアは小走りになってしまう。

 そのことに彼女は気付いていないし、クロードは後ろでまだ何かをつぶやいていた。


(ルーちゃん、そんなに楽しいんだ)


 普段のルーシェルなら、必ず気付くだろう。気付かないということは、他のことに気を取られているのだ。ルーシェルが楽しんでいるのはセリアも嬉しいが、そろそろ気付いてゆっくり歩いてくれないときつくなってしまう。


(……クロ君は何をつぶやいてるのかな?)


 声が小さくて聞き取れない。心を読めたらわかるのに、と考えて彼の心は最初から読めなかったのだと思い出す。

 あれは、何か術を自分にかけていたのだろうか。


「クロ君。……クロ君?」


 返事がない。歩きながら後ろにいるクロードの顔の前で手を振ってみるが、それでも反応しなかった。

 これは駄目だ、と諦めて前を向いて歩く。クロードを呼ぶ声で振り返ったルーシェルが、やっとセリアの息が切れていることに気付いてくれた。


「ご、ごめん。歩くの速す――」

「あっ、クロード!」


 ルーシェルの声を遮ったことに、苛立ちを感じながら声の出所を探す。人がたくさんいたが、その人物は手をぶんぶんと振っていたからすぐに見つかった。

 声を聞いた途端顔をしかめたクロードは、顔を見てもっと顔をしかめた。セリアの声には反応しなかったのに、彼女の声には反応するのか。


「エデ……ここに来てたのか」

「あれあれ? 久しぶりに幼馴染に会った反応がそれなのかな?」


 先ほどまで遠くにいたのに、今はクロードのすぐ隣にいる。すごい移動速度だ。


「腐れ縁の間違いじゃないか?」

「むぅ……。昔はあたしと仲良く遊んでたくせに! ……まあ、それはどうでもいいんだけど」

「どうでもいいのか?」


 クロードを無視して、セリアとルーシェルを見る。エデと呼ばれた少女は、にっこり笑って言った。


「初めまして、あたしはエデ。クロードの幼馴染で、一応これでも術を使えまーす。そっちの茶色い髪の子、からかいがいありそうだね?」









 その笑みを見て、セリアはこの子と気が合いそうだと思った。




 茶色い髪の子とはルーシェルのことです。クロードの術で色が変わったので。

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