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第十八話 思い出作り

パソコン使っていいのって夜の九時までなんですよね……。

ちょっとオーバーです。


思い出作りと書いておきながら、今回は思い出作りの方法を考えています。

「――ごめんねセリア! クロードとばっかり話してて……せっかくセリアが夜までいてくれたのに」


 ルーシェルは、泣きそうな顔でそう謝ってきた。外はもう真っ暗で、これ以上ここにいるのは無理そうだった。ノギスは話を聞いているのに飽きたのか、寝台の上で丸くなって眠っている。

 セリアは背伸びをして、彼女の頭をなでた。


「ううん、私も二人の話聞いてて楽しかったから。謝らなくていいわ。話を聞いてるだけでもステルダって町に行ってみたくなっちゃった」


 クロードの話は知らないことばかりで、興味深かった。ルーシェルを育てたカリマという老婆が、術の創造者だったとは思わなかったし、術の時に使う言葉がどうやって作られたかも知らなかった。

 ステルダの話も聞き、行きたくなってしまった。セリアは巫女の仕事があったから、村の近くを散歩するくらいしかできなかったのだ。


「……何で頭なでるの?」


 ルーシェルが少しむくれた顔で言ってくる。セリアが笑顔で「何となく」と言うと、ため息をついてされるがままになった。

 彼女の髪の毛は、サラサラしていて気持ち良かった。この黒色の髪はとても綺麗なのに、なぜ忌み嫌われているのだろう。魔女の証だというのはわかるが、ルーシェルのような優しい魔女だっているのに。

 優しい魔女ならば、人間の友ができても良さそうだ。セリア以外の、だが。


(……ルーちゃんには、白猫君とクロ君がいる)


 きっともう、自分はもういなくても大丈夫だ。ルーシェルはクロードのことがあまり好きではなさそうだが、後一週間あれば友達にはなれるだろう。ルーシェルはそういう子だから。


 大丈夫。


 自分がいなくなった後でも、ノギスとクロードがいる。少し寂しいが、これでもう安心だ。


(私がいなくなったら、ルーちゃんは泣いちゃうかな?)


 ルーシェルには泣いてほしくない。だが、セリアがどうすれば泣かないでくれるのだろう。


「セリア、いつまでなでてるの? いや、まあ気持ちいいからいいんだけど……」


 ルーシェルの声で、はっと手を止める。

 彼女といる時に、こんなことを考えてはいけない。


「ふむふむ、ルーちゃんは頭をなでられるのが好きなのね?」


 だからそう笑って言うと、ルーシェルは恥ずかしそうにうなずいた。

 素直にうなずくとは思っていなかったから、少し驚く。これは、それだけルーシェルと親しくなったということなのだろうか。


「……ん、それじゃあまた明日」


 何だか気恥ずかしくなって手を振ると、ルーシェルも振り返して、


「また明日」


 と思わず抱きしめたくなってしまいそうな笑顔で、言ってくれた。「俺もまた明日来る」と余計な言葉も聞こえてきたが、ルーシェルのその言葉だけで嬉しくなった。

 単純だな、とセリアは思いながら洞窟を出る。

 暗いが、ここから村へはそう遠くない。月明かりだけでも十分だ。


(最期に……何かルーちゃんとの思い出を作りたいな)


 ルーシェルとしたことは、あの洞窟で話していたことだけ。それだけでもセリアは楽しいが、最期くらいは何か他のことをしたかった。


(……でもルーちゃんは魔女だから、あの洞窟からは出られないよね)


 あの髪の毛と瞳をどうにか隠せないだろうか、と思案してもいい案は浮かばない。


(髪はフードがある外套を着れば……でもこの季節に外套なんて変よね)


 北の地では着ていてもおかしくはないのだが、この辺りは比較的暖かい土地だ。春なのに外套を着ることはあまりない。

 雨が降っていれば話は別なのだが……。


(龍神さまと話すことができない今、この地には雨は降らない)


 龍神さまは、人間より時を遅く感じる。いつ頃雨を降らしてほしいのか、やませてほしいのか龍神さまに祈るのは巫女の役目だ。そうでなければ雨が何年も降らなかったり、逆に何年も降り続いてしまうことになってしまうからだ。祈る、より頼む、の方が正しいかもしれない。


(龍神さま……ご無事ですか?)


 話せないのは、セリアの巫女としての力が失われたのか、龍神さまの身に何かあったのか。

 前者だったらまだいい。もし後者だったら、雨が降らずにこの世界から生き物の存在が消えてしまうだろう。

 だがそれより、セリアは純粋に龍神さまが心配だった。


(ルーちゃんとも龍神さまとも、もう会えなくなるのか……。後一度だけでも、龍神さまの声が聞きたい)


 あの声で呼んでほしい。『我が巫女』と。

 そういえば、龍神さまに名で呼ばれたことがない。そのことに気付いても、両親のように嫌ではなかった。


「我が巫女……か」


 セリアの顔には、自然と笑みがこぼれていた。


     * * *


 セリアの姿が見えなくなるのを確認すると、ルーシェルは振り返って口を開いた。


「……クロード。今日のセリア、元気なかったよね?」


 そう問い掛けるも、クロードは首をかしげる。


「俺はあいつのことをよく知らないからな。まあ確かに、昨日見た時と比べ、暗い顔をしていたようにも思えるが」

「ような、じゃなくてそうなんだよ」


 流石に昨日会ったばかりでは、表情の違いはわからないか。クロードではなく、ノギスを起こして尋ねればよかった、と少し後悔しながら話を続ける。


「だからね、どうやったらセリアが元気になるかっていうのを訊こうと思って」


 人間と関わりを避けてきたルーシェルだ。こういう時、どうすれば相手が元気を出してくれるのかよくわからない。

 セリアはルーシェルに人を元気にする力がある、と言ってくれたが本当にあるのだろうか。


「あの少女はステルダに行ってみたいと言っていただろう? だったら連れて行ってやったらどうだ?」


 思わず「なるほど!」と言ってしまってから、自分が魔女だということを思い出す。ルーシェルが一緒に行ったら、セリアまでもが危ない目にあってしまうのだ。

 がっくりと肩を落として首を横に振る。


「駄目だよ。僕の髪の毛と瞳の色は、隠せないもん」

「そんなことないぞ」


 クロードがさらりと言った言葉に、数秒間何を言われたのかわからなかった。


(僕は隠せないって言って……それに対してクロードは、そんなことないって言った?)


 ということは、この色は隠せるのだろうか。


「俺が作った『幻影』という術で、幻を見せることができるからな」

「……作った?」

「ああ。一応俺も、一族の中でかなり強い力を持っている。術を作ることも可能だ」


 今までの魔女たちの苦労は何なんだ! と叫びそうになった。髪の毛と瞳の色を隠すような魔法がないからこそ、魔女はひっそりと人間に見つからないよう暮らしていたというのに。

 クロードにできて、一族で一番力が持っていたフィルマンにできないわけがない。やはり、フィルマンは変態の呼び名のままでいいだろう。


「それから『移動』の術を改良して、自分以外も連れて行けるようにした。今まで『移動』の術は自分いが――」

「ってことは、セリアも連れて行けるんだね!?」


 それならセリアと一緒にステルダへ行ける。

 キラキラと瞳を輝かせるルーシェルを、クロードは戸惑ったように見てきた。


(……さっそく明日、ステルダに行こうって言ってみよう!)


 『移動』の術を使うなら、移動時間は一瞬で済む。セリアが来たらすぐ行って、夕方になれば帰ってくればいいだろう。











 ルーシェルはステルダに行くことを考え、わくわくと胸を躍らせたのだった。




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